written by Moonstone
深海を思わせる蒼の空間にカーテンの隙間から白い光が滲む。
仄かな夜のコントラストを漂わせる静寂の海の底で、真綿の覆いの中に身を寄せ合う二人の影。
女が瞼の封印を解く。ゆっくりと開かれる瞼の下から、空間の蒼とは異なる蒼の瞳が現れる。
淡い夜の白光を受けて微かに輝く瞳が、傍らで眠る男の顔に向けられる。
女は男の肩口から頭を起こす。同時に持ち上がる栗色の髪が夜露の輝きを産む。
真綿の覆いから女の白い肩が覗く。光が僅かに滲むだけの空間でその白さが鮮やかに浮き上がる。
女が体を起こすに連れて、徐々に背中の辺りまでが蒼の空間に浮かぶ。
その間も、女の瞳は安らかな寝息を立てる男の顔だけを映す。
厚味を増したとはいえ、まだ華奢さを微かに残す男の胸の上に置かれた女の手が、一定間隔の拍子を感
じ取る。
男が生きている確かな証。手で、頬で、胸で何度も感じ取って来た心を映すリズム。
女だけが感じ取ることを許された鼓動を、女は掌全てで受け止める。
やがて、女の手が男の胸から向こう側の脇の下へとずれていく。
女は真綿の覆いの代わりに、自分の身体を男の上に被せていく。
両手を男の両脇に置き、女は男の胸に頬を摺り寄せて瞼を閉じる。
眠っていた時以上の心地良さが満面に浮かぶ。
暫く男の鼓動と温もりを頬全体で感じ取った後、女は男の胸から顔を上げる。
両腕にじわじわと力が篭り、蒼の空間に白く浮き彫りにされた女の身体をゆっくりと持ち上げる。
女の栗色の髪が男の頬や胸に触れる。滑らかな感触を夢心地で感じたのか、男の表情が僅かに緩む。
・・・Do you love me ?・・・
自分だけが見ることを許された男の寝顔を上から見詰める女が、空間に溶け込むような声で呟く。
幾度となく口にした言葉。肩を寄せ合う時にも、唇を重ね合わせる時にも、愛し合う時にも口にする言葉
。
だが、その言葉は使い古されることなく、色褪せることなく、女の口を衝いて出る。
・・・Do you love me ?・・・
男の答えがたった一つ、そして分かりきったものだと知っていても、女は男の答えを求める。
幾度となく返された答え。だが、女はそれをひたすら求め続ける。
かつて女にとって、卓越した能力と類希な美貌に寄せられる賞賛こそが全てだった。
しかしあの日、それが愛を求める心の渇きを癒そうとするが故のはかない抵抗であることを思い知らされ
た。
全ての賞賛を失うことと引き替えに、女は自らを欺き、拒み続けて来た有りの侭の自分を受け入れた。
それは頑なに否定して心の片隅に追いやって来た男への愛を、自分の心に受け入れた瞬間でもあった。
賞賛を求めるために常に走り続けて来た女は、がむしゃらに走ることを止めた。
ひたすら走っていた時には見えなかったものが、立ち止まることを知った時に見えるようになった。
有りの侭を受け入れた女は、注がれ続けた男の愛を有りの侭に受け入れた。
二人の愛の形が大きな一線を超えることも、程なく訪れた。来るべくして来た至福の瞬間。
かつて女が、男と迎えることなど想像だにしなかった、いや、想像を否定した瞬間。
二人はその瞬間を何度も迎えた。今の蒼の空間を支配する静寂も、二人が愛し合った瞬間の残像。
その時も、男の口から何度となく、女が望むたった一つの分かりきった答えが返された。
だが、女は幾度となく口にした疑問の形を紡ぎ出す。
愛されていることを、必要とされていることを確かめるために。
・・・Do you love me ?・・・
切ない求めに応えるように、男が瞼を開く。吸い込まれるような黒い瞳に女の顔が映る。
女は男の愛を確かめる。目覚めた今だからこそ返されたい、たった一つの答えを求めて。
・・・Do you love me ?・・・
男の手が女の頬に触れる。感触を確かめるように動く手の心地良さに、女は瞼を閉じる。
男の口がゆっくりと、僅かに動く。女が求めるたった一つの答えを捧げるために。
・・・I love only you・・・
空間の蒼に溶け込みそうな声が女の耳に届く。女の顔に微笑みが浮かぶ。
分かりきった、求めていた答えが返された満足感が、女の心を優しく包み込む。
女は身体を支えていた両腕を静かに折り畳み、男との距離を縮める。
相手の顔しか瞳に映らないほどの、静かな呼吸が分かるほどの距離で、二人は言葉を交わす。
起きてたんでしょ? あ、知ってたんだ。
わからない筈ないでしょ。で、何時から? 僕の肩から身体を起こした時かな・・・?
それじゃ最初からじゃないの。 そういうことに・・・なるね。
悪い男ね。 どうして?
あたしが何を求めてるか知ってるくせに・・・ ・・・知ってるよ・・・。
寝たふりなんかしてるから・・・。 ・・・ごめん。
かつて女が内罰的と攻撃した男の口癖も、今の女にはむしろ嬉しい。
他人を傷付けないようにと過敏になるあまり、背負う十字架に全ての罪を刻もうとする男の気持ち。
それが自分と同じ様に、幼い日に愛に恵まれなかった故の抵抗であることを、今の女は理解できる。
ただその抵抗が向けられる矛先が自分以外か自分自身か、それだけの違い。
男は、自分の顔がいっぱいに映る女の瞳を見詰める。女は、自分の頬に添えられた男の手に頬擦りをす
る。
唇の動きが織り成す二人の声が、交互に蒼の空間に消え入る。
僕も聞きたいな・・・。 何を・・・?
君が僕に何度も投げかけた疑問の答え・・・。 そんな分かりきったこと聞きたいの・・・?
分かりきってても聞きたいな・・・。 どうして・・・?
理由は君と同じだよ・・・。 全部分かってるのね・・・。
男は微笑みを浮かべる。この微笑みに女は心ならずも見とれてしまう。
愛を確かめる言葉を、今度は男が口にする。二人にしか聞こえない心の声と共に。
・・・Do you love me ?・・・
女も微笑みを浮かべる。賞賛で心の渇きを厭そうとしていた時には滅多に見せなかった表情。
女は瞼を閉じながら、さらに男との距離を縮める。男もそれに催促されるように瞼を閉じる。
女の口から男が求めるたった一つの答えが返される。
・・・I love only you・・・
一点で触れ合い、徐々に触れ合う面積を広げていく唇が、同時に愛の言葉を生み出す。
相手の唇を通してのみ伝わる、心で感じ取る二人だけの言葉で。
・・・All of you are mine・・・
・・・All of me are yours・・・
筆者後書き
どうも。Moonstoneです。今話題沸騰の(^^)同名CGをモチーフに書き上げた短編SSです。
本文中には個人名は出て来ませんが、もろにLASだということはお分かり頂けるでしょう。
CGをご覧の後で読まれるとより一層転がれることと思います。(^^;)。
しかし・・・書いててもの凄く照れました。読み返しても身体がむず痒い(^^;)。
まさかこんな劇甘のシーンを書くなんて、ちょっと前までは思いもしなかったのに・・・。
書くってことは、変わるってこと・・・なのかな?(^^;)
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