こんなにそばにいるのに
第6話
作 LynX
シンジが戻ってきた。
でもアタシのことは・・・覚えていない。
それ以外はもとどおりになったみたい。
そう・・・アタシが悲しくなるほどに。
シンジは昨日から学校に来ている。
意識が戻ってからちょうど1週間。
シンジ 「あ、アスカさん、おはよう。」
アスカ 「おはよう、シンジくん。」
教室でシンジと挨拶を交わす。
シンジはどうしても「さん」付けをやめてくれない。
はじめは「惣流さん」なんて呼ばれたけど、
「外国じゃ互いにファーストネームで呼ぶのよ。」
って言って今の呼び方になった。
でも。ホントは前みたいに「アスカ」って
呼んでほしい。
今のままじゃシンジとの距離が遠く感じる。
実はシンジとは家も別々になってしまった。
アタシとシンジ(とミサト)が一緒の家で生活して
いたことを聞いてシンジは驚いていた。
ミサトは保護者だからまだしも、同い年の女の子と
一緒に暮らしていたのだからもっともかもしれない。
シンジは退院した後にまた一緒の家で暮らすことに
ひどく戸惑っていた。
退院したシンジにまた家事全般を任せるの?
冬休みの間、アタシが家事をやった。
そして知った、シンジの苦労を。
シンジと一緒に暮らすとどうしてもシンジに
甘えてしまう。シンジに苦労をかけてしまう。
だから。
アタシはミサトに、シンジが一人暮らしできる
用意を整えてくれるよう頼んだ。
「それでいいの?」
ミサトの問いにアタシはうなずいた。
ホントは離れたくない。
でも、離れていても・・・きっと大丈夫。
シンジの引っ越し先はアタシ(とミサト)の家から
少し離れている。
教室で朝一番の挨拶ということになったのもそのせい。
アスカ 「シンジ・・・くん・・・あの・・・。」
シンジ 「ん?何、アスカさん?」
トウジ 「おはようさん、センセ。」
ケンスケ 「おはよう、シンジ。」
シンジ 「お、2人とも、今日は早いね。いつもは
遅刻ぎりぎりなのに。」
トウジ 「センセもきついこと言うのう。」
ケンスケ 「ま、事実だけどね。ところでシンジ、昨日の
テレビ見たか?」
シンジ 「え?見てないけどいったい何?」
トウジ 「なんやなんや?」
ケンスケ 「昨日な・・・・・・・・・。」
・・・3人は楽しそうに話をしている。
ただそれだけのことがひどくうらやましい。
昔は当たり前だったことなのに。
急にさみしさがこみあげてきた。
アタシは3人から離れ、自分の席に着いた。
ヒカリ 「アスカ、おはよう。」
アスカ 「あ、ヒカリ。おはよう。」
ヒカリ 「元気ないわね。碇くんがらみ?」
アスカ 「・・・うん。」
ヒカリ 「まったく、鈴原たちはのんきよね。前と
全然変わらないじゃない。」
アスカ 「その方がいいじゃない。シンジも
楽しそうだし。うらやましいわ。」
ヒカリ 「元気出しなさいよ、アスカ。」
アスカ 「大丈夫よ、ヒカリ。あせらずに少しずつ
やっていけばいいのよ。」
ヒカリ 「アスカ、変わったわね。」
アスカ 「そう?」
ヒカリ 「そうよ。前だったら碇くんの名前が出るたびに
ムキになって碇くんとの関係を否定してたじゃ
ない。」
アスカ 「そうだったかしら?」
ヒカリ 「そうよ。第一、『少しずつ』なんて、前だったら
言わなかったもの。」
アスカ 「人は変わるものよ。」
ヒカリ 「・・・そうかもしれないわね。」
アスカ 「ほらほら、授業始まるわよ。」
ヒカリ 「あ、そうね。ほらぁ〜、鈴原達!席について!」
トウジ 「へーへー。わかっとるがな。うるさいのぅ。」
ヒカリ 「つべこべ言わないで早く!」
トウジ 「へいへい。」
あの2人もなかなか進展しないわね。
ホントはさっきシンジにお弁当渡そうと思ったんだけど、
ま、いいか。お昼休みに渡そう。
キーンコーンカーンコーン
で、昼休み。
やっぱりドキドキする。よく考えたらこんなこと、初めて。
でも、物怖じしてる場合じゃない。
意を決してシンジに近づいていく。
アスカ 「あの・・・シンジ・・・くん?」
シンジ 「なに、アスカさん?」
アスカ 「あの・・・お弁当・・・作ったんだけど、一緒に
食べない?」
シンジ 「え?あ、あの・・・。」
アスカ 「イヤ?」
シンジ 「だって僕、自分の弁当持ってきてるし・・・。」
トウジ 「じゃあそれはワシが食う。」
シンジ 「え?でもトウジ、自分の持ってるだろ?」
トウジ 「1つで足りるかいな。3限から腹減ってたまらん
かったわ。」
シンジ 「え、でも・・・。」
トウジ 「ほらほら、惣流が待っとるで。」
シンジ 「う、うん。じゃあ・・・。」
アスカ 「じゃ、屋上行きましょ。」
シンジ 「う、うん・・・。」
ヒカリ 「あれで『少しずつ』か。やっぱりアスカね。」
アタシはドキドキしながらシンジと一緒に屋上に行った。
シンジの顔は真っ赤だ。こういうところはシンジね。
たぶんアタシも真っ赤だろうけど。
アタシは2人が座る場所を見つけてシンジをそばに座らせ、
持ってきた弁当を開いた。
最近料理になれてきたとは言え、やはりシンジの味には
まだ及ばない。食べてもらえるかな・・・。
アスカ 「どう・・・?」
シンジ 「うん。おいしいよ。」
アスカ 「そう。よかった。」
シンジ 「アスカさんも食べたら?」
アスカ 「え?あ、うん。」
おいしそうに食べてくれて良かった。
そうやって思わずシンジに見とれてしまった。
こうやって2人でお弁当って・・・いいな。
こんなふうに毎日過ごせないかな・・・。
アスカ 「シンジくん、明日からも作ってこようか?」
シンジ 「え、そんな。悪いよ。」
アスカ 「いいのよ。アタシが好きでやるんだから。」
シンジ 「う〜ん、でもなあ。」
アスカ 「ダメ?」
シンジ 「う〜ん、うれしいんだけど。」
アスカ 「そう・・・。」
シンジ 「じゃあ、交互に作ってくるっていうのはどう?」
アスカ 「え?」
シンジ 「それじゃダメかな?」
アスカ 「も、もちろん、喜んで。」
シンジ 「よかった。じゃ、そうしようか。」
そう言ってシンジは微笑んだ。
最初ダメなのかと思っていたからシンジの申し出には
びっくりした。でも、またシンジの作ったごはんが
食べられる。
シンジの笑顔を見ながらアタシは舞い上がっていた。
シンジ 「アスカさん?もう授業始まるよ?」
アスカ 「あ、そ、そうね。じゃあ、戻りましょうか。」
舞い上がっていたせいか、午後の授業は全然耳に入らなかった。
休み時間にはヒカリがからかいに来たみたいだがよく
覚えていない。
もう1つ、放課後の計画のことを考えていたせいもある。
それは。
アスカ 「シンジくん、ちょっといい?」
シンジ 「なに、アスカさん?」
アスカ 「シンジくん、一人暮らしでしょ。夕食とか
自分で作ってる?」
シンジ 「そうだけど。なにか?」
アスカ 「今日、うちで夕食食べない?」
シンジ 「え?どうして?」
アスカ 「え、いや、どうせミサトの分も作るから。」
シンジ 「せっかくだけど、いいよ。自分の分くらい
すぐだから。」
アスカ 「でも・・・。」
シンジ 「アスカさん、どうして君は僕のこと気にかけて
くれるの?」
アスカ 「え!そ、それは・・・。」
シンジ 「もし僕が病気になったことで責任を感じているん
だったら、それは違うよ。逆にアスカさんのことを
忘れてしまった僕の方が謝りたいくらいだよ。」
アスカ 「そんな・・・!ちが・・・。」
シンジ 「聞いた話だけど、僕を助けてくれたのはアスカさん
だそうだね。ありがとう。」
アスカ 「そんな・・・。」
シンジ 「今僕がここにいるのはアスカさんのおかげ。だから
責任を感じる必要はないんだ。君も、僕も、自分の
やりたいようにやればいいんだ。」
アスカ 「・・・。」
シンジ 「だから、夕食のお誘いはうれしいけど。」
アスカ 「そう・・・わかったわ。」
シンジ 「でも、明日のお弁当は作ってくるよ。」
アスカ 「え!本当?」
シンジ 「アスカさんのおいしいお弁当を1日おきに食べられる
のは楽しみだから。いいかな?」
アスカ 「もちろんよ!」
シンジ 「じゃあ、明日を楽しみにしていてね。
じゃ、さよなら。」
それから毎日、アタシは昼休みが楽しみになった。
昼休みのためだけに学校に来ているようなもの。
まるで鈴原みたいに。あいつのは食欲だけど。
シンジのお弁当、やっぱりおいしかった。
ずっとシンジだけを見ていた。
もとから勉強も運動も普通より上、とは思って
いたけど、実際は学年でもだいぶ上に位置してるみたい。
アタシ、変わったのかもしれない。
前よりも素直になれる。シンジに対してだけだけど。
最近ラブレターの量が増えてきたわね。
どういうことかしら。
今の方がウケがいいみたいね。どうでもいいけど。
シンジにも結構来てるみたいね。
どういう返事してるのかしら。
シンジは律儀だから全員に返事してるみたいだけど。
気になるわね。
そんなうちに月日は流れていった。
アタシとシンジは同じ高校に合格した。
卒業してもまた一緒。そう思うとうれしかった。
でも卒業まで1週間を切ったある日の昼休みだった。
アスカ 「やっぱり外で食べるお弁当はいいわね〜。」
シンジ 「うん・・・。」
アスカ 「どうしたの?元気ないけど。」
シンジ 「ちょっと・・・。」
アスカ 「アタシが相談に乗ろうか?」
シンジ 「うん・・・実は・・・昨日、先生に呼ばれて・・・。
留学・・・してみないかって。」
アスカ 「え?留学?どこへ?」
シンジ 「イギリス・・・ケンブリッジの付属校らしいけど。」
アスカ 「そう・・・どうするの?」
シンジ 「海外で生活してみたいって思うけど、ここの仲間と
別れるのもつらいし・・・。どうしたらいいかな?」
アスカ 「それはアタシには決められないわ。シンジくん、
前に言ったでしょ、やりたいようにすればいいって。
だからこれはアタシが決めることじゃないわ。」
シンジ 「そうだね・・・。」
アスカ 「ケンブリッジはいいところよ。得るものはあるわ。」
シンジ 「うん・・・。もう少し考えてみるよ。ありがと。」
アスカ 「いいのよ。」
この日から後、このことを話題にすることはなかった。
アタシは卒業の慌ただしさの中で次第にこのことを忘れていった。
アタシとシンジは無事、中学を卒業した。
そして長い春休み。
アタシはシンジとの高校生活を楽しみにしながらも春休み中に
シンジに会いに行く口実を何とか考え出そうとしていた。
RRRRRRRR...
電話だ。シンジからだったらいいな。
アスカ 「はい、もしもし。」
シンジ 「あ、アスカさん?ひさしぶり。」
アスカ 「あ、シンジくん。ひさしぶり〜。どうしたの?」
シンジ 「今、空港にいるんだ。イギリスに・・・行くんだ。」
アスカ 「え?」
シンジ 「別れがつらいから内緒にしてたんだけど・・・。
アスカさんだけには伝えておこうと思って。」
アスカ 「何時のフライト?」
シンジ 「もうすぐ・・・12時04分・・・。」
アスカ 「そうか・・・もう間に合わないね。」
シンジ 「うん・・・。」
アスカ 「・・・。」
シンジ 「・・・。」
アスカ・シンジ 「「あの・・・。」」
アスカ 「・・・。」
シンジ 「・・・。」
アスカ 「体に・・・気を付けて・・がんばって・・・。」
シンジ 「うん・・・。」
アスカ 「・・・。」
シンジ 「・・・。」
【間もなく7番ゲートから・・・・】
シンジ 「じゃ・・・。」
アスカ 「シンジ・・・!!」
シンジ 「アスカ・・・さん・・・。」
アスカ 「待ってるから・・・。」
シンジ 「うん・・・。」
アスカ 「いってらっしゃい。」
シンジ 「いってきます。」
ガチャ
シンジは遠い外国へと旅立ってしまった。
シンジとの物理的距離は広がった。
でも、心の距離は変わらない。
シンジが「好き」と言ってくれたあの日から。
でも。
アタシの瞳からは
やっぱり
涙があふれてきてしまった・・・。
つづく
(筆者より)
第6話、いかがでしたか?LynXです。
運命の赤い糸は、いくらたぐりよせても終わりがない
ようです。その糸の先はどこにつながっているのでしょう。
次回、最終話をお楽しみに。
感想お待ちしております。
LynXさん、本当にありがとうございました!!
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