新世紀エヴァンゲリオン Side Story

マヤちゃん、ふぁいとぉ!

その5 伊吹マヤの素晴らしき研究

written by Moonstone

 その日は、朝から大雨だった。
マヤが「通勤着兼正装」と主張して止まないピンクの怪獣ではなく、普段着で出勤したのに始まり、
制服に着替えるや否や、自分の持ち場に直行し、てきぱきと仕事をこなしていく。
唖然呆然とマヤの「変貌」を見守るスタッフの中には、マヤが敬愛する赤木リツコも居る。
最初は「何か悪いものでも食べたのかしら?」などと訝ったりしたリツコだが、これまで・・・

先輩!キーボードが小さくて叩けません!
シンジ君達のために、LCLにドリンク剤を入れちゃいましたぁ(はぁと)。
マウスをクリックしてたら、「ファイルを消去しました」って表示されましたぁ!

・・・その他、星の数ほどの苦渋を味わわされてきた身には、実に待ちに待った「改心」といえる。
感極まったリツコは、両の目から涙を流して後輩の改心ぶりを見守る。
その隣で首を傾げていたミサトは、リツコを肘で軽く突ついて尋ねる。

「ちょっとリツコ。マヤに一体何をしたのよ?」
「何って・・・どういうこと?」
「昨日まであのピンクの怪獣で闊歩していたマヤが、一晩でああまで改心するなんて、絶対変よ。」
「きっと・・・マヤは私の気持ちを分かってくれたのよ。」(T_T)
「いや、そうじゃなくて、マヤを誘拐して「私好みにしてあげる(はぁと)」なんて呟きながら、自宅で改造手術をしたんじゃないの?」
「そんなことするわけないでしょ。」(--#)

 その会話を小耳に挟んだ職員は、「いや、赤木博士ならやりかねない」と思っていたりする。
赤木リツコ博士。普段の言動が想像できるというものだ(何ですって?! --#)。
そんな周囲の視線を気にすることなく、マヤは普段の数倍の速さで仕事をこなしていく。
迅速且つ適切な処理には、他のオペレーターは勿論、監督者のリツコが介入する余地はない。
 暫くして、プリントアウトされた書類の束をテーブルで揃えて、マヤはすくっと立ち上がり、リツコに歩み寄る。
リツコは思わず姿勢を正してマヤと向かい合う。そして周囲の面々は二人を遠巻きに見守る。
リツコは緊張を解そうと、軽く咳払いをして眼鏡を掛け直して尋ねる。

「マヤ、いえ、伊吹二尉。どうしたの?」
「本日分のデータ処理作成は終了しましたので、先輩のサーバーをお借りしてよろしいでしょうか?」
「私のサーバー?何に使うの?」
「空いた時間を自分の研究に使おうと思いまして・・・。」

 リツコは今、猛烈に感動している(^^;)。マヤのこの「改心」をどれだけ待ち望んだことか。
ピンクの怪獣のお腹に接着剤で張りつけられ、ビニール紐を巻き付けただけでビルからダイブさせられたこと。
寿司屋でレイに誤った知識を植え付け、さらにレイと組んでばあさん呼ばわりされたこと。
その他エトセトラ、エトセトラ。
数々の苦難の歴史が、この時を持って懐かしい思い出に変わろうとしていることに、リツコは感動を隠せない。
体を震わせむせび泣くリツコに、マヤは怪訝そうに尋ねる。

「あの・・・よろしいでしょうか?」
「え、ええ!勿論良いわよ!遠慮なく使ってちょうだい!」(ToT)
「ありがとうございます!じゃあ、早速!」(^o^)

 マヤは嬉しそうに管制室を走り出て行く。
その日を境に、Nerv全域に「伊吹二尉が赤木博士好みに改造手術された」「いや、性格を変える薬を飲まされたに違いない」など
様々な憶測や噂が飛び交うようになったのは言うまでもない。

そう、その日までは・・・


 マヤの謎の「改心」事件から早1週間。
自室で起動実験の整理とレポート執筆をしていたリツコは、コーヒーカップを片手に一息入れていた。
マヤがてきぱきと仕事をこなしてくれるお陰で、自分の仕事も順調すぎるほどに進む。
しかし、リツコは何処か物足りなさというか、言いようのない寂寥感を感じる。
「電車のドアに引っ掛かって遅刻しちゃいましたぁ。」とか言う訳でもない。
「碇司令と廊下でぶつかって、壁まで弾き飛ばしちゃいましたぁ。」とか言う訳でもない。
仕事はきちんとこなすし、模範を絵に描いたような行動に何等不満はない筈だ。
だが、どうしても心の片隅にこびり付いて離れないこの気持ちは何だろう?
殺伐としがちなこの職場に、そして自分に笑いを齎してくれる存在がいなくなった。
人懐こい笑顔ときゅっぽ、きゅっぽという足音で駆け寄って来る存在がいなくなった。
何だかんだと言いながら、自分はあの怪獣マヤが気に入っていたのではないか?

「・・・そんなこと・・・。」

 ある筈がない、という次の呟きは、リツコの口から出ることはない。
リツコは纏わり付く気持ちを振り払うかのように首を何度か横に振り、コーヒーカップを置く。
纏めた実験結果を保存しようと、サーバーに接続する。
数多くの規則正しい番号が付けられたフォルダに混じって、「maya」というフォルダがあるのに気付く。
どう考えてもマヤのフォルダだろう。
 そう言えば、とリツコはマヤの「研究」のことを考える。
何やらデータを入力したり、CADを使って描画したりしているのは知っている。
しかし、それが何の研究なのか、マヤに尋ねても「大事な研究です」としか教えてくれない。
備品を使う以上その使用申請に目を通している筈のゲンドウに尋ねても、「問題無い(-ー-)」としか答えない。
まあ、あの髭オヤジに聞くだけ無駄かもしれないが(^^;)、マヤが何を一生懸命研究しているのか、どうしても知りたい。
この時間、マヤは既に帰宅している。この部屋にそうそう来客はない。

マヤの上司として、部下の仕事状況を把握しておかなくては。
そう、把握しなきゃ駄目。マヤの全てを知るのは私の権利なんだから。

 ・・・何だか妙な理屈で自分の行動を正当化するリツコ。
そう思うが早いか、カーソルは既に問題のフォルダをダブルクリックしている。
すると、「これは秘密のフォルダで〜す。見たい場合はパスワードを入力してね(はぁと)」という
メッセージと共にパスワードの入力を要求して来る。 この辺りには、以前のマヤの雰囲気が残っている。
リツコは少し考えた後、もしかして、と思い付いたパスワードを入力する。

I_love_ritsuko

「オッケーで〜す」というメッセージと共に、下層のフォルダ群が表示される。
思わず苦笑いするリツコ。ちょっとほっとしている自分に気付く。
 フォルダは「spec」「data」「drawing」というネーミングがなされた3つがある。
リツコはまず「spec」フォルダをダブルクリックする。
文書ファイルを意味するアイコンが1つだけ表示される。
ファイルサイズからすると、メモの役割のようだ。
その「spec1」というファイルをダブルクリックすると、新しいウィンドウが開き、文章が表示される。

KOG開発仕様書

1.概要

 今回開発を提案する特殊戦闘装備KOGには、基本仕様に以下の新機能を付加する。
a.頭部並びに四肢収納
b.噴射機関による回転及び離着陸
 a.については、本装備の特徴であり同時に弱点でもある感覚所有部分や、基本仕様である火炎放射
ノズルへの攻撃による破損を防ぐために必要不可欠である。
本機能実現のために強化ゴムを該当部分に内蔵し、装備者の身体の伸縮動作により該当部分を収納、
若しくは突出できるようにする。
 b.については、長距離や高所間の移動に歩行移動より圧倒的に有利となる飛行機能を標準装備と
することで、総合的な戦闘能力の大幅な向上が期待出来る。本機能は姉妹装備品KOPKではオプション
装備で実現可能となっているが、オプション装着の時間的ロスや装備の耐久力が基本的に低いことを
考えると、本機能を標準装備することの意義は大きいと思われる。

 文章からすると戦闘装備には間違いないが、「基本仕様」についての言及がないのでこれだけでは想像の域を出ない。
リツコは続いて「data」フォルダをダブルクリックする。
今度は一転して、大量のデータファイルが表示される。
拡張子を見ると、実験室で得たデータのファイルと、MAGIでシミュレーションした結果のファイルが混在している。
 リツコは徐にデータファイルの一つをダブルクリックしてみる。
グラフ作成ソフトが起動して「本体装甲耐久試験」と銘打ったグラフが表示される。
他に幾つかのファイルを観てみるが、「逆風状態における飛行性能シミュレーション」「背面強化装甲の応力シミュレーション」など
ほんの少しだけ期待した冗談めいた内容のものは一切見当たらない。
どうやら、マヤの研究は相当本格的なものらしい。

「いつまでも自分の補佐だと思っていたのに・・・ね。」

 リツコは呟くと小さい溜め息を吐く。
これだけ本格的に取組んだ結果が実用化されれば、間違いなく評価は高まるだろう。
となれば、研究員として自分の元から離れることも十分有り得る。
リツコはたった一人取り残されてしまうように感じる。
 リツコはマヤの研究に関する全てのウィンドウを閉じる。
そして手慣れた操作で実験結果を転送して、サーバーとの接続を切る。
何処となく寂しそうに、そしてそれを懸命に振り払うようにリツコは残りのコーヒーを飲み干す。

リツコは「drawing」の内容を見るべきだった・・・。


 さらに一月が流れ、ピンクの怪獣復活の可能性がほぼ絶望視されるようになった頃。
リツコは今日の実験結果を纏めるべく、黙々と自室でキーボードを操作していた。
マヤが「改心」して以来、あの賑やかさはすっかり影を潜めてしまった。
出勤してきて黙々と仕事をこなし、そして自分の研究に打込むマヤ。
リツコはまるで自分自身を外側から観ているような気がする。
 私は・・・マヤに自分のようになって欲しいと思っていたのだろうか?
そんな事を思いながら、リツコは描かれたグラフをセーブする。
リツコは小さく欠伸をする。長時間のデスクワークはかなり疲れるものだ。
続いて報告書を書くために、ワープロソフトを起動する。
 不意に背後のドアが開いて、誰かが勢い良く駆け込んで来る。
騒騒しいわね、と思いつつ振り向くと、そこには・・・マヤが居た。
目を輝かせ、何か言いたくてうずうずしているような表情だ。

「先輩!とうとう完成したんです!」
「完成って、もしかして・・・。」
「はい!私が進めていた研究ですよ!」
「そう・・・。よく頑張ったわね、マヤ。」

 とびきりの笑顔を見せるマヤ。リツコも素直に喜ぶ。
だが、これが自分の手を離れる第一歩だと考えると、無性に寂しく思えてしまう。
リツコは表情に噴き出そうとする寂しさを押し殺し、マヤに言う。

「貴方の研究がどんなものか、見せてもらえるかしら?」
「勿論です!私、一番最初に先輩に見てもらいたいんです!」
「喜んで見せてもらうわ。」
「じゃあ、私について来て下さい。」

 マヤに先導されて、リツコは自室を出る。
廊下を暫く進み、エレベーターに乗って階を下り、さらに廊下を進むと研究室や実験室が並ぶ階に出る。
マヤはリツコが管理する幾つもの広大な実験室の一つを借りて、研究を進めていた。
その部屋に近付くにつれて、自然と二人の足は速まる。  マヤがIDカードでロックを外して、先にリツコを中に入れる。
いろいろな製作工具や部品が隅の方に押し込まれて、部屋の中央部に半径数メートル程の「空き地」がある。

「先輩。白衣を脱いでくれませんか?」
「白衣を?それはいいけど、どうして?」
「私が研究してたのは身につけるタイプのものなんです。白衣のような裾の広がる服はしわくちゃになっちゃいますから。」

 リツコは前にマヤのフォルダを見た時のことを思い出す。
あの中にあった仕様書のメモには、「特殊戦闘装備」とあった。
身につけるタイプとすれば、確かに白衣のような服は装備の邪魔になるだろう。
リツコは素直に白衣を脱いでマヤに手渡す。

「じゃあ、預かっておいてね。」
「はい!じゃあ、先輩はあの辺に立って下さい。」

 マヤが指差したところは、ぽっかりと空いた部屋の中央部の「空き地」である。

「あそこに?」
「はい。今から先輩に装備してもらうんですけど、新品の装備にはある程度スペースが必要なんです。」

 リツコは少々怪訝に思う。
まさか等身大のエヴァ装備を開発したとでも言うのだろうか?
それはそれで凄いことだが、人手と手間がかかる戦闘装備は機動性や危機対応力に問題がある。
まあ、研究でいきなり完成品というわけにはいかないのが普通だし、試着第一号として率直な意見を望んでいるのだろう。
そう思ったリツコは、異論を口にすることなく、すんなりと部屋の中心部に立つ。

「これでいいかしら?」
「はい!じゃあ皆さん、お願いしまーす!」

 マヤが言うと、隣の部屋−そこもリツコの実験室−に通じるドアが開いて、お揃いのスタッフ・ジャンバーを着た人々がわらわらと入って来る。
数人がかりで白い布を被った何かを抱えている。
あれがどうやら、マヤの研究成果である「特殊戦闘装備」らしい。

「伊吹さん。準備完了です。」
「ありがとう。じゃあ先輩にはちょっとアイマスクをしてもらいますね。」
「ええ?アイマスクをするの?」
「お願いしますぅ。」

 リツコは妙に不安を感じる。
あのスタッフ・ジャンバーはNervの技術部職員のものとは明らかに違う。
外部の業者のようだが、機密事項が多いNervに出入りする外部業者は限られている。
リツコが知る限り、彼らは見たことがない面々だ。
 Nervのような公的機関が外部の業者と新規に提携する時、書類だのなんだのと手続きがかなり面倒だ。
マヤもリツコの補佐をしている以上、それを知らない筈はない。
にもかかわらず、新規に提携してまで開発した「装備」とは、一体何なのか?
 了解してかねていたリツコに、マヤがアイマスクを差し出す。
「早く着けて下さい」と訴えるような眼差しに、リツコはどうしても逆らう気が萎えてしまう。

「わ、分かったわ。」
「ありがとうございますっ!」

 リツコは少々鈍い動きでアイマスクを着ける。

「では皆さん、装備始めちゃって下さい!」

 マヤの合図で、待機していた人々が問題の「装備」を持ってリツコを取り囲み、作業が始まる。
視界が黒一色の中で、左右から物音がすることに、リツコは不安を隠し切れない。
 それにしても・・・この装備は相当軽いもののようだ。
確かに服や肌を通して何かが触れる感触が伝わって来るが、体の重みが増すようなことはない。
装備者の身体的負担を軽減した研究の成果だろう。
背中の方がちょっと重くなる。何か背負ったような感じがする。
 10分ほど経ち、リツコの周囲で絶え間なく続いていた装備の音が止んだ。

「伊吹さん。装備完了しました。」
「ありがとう。お疲れ様。」

 人々はわらわらと入ってきたドアから退室していった。
多少背中に重みがあるものの、リツコには装備の重荷は殆ど感じられない。
これだけ軽いと、防御力が不安になって来る。

「マヤ。アイマスクを外すわね。」

 もう良いだろう、と思ってリツコはアイマスクに手を掛ける。
だが、何かが邪魔してアイマスクに手が届かない。

「先輩。私が外します。」

 マヤが走り寄ってアイマスクを外すと、再び開けたリツコの視界に、マヤの顔が映る。
周囲の視界にも遮るものは何もない。本当に装備したのか分からないくらいだ。

「随分軽いわね、何も身につけてないみたい。」
「これが特徴の一つなんですよ。」
「防御力はどうかしらね?」
「防弾仕様ですし、衝撃を大幅に和らげる弾力性がありますよ。」
「ふーん・・・。白兵戦用なのね。」
「はい。暫く着てもらって、後で着心地とかの感想を聞かせて下さいね。」
「分かったわ。」
「じゃあ、先輩の部屋へ戻りましょう。」

 マヤが先導して来た道を戻っていく。

きゅっぽ、きゅっぽ、きゅっ・・・ぽ?

 聞き覚えのある音がする。一月前まで何度も聞いたあの愉快な足音だ。
リツコは思わず立ち止まり、足元にゆっくりと視線を移す。
リツコの目に映った自分の足は・・・

短い指が5本ある、緑色の幅広の足

 そこでリツコの意識はフェードアウトした・・・。


「・・・はっ!」

 リツコが目を覚まし、驚いたように周囲を見回す。
パワーセーブで黒くなったディスプレイ、雑然としたデスク、専用の戸棚。
見慣れた自室の風景が広がっている。

「ゆ、夢か。居眠りしちゃうなんて、相当疲れてたのね。」

 リツコは仕事を再開するべく、キーボードに手を移す。
確か、報告書を書こうとしていた筈だ。
キーボードとの付き合いが長いリツコは、マウスを動かして画面を再び表示させると、ブラインド・タッチでキーボードを叩き始める。
カチャカチャという聞き慣れた音と共に、何故かてんででたらめな文字列がスクリーンに現れる。

「ええ?!どうして?!」

 リツコはかなり驚き、慌ててBSキーで意味不明の文字列を消す。
気を取り直して再びキーボードを叩くと、やっぱりでたらめな文字列がスクリーンに現れる。

「何よ!このキーボード、壊れちゃったの?!」

 リツコは苛立ちを隠さずに視線をキーボードに移す。
オフィスカラーのベージュが主体のキーボードに乗っている自分の手は・・・

短い指が5本ある、緑色の巨大な手

 リツコは急激に遠くなる意識を辛うじて引き止める。
数回瞬きして凝視するが、やはり緑色の手がキーボードを覆っている。

「・・・わ、私ったら。まだ寝ぼけてるみたいね。」(^^;)

 リツコは、徐に立ち上がり、顔を洗ってスッキリするべく、奥の方にある洗面台へ向かう。
そして鏡の前に立ったリツコが目にした自分の姿は・・・

ずんぐりした胴体の、緑色の「亀」。
何故か笑顔の「亀」の口にすっぽり嵌まった、自分の顔。

 ぐらぁっと体が傾いたところで、どうにか踏ん張って持ち堪えるリツコ。
リツコは無言で右手を上げる。鏡の「亀」が左手を上げる。
続いて右手を下ろして左手を上げる。「亀」は左手を下ろして右手を上げる。
冷や汗が流れるのを感じながら、笑ってみるリツコ。「亀」の口の中にある自分の顔が笑う。
 口をパクパクさせるリツコ。その体が小刻みに震えている。
そう、左手を上げて笑顔のままで。

次の瞬間、Nervに絶叫が響き渡った・・・。


 きゅぽぽぽぽぽぽぽぽぽ!
管制室に向って楽しい足音が近付いていく。
全力疾走する緑色の「亀」とすれ違う職員が、驚いて即座に道を開ける。
管制室のドアが開き、反射的にドアの方を見た職員の殆どが、我が目を疑い呆然となる。

「あ、先輩。気が付いたんですね?」
「マヤ!これは一体何よ!」('o'###)
「先輩の部屋へ戻る途中、突然立ち止まったかと思ったら気絶しちゃうんですもの。」
「人の話を聞かんかい!!」('o'###)
「先輩の部屋に運ぶの、結構大変だったんですよ。」

 キーボードに向っていたマヤは、既にあのピンクの怪獣に「復帰」している。
管制室で対峙する(共に笑顔の)怪獣2匹。
ミサトはがっくり膝を付き、冬月は腹を抱えて苦悶の表情で蹲っている。
ただ一人、ゲンドウはあのニヤリ笑いを浮かべている。

「どうですか先輩。新開発したガメラの着心地は?」
「も、もしかして、ずっとこんなものを研究してたの?」
「はいっ!標準タイプをお店に注文してたんですけど、ちょっと遅れてて最近ようやく入荷したんですよ。」

 リツコはマヤのフォルダにあった仕様書のメモを思い出す。
あの中には「基本仕様」「姉妹装備品」とあった。

「私の着ぐるみでサンプルデータを取ったり、シミュレーションをしたりして、首を長くして待ってたんです。」
「・・・あ、あの仕様書のメモにあったKOGとかKOPKっていうのは・・・。」
「はいっ!『KIGURUMI OF GAMERA』と『KIGURUMI OF PINKU NO KAIJYU』の略称です!」
「こんなものに仰々しいコードネーム付けるな!」(--##)
「コードネームだなんて・・・単なる略称ですよ。」
「兎に角!早くこれを脱がせなさい!」(--##)
「駄目ですよ先輩。それは体に馴染んで感覚が出来るまで脱げませんから。」
「な、何ですって?!」
「新品はどうしてもゴワゴワするから、そういう仕様になってるんですよ。」
「そ、そんなことって・・・」(T_T)
「そうそう。息をある程度吸い込んでから一気に吐くと、火が吐けますよ。」

 呆然と立ち尽くすリツコの両目から、どっと涙が溢れ出す。
キーボードは使えない。狭い通路で引っ掛かる。階段を降りられない。
そんな格好で四六時中過ごさなければならないリツコの感情は、推して知るべし。

「・・・先輩。そんなに喜ばれると照れるじゃないですか。」(*^^*)
「泣いてんのよ!!」(T_T##)

 必死に声を殺してむせび泣くリツコ。
まさか、自分がこんな格好をする羽目になるとは想像もしなかっただけに、ショックは相当のものだ。
魂を抜かれたようだった職員の中で、ようやく青葉が復帰してリツコを慰めようと歩み寄る。

「あ、赤木博士・・・。」
「・・・何よ。」
「ほ、本当に災難ですね。」
「・・・災難なんてものじゃないわよ。」
「こ、甲羅まで背負わされちゃって、
こうら参ったねなんつって・・・ハハハ。」(^^;)

 一気に管制室が氷点下の空気に包まれてしまう。
止せば良いのに、ギャグで雰囲気を和らげようとしたらしいが、完全に失敗である。
リツコは大きく息を吸い込み、一気に吐き出す。続いてマヤも火を吐く。
ぼわ〜っと吐き出された二重の火炎が、青葉を飲み込む。

「ぐわあ〜っ!」\(ToT)/

 炎が止んだ後に黒焦げになって倒れる青葉。久々の登場でも悲惨である。

「・・・炎は強力ね。」
「攻撃力は私のと同じくらいですから。ガスボンベの残量に注意して使って下さいね。」

 早速着ぐるみの能力を使ったガメラリツコ。
大チョンボをやらかした人物に制裁を下して、ちょっと満足そう。

「・・・ねえマヤ。」
「はい?何ですか?先輩。」
「この着ぐるみを装備させた人達って、誰?」
「ああ、あれは着ぐるみを扱ってるお店の人達です。私、常連なんですよ。」
「・・・もう一つ。司令はこの着ぐるみの開発を本当にOKしたの?」
「はいっ!『是非やり給え。研究費も出す。』って。」

 リツコはジロリと上方のゲンドウを睨み付ける。
ニヤリ笑いを浮かべるゲンドウはやはり全てを了解済み、「シナリオ通り」と言いたげだ。

「(あ、あの髭オヤジ・・・。後で丸焼きにしてやる。)」(--##)
「じゃあ先輩。先輩の着ぐるみにある新機能を試しましょう。」
「新機能って?」
「両手を挙げて足を肩幅に広げて、上を向いて下さい。」

 リツコは半ば投げやりな気持ちでマヤの指示通りにする。
突然、リツコの首と手足が、ぐいっと胴体の内側に引っ張り込まれてしまう。
まさに「亀が手足を引っ込めた状態」そのものだ。
 胴体だけになってゴロンと床に転がったガメラリツコ。
胴体の中に隠れて見えないが、リツコはガメラの胴体内部で海老反りのような体勢になっている。

「痛い苦しい!マヤ!何よこれは!」
「まあ、見てて下さい。」
「見れるわけないでしょ!」(--##)

 どうにか脱出しようと内臓がもがいていると、首と手足が出ていた穴からぼーっと火が噴射される。
そして・・・ヒュンヒュンと音を立てながら回転を始め、徐々にその速度を上げていくではないか!

「何何何?!今から何が起こるのよぉ!」
「だから見てて下さいって。先輩ってせっかちですね。」
「人の話を聞けぇ!」

 やがて引き寄せられるように、ガメラが宙に浮かび始める。
回転スピードは最大。甲羅の模様は全く見えない。
思わず感嘆する管制室の面々。

「ひえええええええっ!回る回る回る〜っ!」
「せんぱ〜い!適当に体を傾けてみて下さ〜い!」

 思わぬ事態に混乱するガメラの内臓は、まさに適当に体を傾ける。
宙に浮かんでいたガメラが突然、胴体を傾けたかと思うと猛スピードで進み始める。
だがここは屋内である。
ガメラは壁に力いっぱい激突する。壁にひびが入る。
その反動で逆方向に飛び、また壁に激突する。
 物凄いスピードで回転するのに、方向など分かるはずがない。
ガメラはそれこそ四方八方に飛び、壁や天井に容赦なく激突する。
最初は腹側が床方向に向いていたが、縦になったり裏返ったりで体勢も定まらない。
火を噴射しながらでたらめに跳ね回る飛行物体から逃げ惑う管制室の面々。
マヤはどうしたことかおろおろしている。

「え、えっと・・・どうやって止めようかな?」(^^;)

 そんな無責任な。どうやら回転して飛行する仕様を実現することに精一杯で、着地方法までは想定してなかったらしい。

「あれもガスボンベだから・・・そのうちガス欠で止まるわよね。うん。」(^-^;)

 管制室を跳ね回るガメラの内臓から「止めて〜!」とか「降ろして〜!」とか必死の叫びが発されているが、
ピンクの怪獣はちょっと冷や汗を流しながら、ガメラの初フライトを見守っている。
そして、「直すべきところは直さないとね」とか考えていたりする。

それから約30分間、ガメラは管制室で跳ね回っていた・・・。


「先生!急患です!」

 Nerv付属の病院に緊張が走る。
待機していた医師や看護婦が、診察室の準備をしながら急患の到着を待つ。
ガラガラと激しい音を立てながら、急患の乗ったベッドが診察室に運び込まれて来る。
そして大勢の医師や看護婦が目にしたものは・・・

ずんぐりした胴体、短い手足の緑色のガメラ
その口の中にすっぽり収まった、真っ青な顔色で泣いている金髪女性

 ガメラを運んできた救急隊員や看護婦は、必死で笑いを堪えている。

「・・・か、患者の症状は・・・?」
「は、激しい嘔吐感と・・・全身の打撲・・・だそうです・・・。」

 真っ赤な顔で口を抑え、笑いを堪える面々。
そんな中、ガメラの内臓であるリツコは、体を震わせながら呟く。

「き、気持ち悪い・・・。」(T_T)

その日のうちに、Nerv全域に「新たな怪獣誕生」のニュースが広がったのは言うまでもない・・・。

〜おしまい〜


筆者後書き
 久々新作アップのMoonstoneです。だって、お仕事多すぎるんだもの(T_T)。
どうにか隙を突いて書いた本シリーズの新作で、とうとうガメラリっちゃん登場です。そう、「マヤの日」の背景でお馴染みのあれです。
あの背景のCGを最初に見た時から、「何時か書きたい」と思っていました。あのリっちゃん、可愛いんだもの(^^)。
Nervはこのまま着ぐるみ一家になるのか?次の怪獣は誰か?誰でしょう?


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