こんなにそばにいるのに

第2話
                                    作 LynX


シンジ 「さ、行くよ、アスカ。」

アスカ 「ま、まちなさいよ、バカシンジ!」

シンジ 「手袋とかある?寒いよ。」

アスカ 「言われなくてもわかってるわよ!」

シンジ 「・・・早くってば、アスカ!」

アスカ 「うっるさいわね!!男ならウジウジ言わないで待ちなさいよ!」

・・・ふう。まったく。最近毎朝これだ。寒くなるとだらしないんだよ、
アスカは。このままじゃ遅刻だ。

そういえば、去年の今頃はあったかかったよな・・・。四季が
戻ってきたみたいだな。雪も降るかもしれないな。そうなったら
あさってのクリスマス・イブはホワイトクリスマスか。
今年はどんなクリスマスになるんだろう・・・。

アスカは・・・なんだか寒いのが嫌みたいだ。
こうやって並んで歩いててもしきりにブツブツ言ってるのが
聞こえるし。ただでさえ朝は機嫌が悪いのに。
アスカ・・・僕が君を暖めてあげるよ・・・
なんて言ったら・・・。
殺されるな・・・たぶん・・・。

アスカ 「な、なにじっと見てんのよ。何かついてる?」

シンジ 「い、いや、何でもないよ。」

アスカ 「いらいらするわね。はっきり言いなさいよ。」

シンジ 「だから、何でもないってば!」

アスカ 「じゃあ何で見てたのよ!」

シンジ 「そ、それは・・・。」

ヒカリ 「おはよう、アスカ!碇くん!」

シンジ 「あ、洞木さん、おはよう。」

アスカ 「あら、ヒカリ。おはよう。」

ヒカリ 「最近寒いわねぇ。」

シンジ 「そうだね。」

アスカ 「そうね・・・。」

まったく。ヒカリも気を遣いなさいよ。もう少しでシンジが
白状するところだったのに。
やっぱりアタシに見とれてたのよね。シンジったら。
そうと言えばどれだけでも見せてあげるのに。

寒いのは大嫌い。だって、厚着しなくちゃいけないん
だもの。たくさん着たらそれだけシンジと離れる
みたいな気がするもの。だから寒いのは嫌い。
本当は肌と肌でシンジと触れ合っていたい。
シンジを直に感じたい。
「寒いのかい、アスカ?僕が暖めてあげる。」
なんて言ってシンジが・・・。

ヒカリ 「アスカ、何してるの?」

アスカ 「・・・え?あ、あれ?」

ヒカリ 「もう学校に着いてるわよ?そんなとこに立ってたら
     風邪引くわよ。」

アスカ 「ちょ、ちょっと考えごとしてただけ。」

シンジ 「何考えてたの?」

アスカ 「シ、シンジには関係ないわよ!」

シンジ 「何で怒鳴るんだよ。」

アスカ 「うるさいわね!バカシンジ!」

ヒカリ 「はいはい、それくらいにして。アスカ、私、
     今日、日直だから先行ってるわよ。」

洞木さんは走っていった。どちらにしてももう時間も
ないし、僕たちも靴を履き替えることにした。
アスカはまだ何か言いたそうだったが。

バサバサバサバサ。

毎朝あきないもんだ。よくこんなに書くよな。
しかも1文字も読まれないでアスカに踏みつけ
られるだけなんだから。・・・かわいそうに。
たとえ僕が書いても同じ運命になるんだろうな・・・。

ポトッ。

ん?何か落ちたぞ。僕のところからかな?えーと。
「碇くんへ」・・・か。ふーん。
え!?「碇くんへ」だって?ぼ、僕のこと?
・・・どうしよう・・・。

アスカ 「何してんのよ、シンジ。あ、何よそれ。あ、
      ひょっとしてラブレター?」

シンジ 「ち、ち、ちがうよ。」

アスカ 「何言ってんのよ。下足箱にはラブレターって
      決まってるじゃない!やったわね、バカシンジ!」

シンジ 「そんなのわかんないじゃないか。」

アスカ 「ふーん。でもこれ、女の子の字じゃない?」

シンジ 「あ!アスカ、返してよ。」

アスカ 「ね、付き合うの?」

シンジ 「まだラブレターって決まった訳じゃないだろ。
      果たし状かもしれないし・・・。」

アスカ 「アハハハ、そうね。あんた、女の子にも喧嘩
      売られそうだもんね。」

シンジ 「うるさいなぁ。とにかく返せよ。」

アスカ 「まあ、今のところは返してあげる。でも後でアタシに
      報告しなさい。分かった?」

シンジ 「何で僕がアスカにそんなこと・・・。」

キーンコーン・・・。

アスカ 「あ、もう授業が始まっちゃうじゃない。グズグズ
      してんじゃないわよ、バカシンジ!」

シンジ 「先に行っててよ。」

アスカ 「あ、そ。じゃあね、バカシンジ!」

・・・ふう。アスカったら何なんだよ。やたらとはしゃいで。
そんなに僕にラブレターが来ると面白いのかなぁ。
・・・そうだよな。アスカは僕のこと好きなわけじゃないし。
だからあんなに楽しそうにできるんだよな。
ラブレター・・・かぁ。ホントにラブレターだったらどうしよう。
今ここで読んでみようかな・・・。
ん・・・あれ?さっきチャイムが鳴ったような・・・?
うわ、まずい!急がなくちゃ!

ガラガラッ。

教師 「あら、碇くん。あなたが遅刻なんて珍しいわね。
     でも。許しません。廊下に立ってなさい。」

ガラガラッ。

トウジ 「スンマヘン、せんせ。あれ、シンジ」

ケンスケ 「すいません、先生。あれ、碇?」

クラスのみんな 「アハハハハハハ。」

教師 「はぁ。あんたたちはいつも通りね。
     3人そろって廊下に立ってなさい。」

3人 「はぁい・・・。」

ヒカリ 「ね、アスカ、碇くん何してたの?」

アスカ 「知らないわよ。どっかで寝てたんじゃないの?」

ヒカリ 「あんたが言うな。授業中爆睡してるくせに。」

アスカ 「う、うるさいわね。」

ヒカリ 「アスカと喧嘩でもしてアスカにボコボコにされた
     のかと思ったわ。」

アスカ 「な、何でアタシが。それよりトウジが遅刻したのは
      ヒカリが何かしたせいじゃないの?」

ヒカリ 「な、何であいつと私が。あいつは毎日でしょ!」

アスカ 「ふうん、毎日何かしてるんだ。」

ヒカリ 「そ、そんなわけないでしょ。たまに・・・、ってアスカ!」

教師 「そこ、静かにしなさい。それとも廊下に出たい?」

2人 「すみません・・・。」

何だか教室の中が騒がしいなぁ。何言ってるんだろ。
あの手紙のことでトウジとケンスケに相談・・・
しないほうがいいな。それこそ面白がって何するか
分かったもんじゃない。
はぁ・・・。どうしよう。

・・・なんて思っていたら放課後になってしまった。
僕は今、学校の屋上に向かっている。
そう、朝のあの手紙はラブレターだったのだ!

差出人は小田 ルミという1年生だった。
どういう女の子だろう。
何て言おうか。
「僕にはアスカがいますから。」
何て言えるわけないし。
どうしようどうしようどうしよう。

いつの間にかもう屋上のドアの前だった。
どうしよう・・・。でも逃げちゃだめだ。

ガチャン。

開いた戸のむこうに女の子が立っているのが見える。
ゆっくりこちらを振り向く。あ・・・。
あれ?アスカ?あ・・・こっちに来る・・・。
いかりくん・・・。
あれ、何でそんな呼び方するの・・・?
いかりくん・・・。
アスカ、どうしたんだよ・・・?

「いかりぃぃ!!!」

シンジ 「は、はい?」

教師 「私の授業で寝言とはいい度胸ね。
     廊下に立ってなさい!!!」

僕はまた笑われながら廊下に立つことになった。
だが、クラスの中で1人、笑っていない人物がいる
ことに気がつくべきだった。
彼女は・・・アスカは、あの手紙がラブレターだと
はっきり分かっていたに違いない。
そして・・・。

そして現実の放課後がやってきた。
実はあの夢を見たのは手紙を読んだ後だったため、
現実とほぼ一致していたのだ。
そう、ドアを開けようとする今の瞬間まで。

僕はドアを開けた。
夕日の中に立っているのはロングヘアーの女の子。
ゆっくりとこちらに振り向いた。

ルミ 「あ、来てくださったんですね。
    ありがとうございます。
    あ、私、小田 ルミといいます。」

シンジ 「あ・・・僕は碇 シンジです。」

ルミ 「フフフ、わかってますよ。私、シンジ先輩に
    お手紙出したんですから。」

シンジ 「あ、そ、そうだよね。」

かわいい。アスカほどではないが間違いなくかわいい。
僕なんかじゃなくても、言い寄ってくる男はたくさんいる
に違いない。
なんで僕なんだろう?

ルミ 「どうしたんですか、先輩?」

シンジ 「いや・・・。何で君みたいなかわいい子が
      僕なんかと・・・」

ルミ 「ありがとうございます、先輩。でも、先輩だって
    『なんか』じゃありませんよ。」

シンジ 「うん・・・ごめん。」

ルミ 「それに、私にだって男を選ぶ権利も、能力も
    ありますよ。」

シンジ 「うん・・・ごめん。」

ルミ 「何か先輩、謝ってばっかりですよ。」

シンジ 「うん・・・ごめん。」

ルミ 「ほら、また。でも私はそんなシンジ先輩が
    好きなんですけど。」

シンジ 「うん・・・ありがとう。」

ルミ 「それで・・・。その・・・。先輩のお返事は・・・。」

シンジ 「あの・・・その・・・僕は・・・。」

ルミ 「惣流先輩のことですか?」

シンジ 「・・・・・・!」

ルミ 「わかりますよ。だってずっとシンジ先輩のこと
    見てましたから。」

シンジ 「・・・・・・。」

ルミ 「惣流先輩とお付き合いは・・・?」

シンジ 「いや・・・まだ・・・。」

ルミ 「そうですか。じゃあ、私にもまだチャンスは
    ありますね。」

シンジ 「ああ・・・、って、ええっ?」

ルミ 「ウフフ。私、惣流先輩には負けませんから。」

シンジ 「い、いや、負けるとかそういう・・・。」

ルミ 「先輩!目をつぶってみて下さい。」

シンジ 「え?」

ルミ 「もう!早く!」

シンジ 「わ、分かったよ。こう?」

ルミ 「はい。そのままつぶっててくださいね。」

チュッ。

シンジ 「え?な、なにを?」

ルミ 「えへへー。つーばつーけた。」

シンジ 「え・・・ちょ・・・な・・・?」

ルミ 「これから覚悟しててくださいね。
    それじゃあ先輩、ばいばい!」

彼女は僕を置いていった。
僕は何が何だか分からないまま、そこに立っていた。
少しだけ、唇の感触を思い出しながら。

その時だ。
開いたままになっていたドアの陰から1人の女の子が
出てきたのは。
それは・・・。間違うはずはない。・・・アスカである。
こちらを見たその瞳は怒っているようにも、泣いているよう
にも見える。
アスカは何も言わずに立ち去ろうとする。

僕はアスカを呼ぼうとした。が、ふりむいたその瞳に圧倒され、
何も・・・言えなかった。
アスカはドアも閉めずに走り去っていった。



「バカバカバカ!バカバカバカ!バカシンジ!」

何でアタシが泣かなくちゃならないのよ!
何でアタシがあんな奴のために・・・。
シンジ・・・。シンジ・・・。

家に着いても何をする気も起こらない。
シンジはアタシを裏切った・・・。
シンジはアタシを見捨てた・・・。

違う。
悪いのはシンジじゃない。
素直になれなかったアタシ。
「好き」と言われることだけを待っていたアタシ。
「好き」と言えなかったアタシ。

怖かった。拒まれるのが。
でも、「好き」ってことはそういうことじゃない。
自分の真実なのだ。揺るぎない事実なのだ。

・・・アタシはあの子に負けた・・・。

アタシはベッドの上で泣いていた。

「アスカ・・・?」

シンジだ。どうしよう。

シンジ 「アスカ・・・話があるんだ・・・。」

アスカ 「・・・・・・。」

シンジ 「アスカ・・・いないの?」

アスカ 「・・・いるわよ。・・・何よ?」

シンジ 「中に・・・入ってもいい?」

アスカ 「アタシは何も話すことなんかないわ。」

シンジ 「アスカに・・・報告しようと・・・。」

アスカ 「あんたには悪いと思ったけど、あとをつけて、
      全部見せてもらったわ。だからもういいわ。」

シンジ 「いや・・・違うんだ、アスカ。」

アスカ 「かわいい子ね。付き合うんでしょ。」

シンジ 「いや・・アスカ・・・。」

アスカ 「あ、もうキスもしたんだっけ。」

シンジ 「違うんだ!アスカ!」

アスカ 「何よ。なにがどう違うって言うのよ!」

シンジ 「僕は・・・アスカのことが・・・。」

アスカ 「今さら好きって言うんじゃないでしょうね?
      バカにしないでよ!」

シンジ 「アスカ・・・聞い・・・。」

アスカ 「第一、このアタシがOKするわけないでしょ?
      あんたバカァ?」

シンジ 「・・・・・・。」

アスカ 「ほらね、何も言えないじゃない、バカシンジ。」

シンジ 「・・・・・・。」

アスカ 「アタシはね、あんたのことが好きとかって感情、
      一度も持ったことなんかないわ。ただ家事労働
      がうまいから一緒に住んでるだけよ。」

シンジ 「・・・・・・。」

アスカ 「あーあ、加持さんがいればなぁ。バカシンジなんて
      いなくてもいいのに。」

しまった、言い過ぎたわ。悪いのはシンジじゃないのに。
謝らなくちゃ!

アスカ 「ごめ・・・。」

シンジ 「アスカ!!」 

アスカ 「な、なによ。」

シンジ 「さっきから聞いていれば人のことをバカバカ
      バカバカって!」

アスカ 「な、なによ、ホントのことじゃない。」

シンジ 「そうだよ!僕はバカだよ!たった今分かったよ!
      何でアスカなんか好きになったんだろう!
      何でこんなところにいるんだろう!
      僕なんて、いる必要ないんだ!」

アスカ 「アンタはそうやって逃げてばっかり!
      逃げ場なんてあるはずないじゃない!
      それともパパとママを追いかけて死ぬ?
      アンタはそれも無理ね。
      やっぱりあの時愛しのファーストと一緒に
      死ねばよかったんじゃない?」

シンジ 「・・・・・」

あ・・・なんてことを・・・言っちゃったんだろう。
シンジはあの時、レイを助けられなかった自分を責めた。
レイが自分の母親のクローンと知っても、レイを1人の
人間として、母親とは別の女の子として見ていた。
アタシはそれに嫉妬していたかもしれない。
でも、口にしてはならない言葉のはず。

あやまろう・・・。

あ・・・もう遅い・・・みたい・・・。


一瞬、何かが走っていった。
僕は・・・いらないらしい。
僕は・・・死ぬべきだったらしい。
誰も僕を必要としていない。
アスカは僕が嫌いだと言った。

僕は・・・何だったんだろう・・・。
この1年は・・・何だったんだろう。


ふすま越しに、シンジの気持ちが痛いほど分かる。
でも、もうこれ以上の言葉は言えない。
言ったらますますひどくなるだけ。

ふすまを開けよう。開けて目で話し合おう。
ふすまに手をかけた。

その時。
シンジの声が聞こえた。

「アスカ・・・よくわかったよ。・・・・・・・・・・・ありがとう。」


少したって、ものが割れる音がした。
アタシが去年あげたペアグラス・・・。
去年のクリスマス、アタシが買って、2人で1つずつ
持つことにした、薄紅色のグラス・・・。

その1つをシンジが割ったのだろう・・・。
アタシには分かる。
ペアグラスはペアじゃないと意味はない。
もうこっちのグラスも・・・。


ものが割れる音。
ペアグラスだ・・・。
こんな時だけ分かり合えるなんて皮肉だな・・・。
僕ももうこのグラスと同じ。
もういらないもの。
もう・・・いらない・・・もの・・・。




2人にとって大切であったはずの何かも
この日、砕け散った・・・・・・。




つづく

 

 

 


(筆者より)

第2話、いかがでしたか?LynXです。
人間が最も嫌うものは孤独です。現代の青少年・
成年の問題もそれが原因と言っても過言ではないでしょう。

この2人も孤独を最も嫌い、恐れていました。
いま、2人は再び孤独に陥ろうとしています。

2人はどうなっていくのでしょう?第3話以降をご覧下さい。

それでは、感想お待ちしております。


LynXさん、本当にありがとうございました!!

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までお願いします。


「喫茶りんくす」へ戻ります。