written by Moonstone
A.M.8:30 〜出勤風景〜
きゅっぽ、きゅっぽ、きゅっぽ。
Nervの朝はこの愉快な足音と共に始まるといっても過言ではない。
廊下をスキップしているのは勿論、ピンクの怪獣−「内臓」は言うまでもなく伊吹マヤ−である。
だが、今日はいつもと違う。
ピンクの怪獣はタキシードを着ている。蝶ネクタイも忘れてはいない。
今日は新人が配属されて来るということで、「礼服」でお迎えするのが礼儀、という考えらしい。
この怪獣の脳みそには「制服を着る」という考えは微塵も思い浮かばない。何故ならマヤ曰く・・・
これは私の通勤着兼正装ですっ!(ぺちぺち)
ちなみに「ぺちぺち」というのは、怪獣が尻尾で床を叩く音である。
前の方から誰かが近付いて来る。いかつい顔に髭いっぱいとくれば、碇ゲンドウである。
怪獣はゲンドウを見るや、スキップをさらに早めて走り寄る、というより突進する。
「司令〜!おはようございま〜す!」
「ん・・・ああ、伊吹くぶはぁっ!」
怪獣のずんぐりした身体だと、廊下をかなり占領する。
怪獣が突進して来た場合、速やかに廊下の空きスペースや手近な部屋に退避するのが重要なのだが、朝早くから出勤していた
ゲンドウは眠気で判断能力が鈍っていたのか避けそこなって、怪獣と正面衝突して弾き飛ばされたのである。
軽く10mは吹っ飛ばされ、廊下に叩き付けられたゲンドウは頭をしこたまぶつけたらしい。
「ああっ!司令!大丈夫ですかぁ?!」
「う、うむ・・・相変わらず良いタックルだ。」
「そんなぁ。誉められると照れちゃいますぅ。」(*^^*)
ゲンドウの頭から血が滴っているのだが、まあこの男は死にはしないだろう。
ゲンドウは立ち上がってサングラスを掛け直す。
「伊吹君。今日はタキシードを着ているのか。」
「はいっ!今日は新人さんが配属されて来る日ですから。」
「うむ。良い心がけだ。だが・・・廊下を走るのは良くない。以後気を付け給え。」
「はいっ!」
「では、私は失礼する。」
ゲンドウは頭から何か金属臭のする赤い液体が流れて来るのを気にしながら、出口へと向かう。
きゅっぽ・・・、きゅっぽ・・・、きゅっぽ・・・。
前方から楽しい、しかし何処か悲しげな足音が近付いて来る。
ゲンドウの視界に映ったのは、項垂れながら重い足取りで歩いて来る緑色のガメラである。
ガメラはゲンドウと1mくらいまで接近すると、ぴたりと足を止める。
だが、何故か笑顔で項垂れているのは変わらない。
ゲンドウはガメラの心情を察して、珍しく陽気に声を掛けてみる。
「やあ。おはよう。どうした?元気がないじゃないか。ははは。」
「・・・。」
ガメラは項垂れたまま大きく息を吸い込み、徐に顔を上げる。
そして・・・猛烈な紅蓮の炎を吐き出す!
ぼわ〜っ!!
「ぐわ〜っ!!」\(-o-)/
「誰のせいだと思ってんのよ!!この髭オヤジが!!」(ToT##)
火炎を至近距離で直撃されて、制服が燃えているゲンドウは床でのた打ち回っている。
勿論、髪はアフロになっている。
緑色のガメラの口から覗く内臓は・・・かつて「白衣の才媛」「怪獣の上司」と言われた赤木リツコ博士である。
だが、とある事情で彼女もまた、こうして着ぐるみを着る羽目になってしまい、さらに当分脱げないという事態に見舞われている。
リツコがガメラになった原因の一つが、ゲンドウその人である。
ゲンドウの制服はようやく火こそ消えたものの、まだあちこちから黒煙を上げている。
息を切らしてサングラスを掛け直すゲンドウを、泣きながら冷たく見下ろすガメラの内臓。
「あ・・・赤木君。いきなり火を吐くとはご挨拶だな。」
「まだ懲りてないようね。」(- -##)
「しかし・・・勢いといい、熱量といい、良い炎だ。」(-
-)b
「あら、そうですか。では。」
ガメラは再度息を吸い込み、文字通り猛烈な怒りの炎を吐き出す。
「ぐわ〜っ!!」\(-o-)/
炎が消えた後には、真っ黒焦げの物体が小さな残り火を湛えて転がっていた。
緑色のガメラはその物体に目をくれることなく、再び重い足取り−だが足音は楽しい−で歩き去った。
A.M.9:30 〜初顔合わせ〜
「今日から配属される新人職員諸君だ。」
「「宜しくお願いします!」」
真新しい制服がちょっとぎこちない新人職員達が、やはりぎこちなく頭を下げる。
そんな初々しい新人職員を拍手で迎える先輩職員達。
今日は新人職員が研修を終えて配属されて来る日。発令所に若い空気が吹き込まれる日でもある。
これから(色々な意味で)様々な苦難が彼らを待ち受けている。
せめて今日くらいは、温かい雰囲気で迎えたいものだ。
行方不明のゲンドウに代わり、冬月が挨拶する。
これより少し前、「真っ黒焦げの物体が廊下に転がっている」「サングラスらしい物体が落ちている」という
警備員からの連絡があったが、冬月は、ポイっと捨てておくようにとだけ告げている。
「では、発令所のスタッフの面々を紹介しよう。名前を呼ばれたら順番に前に出てくれ。」
冬月はミサトから始めて以後順番にオペレータを紹介していく。
そしてとうとう「彼女」の順番がやって来た。
冬月は一瞬躊躇ったが、新人職員達がこの場にいる以上、もはや手後れだ。
「次は・・・伊吹マヤ二尉だ。」
「はじめまして。伊吹マヤです!宜しくね!」
「「・・・よ、宜しくお願いします。」」
戸惑いながらも一応挨拶する新人職員達。
何せ前に出て来たのが、タキシードに蝶ネクタイを身に付けたピンクの怪獣だったのだから。
マヤ。せめて今日くらいは制服着てよ、とミサトは勿論言ってはみたが、返事は・・・
新人さんには第一印象が第一ですから(はぁと)。
全く効果がなかった。
発令所の面々の紹介が終わり、冬月は少々胃の痛みを感じながら続ける。
「では、これから葛城三佐と伊吹二尉の案内で構内を回ってもらう。」
「では皆さん。遅れないようについて来て下さい。」
カツカツカツ。きゅっぽ、きゅっぽ、きゅっぽ。
甲高いヒールの音と拍子抜けするような足音が不規則に絡み合い、廊下に響く。
ミサトは頭痛を覚えながら、順々にNervの施設を案内していく。
やがて一団は研究施設へ足を踏み入れる。
使徒との対決のために結集されている人間の叡智を目の当りにして、新人職員達の目が輝く。
順番に実験室や研究室を回っていくと、最も広く、様々な機器や書類が並ぶ研究室に辿り着く。
「ここがエヴァ研究の責任者、赤木リツコ博士の研究室です。」
「そう。そして私の先輩なんですよ!」
新人職員は一斉に驚愕の表情と共に怪獣の方を向く。
研修中にも何度か耳にした才媛赤木リツコ博士の名。
この怪獣がまさかその赤木リツコ博士の後輩だったとは!
ミサトがドアロックをIDカードで開ける。
プシュッという音がして両開きのドアが開くと、奥の方で何やらガサガサッと動いた。
「リツコ〜。居るんでしょ?」
「せんぱ〜い。新人さんがお見えですよ〜。」
怪獣が尻尾で床をぺちぺちと叩く。
それを見て新人職員の驚きは更に増す。
ミサトは溜め息を吐いて新人職員達にここで待つように言うと、中に入って奥の方へ向かう。
倉庫になっている隣接する小部屋を覗き込む。
真っ暗な空間の片隅にぽつんと白い物体が鎮座している。
「・・・リツコでしょ?」
「・・・ミ、ミサト・・・。」
「新人さんに面通して貰いに来たんだけど・・・。」
「・・・。」
きゅっぽ、きゅっぽ、きゅっぽ。
重々しい雰囲気を、この足音が見事にぶち壊してくれる。
「せんぱ〜い。み〜つけたっ!」
「マヤ。今の状況を理解してるの?」(- -;)
「先輩。見つかったんだから出てこなきゃ駄目ですよ。」
「人の話聞けよ。」(- -#)
「それに新人さん達がお待ちかねですよ。」
「だから人の話聞けって。」(- -#)
「こういう時にエヴァ開発の責任者たる先輩の威厳を見せないと。」
「今の私にそんなものを要求するか!」(ToT##)
「何を今更謙遜してるんですか。先輩って本当に奥床しいですね。」(^-^)
「違うわよ。」(T_T##)
「営業活動はまず第一印象が大切って、研修の時に言われませんでしたか?」
「「何の営業よ!何の!」」
ミサトとリツコがシンクロで突っ込むが、この怪獣には全く無効である。
「ささっ、行きましょ先輩!」
「リツコ・・・。もう・・・後戻りできないのよ。」
「ひ、他人事だと思って・・・。」
「な、何言ってるのよ。貴方の気持ちは分かる。私と貴方は・・・親友じゃないの。」
「私だって分かります!だって、私と先輩は・・・らぶらぶカップルじゃないですか!」(*^^*)
「あんたは黙ってて。」(- -##)
その白い物体ことリツコは、覚悟を決めたようにゆっくりと立ち上がる。
ミサトとピンクの怪獣に付き添われて新人職員の前に現れたのは・・・
短い手足にずんぐり胴体に白衣を纏った、緑色のガメラ。
ちなみにこの白衣、マヤが常連のお店に作ってもらったものである。
新人職員達はあんぐりと口を開ける。
噂には白衣姿が似合う美人だと聞いていたが、まさかこんな愉快な格好で出て来るとは・・・!
「こ、こちらが・・・赤木リツコ博士です。」
「「よ、宜しくお願いします。」」
「・・・赤木です。よろしく。・・・ううっ。」
ガメラは俯いたまま弱々しい声で言うのが精一杯である。
新人職員達の心の声を覗いてみよう。
「(可哀相に・・・研究のし過ぎで頭がどうかしちゃったんだな・・・。)」
「(こ、このNervって人類の最後の砦じゃなかったの?!)」
「(確かあのピンクの怪獣は先輩だって・・・似た者同士なんだなぁ・・・。)」
新人職員達が描いていた「白衣の才媛」赤木リツコのイメージは、この瞬間見事に崩壊した・・・。
P.M.3:10 〜使徒、襲来〜
新人職員配属で新鮮な空気が残る発令所にけたたましいサイレンが鳴り響く。
一気に緊張感がみなぎる発令所。それまで適度にくつろいでいたオペレータ達も緊張した面持ちでコンソールに向かう。
新人の案内を終えて談話室で一息ついていたミサトが、急いで駆け込んで来る。
「使徒なの?」
「はい!波長パターン青!使徒です!」
「総員戦闘配備!チルドレン達は?」
「既に出撃準備中です!」
きゅっぽ・・・きゅっぽ・・・きゅっぽ・・・。
緊張感をぶち壊してくれる足音が遅れて入って来る。
一瞬身体の力が抜けたミサトが振り向くと、発令所に入って来たのは緑色のガメラである。
「リツコ。遅いわよ。」
「しょうがないでしょ。走って来る途中で転んじゃって、警備員に発見されるまで起きられなかったんだから。」
「・・・仕方ないわね。」
ミサトはすんなり納得する。
「先輩」のピンクの怪獣も時々階段から転げ落ちたりするくらいだから、着ぐるみ歴(?)の短いリツコでは無理もない。
「回線開きます!」
CRTにプラグスーツを来て出撃体勢を整えたレイ、シンジ、アスカの顔が表示される。
それまで真剣そのものだった3人の表情が、疑問→凝視→硬直→驚愕へとシンクロして変化する。
「ミ、ミサトさん!横のその・・・ガメラってまさか・・・。」
「・・・そう、リツコよ。」
「な、何だってリツコまでそんな間抜けな格好してるのよ!」
「好きでしてるんじゃないわよ!!」(ToT##)
「そっか・・・。みんなは初めて見るんだっけ・・・。」
かいつまんでリツコの「変貌」の理由を説明するミサト。
「そうですか・・・マヤさんの策略に嵌まっちゃったんですね。」
「策略だなんて・・・。照れるじゃないの。」
「誉めてないんですが。」(- -;)
「・・・赤木博士・・・可哀相・・・。」
「レイ?」
「主要女性キャラで唯一30歳・・・ばーさん・・・肌がくすむ・・・化粧じゃもう無理・・・着ぐるみで隠す・・・可哀相。くすくす。」
無表情にとんでもないことを言ってのけるレイ。恐るべし。
ガメラは力の限り握り拳を作る。内臓の形相ははっきり言って怖い。
「こ、このぉ・・・。」(- -##)
「レイ!リツコに失礼じゃないの!」
「そうですよ!まだまだ先輩だってセメントか漆喰で塗り固めれば、小皺なんて十分隠せるだから!」
「「余計失礼じゃぁ〜!!」」(- -##)
建物じゃあるまいし、そんなことしたら息が出来なくなるぞ。
何やら盛り上がっているこの集団に、冬月は「そろそろ出撃しないと、まずいんだが・・・」と切り出すべきか迷っていた。
・・・迷わず告げるべきだと思うのだが・・・。
P.M.9:30 〜怪獣、それぞれの明日〜
すっかり人の気配が少なくなったNerv本部。
その研究棟の一角にあるリっちゃん研究室では、背凭れのない椅子にちょこんと腰掛けたガメラが
CRTに向ってマウスを動かしている。
懸命にマウスを動かし、メニューをクリック・・・だからクリック・・・。
「・・・同時に・・・二つともボタン押しちゃう・・・。」(T_T)
巨大な指故に、普通のマウスではボタンを同時に押してしまうのだ。
それどころか意識的に指を反らしていないと、ボタンを押しっぱなしにしてしまう。
本来なら今日行った機動実験のデータを纏めるところだが、キーボードを使えないこの状況では、
データを保存しておくのが精一杯である。
しかし、頼みのマウスもろくに使えない。
「仕事・・・進まない・・・。」(T_T)
感覚が生まれるまでこの着ぐるみは脱げない、と張本人のマヤは言った。
恐らく当分このままだろう。
やはり・・・何としてもあのマヤの着ぐるみをどうにかしなくては!
そう決意したリツコは、密かに闘志を燃やしながら懸命にマウスを格闘する。
ここでメニューをプルダウンして・・・だからプルダウン・・・。
「上手く押せない・・・。」(T_T)
望まないショートカット・メニューが何度も出て来る画面。
それが妙に滲んでリツコは良く見えなかった・・・。
一方、マヤは一足先に帰宅の途に着く。
薄暗い廊下をスキップしている怪獣は、時折驚いた警備員に発砲されてしまう。
しかし、防弾仕様になっているこの怪獣は、全く気にすることはない。
出口へ通じるエレベータの前に立つマヤ。
下の方からエレベータの位置を示す灯りが登って来る。
「ん?こんな時間に誰かな?」
チン、という音がしてドアが開くと、中から真っ黒焦げの物体がよろよろと出て来た。
今朝方、ガメラに丸焼きにされた碇ゲンドウ、その人である。
ようやく廃棄物処理場から脱出して、ほうほうの体でここまで辿り着いたらしい。
ピンクの怪獣は首を傾げて尋ねる。
「どちら様ですかぁ?」
「わ、私はみんなの上司、碇ゲンドウだ。」
「嘘です!司令は髭面で無愛想で時々にやり笑いするサングラスの人です!」
「・・・なかなか言うな、ピンクの怪獣。」(-ー-#)
青筋(殆ど分からないが)を浮かべてつつも、ニヤリ笑いするゲンドウ。
それを見て、マヤはポンと両手を叩く。
「ああ!その嫌悪感を誘う嫌な笑いは司令じゃないですか!」
「・・・これは君の上司であるガメラにやられたんだ。」
「先輩にですか?」
「うむ。あれは完全に八つ当たりだ。」
「うーん。司令を憎んでる人は多いですからねえ。無理ないですよ。」
「こ、この怪獣は・・・」(- -#)
ゲンドウといえど、この怪獣の天然ボケにはかなわないようだ。
「ところで、どちらへ?」
「どちらへって・・・私の指定席だ。」
「ふーん。そうですかぁ。」
「そ、そうですかって・・・。こ、この身体じゃ満足に動けないから・・・。」
「あ、ドアが閉まっちゃう!じゃあ、お先に失礼しま〜す。」
「ちょ、ちょっと待て!待ってくれ!」
ピンクの怪獣はさっさとエレベータに乗ってドアを閉める。
哀れにも見捨てられた真っ黒焦げのゲンドウは、ずるずると引き摺るように廊下を歩いていく。
「な、何故だ。何故私がこんな目に・・・。」
まだ自分の過ちに気付いていないゲンドウが、司令の席に戻れたかどうかは定かではない。
〜おしまい〜
筆者後書き
HPを開設したばかりのMoonstoneです。時間があったら是非覗いて下さい。(_
_)
宣伝はさて置き、久々の「マヤの日」ということでこの時期によくある「警視庁24時」番組をネタに
(タイトルと構成だけですが)、ガメラリっちゃんも登場させてみました。
え?「Rose Rouge」などと全然違う?・・・だ、だってこれは別シリーズですから(^^;)。
書いてる本人が、どれが自分の作風だか分からなくなる時はありますが。
Moonstoneさんへの感想メールをお願いします!
E-mail...msstudio@sun-inet.or.jp
までお願いします。