1998.4.6

メッセージありがとうございます


  このページは、アリを研究されている方と私とのメール交換特集になっています。



  1998.3.10

  こんにちは。インターネットの雑記蝶を見て、この人ならご存じではないか、と思い筆を執りました。私は、蝶ではなく、アリの研究をしている者です。昨年は、ラージブルーと呼ばれるシジミチョウの仲間(和名はついていないのではないかと思いますが・・・Maculinea rebeli という種です)と、アリとの共生関係について研究してきました。日本では、クロシジミとクロオオアリの共生などが良く知られているかと思います。
  そこで、今、アリと共生関係があるといわれている日本産の蝶、及びその蝶を研究している方を探しています。シジミチョウの仲間がほとんどだと思うのですが、もしよろしければ、教えて下さい。突然のメールですみません。(T.Aさん)


  はじめまして。ホームページ「雑記蝶」を開いている阪口と申します。
  私を見込んでいただき、大変光栄に思いますが、結論から言いますと、残念ながら、私の知人、友人には、ご期待にそえるような人は思い当たりません。ただ、私は一介のアマチュアですが、プロの研究者に会える機会もあるので、そのときは一度聞いてみたいと思います。
  ご承知かも知れませんが、日本の蝶における生活史の解明は1950年代に黄金期を迎えました。この頃に多くの蝶の生活史が明らかになり、多くのシジミチョウがアリと密接な関係にあることが次々と明らかにされました。この頃活躍された方は私よりかなり年上の世代にあたります。
  Large Blueは、ゴマシジミの仲間かと思いますが、日本でも、ゴマシジミやオオゴマシジミは、幼虫がある程度大きくなるとアリの巣に運ばれ、そこで成長することがよく知られています。しかし、こういった研究が、アリの巣を掘り返して観察する、といった大変な苦労を要すること、しかも大要は先人によって既に解明されていることなどで、最近はあまり新知見も出ないように思います。
 ただ、シジミチョウ科の蝶はかなりの種類がアリと何らかの関係があると思います。脱線しますが、私が昨秋、南西諸島へ行った折り、偶産しているウスアオオナガウラナミシジミ Catochrysops panormus を探したのですが得られず、産地に咲いていたクズ(タイワンクズ?)の花穂にシジミの幼虫を見つけたので、フィルムケースに入れて大阪まで持ち帰ってきました。この幼虫は、残念ながらルリウラナミシジミ Jamides bochus だったのですが、花穂には10数匹のアリがついていて、飼育用シャーレの中でも常に幼虫のまわりをとりまいていました。
  しかも、共食い防止のため、幼虫を別々にしたのですが、アリのいないシャーレでは、幼虫が蛹にはなれませんでした。一方アリのいたシャーレの方は、幼虫が蛹になった後も、そこから離れず、かいがいしく世話をしているように見えました。最後の1匹になったアリが死んだ後、数日後にその蛹は羽化しました。立派な大きさのオスの蝶でした。
  横道にそれましたが、こういった経験は結構多くの人が体験しているのではないかと思いますが、なかなか記録としては残らないようです。ちなみに、「日本蝶類生態図鑑V」(保育社)1984から、アリとの関係のある蝶をざっとあげると、

 ルーミスシジミ(ハリブトシジアゲアリほか2種)
 ムラサキシジミ(クロクサアリ、クロオオアリ、テラニシシリアゲアリほか)
 ムラサキツバメ(トビイロケアリほか)
 ウラゴマダラシジミ(ムネボソアリ、アメイロアリ、テラニシシリアゲアリほか)
 チョウセンアカシジミ(トビイロケアリほか)
 カラスシジミ(クロクサアリ)
 キマダラルリツバメ(ハリブトシリアゲアリ)
 クロシジミ(クロオオアリ)
 ウラナミシジミ(アミメアリ、トビイロケアリ)
 ジョウザンシジミ(トビイロケアリ、クロオオアリ)
 ゴマシジミ(シワクシケアリ、クロヤマアリ、エゾアカヤマアリ)
 オオゴマシジミ(クシケアリ)
 カバイロシジミ(トビイロケアリ、クロヤマアリ、アメイロアリほか)
 オオルリシジミ(キイロシリアゲアリ)
 ルリシジミ(クロオオアリ、トビイロケアリ、クロクサアリほか)
 スギタニルリシジミ(クロオオアリ、トビイロケアリ)
 ミヤマシジミ(クロヤマアリ)
 ヒメシジミ(トビイロケアリ、ツノアカヤマアリ)

  などという感じです。もし、答えてる方向性が間違っていたら、ご指摘ください。(阪口)


  1998.3.12

  阪口様、早速のお返事ありがとうございました。非常に参考になりました。
  私も大学時代、クロシジミとクロオオアリの共生について、後輩の研究を援助する形で関わっていました。信州のある研究者と、私のいた大学との共同研究という形で進めていました。シジミチョウとアリとの共生については共生関係にある(らしい)という事実の記載はかなりあるようですが、(50年代あたりの報告を探さないといけませんね)何故その共生が可能なのか、という点についての解明は、なされていないのが現状だと思います。そこで、その「何故」にまとを絞って研究を進めているのです。
  またよろしければ、いろいろ話を聞かせて下さい。一度、「日本蝶類生態図鑑V」(保育社)を探してみようと思います。ありがとうございました。(T.Aさん)


  A様、こんにちは。ホームページ「雑記蝶」の阪口です。ある会合でアマチュアですが、広い人脈をもってられる方がいましたので、事情を話して、もし該当するような方がいらしたら、ご紹介いだだけるように頼んでみました。
  メールを拝見すると、私より、ずっとお詳しいみたいで、私みたいのが知ったかぶりで偉そうに言って申し訳ありませんでした。
 また、この前の私の文章を読み返すと、シジミの生活史がみんな解ってしまったような印象を受けますね。現在も研究されている方には随分と失礼な言い方になってしまいました。私の言いたかったことは、ひととおりの成果が出てしまうと、その先の研究はもっと大変で、あまりみんながやれるようなことでは無くなってしまった、といったような意味なのです。おっしゃるように、研究なんていうのは、ひとつ解明出来れば、その先に何十倍もの新しい謎が出てきます。そして改めて何も解っていないんだって感じますよね。
  ところで、アリの巣に運ばれた後、そのアリの幼虫などを喰ってしまう、なんて話を聞くと、私は「共生」って言葉の持つ意味からは、かけ離れた感じを受けます。「寄生」に近いようなイメージありませんか? おいしいミルクを出す乳牛を見つけて、町に連れ帰ったら、夜な夜な街中の子供を喰い殺す怪獣だった...(スミマセン、つい脱線してしまいます)。違う巣のアリを認識し、追い出す程の能力があるアリが、何故、そんなシジミチョウを追い出さないか、不思議です。
  「いろいろ話を聞かせて下さい」とのことですが、私の方こそ、秋野さんのすばらしい研究のお話を聞きたいです。また、「日本蝶類生態図鑑V」は一般用の図鑑なので、大抵の図書館などにあると思います。どうか、ご研究、頑張ってください。それでは。(阪口)

  1998.3.18

  阪口様、こんにちは。連絡ありがとうございます。
  おかげさまで、ある大学の研究者の方と連絡がつきました。その方とその方のお知り合いが、シジミチョウについて研究をしているとのことで、いろいろ教えてもらっているところです。
  阪口さんから頂いた情報も非常に有用で役立っています。後輩といっしょにクロシジミをみていたと言っても、そんなに詳しいわけではありません。蝶については、お任せというような感じになっていたのが実際のところです。繰り返しになりますが、全くの素人ですので、お話しいただいたことはすべて参考になります。

>  この前の私の文章を読み返すと、シジミの生活史がみんな解ってしまったような印象を
>  受けますね。・・・(中略)・・・そして改めて何も解っていないんだって感じますよね。
  そうなんです。生態の面にしても、それ以外の面にしても、実は面白いところがまだまだ未解明で残っている場合が多いのですが、得てして、そう言った面白いところは、とっかかりがつかめないような場合も多いのです。私が大学の時にテーマとしてもらったものは、アブラムシに寄生するアブラバチとアリの関係についてだったのですが、一夏まるまるかけて探し回っても、結局9匹しか採集できませんでした。
  アリと一緒に住んでいる昆虫、好蟻性昆虫というのですが、結構キケンと裏腹なものも数多いのです。おそらく意外に感じられると思うのですが、アリと共生関係にあるという点で典型例のように扱われるアブラムシにしても実は結構アリによって捕食されているのです。乳牛兼肉牛といったところでしょうか。アリの巣で餌状況が悪くなると、アリは昨日まで外敵から守ってそのミルクを集めていたアブラムシをも襲うようになるのです。
  こうした綱渡りをしているものだけではなく、アリを完全にだまして、アリと一緒に住んでいるものもいます。これらの虫には、阪口さんが言われたように、共生関係にある、と言うよりはアリに寄生している、という方がしっくりするようなものも数多くいます。
  例えば、アリノスアブですが、こいつも(幼虫です)アリの巣の中に潜り込んでアリにガードしてもらっておきながら、アリの幼虫をむさぼり食うのです。アリヅカコオロギという小さなコオロギは、アリが仲間を見分けるのに使っている情報(化学物質なのですが)をそっくりにまねて、アリの巣の中に住み込んでいるのですが、時にアリの餌を奪ったり、死体を中でむさぼり食ったりしています。他の好蟻性昆虫だと、大体その属はアリに対して似たような共生(寄生?)形態を持っているのに対して、シジミチョウの仲間は、同じ属内でその共生形態にすごくバリエーションがあるのです。あるものは仲良く、あるものは幼虫をむさぼり食う、というように。そこで、これを調べていくと、アリを如何にだますか、しいてはアリは何をもって他の虫などを認識しているのか、といったことを解明していく手がかりになると思うのです。

>  私の方こそ、秋野さんのすばらしい研究のお話を聞きたいです。
まだまだ、駆け出しのひよっこですが・・・(ひよっこと言うほど見かけのかわいらしいものではないところが・・・)
  また、これからもいろいろ教えて下さい、また雑記蝶も見に行きます。それでは。(T.Aさん)


  A様、こんにちは。「雑記蝶」の阪口です。シジミの研究者のほうは、いい方を見つけられたようですね。お役に立てなくて申し訳なく思っていたのですが、私もほっとしました。
> 私が大学の時にテーマとして・・・(略)・・・結局9匹しか採集できませんでした。
  やっぱり、大変なテーマなんですね。そういうお話を伺うと、改めてそう思います。
  アリは食料事情が悪くなっても、共食いはしないですよね。食料事情で判断ができる、というのは、単純な条件反応と違って、複雑な感じがします。考えてみれば、アリの巣は(アリに攻撃されないという前提付きですが)1年中温度、湿度が安定しているし、外敵に襲われるリスクも少ないなど、メリットが多そうですね。昆虫はじめ小動物が居候するにはいい環境かもしれませんね。問題は、いかにアリに仲間だと思わせるかですね。
  Aさんのお話を聞かせていただくと、大変興味深くおもしろいご研究だということがよくわかります。(しかし「大変な作業」というのも付きますが(^_^; )
  蝶のほうから見ると、アリと結びつくメリットは、やはり生存への確実性の増大でしょうか? 構造的には、シジミチョウは小型で、アリの巣での行動にも耐えられると思いますが、例えばアゲハチョウではアリに守られるには大きすぎて、スズメバチか何かでないと無理ですよね。外敵から守られるという場合、蝶ではやはり動けない蛹の時期が一番危ない。そうすると終齢幼虫から蛹の時期、巣内にいるのが一番安全です。逆に羽化するには巣の外に出ないといけない。羽の面積ではなく、蝶の胴体の大きさを見るとやはり、シジミチョウは格段に小さくて細いと思います。
  それから、シジミチョウは共食いする種類が多く、構造的には肉食を受け付ける準備ができている。また、肉食でなくても、植物の実や花、芽など、どちらかといえば高栄養な部分を好むようで、他の種類が葉を中心に食べているのと好対照です。こうして改めて考えると、シジミチョウは他の種類と何か生理的に違う戦略をとっているみたいですね。あまり考えたことなかったのですが、これからもう少し気をつけて、シジミチョウを見ていかないといけませんね。それでは、また。(阪口)


 前のページにもどる

 ホームページへもどる

 ご意見、お便りお待ちしています。SAKA@intercity.or.jp