焼き加減はお好みで・・・・
いらっしゃいませ、メニューをどうぞ。
ご注文は『お誕生日』ですね?
焼き加減はいかがいたしましょう。
以下の選択肢から、お好みのものをお選び下さい。
1.レア
(EoE版アフター世界) 2.ミディアム
(学園エヴァ世界) 3.ウェルダン
(旅籠みやも版アフター世界・ギャグ)
終末の過ごし方
世界は停止した。
言葉であらわせば、そういうことである。
すでにサードインパクトの発生からしばらくの月日が経過していた。
が、人類の変わり果てた姿であるLCLの海は、一個体として
ただひたすら単調に揺らぎ続けるだけだった。
ある時、人類最後の少女は人類最後の少年に言った。
「あれはいのちじゃないわ。だって、生きていないもの」
そう、自身だけで完結してしまったものは生命とはいえない。
”それ”は何も作らず、何も壊さず、何も伝えることができないのだから。
世界は、停止していた。
*
朝。
廃墟と化した第3新東京市の片隅にある
小さな商店街の通りで、碇シンジは途方にくれていた。
「うーん・・・・」
いま彼を悩ましているのは、
『どうして自分は生きているんだろう』とか、
『人生って何だろう』とか、
そういった類の哲学的な問題ではなかった。
実は、ケーキを作るのに使う卵とミルクが見つからなかったのである。
「・・・・・まいったな」
この時、かつて使われていた暦に従えば、2016年12月4日。
アスカの15歳の誕生日だった。
*
昼。
太陽がわずかに真上からずれた頃。
ブルルルルル・・・・・・・・キュッ!
市の中心から少し外れたところにある一戸建ての家屋の前で、
シンジは原付を停車させた。
ゴーストタウンで仕入れてきた生活用品を詰め込んだ
大きな袋を抱えて、玄関を開ける。
ガチャ。
「ただいまー」
「おっそーい、シンジ!」
奥から、エプロン姿のアスカが顔を出した。
トテトテと駆け寄ってきた少女は頬を
ぷくぅーっと膨らませている。
「もう!何時間待たせるのよ。
朝ご飯がお昼ご飯になっちゃったじゃない」
「ごめんごめん」
「あんまり長くアタシを一人にしないでよ。
・・・・・さびしいんだから、さ」
冗談めかしてはいたが、アスカの瞳が一瞬だけ
ひどく揺らいだことに、シンジは気づいた。
アスカはハッとして、すぐにいつもの表情に戻った。
「んで、何か収穫はあったわけ?」
「あ、そうだ。卵とミルクは手に入らなかったんだけど・・・・」
シンジは買い物袋(別に買い物はしていないのだが)
から小さな袋を取り出し、アスカに渡した。
「はい、コーヒー豆。アスカが言ってた銘柄が見つかったよ」
「あー、これこれ!」
一転、無邪気な笑顔を見せるアスカ。
「いいわ、遅くなったのは許してあげる。
ご飯あたため直すから、アンタはコーヒー入れなさい」
アスカが、シンジの腕を引っ張りながらキッチンへ向かう。
「了解、アスカ」
*
もちろん、はじめからうまくいっていたわけではない。
無人の街をさまよい、手頃な空き家を見つけ、そこで
安定した生活を確保するまで、2人の関係は最悪の状態だった。
言葉だけで人を殺せるのではないかと思うくらい、
容赦のない罵倒を浴びせあった。
陰惨な衝突を繰り返し、自分と相手を傷つけた。
いっそ心中すべきだという提案も一度ならず出た。
憎しみあっていると思っていた。
嫌いだし、嫌われていると思っていた。
そんなあるとき、アスカが泣き出した。
シンジも泣いた。
言い争っている間に、ふと二人とも気づいたのだ。
”
けれど、なぜ別れる事だけは考えもしないんだろう?
”
もういい加減、傷つけあうのに疲れてしまったのかもしれない。
ふたりとも、ゆっくり考えた。時間だけはいくらでもあった。
少し落ち着いた頃、自分が傷ついているように相手も
傷ついているということに思いを巡らせる余裕が出てきた。
ある寒い夜、二人は一緒のふとんにくるまって眠った。
お互い、自分が温もりをもらっているように、相手にも
温もりを分け与えることができるかもしれないと思った。
それからは、すこしずつ口論よりも会話する回数の方が
多くなっていった。
すれちがった言葉をぶつけ合うのではなく、相手の
言葉を聞くようになった。
なぜもっと早くこうできなかったのかと、アスカとシンジは
よく話し合う。
世界に終末が訪れた今になって、二人は不思議なくらい
ごく自然にお互いを認めあっていた。
「アンタってさ、どうしようもない奴よね」
「まあね。でもアスカだって大したもんだと思うけど」
「・・・言うようになったわね、バカシンジ」
「すこしは進歩してるだろ?」
「ふん。まだまだアタシの指導が必要よ」
軽口も交えて、必要以上に気を遣わずに会話ができるようになった。
意味のない言葉をやりとりするのが、楽しいことを初めて知った。
どうしてだろう。
どうして今になって。
今になって、ようやく・・・・
貴方を、こんなに大切に想えるようになるなんて。
*
夜。
銀製の燭台に灯るロウソクのか細い明かりの中で、
アスカとシンジは寄り添って時を過ごしていた。
小さな炎に照らされて、アスカの青い瞳がきらきらと輝いていた。
「ロウソクを使うのも、悪くないでしょ」
「電力の節約?」
とシンジが聞くと、アスカは微妙な表情を見せた。
「ムードよ、ムード」
それが冗談だったのか本気だったのか、シンジには
よく分からなかった。
夜がふけると、二人きりのささやかな誕生日祝いが開かれた。
「ごめん、けっきょくケーキを焼いてあげられなかったね」
「もういいってば。何回あやまってんのよ」
「そういえば、何回目かな?」
「バカね、もう」
「誕生日おめでとう。アスカ」
「・・・・ありがと、シンジ」
ワインを出して、乾杯。飲む。
リビングの床に座りこみ、桃の缶詰を開けて、
フォークで食べさせあう。
BGMは、MDプレーヤーにつないだスピーカーから
流れるゆるやかなジャズの調べ。
「今の生活、どう思う?」
ふいにアスカが言った。
「なんだか、妙に楽しくない?
ふたりっきりで、実物大のおままごとしてるみたい」
「ままごと?」
「アタシね、子供の頃、おままごとをしてみたかったんだ」
「したことないの?」
「友だちいなかったから」
「そっか。・・・・僕とやってみる?」
「うん。じゃあ、シンジはお父さんの役ね」
アスカは足下に転がっていたサルのヌイグルミを
手に取ると、シンジの目の前で動かした。
「ほーらサル吉、シンジパパですよ〜」
シンジが苦笑する。
「僕の子供なの?そのおサル」
「そうよ。それで、アタシはお母さんなの」
アスカは顔の前にサル吉を持ってくると、短い手足をパタパタ
動かしながら声を変えてしゃべった。
「パパぁ!今度の日曜日、遊園地に行こうよぉ」
するとシンジもまじめに応答する。
「・・・・・うん、いいよ。ママも一緒に、みんなでいこうか」
「ねえねえ、オモチャも買ってね?」
「好きなのを買ってあげるよ」
「絶対だよぉ」
「うん、約束だ」
「やったぁ。パパぁ、大好きぃ!」
「はいはい、僕もだよ」
「ママもね、パパが好きだって言ってるよぉ」
MDプレーヤーから流れる曲が終わった。
「・・・・・・大好きだよぉ・・・・・」
パタパタ。
アスカは、小さな声で繰り返しながら、ヌイグルミを動かしていた。
「・・・・・・・」
その手を包み込んで降ろさせると、シンジはアスカと目を合わせた。
アスカの瞳は孤独への不安感に彩られ、悲しい輝きをたたえていた。
「わかってる」
シンジはゆっくりとアスカを抱きしめ、彼女の頭を優しく撫でた。
「パパもママが大好きだよ。
むかし、遠い海の上で、ママに初めて出会ったあの時から。
ごめんね、アスカ。
もっと早くそれに気づいてたなら、何もかも違っていたのかもしれないのにね」
アスカはヌイグルミを持ったまま、腕をシンジの背に回した。
しばらくの間、二人は強く抱きしめあった。
人を拒まずとも生きていく方法はいくらでもあるという事を、
2人は学んでいた。
周りに誰も人がいなくなってしまった今になって、ようやく。
「踊ろうか、シンジ」
やがてアスカが笑顔を見せた。
シンジも応えて微笑する。
新しい曲が始まると、二人は立ち上がり、
どちらからともなく手を取り合って、
ダンスを踊りだした。
アスカとシンジは歩調を合わせて、
ゆっくり、
ゆっくりと踊った。
誰もいない静止した世界の中で、彼らは自分たちの命を、
その温もりを確かに感じた。
すべてが絶望の内にあったが、ふたりの魂は
安らぎに満ちていた。
たのしいでしょ?シンジ。
わたしはね、さびしいけれど、とってもたのしいの。
だって、こうしていっしょにおどってくれる、あなたがここにいてくれるから。
だからね。
とっても、たのしいのよ。
ね、シンジ。
喜んでいいのか、そうでないかは分からない。
ただ、アスカとシンジは信じていた。
たとえ終末を迎えた世界であろうとも、こんなふうに
時間を過ごせるのは”いいこと”なのではなかろうか。
時は2016年、12月4日の夜。
社会は消失し、都市は無人の廃墟と化し、
すべてが暗闇に閉ざされている絶望の世界。
そんな世界の片隅で、惣流・アスカ =
ラングレーは
碇シンジに祝福されながら、15歳になった。
少年と少女は、ロウソクのほのかな明かりがともる部屋の中で、
ゆったりとしたダンスを幸せそうに踊っていた。
アスカとシンジはまだ知らない。
この時、2人の心の安らぎが地表を覆うLCLの海に
伝わっていたという事を。
そしてそれがもうすぐ、LCLに溶けてしまった全人類を
引きつけて、現世へ呼び戻す結果になるのだという事を。
世界がゆるやかに動き出す。
生命ある世界が、再び。
少年と少女は、もはや孤独ではなかった。
END
12月4日。
第3新東京市のとあるマンション。
「朝よ!さっさと起きなさい、ぶぁかシンジぃ!てい!(ぺち)」←顔面にチョップ
シンジはその日の朝もいつも通り、過剰なまでに活気
あふれる美少女にきわめて優しく促されながら目を覚ました。
「・・・・・っっ・・・・いったぁ〜・・・・・」
シンジはうめきながら薄く目を開けた。
ベッド脇には、シンジの保護者を自称する幼なじみ、
アスカが腕組みをして立っていた。
「お目覚めね、バカシンジ」
「アスカ・・・まだ早いよ・・・」
ベッドサイドの置き時計を見ながらぼやくシンジ。
「何いってんの。
シンジは頭がハッキリするまで時間がかかるから、
わざわざ早起きさせてあげてるんじゃない。
ほら、起きた起きた」
「ふぁぁぁ・・・」
大口開けてあくびをするシンジ。
のそのそと上体だけ起こすと、まだ眠い目を
こすりながらアスカを見上げて改めてご挨拶。
「おはよう、アスカ。ふぁぁぁぁ・・・・」
「はいはい、おはようシンジ。
じゃ、さっさと学校いく用意しなさいよ」
そういってシンジの部屋を立ち去ろうとするアスカだったが、
ふすまに手をかけたところでふと振り返った。
「念のために聞いとくけど、今日が何の日か忘れてないでしょうね」
シンジは寝癖で爆発している頭を押さえながらうなずいた。
「覚えてるよ。誕生日だろ」
「・・・・・じゃ、わかってるわね?」
「ああ。わかってるよ、アスカ」
他人が聞いたら意味不明なやりとりだが、そこは10年以上
の時を共にしてきた幼なじみである。
「よろしい」
アスカは満足げにうなずくと、部屋を出ていった。
シンジが学生服に着替えをはじめると、ふすま越しに
ユイとアスカの声が聞こえてきた。
「アスカちゃん、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、おばさま」
「もう何年もシンジの面倒見てもらって悪いわねぇ」
「いえいえ・・・」
なにやら勝手なことを言い合っているようだ。
シンジは苦笑しながらカレンダーを見た。
今日の日付の所に『まいばーすでい!』というアスカの字が
大きく書き込まれていた。
*
市立第壱中学校。
シンジたちが教室に入ってきたとたん、
「シンちゃぁぁぁん!やっほぉぉぉ♪」
と、天然100%の元気炸裂な声が響きわたった。
クラスメートの綾波レイが弾けんばかりの笑顔を
浮かべながら二人の所に駆け寄ってくる。
「あ、おはよう綾波」
「ぐっもーにん!あいらびゅー!」
「レイ・・・・相変わらず脳みそクラッシュしてるわね。
学校より病院行ってくれば?」
あきれたようにアスカが言うと、レイは頬を焼いたモチのごとく
ぷっぷくぷーにふくらませた。
「なぁんで朝いちでそーゆーひどいこと言えるかなぁ、アスカは」
「真実よ、真実」
「むぅっ!・・・・でも、まぁいいわ。
今日はアスカが一つ年を取るめでたい日だもんねー。
お誕生日おめでとうございまーす」
「レイ、アンタ喧嘩売ってるの?売ってるのね?よし買った!うらぁぁ!」
「ひぃぃぃん!碇くぅぅぅん!アスカがいじめるぅ!」
またいつものじゃれあいが始まる。
その仲裁で苦労するのは、これまたいつもシンジなのであった。
*
午前の授業が終わり昼休みを迎えると、生徒たちは
それぞれ弁当を広げだした。
アスカはレイと、親友・洞木ヒカリと共に机をくっつけて
昼食を取っている。
「アスカ、誕生日おめでとう。
今夜のパーティー、楽しみだわ」
「ありがと、ヒカリ」
「そのお誕生日会だけどさ、メンバーはどうなったの?」
レイが弁当をはぐはぐ食べながら訊いてきた。
「えーっと。ヒカリでしょ、レイでしょ、それと
シンジにジャージにメガネの3馬鹿トリオね」
アスカが指折り数えながら言う。
「ま、相変わらずの顔ぶれよ。
ウチがもうちょっと広ければ、もっと人を呼びたいところなんだけど」
「ふーん。でもきっちりシンちゃんを入れてるあたり
わかりやすい人選ですねぇ、洞木さん」
「そうですねえ綾波さん」
珍しく悪ノリしてヒカリもレイに同調する。
「うう・・・・べ、別にそーゆーんじゃないって・・・・・」
余り強く否定できないのが苦しいアスカ。
その瞬間、レイが素早く箸を動かした。
「スキあり!」
ぱく!
「ああああ!レイ!アタシの大好物の唐揚げを!!」
「なぁんだ、残してあるのかと思って、つい」
「アンタ馬鹿ぁぁ!?
メインは最後にとっておくもんなの!
月見うどんの卵と同じよ!!」
「えー?だったらやっぱ最初に食べるのがベストだよ」
「くぅぅぅ・・・・ヒカリはどう思う?」
「私?私は・・・・・ちょうど中間で食べるかな。月見うどんの卵」
「「「・・・・・」」」
人それぞれです、はい。
一方3馬鹿トリオはというと。
「キョウコおばさんの料理、楽しみだな」
「おー、せやせや。
センセと惣流の誕生日はうまいもん食えるよって、
ワシも年に2回楽しみやで、ほんま」
「ふっふっふ・・・校内でも人気ダントツの被写体が
プライベートなイベントで一堂に会する・・・これを
撮らずして何のマニアか・・・・」
こっちもこっちで、相変わらずなのであった。
*
放課後。
アスカはヒカリたちと共に近くのコンビニへ立ち寄っていた。
「お菓子はこのくらいでいいかな・・・レイ、ジュースは?」
「万事おっけーであります将軍閣下!」
びしっと敬礼するレイ。よく分からないノリだ。
「・・・あ、そういえばアスカ」
と、ヒカリが何か思いだしたように言ってきた。
「今日、あんまり碇君と話してなかったね」
「ん?そうだっけ?」
「誕生日なんだから、それをきっかけに色々話題が
作れるんじゃないかなー、なんて期待してたのに」
ヒカリもトウジがらみの時以外はけっこう周りを
見ているようだ。
「そんなことしないって」
苦笑するアスカ。
「そうなの?
そういえば学校では一度も誕生日関係のこと、
話しあってなかったわね、あなたたち」
「まあ、シンジとアタシにとっては毎年のことだからね。
いまさらって所もあるし」
そこへレイがにゅーっと首を突っ込む。
「あらお熱い。”シンジとアタシにとっては”ですって。
聞きましたか洞木さん」
「ええ聞きましたとも綾波さん」
「それはもういいってば・・・・」
*
そして夜。
コンフォート17マンション、惣流家に、アスカの
バースデイパーティーの招待客(といってもいつものメンバーだが)
が集まってきた。
「あれ、アスカ。碇君は?」
シンジだけ来ていないのに気づき、ヒカリが首を傾げる。
「ああ、あいつ?少し遅れて来るから先に始めてくれってさ」
「いいの?」
「いいの。毎年のことなんだから」
「え?」
「な、なんでもないなんでもない!ほらほら、行きましょヒカリ」
*
ハッピーバースデイを歌い終わり、アスカがケーキの
上のロウソクの火を一息で吹き消したところで、ちょうど
シンジがやって来た。
「ごめんごめん」
「お、これで全員そろったな。
では不肖、相田ケンスケ!
乾杯の音頭を取らさせていただきます!」
とケンスケが立ち上がろうとしたところへ、
「「「「「かんぱーい」」」」」
「っておい、俺がやるっつってんのに!!」
哀れなり。
それから6人はゲーム、カラオケなどで大いに
盛り上がってひととおり宴を楽しんだ。
「そろそろアスカにプレゼントを渡したいと思いまーす」
レイが手を挙げて、持参していた包みを出した。
それにあわせて、他の者も次々とプレゼントを渡していく。
「みんな・・・ありがと!」
さすがのアスカも、この時は心の底から素直な笑顔と
感謝の言葉を友人たちに返した。
そのとき、ふとトウジがあることに気づいた。
「ん、センセ。自分、プレゼント渡さんかったんか」
「え?ああ、僕はいいんだ」
「なんや、まさかもう渡したんかいな。ふたりっきりの時に?」
「イヤーンな感じ」
「よかったわね、アスカ」
「むむぅ。やるわね、アスカ」
口々に言う友人たちに、アスカがパタパタ手をふる。
「ちがうちがう!シンジには何ももらってないわよ!」
「照れなくてもいいのよ、アスカ」
「ヒカリ、そのやけに優しい目は何なのよ・・・」
*
パーティーもお開きになり、惣流家のリビングには
後かたづけを終えてリビングに座り込んでいるアスカとシンジがいた。
「あー疲れた。そのぶん楽しかったけどね」
「そうねー」
「でも結局、僕がみんなより先にプレゼントを渡したと
誤解されたまんまだったね」
「・・・プレゼントどころか、実はまだ朝から一度も
『おめでとう』すら言ってもらってないって知ったら、
ヒカリたちどう思ったかしら」
「ははは・・・・」
シンジは笑うと、立ち上がった。
「アスカ。僕は家に戻るよ」
「うん。こういうとき、お隣同士って便利ね」
「そうだね。じゃあ、また」
「またね」
アスカが、シンジを玄関口で送り出す。
自室に戻るとアスカは大きく伸びをした。
これで今日一日の予定はすべて終えたことになる。
「さーて。あとはお風呂入って寝る準備するだけか」
*
2時間後、碇家。
「こんなもんかな・・・・・」
部屋の中でシンジが一人呟いたところへ、
とんとん、とふすまを外から叩く音がした。
「シンジ」
「どうぞ」
すー。ぱたん。
入ってきたのは、パジャマ姿のアスカだった。
手にはシャンペンの瓶とグラスを持っている。
「アスカ、もう今日は他にすることはない?」
「だいじょーぶ!」
ウィンクするアスカ。
「よーし。じゃあ、はじめようか」
「うん!」
ステレオから、緩やかなジャズの調べが流れ始める。
ふたりは小さなケーキを切り分けて食べた。
シャンパンを注ぎ、乾杯。
「ハッピーバースデイ。誕生日おめでとう、アスカ」
「ありがと、シンジ」
シンジからもらったプレゼントの包みをしっかり
胸に抱きながら、アスカが嬉しそうに言う。
「やっぱり、こうでなくちゃ」
アスカの顔が赤いのは酒のせいだけではないだろう。
「一番最後が一番記憶に残るもん。ね、シンジ」
シンジが、くすっと笑った。
「アスカ、お弁当のおかずは好物を後に回すタイプなんじゃない?」
アスカが笑顔を見せる。
シンジのための、とっておきの笑顔。
「そう!アタシはね、メインを最後に持ってくるのが好きなのよ!」
こうしてシンジの部屋では、毎年二人きりのささやかな
誕生日祝いが催されるのだった。
第3新東京の女王様
2016年、12月4日。
ジオフロント、旧ネルフ本部跡地。
「会場にお集まりのみなさん」
と、スポットライトを浴びつつ、台上のアスカ様はマイク片手に
言いました。
「本日はアタシ、第3新東京の女王こと惣流・アスカ=ラングレーの
生誕記念パーティーにご来場いただきありがとうございまーす!!」
パン!
パンパン!
盛大に鳴り響くクラッカー。舞い踊る紙吹雪。
おおおおおおおおおおおおお!!
だだっぴろい会場に、けっこうな数の客がひしめきあっています。
ほとんどはチルドレンの戦いを影に日向に支えてきたネルフ
職員たちですが、一般からの招待客も混じっているようです。
なにやら一部の女性職員に異様な熱気があるようですが、そのわけは・・・?
アスカ様から司会を引き継いだミサトさんがビール入りの
大ジョッキを携えながら会の説明を始めます。
「さて、このパーティーでは余興として有志諸君に芸を
披露してもらい、アスカがそれを評価していく事になっています」
きらり、と瞳が輝くミサトさん。
「そして!!最高得点を取った者に与えられる報酬がこれだぁぁ!! 」
カッ!
ライトがミサトさんの背後を照らします。
ゴゴゴゴゴゴ・・・・・
床が開き、一本の円柱がせり上がってきます。
よく見るとそこにひとりの少年が拘束された上でくくりつけられていました。
線の細い身体と整った中性的な顔立ち。
憂えた表情がよく似合います。
「・・・・しくしくしく。何で僕がこんな目に・・・・・・」
それは世が世なら平凡な中学二年生として
くらしているはずの男の子、碇シンジ君でした。
「というわけで優勝者にはサードチルドレンを
”家事ならお任せ・エプロン奴隷シンジくん”として自由に
使用する権限が譲与されます!!
いまならお風呂上がりのマッサージサービス付き!!
どうですかお客さぁぁん!?」
っきゃああああああああ!!(はあと)
ネルフ職員のおねーさまがたの間で羨望の的である
シンジ君との家庭生活。
まさに禁断の青い果実。今が食べ頃。ヘタすりゃ犯罪。
それがいま、手に届くところにチャンスが来ているのです。
みんな、燃えてます。
「いや、だから僕の人権は・・・?」
するとミサトさんが振り向き、慈母のごとき
微笑みでシンジ君に言いました。
「なし」
がびーん。
「さあ、大会は自由参加!
誰でもいいから我こそはと思うなら即、申し込んでくださぁい!」
さてさて、こうしてシンジ君争奪一発芸大会が
開催されることとなりました。
たいていの選手はアスカ様の
「ダメじゃん」
の一言で沈没してしまいましたが、中には
とんでもない方々もいるようで・・・。
「26番、伊吹マヤ!ピンクの怪獣の着ぐるみを装着して火を吹きます!!」
がおー。
ボッッボッボボボボ!!
ドッカーン!!(ガス爆発、負傷者多数)
「いかがでしょおアスカ様!?」
「(なんかどこかのパクリっぽい気もするけど)その意気やよし!300点!」
おおおおおおおお!?
それまで10点とか20点などしか出ていなかったので、
いきなりの高得点に皆驚きます。
「せんぱーーい!やりましたーー♪」
「よ、よかったわねマヤ・・・・」
リツコさんは背後に隠していたガメラの着ぐるみをこっそり
放り捨てながらマヤさんをほめました。
(ネタがかぶってたか・・・・しょうがない。アレをやるしかなさそうね)
「では27番、赤木リツコ!金髪を利用してフランス人形の物真似をします!!」
リツコさんはおもむろに青いカラーコンタクトを目につけると、
フリルのついたドレスを着てカクカクと不自然な動作で動き出しました。
「ワタシふらんすノオニンギョサンデース」
「おー!(パチパチ)」
楽しそうに拍手するアスカ様。意外とお気に召したようです。
「でも2点」
「低っ!」
リツコさん、残念でした。
「51番、綾波レイ・・・・・特にこれといった芸もないので・・・・・うたいます」
マイクを手に取ると、頬を赤らめつつ、ぽそぽそと恥ずかしげに
歌い出すレイちゃん。
「インドの山奥でぇー・・・修行したぁー・・・」
「レ、レインボーマン!?」
度肝を抜かれるアスカ様。
思わず審査員席から立ち上がり、涙ながらに
レイちゃんに駆け寄って抱きつきます。
「ファースト・・・・アンタいかしてるわ・・・・580点よ」
「うれしい・・・・・」
(私より高いーーー!?)
マヤちょんショック。
「えっと・・・・52番、山岸マユミです。あの・・・卓球を・・・・」
「卓球がどうしたって?」
ストレートに聞き返すアスカ様。マユミちゃんは萎縮してます。
「あの・・・・その・・・・・卓球・・・・・・・ううっ!ごめんなさいごめんなさい!!」
だだっ!
「山岸マユミ、出場放棄・・・と」
「はーい!53番、霧島マナ!シンジを誘惑しちゃいます♪」
すかさず携帯電話を取り出すアスカ様。
「(トゥルルルル、ピッ)
もしもし保安部?黒服を5名ほど回してちょうだい」
ずるずるずる・・・・・・・・
「あいしゃるりたーーーん・・・・」
次々と脱落していく挑戦者たちを、冷静な目で
見ている二人の人物がありました。
もうすぐ出番が回ってくるミサトさんと、早くも失格になった
リツコさんです。
「・・・ねえ、リツコ。アスカったらなに考えてるのかしら」
「確かにそれは疑問だったのよ。
誰が優勝するにせよアスカには何のメリットもないはずなのに・・・・」
「誰にも勝たせる気がないのかもね。
評価の基準もあいまいみたいだし」
「じゃ、やめとく?ミサトは」
「ご冗談。
シンちゃんの料理その他を独り占めできるチャンスなら、
ゼロが9つ並んでる低確率でもチャレンジする価値はあるってものよ」
『では次!葛城三佐どうぞ!』
「出番ね」
ざっ!
きりりと表情を引き締めて歩き出すミサトさん。
・・・の首根っこをリツコさんが捕まえます。
ぐいっ。
「ミサト、一つ聞きたいんだけど・・・・そのヘソ出しルックは何?
そして右手に持ってるマジックペンは・・・・」
「決まってるじゃない」
ミサトさんはニヤリと不敵に笑いました。
「79番、葛城ミサト!腹踊りやります!」
かーん!(鐘ひとつ)
「ねえ、鈴原は参加しないの?優勝したら碇君の料理が食べ放題なんだよ」
「(もぐもぐ)ん?いや、ワシはイインチョの弁当をアテにしとるさかいな」
「・・・・・・(ぽっ)」
「あのー・・・誰か僕を助けてよ・・・・・」BYシンジ
次の挑戦者が舞台に上がりました。
「96番、碇ユイ!」
思わずアスカ様があわてます。
「お、お母様!?」
(あんたもかーーー!!)byシンジ
「ハァイ、アスカちゃん。お誕生日おめでとう。
私も参加させてもらっていいかしら?
何しろサルベージされるまで12年間もエヴァの中で眠ってたでしょ?
シンジとゆっくり過ごす時間がほしかったのよね」
「あの・・・碇(元)司令は?」
「今、ヨコハマまでコーヒー豆の買い出しに行ってもらってるわ」
「はあ・・・・そうですか」
「じゃあ、私の芸をお見せしまーす・・・・よいしょっと」
どさっ。
びちゃ!
からん・・からん・・・
ごん!
きりきりきり・・・・ぽん!
ぐちゃり!
(以下、自主規制)
しーーーん・・・・。
会場は水を打ったように静まり返っています。
「・・・・・・・・」
「・・・・?どうかしら、アスカちゃん」
アスカ様はボケーっと虚ろな瞳で天井を見上げていました。
「せ・・・・1000点」
「うふふ。ありがと」
恐るべし、碇ユイさん。一体何をやらかしたのか・・・。
「108番、渚カヲル。シンジ君と一緒にお風呂に入り・・・・・」
「「ポジトロンライフル」」byアスカ&レイ
ちゅどーーーん!!
「好きってことさあああぁぁぁぁぁ・・・・」
爆煙の中から天高く吹っ飛ばされていくカヲルくん。
その姿が空に向かってフェードアウトしたあと、
一瞬だけキラン!と光がまたたきました。
さて、それから数十分後。
そろそろめぼしい出場者が芸を出し終わったようです。
「ではこれからアスカ様に優勝者の発表を・・・・」
「ちょっとまったぁぁぁぁぁ!!」
会場の隅っこから大きな声が聞こえてきました。
「「「「「「!?」」」」」
しゅたっ!(ジャンプ)
たたた!(ダッシュ)
びしぃ!(ポーズ)
「魔法少女!ミラクルアスカ登場!」
そこで会場のみんなが目にしたものは、
どーみてもアスカ様にしか思えない女の子が、
どーみてもただのプラグスーツを身にまとい、
どーみてもゼーレの議長からガメてきたように
思われるサンバイザーをかけて、
ちょっぴり照れくさそうにポーズを取っている姿でした。
ちなみに今までアスカ様が座っていた審査員席には、
身代わりのつもりなのか、おサルのヌイグルミがちょこんと
置かれています。
「ア・・・アスカ・・・?」
柱の男ことシンジ君があきれたように名を呼ぶと、
謎の少女はびし!と指をつきつけてきました。
「ちゃう!うちは魔法少女ミラクルアスカやゆーてるやろ!」
「いや、そんな無理に関西弁使ってキャラ作っても・・・・」
「こほん・・・とにかく。うちもこの一発芸大会、参加させてもらうで」
そういうとミラクルアスカは手に持っていたでっかい鉄アレイ(30キロ)
を
ぶんぶん振り回し、呪文を唱えました。
「えくせる・わーど・いちたろー!ぶらいんどたっちで美少女になーれー!!」
ピカピカピカ!!(閃光エフェクト。お子さまはご注意)
しゅううううう!
ミラクルアスカが超高速で着替えをして、アスカ様に変身します。
そして審査員席に駆け戻ると、
「はっ!?ミラクルアスカが消えてしまったわ!
すごい芸よミラクルアスカ!あなたが優勝ね!
でも実はミラクルアスカの正体はアタシだったの!
つまり優勝はアタシってことね」(全文、わざとらしく棒読み)
「そういうオチかぁぁぁい!」
こうして、すさまじい非難、つっこみの嵐も意に介さず、
アスカ様はシンジ君の公的な使用権を手に入れたのでした。
*
夜、葛城家。
ミサトさんはパーティー会場の後かたづけに大忙しで
まだ帰っていません。
てなわけでアスカ様はシンジ君と二人きりで上機嫌です。
「ふっふっふーん。シンジ、誕生日祝いと優勝祝いよ!ハンバーグ作ってね♪」
「はいはい」
パーティーでも結構食べてたのに、よく入るなあ・・・などと
思いつつ、台所に立つシンジ君。
アスカ様が「シンジが作った料理じゃないと食べた気
がしないのよね」なんて可愛いことを考えているとは
つゆ知らず、少年はそつのない動きで料理を進めていきます。
しばらくして、まもなく料理ができあがろうかという時に、
ふとシンジ君が言いました。
「でもさあ、アスカ」
「なに?」
「あの大会って、意味無かったんじゃない?
これじゃ、いつもと変わらないじゃないか」
「それでいいのよ。
アレは、みんなにシンジはアタシのものだって
分からせたかっただけなんだから」
アスカ様はそういってから、少しすねたような、
そして不安そうな顔をしました。
「あのさ・・・・アンタは、アタシの言うこと聞くのはイヤ?」
「んー・・・」
食器を卓上に並べるシンジ君。
「イヤじゃないよ」
答えてから、シンジ君は冷蔵庫から手作りのケーキを
取り出してアスカ様の前に置きました。
「まあ、ときどき無茶なことされるときは困るけど・・・。
でもけっきょく、アスカが喜んでくれるのを見るのは僕も嬉しいから」
丁寧に心を込めて作ってあるのがよく分かるケーキを目にした
アスカ様が浮かべた表情は、シンジ君を嬉しくさせてくれるものでした。
「誕生日おめでとう、アスカ。
これからの一年も、今日みたいにみんなでにぎやかに
過ごせるといいね」
「えへへ。・・・ありがと、シンジ」
こんな風にして、第3新東京の女王様とそのお供の少年、
そして彼らを取り巻く人々の日々はさわがしく、そして楽しく
流れていくのでした。
END
<あとがき>
皆さんこんにちは、みやもです。
1つのテーマを使った3つの世界の物語は
いかがでしたでしょうか。
ひとつでも貴方のお好みのものがあれば嬉しいです。
ちょっとした思いつきなんですが、選択肢を活用すれば
ゲームSSみたいなものを書けますね。
気力があれば(笑)、いつかやってみようかと思います。
「焼き加減はお好みで・・・」というタイトルは英国の作家
ジェフリー・アーチャー
の短編小説からいただきました。
では、今回はこれにて。
” 旅籠みやも ”の連載『子供たちの沈黙』のほうもよろしくお願いします。
みやもさん、本当にありがとうございました!!
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miyamo@pop07.odn.ne.jp
までお願いします。