written by Moonstone
週末、月末、給料日前。この時は銀行が大賑わいになる。必然的に。
さらに今月は、これら3つが見事に重なって「満員御礼」状態。
おまけに昼休みの時間となれば、社会人にとって事実上最後の振り込みのチャンスとなる。
刻一刻と迫る昼休み終了を前にしてか、キャッシュコーナーに並ぶ行列も半ば殺気立っている。
「あらぁ、おかしいわねぇ。これ、壊れてるんじゃない?(-o-)」
こういう時に限って操作を間違えて人の流れを滞らせ、さらに機械のせいにする不届き者は居る。
背後の人々から殺意すら篭った視線が向けられるが、こういう人物はそんな事お構い無しだ。
そんな刺々しい空気の中で、のんびりと順番を待つ奇特な−もとい、大らかな人もいる。伊吹マヤ、そ
の人だ。
何故平日に、それも切羽詰まった昼休みの時間帯にこれほどのんびりしていられるのか?
答えは簡単。彼女はこういう性格なのだ。たとえ昼休みを思いっきり過ぎてNervに戻っても、
「銀行が凄く混んでたんです。てへっ(^^)。」と素直に言うだけだ。
これだけでリツコは納得する。というより、納得せざるをえないのだが。
マヤは普段着姿だ。本来なら「通勤着」兼「正装」であるところの怪獣の着ぐるみ姿なのだが、
以前重大な局面に立たされたことを踏まえて、普段着にしている。その重大な局面とは・・・。
「ああっ!コーナーに入れない!パネルの変なところ押しちゃう!(ToT)」
「・・・お客様。失礼ですが、その格好では無理ではないかと・・・(--;)。」
推して知るべし。経験から学んだマヤ。また一歩成長したようだ。
しかし、冷房がきつい。通気性、保温性に優れた「怪獣」なら問題無いのだが、さすがに今はこたえる。
底冷えするような寒さに、マヤの頭にトイレの画像が浮かぶ。
順番は・・・まだ先。後ろは・・・随分並んでる。トイレは・・・今行きたい。では決定。
マヤは行列を離脱してお手洗いへ急ぐ。こういう時の決断の速さはMAGIもびっくりだ。
遅れることは全く考慮のうちに入っていないのは御愛敬。
マヤがいなくなった直後、サングラスに黒の覆面、黒の革ジャンと暑苦しい格好の人達が入って来る。
我慢大会か?それともこの人達の普段着か?
「静かにしろ!俺たちゃ強盗だぁ!」
・・・そういうことでしたか。
警官、報道陣、野次馬。事件現場の必需品・・・というわけではないが、この3つが揃った。
ライフルや拳銃を構えた警官が、パトカーや物陰から狙撃の命令に備えて待機している。
「私は今、強盗立てこもり事件が発生した銀行の前に来ております。」
「犯人は職員と客5、60名程を人質として立てこもっています。」
リポーターの口はフル回転。背後でピースサインをするお馬鹿な人達も健在だ。
「犯人に告ぐ。君達は完全に包囲されている。速やかに武器を捨てて・・・。」
「うるせぇ!」
警官の決まり文句が終わるよりも早く、犯人が窓ガラスの隙間からライフルをぶっ放す。せっかちな人
達だ。
びしっ、びしっ、とパトカーや地面に弾が当たる。野次馬が悲鳴とも歓声ともつかない声を上げる。
「こっちにゃ人質が居るんだ!馬鹿なことしやがったら、一人ずつぶっ殺してくぞ!(`o'#)」
馬鹿なことしてるのはあんた達だって。
とにかく、事態はかなり切迫している。これは確かだ。
しかし、そんな時にものんびりできる変わった、もとい、肝の座った人もいる。
「さぁて。早く並ばないと遅れちゃう。」
トイレに行っていて強盗が来たことを知らないこの人、伊吹マヤだ。
手を洗ってハンカチで拭いて、ドアを開けようとした時、パン、パンという音が聞こえて来る。
そーっとドアを開けて外を窺うマヤ。すると、ライフルを手にうろうろするおっかない人達が見える。
銀行員や客が壁際に座らされて、涙目で脅えている。と、いうことは・・・。
「こ、これが噂に聞いた銀行強盗ってやつ?(^^;)」
どんな噂だよ。
マヤはそーっとドアを閉めて、事態打開に向けておつむをフル回転させる。
ええっと・・・まず・・・こういうときはまず頭を低くして、濡れたハンカチで
口を抑えて煙を吸わないように・・・これは火事の時か。間違えちゃった。てへっ(^^)。
他には・・・ここに隠れてる・・・。うーん、お昼まだだしなぁ。早く出たいしなぁ。
人質に立候補して、差し入れを分けてもらおうかなぁ。うん、それもいいかな?
・・・普段通りだ。やっぱりマヤは大物なのかもしれない。
ふと、マヤは床に置いておいた鞄に目をやる。普段から肌身離さず持っている大切なもの。
マヤは鞄を抱きかかえ、コクンと頷く。その目がマジになっている。
時間だけがじりじりと過ぎていく。警官と強盗達は睨み合いを続けている。
犯人は車と飛行機を用意するよう要求している。海外へ逃げてしまうつもりらしい。
警察は検討を始めたが、要求を受け入れるべきかどうかでかなり悩んでいる。
海外へ逃げられると厄介だ。だが、強盗達は非常に興奮していて、人質に危険が及びかねない。
そうこうしているうちに、強盗達の苛立ちは募って来る。
「早くしろ!用意するのかしねぇのかよぉ!(`o'#)」
「ま、待て!今検討中だ!」
「人質がどうなってもいいのかぁ!」
一人がライフルをあちこちに発砲する。警官や報道陣がばっと逃げ出す。
「畜生!イライらするぜ!」
「焦るな。こっちには人質が居るんだ。」
「持久戦は不利だぜ。夜討ち朝駆けでポリが突っ込んで来る可能性が高いからな。」
「詳しいな、お前。」
「サスペンスドラマでやってたんだ。」
空気が冷たいのは冷房のせいだけではない。絶対に。
時計の針はとっくに昼休みを過ぎている。昼食を食べていない銀行員達も空腹が増して来る。
強盗達は空腹に加えて要求が受け入れられないことで苛立ちがさらに増して来る。
「ええーい!こうなりゃ見せしめだ!一人ぶっ殺してやる!」
苛立ちが爆発した一人が叫ぶ。人質が自分が生け贄にされるのではないかとおののく。
ライフルを構えた強盗は女性行員の髪を鷲掴みにして無理矢理立たせる。
「おら!とっとと立ちやがれ!」
「い、いやーっ!」
泣き叫ぶ行員。助けたいのは山々だが、ライフルの的になりたくはない。
強盗はライフルを行員の後ろに突き立て、狙撃の盾にするように先に歩かせて外へ向かう。
報道陣や警官、そして野次馬達の目前で射殺するつもりだろう。目が血走っている。
そのときである。
「止めなさい!」
奥の方から諌める声がする。
強盗達はライフルの銃口と共に声の方を向く。
忍び込んできた警察か?そう思って見てみると・・・。
・・・ピンクのずんぐりした可愛い「怪獣」−勿論マヤだった。
空気がやっぱり冷たい。だが、冷房のせいだけではない。絶対だ(強調)。
強盗達は勿論、人質の皆さんも凍り付いてしまった。
「・・・な、何で反応がないの?(^^;)」
自分の予想と違って戸惑うマヤ。強盗や人質を戸惑わせてはいるが。
どうやらカッコ良く登場したつもりだったらしい。
怪獣マヤは、一歩一歩奥から出て来る。強盗達は銃口を構えてはいるが、引き金にかかった指が動かない。
目の前の光景を未だに信じられず、どうするべきか混乱している。無理もない。
強盗達と怪獣マヤが向かい合う。遊園地のアトラクションと見間違う光景だ。
「怪獣だぁ、怪獣だぁ!」
お子様達が歓声を上げる。怪獣の可愛らしさが恐怖を上回ったらしい。
その歓声に強盗達も我に帰る。
「て、てめえ!何処に隠れてやがった!」
「隠れてたなんて失礼ですね。冷房が冷え過ぎてお手洗いに行ってたんです・・・って、女の子に
何言わせるんですかぁ!もう!デリカシーがないですね!プンプン!(-o-#)」
「・・・自分で言ったくせに・・・。(--;)」
「と、とにかく!隠れてたんならそのまま隠れてりゃ良かったものを。こいつの的になりたいらしいな。」
「だから、隠れてなんかいないって言ってるじゃないですか!物分かりが悪い人達ですね!(-o-#)」
・・・そういう問題ではないだろう。こんな時にも「オレ流」ならぬ「マヤ流」は健在だ。
だが、強盗達は空腹と滞る交渉、さらに訳の分からない怪獣との押し問答が加わって苛立ち倍増。
固まった指が再び引き金にしっかりとかかる。
「この野郎!ふざけやがって!」
「ぶっ殺してやる!」
強盗達は一斉に引き金を引く。銃声が響き、怪獣に弾丸が次々と食い込む。
マヤの動きが止まる。そのまま倒れてしまうのか?
いや、倒れる代わりに怪獣は短い指のついた手を振る。何の意味だろう?もしかして「サヨナラ」か?
「ちっちっちっ。この怪獣にライフルは効きませんよぉ。」
・・・どうやら、指を横に振ったつもりが、着ぐるみの構造上、手ごと振ってしまったらしい。
「これはいざという時のために、特別な防弾仕様になっているのです。」
「な、何でただの着ぐるみにそんなものが・・・(--;)。」
「ただの着ぐるみじゃないですよ!これは私の正装なんですから!プンプン!(-o-#)」
強盗達は物凄く嫌な予感を感じる。はっきり言って、警官隊より厄介な相手だ。
調子を狂わせる話し方−マヤにとってはこれが普通なのだが−、妙で場違いな格好にはライフルも効かない。
警官隊相手に立てこもる自分達。脅える人質達。ドラマで見て想像していた強盗のイメージとかなり違う。
もしかしたら、という悪い予感が強盗達の頭を過ぎる。
マヤは腰に手を当てて「えっへん」とやってみせる。アスカお得意(?)のポーズだ。
今度は強盗達が脅える。何をするのか全く予測できないだけにかなり怖い。
「街の平和を乱す強盗さん達!お仕置きですよ!」
びしっと強盗達を指差した−でも手ごと前に突き出しただけ−マヤ。あまり決まらない。
そんな事にはお構いなく−多分気付いていない−、怪獣マヤは強盗達に宣戦布告する。
「ち、畜生!」
強盗達は苦し紛れにライフルをマヤ目掛けて乱射する。びしっびしっとピンクの胴体に弾丸が食い込む。
だが、怪獣は怯むことなく突進を始める。強盗達は思わず悲鳴を上げる。
「ひ、ひいっ!!(ToT)」
「もう!ライフルなんか撃ったら危ないじゃないですか!(-o-#)」
怪獣が強盗に向って炎を吐く。本物だ。それもかなり勢いが強い。
避けそこなった一人が直撃を食らって、髪をアフロにしてのた打ち回る。服にも火が付いて文字どおり火だるま。
「ひ、火吐くなんて反則だぁ!(ToT)」
「ふっふっふっ。この怪獣はちゃぁんと火が吐けるんですからね。」
「う、嘘だろ〜?!(ToT)」
「嘘じゃないです!さっき目の前で吐いたじゃないですか!現実は受け入れなきゃ駄目です!」
受け入れたくない現実というものもあるのだよ。
怪獣はくるりと向きを変え、辛うじて火を避けた残りの強盗を追撃する。
強盗達はライフルを撃つことも忘れてうろたえるばかり。
「こ、こ、こっち来ないで〜!(ToT)」
「行きますよ〜!(^o^)」
何故か笑顔のマヤがぽーんとジャンプする。
腰が抜けた強盗の一人にゆっくりと、ゆっくりと怪獣の丸い影が覆い被さる。
ぷちっ、といやーな音がする。笑顔の怪獣がひくひくと痙攣する強盗の上で身体を起こす。
残り一人−3人居たんです、はい−となった強盗は、動転してきょろきょろと辺りを見回すばかり。
短い手足で少々手間取ったが、怪獣はどうにか起き上がってその哀れな強盗を見る。
「さあ!大人しく降参するんです!」
「う、うるせえ!」
強盗は最後のあがきとばかりに、運悪く近くに居た人質の一人を捕まえて銃口を喉元に突きつける。
「こ、こいつがどうなってもいいのか?!」
「もう!困った人ですね!(-o-#)」
妙に正義感に燃える怪獣は、躊躇するどころか強盗に遠慮なく突進する。
予想外の反応に、強盗の頭は完全にパニくってしまう。
「えーい!」
ぼ〜っと怪獣が火を吐く。それもかなりの至近距離。避けようにも避ける間もなく、直撃を食らう。
「ぐわ〜っ、あっちぃ〜!!(ToT)」
強盗は人質を突き飛ばして煙の挙がる顔面を抑えてもがき苦しむ。
怪獣マヤはライフルを蹴飛ばして安全を確保する。この辺はさすがにNerv職員。
「まったく!いけない人達ですね!悪いことする人達にはこうです!(-o-#)」
マヤは未だに苦しむ強盗に背を向ける。何をするのかと思いきや・・・。
ぺしっ、ぺしっ、ぺしっ。ひうっ、ひうっ、ひうっ。
尻尾で鞭打ちだ。お仕置きのつもりらしいが、愉快な光景だ。しかしよく出来た「正装」だ。
恐怖と緊張に脅えっぱなしだった人質にも、笑顔が戻る。お子様達はすっかり怪獣を気に入ったらしい。
怪獣に駆け寄ってそのピンクのふかふかした身体を触る。
「わーい!カッコイイ怪獣さんだぁ!(^o^)」
「強いんだぁ!凄い凄い!(^o^)」
怪獣はお仕置きを続けながら、子ども達の頭を撫で撫でする。マヤも子どもは結構好きな方だ。
何だか幼稚園の先生になった気分で、ちょっと嬉しい。
その時、外の方からどやどやと多くの足音が近付いて来る。
異変に気付いたのか、人質の一人が脱出して知らせたのか、警官隊が動き始めたようだ。
Nervは公にされるべきではない存在。ここでマヤが見つかればNerv職員であることが明るみに出るのは必至。
それはまずい。ここは裏口からでも脱出しなければ!
マヤはお仕置きを止めて、いそいそと奥の方へと向かう。
お子様達はあろうことかお気に入りの怪獣を追いかけて行く。
「わーい!追いかけっこだぁ!(^o^)」
「あーん!違うのよぉ!(ToT)」
追われる身になってしまった怪獣が奥へ消えた直後、警官隊が一斉に突入してきた。
「まったく、貴方って娘は・・・。(--;)」
「すみませ〜ん。ちょっと銀行が立て込んじゃってて。てへっ。(^^)」
子ども達を何とか振り切って、昼休みを大幅に過ぎてNervに戻ったマヤを迎えたのは、リツコの呆れ顔。
だが、マヤの屈託のない笑顔を見ると、どうしても真剣に怒る気になれない。
「・・・まあいいわ。今度からは気を付けなさいよ。」
「はい、先輩!(^o^)」
「お昼まだでしょ?遅くなったけど、お昼にしましょ。」
リツコはマヤと昼食を摂るつもりだったようだ。律義に待っていたのがリツコらしい。
二人は食堂へ向かう。昼時を過ぎた食堂は閑散としていて、空席を待つ必要はない。
食券を買ってカウンターへ向かい、残り僅かになった定食をトレイに移して向かい合って席に座る。
テレビが何やら騒々しい。殆どテレビを見ないリツコは多少不快に感じる。
だが、画面を見るうちに不快感は驚きと疑問へと変貌する。
「こちら現場です。白昼堂々と行われた銀行強盗は、不思議な幕切れを迎えました。」
「容疑者達は何れも口々に『ピンクの怪獣が襲ってきた』などと口走っているとのことです。」
「無事解放された人質の方々にインタビューしてみましたが、驚くべき答えが返ってきました。」
「驚きましたよ。いきなりピンクの可愛らしい怪獣が現れて、強盗達を一網打尽にしたんですから。」
「あの怪獣、ライフルをものともしなかったんですよ。火も吐いたし。」
「怪獣さん、凄くカッコ良かったよ!身体、ふかふかだったんだ!」
リツコの首がぎぎーっと軋みながらマヤの方を向く。マヤはどきっとした様子だ。
リツコは半目でマヤを見詰める。その眼光にマヤも焦る。
「・・・マヤ。もしかして・・・。(--;)」
「ま、まさか先輩。着ぐるみを携帯用のガスボンベとセットで持ち運べるように改造して、鞄に入れて
持ち歩いてたなんてこと、あるわけないですよ。(^^;)」
「・・・私が聞きたいのはそういうことじゃなくって・・・。(--;)」
「で、ですから、颯爽と着替えて登場して、強盗さん達をカッコ良くやっつけたけど、警察さんに見つかる前に
裏口から逃げてきたなんて、そんな事ありませんからね。(^^;)」
「・・・やっぱりね。(--;)」
「え?わ、私、何か言いました?結局銀行からお金下ろせなかったこと、言っちゃいました?
やだー、私ったら。こんな個人的なことを先輩に言っちゃうなんて!(*o*)」
「・・・も、もういいわ。(T_T)」
何時如何なる時にでも「自分らしさ」を忘れないマヤ。人生はきっと楽しいだろう。
その分リツコの苦労はまだまだ増えそうだ・・・。
はい、Moonstoneです。マヤちょんシリーズ第2弾は、前回あまり活躍の場がなかった(?)怪獣マヤに
文字どおり大暴れ(^^;)してもらいました。少しコミカルらしくなったでしょうか?
一応断っておきますが、この話はアメリカ版ゴジラを観て思い付いたわけではありません。さらに付け加
えると、
あのゴジラはT・レックスの使いまわしじゃないか?などと疑問に思ったからでもありません(^^;)。
つ、ついに出た。怪獣マヤちょん・・・・・。お、恐るべし・・・・・。
「きゅぽっ、きゅぽっ」って音が聞こえそうですぅ。(^^;
がおー!がおー!!(目の前を通り過ぎていくピンクの怪獣)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・見なかったことにしよう・・・・・・・・・・・・・・・・。
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