しばし天の祝福より遠ざかり・・・
by 裏みやも
15歳の誕生日が近いある日のこと、学校の屋上で
灰色の空を見上げる銀髪の少年と出会った。
「やあ、碇シンジ君」
どこか壊れてしまったような輝きをたたえる赤い瞳で、
その少年は微笑みかけてきた。
「僕を知ってるの?」
僕はそう訊ねた。
デ・ジャ・ヴ。既視感。
「知ってるさ」
彼はなぜかとても嬉しそうだった。
「よく、知っているよ」
ああ、そうだ。
いつかどこかで、僕は彼に出会ったような気がする。
その日から、僕は放課後になるといつも屋上に行くようになった。
あの少年はいつもそこにいて、いつもほんの少し壊れた微笑みを
浮かべながら、僕を待っていてくれた。
「・・・そう、シンジ君には幼なじみがいるんだね」
僕は誰にも言ったことのない話を彼にしていた。
彼には何でも話せるような気がした。
出会ったばかりの彼に。
いつか、会ったことがあるかもしれない彼に。
「うん。アスカって言うんだ」
「いい子かい?」
「うん」
「彼女が好きかい?」
「・・・・わからないんだ。ずっと昔からそばにいて、
それがすごく当たり前で・・・」
「ある日突然彼女が心を壊して自殺を図ったら、君はどうする?」
「いやだよそんなの!!なに言いだすの、とつぜん」
「たとえ話さ。心を乱されたかい?」
「あたりまえじゃないか」
「なぜだい?」
「そりゃ・・・・」
「彼女が好きだから。
自分を置いてどこかへ行ってしまったら、
とてもとても寂しいから。そうだろう?」
「・・・・・うん」
「答えは初めから君の中にあるんだよ。
必要なのはちょっとしたきっかけさ」
虚ろな瞳で、彼はくすくす笑う。
「ああ、まったく君は可愛いね、本当に」
「からかわないでよ」
「本当さ。僕は君になら殺されてもいい」
彼はどこか壊れている。
でも僕は、そんな彼がとても美しいと思った。
愛すら感じた。
出会ったばかりの、この少年に。
僕はもうすぐ15歳になる。
今の僕には母がいて、
父がいて、
アスカがいて、
友だちがいて、
チェロがあって、
食べると美味しい料理があって、
眠れば心地よいベッドがあって、
そして今の僕自身がある。
何か変わるのかもしれないし、何も変わらないかもしれない。
想像できない。
僕はいつか大人になるのだろうか。
「大人になったら、君は素敵な役者になるよ」
彼はそんなことを言った。
「そうしたらシンジ君、僕は一番のファンになろう」
「何の話?」
「シェイクスピアだよ」
この世は全てこれ一つの舞台、
ヒトは男女問わず全てこれ役者に過ぎぬ。
「君はきっと、素敵な役者になれる」
「そうかなあ」
ある日、少年は言った。
僕は君が好きだから、いつか去って行かなくちゃならない。
そうなれば、君は寂しさを感じてくれるだろうか。
いってごらん。
ぼくはさびしいと、いってごらん。
「ぼくは・・・・・」
ぼくはさびしい、だよ。
ああ・・・・
君がいないと、僕は気が狂ってしまうだろうな。
ある日、屋上の少年は古い外国のアニメの話をしてくれた。
猫のトムはネズミのジェリーが好き。
何度も何度も殺そうとたくらむくせに。
ネズミのジェリーも猫のトムが好き。
食われないためには、絨毯に焼け焦げがつくほど猛烈な
速さで逃げまわらなくちゃいけないのに。
それはとてもとても哀しいことなのかもしれない。
でも、彼らは仲がいいんだ。
幸せじゃないなんて、誰が言える?
トムとジェリーの話を聞いた晩、僕は夢を見た。
紫色の、鬼のような巨大な機械人形に乗った僕が
銀色の髪の少年の首を絞めている。
僕は彼が憎かった。
なぜだろう。
・・・・ああ・・・・そうだ。
僕は彼が好きだったんだ。
だから、憎かった。
夢の中で、僕もきっとどこかが壊れていたんだろう。
それはとてもとても哀しいことなのかもしれない。
でも、僕らは仲が良かった。
不幸だったなんて、誰が言える?
「お別れだよ、碇シンジ君」
「行っちゃうの?」
少年がどこに行くのか、この時なぜか僕には分かっていた。
彼はこれから、別の世界、別の時代、別の僕に出会うのだろう。
きっとそうやって、いくつもの世界を旅してきたんだ。
いくつもの可能性を見てきたんだ。
「ああ、ここにはもう僕がいる必要がなくなったからね」
「・・・・・・・ぼくは、さびしいよ」
「ありがとう、シンジ君」
どこか壊れた笑顔で、彼は言った。
「君に会えて、本当に良かった」
そう言って、少年は僕の頬に口づけをすると、
屋上から飛び降りた。
彼は僕を置いて、どこかへ消えてしまった。
14歳最後の週末に、僕はアスカとデートした。
彼女の笑顔はとても輝いていた。
彼女は僕が好きだという。
僕も彼女が好きだった。
こうしていると、屋上で起こった出来事、あの赤い瞳の
少年の存在は夢の中の・・・オレンジ色の水の中で
見る夢の中の出来事だったように思えてくる。
「アスカ、壊れちゃだめだよ」
「何の話?」
「たとえ話さ。
アスカが僕を置いてどこかへ消えちゃったら、
ぼくは、さびしい。
とっても、寂しいんだ」
「うん」
「大好きだよ」
「ありがとう」
アスカは微笑んだ。
僕は彼女がめったに見せない、この微笑が好きだった。
僕は明日、15歳になる。
FIN.
<あとがき>
皆さんこんにちは、裏みやもです。
渚カヲル。難しいですね。
たった一話の登場でこれだけインパクトを残した
キャラってのも、大したモノだと思います。
今回は、思春期の少年の感覚世界をLKSっぽい
エピソードで表現してみたのですが、いかがでしょう。
御感想、お待ちしてます。
みやもさん、本当にありがとうございました!!
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