こんなにそばにいるのに
第4話
作 LynX
・・・アタシは今、病院にいる。
あの時、アタシはただおろおろすることしかできなかった。
目の前に倒れているシンジを見て
何が起こったのか把握できずにいた。
ミサトがいなかったら。
アタシはまだあそこでシンジの名を呼んでいたかもしれない。
ミサトが駆け寄ってきて、シンジを車に乗せてこの
救急病院まで連れてきてくれた。
今アタシがいるのは救急診察室の外の廊下。
中が何だかあわただしい。
・・・アタシ・・・震えてる・・・?
・・・怖い・・・怖いの。
アタシの・・・せいだ・・・。
アタシのせいで、シンジは・・・・!?
ミサト 「アスカ・・・。」
アスカ 「ミサト・・・怖いよ・・・・。」
ミサトはアタシの肩をやさしく、しっかりと抱いてくれた。
アタシはこみ上げてくる涙を懸命に我慢しようとした。
シンジ・・・どうか・・・。
プシュー
ガラガラガラガラ・・・
診察室の自動ドアが開き、ベッドに寝かされたシンジが
運ばれてきた。意識はまだ戻っていないようだ。
アスカ 「シンジ!シンジ・・・!」
看護婦 「いけません!この患者は今から集中治療室に
入るんです!大きな刺激を与えないで!」
アスカ 「うるさい!シンジ!」
看護婦 「あ!いけません!」
医師 「保護者の方はおられますか?ん、君!
早く行きたまえ!」
看護婦 「あ・・・はい。」
ミサト 「アスカ、落ち着いて。先生の話を聞きましょう。」
アスカ 「シンジ・・・。」
・・・・・・
医師 「・・・ということで、つまり彼は今、重度の肺炎に
かかっており、大変に危険な状態にあるわけです。」
ミサト 「肺炎だったらすぐ治りそうね・・・。」
医師 「いいえ。彼の場合、極度の疲労と軽い栄養失調のため、
抵抗力が極端に落ちています。よって・・・非常に
申し上げにくいのですが・・・、お二人には最悪の
場合も覚悟していただきたいと・・・。」
ミサト 「さ、最悪というと・・・?」
医師 「率直に申し上げると・・・死に至る場合もあり得ると
いうことです。もちろん、最善は尽くします。今日、
明日が峠でしょう。」
シンジが・・・死ぬ・・・?
アタシは目の前が真っ暗になったような気がした。
とてつもない恐怖が襲ってきた。
ミサト 「ア、アスカ、大丈夫?顔が真っ青よ?」
医師 「お二人とも、今日は帰ってお休み下さい。
お疲れのようですから。」
ミサト 「そうさせてもらいます・・・。」
看護婦 「先生、急患です!」
医師 「はい!・・・では、失礼します。お大事に。」
ミサト 「ありがとうございました。」
プシュー
アタシはミサトに抱きかかえられるようにして廊下に出た。
そうしないととても立っていられなかった。
動くこともできそうになかった。
シンジが・・・死ぬなんて・・・そんな・・・!
看護婦 「あの〜、すみませんが。」
ミサト 「はい、なんでしょう?」
看護婦 「アスカさんという方、ご存じですか?」
ミサト 「そ、それは・・・。」
アスカ 「アタシよ・・・。」
看護婦 「ちょうどよかった。これを。」
差し出されたのは赤を基調にラッピングされた小さな箱だった。
赤いリボンになにやらカードがはさんである。
アスカ 「これは・・・?」
看護婦 「さっきの男の子の上着のポケットに入っていたの。
濡れてしまってるけど・・・。」
シンジが・・・?
アタシはそれを受け取った。
看護婦 「それでは、次の患者さんがおられますので。」
なんだろう・・・。
アタシはすぐにリボンをほどき、箱を開けてみた。
中から出てきたのは・・・
シルバーのリング。
内側には『From Shinji To Asuka』と彫ってある。
涙が・・・シンジ・・・。
白い、小さなカードに書いてある文字は、濡れてにじんで、
目も涙でにじんで、よく見えなかったけど、
こう書いてあったんだと思う。
『Merry Christmas! 世界で一番大好きなアスカへ。』
涙が・・・止まらなかった。
プルルルルルルル
電話・・・・?
あ、そうか、アタシ、家に戻ってきてたんだ。
あのことが夢だったら。
そう思ったけれど右手の薬指に光るリングが厳しい現実を告げる。
今・・・何時だろ・・・?
バターン!
ミサト 「ア、アスカ!!」
アスカ 「どうしたのよ、ミサト。そんなにあわてて。」
ミサト 「シ、シンちゃんが・・・!」
アスカ 「ちょっと落ち着きなさいよ!シンジがどうしたのよ?」
ミサト 「シンちゃんが・・・病院からいなくなったって・・・。」
アスカ 「・・・・・・ええ?!」
ミサト 「とにかく、病院に行くわよ、急いで!」
ブロロ〜!!
アスカ 「病院からいなくなったってどういうことよ?!」
ミサト 「わからないわ。連絡によると、病室はおろか、
病院のどこにもいないらしいのよ。まったく、
どんな管理してるのかしら!」
アスカ 「じゃあ病院に行ってもシンジはいないんじゃないの?」
ミサト 「動けたとしてもあの体よ。きっとまだ病院の中よ。
探してないところがあるのよ。」
アスカ 「・・・ミサト。」
ミサト 「何?」
アスカ 「公園に・・・行って。」
ミサト 「はあ?」
アスカ 「昨日の・・・噴水のある公園。」
ミサト 「は?何言ってるの?」
アスカ 「シンジが・・・いるわ。」
ミサト 「は?病院からあそこまで3kmはあるのよ?
シンちゃんのあの体でそこに行けるわけ・・・。」
アスカ 「行って。お願い。」
ミサト 「・・・・・・分かったわ。でも、いないようなら
通り過ぎるわよ。さ、Uターンするからつかまってて。」
キーッ キュキュキュキュ ブオオ〜
ミサト 「アスカ・・・」
アスカ 「うん・・・。」
噴水のあたりに人垣ができている。
なにやらざわざわしている。
アタシは車を降りて人垣に向かっていった。
人垣をかき分けると、そこには、黒い髪の少年が座っていた。
着ているものは病院の入院者用のパジャマのみ。
それもあちこちが破れ、ところどころから血がにじんでいる。
足は裸足、手袋なんてもちろんつけていない。
足からも、手からも血がにじんでいる。
ただ、眼だけが異様な光を放っていた。
・・・見る者が思わず一歩下がってしまうような、そんな眼。
・・・そう、みんな遠巻きに見ることしかできなかったのだ。
「シンジ・・・。」
アタシの声が聞こえたのだろうか。
少年は立ち上がった。
アタシ以外の全員が思わず一歩退いた。
少年は、よろよろと、一歩ずつ、近づいてくる。
そのたびに周囲の人は一歩ずつ下がっていく。
アタシと少年が対峙する形になった。
「アスカ・・・?」
少年はそう言うと微笑んだ。
「遅かった・・・ね。でも・・・いいよ。
来て・・・くれたから。
メリー・・・クリスマス、アスカ。」
そう言って見せた笑顔はシンジの笑顔だった。
「それ・・・で・・・その・・・。」
「プレゼントならもう貰ったわよ、シンジ。」
アタシは右手の薬指に光るリングを見せた。
精一杯の笑顔で。涙が出そうになるのを懸命にこらえて。
「ありがとう。メリークリスマス、シンジ。
これはアタシからのお礼よ。」
アタシはシンジにキスをした。
唇を離してシンジを見た。シンジは・・・泣いていた。
「ありが・・・とう・・・アス・・・。」
最後まで言い終わらないうちにシンジは崩れるように
倒れていった。
アタシはシンジの体を急いで受け止め、支えた。
ミサト 「はやく、こっちよ!」
その時、ミサトが呼んだらしい救急隊員が来た。
そしてシンジを抱きかかえ、担架で救急車へと運んだ。
呆然とする人々をしり目に、アタシ達は病院に向かった。
・・・・・・
着いたのはネルフ直属の病院。
ミサトの話だと遅かれ早かれこちらにシンジを移動させる
つもりだったらしい。
アタシは昨日ほど取り乱していなかった。
シンジは死なない。絶対に大丈夫。
そんな確信のようなものを感じたから。
ただ・・・担当医がリツコなのが不安だけど・・・。
リツコ 「・・・ふう。」
ミサト 「どうなの、リツコ。」
リツコ 「ちょっと、ここでは私はあなたの同僚では
ないのよ。『先生』と呼んでほしいわね。」
アスカ 「そんなことどうでもいいのよ。で、どうなのよ、
シンジは?」
リツコ 「正直言って難しいわね。症状はかなり重いわ。
病院から抜け出したことが信じられないわ。」
ミサト 「でも、事実よ。」
リツコ 「ええ。それでさらに悪化したのもまた事実よ。
いくら設備が整っているとはいっても・・・。」
アスカ 「シンジは大丈夫よ。」
ミサト 「アスカ?」
アスカ 「シンジは大丈夫。アタシが死なせやしないわ。」
ミサト 「アタシがって、アスカ・・・」
リツコ 「そうね。物事を悪い方向に考えても事態は
変わらないわ。今は最善を尽くすしかないわ。」
ミサト 「・・・そうね。」
リツコ 「だから今日はあなたたちは帰りなさい。」
アスカ 「そうするわ。」
ミサト 「あら、アスカ、やけに素直ね。ずっと
そばにいるって駄々こねるかと思ったのに。」
アスカ 「アタシ達は・・・どんなに離れても、お互いの
心はずっとそばにいるもの・・・。」
ミサト 「あ〜ら、ごちそうさま。」
アスカ 「そ、それに、アタシ達が参っちゃったらシンジが
元気になったとき迷惑じゃない!」
ミサト 「はいはい。」
アスカ 「そ、そういうわけだから帰るわよ、ミサト!」
アタシは立ち上がって部屋を出た。
あーはずかしい。しらふであんなこと言うなんて・・・。
でも、本当よ、シンジ。
ずっと、ずっとそばにいる。
だから、元気になって。
リツコ 「・・・強くなったわね。」
ミサト 「私は何もしてないけどね。」
リツコ 「わかってるわよ。・・・アスカに教えられる
とは。私も年ね。」
ミサト 「なにを今さら。あんたの年齢、言ってほしい?」
リツコ 「やめておきましょう・・・お互いに。」
ミサト 「・・・そうね。」
アスカ 「ミサトォ〜!!」
ミサト 「はいはい、今行くわよ。じゃ、リツコ、
よろしくね。」
リツコ 「『先生』と呼びなさい。」
ミサト 「はいはい。では先生、よろしくお願いします。」
リツコ 「わかりました、お大事に。」
ミサト 「じゃあね〜。」
リツコ 「ふう、責任重大ね。」
つづく
(筆者より)
第4話、いかがでしたか?LynXです。
すれ違いが続いてやっと巡り会った2人。
この先シンジ君は、そしてアスカ(様)は?
このお話はまだまだ続きます。
ご感想お待ちしております。
LynXさん、本当にありがとうございました!!
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