written by Moonstone
深淵の闇から呼び起こされた私の意識が、再び私の身体に宿る。
私の視界に、徐々に現実の世界が映し出される。
閉じられたカーテンは夜の蒼色に溶け込みながら、仄かに輝きを醸し出している。
さっきまで闇の居心地に心地良く浸っていた感覚が、余韻となって身体に染み込んでいるのが分かる。
私はどうも朝が苦手。身体がこの余韻をなかなか手放そうとしないから。
それどころか、もう一度闇の居心地に浸ろうと、しきりに誘惑したりもする。
今朝は特にそれが酷い。
頭上から響く小鳥の囀(さえず)りに似せた電子音に、半ば無理矢理呼び覚まされたせいね。
それも普段より1時間も早く、さらに土曜日に・・・。
あんな約束するんじゃなかったかな、とちょっとだけ思ったりもする。
でも、彼との約束だから、ね・・・。
鳴り続ける電子音を止めようと布団からそっと出した手に感じる、冷水に肌を浸したような感覚。
手探りでスイッチを押して電子音を止めると、即座に手を引っ込める。
手が自分から布団に戻ってきた、といっても良いかもしれない。
夜の間に布団に十分染み込んだ心地良い人肌の温もりが、まだ身体から抜けない夜の余韻を長引かせてくれる。
これって、布団の中にいる時は特製の毛布なんだけど、起きる時には手枷足枷というか。
それも、これから解放されたくないって思う、不思議な心地良い束縛。
でも、ここから脱出しないことには・・・事が進まないのよね。
いつもなら、ずるずると温もりで出来た毛布の肌触りに浸っているんだけど・・・。
覚悟を決めて布団の裾に両手をかけて、眼を閉じて秒読みを始める。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1・・・
・・・も、もう一回初めから。ちょっと準備不足だったわ。
全身をその気にしておかないと、急に冷気に晒して風邪引いたりしたら大変だから。
こういうことは、きっちりしておかないとね。・・・ちょっと言い訳がましいけど。
手の位置を確認して、全身が起きる覚悟が出来たことを確認して、ではもう一度。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1・・・
・・・うう、起きたくない。でも起きなきゃ約束の時間に遅れちゃう・・・。
仕方ない。ここは一気に・・・布団を捲って、同時に身体を起こす!
私に残された手段は、もうこれしか残されていないから。
ほんの数秒の間を置いて、布団と毛布が上半分ほど裏返しにして、私はそれに合わせて体を起こす。
身体を包んでいる温もりが、少しの間は冷気から私を護ってくれる筈・・・なんだけど・・・。
やっぱり・・・寒い・・・。
くしゅん!
は、早く着替えないと・・・。
人肌の温もりなんて冬の冷気の前には儚い幻。
あっという間に温もりを吹き飛ばした冷気は、パジャマを通して肌に触れ、全身に容赦なく染み込む。
温もりが心地良い毛布を形作るまでの時間とは随分違う、物凄い速さで。
人と人とが愛し合うのと、よく似てるような気がする・・・。
ふと頭を過ぎる声に出ない呟き。
冷気が全身に染み渡る前に終わろうと急いでいた着替えの手が、一気に重たくなるのが分かる。
彼との距離を思うように縮められないのは、
彼がその傍らに寄り添う相手に、私より彼女を選んだのは、
私と彼が共に過ごす時間が、彼女より短かったから・・・。
私は独り。彼と彼女はその気になれば四六時中共に居られる。
二人を一つ屋根の下に置いた葛城さんを、少しだけ恨んだこともある。
私だって、彼とユニゾンできたのに。
彼女と違って、一回目で息が合ってたのに。
今更思い起こしても、どうにもならないってことは分かってる。
零号機は修理中だったし、あの時は彼のことを特に意識してなかったし。
意識する筈がなかったというのが正確な表現だけど。
でも・・・あの時、私と彼がユニゾン特訓していたら・・・。
それから、ずっと彼と一つ屋根の下で暮らしていたら・・・。
彼が選んだのは、私だったかもしれない・・・。
ぶるっと一回、冷気に晒されている私の身体が振動して、着替えの再開を催促する。
いけないいけない。ぼうっとしてたら風邪引いちゃうどころか、約束の時間に遅れちゃう。
カーテンが少しずつ輝きを増している。その速度が徐々に早まっている。
僅かな隙間から差し込む光は、蒼色に滲むようなぼやけた感じから、蒼色を切り裂くように存在を際立たせつつある。
これが・・・夜明け。
一緒に見よう、と彼が私を誘った理由が少し分かったような気がする。
車が走り抜ける音が時折遠くから漂って来る程度の、静まり返った空間の中で行われる光と闇の競演。
まだ殺風景と言われる私の部屋が、何だか別の世界に思える。
ふと時計が視界に入る。
あ、もうこんな時間。急がなきゃ。
部屋の中以上に張り詰めた冷気が、唯一肌が露出している顔に突き刺さる。
小刻みに吐く息が一瞬で凍り付き、白煙となって後ろに流れていく。
コンクリートの無機質な白色が、まだ蒼色が支配的な空間に漂っている。
大勢の人が住むようになった筈なのに、廃虚のようにすら思える。
左右に高層マンションが林立する、何もかもが規則的な人造の街には、人通りは殆どない。
たまに犬を連れた人や、この冷気をものともしないかのような薄着で走る人とすれ違うくらい。
だから、この街の風景が余計に廃虚に感じるのかもしれない。
以前は、こんな事思いもしなかった・・・。
あの頃は、私自身も廃虚だったのかもしれない・・・。
彼との−本当は彼と彼女だけど−待ち合わせ場所は、この通りを抜けたところにある森林公園。
何もかもが規則的に造られたこの街の中で、唯一「そのまま」を保っている場所。
私も時々訪れて、散歩したり、ベンチで本を読んだりする。
コンクリートの谷間を走っていくと、目の前に巨大な黒い翳が見えてきた。
冷気と静寂の中に浮き彫りにされた、無秩序な形の木々の翳。
白さを増してきた空をそこだけ切り抜いたような色。
吸い込まれそうなその色は、夜の闇と静寂を吸い取って、朝の光と息吹を招き入れている証かもしれない。
その巨大な翳から、無数の小さな影が弾けるように飛び出していく。
微かに聞こえる囀りと羽音が形作る無秩序な調(しらべ)。
招き入れられた夜明けの時を歓喜する鳥達の讃美歌を聞きながら、私は公園へ急ぐ。
きっとそこには、彼が来ている・・・。
公園に入ってすぐ正面に見える、ベンチに囲まれた噴水。
中央の台座には水瓶を肩に抱えた天使の像が、微笑みを浮かべて佇んでいる。
輝きを増して来た朝日に照らされた像に、くっきりと光と影のコントラストが刻まれている。
生命が宿り、神々しさすら漂わせている像の方へ私は走る。
噴水の麓に浮かび上がる人影・・・彼だ。
やっぱり彼は来ていた。約束の時間よりも先に。
逸る気持ちに背中を押され、私はさらに足を速める。
私に横顔を見せていた彼が、私の方を向いて手を振る。
彼の顔がはっきり見えてくる。
黒のロングコートにグレーのマフラーが、少年のような顔立ちの彼に大人色を塗り加えている。
私は彼の元に駆け寄ると、激しい呼吸を無理矢理押え込んで彼と向き合う。
胸の鼓動が頭に響くほど強まる。
走ったからというだけじゃない。
お、おはよう・・・。碇君・・・。
酸素を求める激しい呼吸を飲み込みつつ、口を突いて出たのはありきたりの挨拶。
もっと気の利いたことを言いたいけど、上手く言えない。
でも彼はそんな私を労るように、優しい笑顔をそのままに言葉を返してくれる。
おはよう、綾波。走ってきたの?無理しなくて良いのに。
言葉を返したいけど、押え込んでいた呼吸がそれを妨げる。
無理なんてしてない。もっと手際良く着替えてれば走らなくても良かったのよ。
その気持ちだけでも伝えたいから、私は首を何度も横に振る。
遅いじゃないのよ。まったく。
不満そうな声が私の耳に飛び込んで来る。
彼の懐からひょっこりと顔を出したのは・・・彼女。
彼が傍らに寄り添う相手に選んだ女性(ひと)。
姿が見えないと思ったら、彼のコートに包(くるま)っていたのね。
彼の温もりに包まれて、彼の心音を後ろに感じて。
寒い中待たされる身にもなってごらんなさいよ。
嘘。貴方は・・・寒くなんかないでしょう?
彼女が洩らす不満に対して、声にならない呟きが喉の奥で蠢く。
彼女にはわからないでしょうね。
独りっきりの空間に閉じ込められた空気の冷たさなんて。
電子音しか目覚めを齎してくれない私の朝なんて。
だって、彼女の隣には何時でも彼が居る。
穏やかな目覚めを齎してくれる彼の呼び声と揺さ振りがある。
綾波。走ったから少し温かくなったんじゃない?
・・・気がつかなかった。
さっきまで痛いとまで感じた顔に触れる冷気が、今はひんやりと心地良く感じる。
でも、自家製の温もりより、彼に包まれる温もりの方が・・・ずっと温かそう。
じゃあ、行こうか。
彼の声で、彼女が彼のコートの中からゆっくりと外に出る。
彼女はぶるっと身を震わせて、両腕で自分を抱え込むように身を屈める。
見ると彼女は紺のコートにグレーのマフラーと手袋で、防寒対策は万全。
それでどうして、彼の温もりに包まれてないといけないの?
ずるいわね・・・。
思わず口を突いて出た呟き。怪訝そうな彼女。
やっぱり彼女には・・・分からないのね。
冬尚緑を絶やすことのない木々が天を覆い隠す森。
動きを止めて漂う蒼の冷気の中を、私達は並んで歩いている。
中央には彼。その左脇に寄り添う彼女。私は少しだけ距離を置いて彼の右隣に居る。
今の私達の関係を象徴するかのような位置関係。
彼との間に生まれたたった数cmの距離が、あまりにも遠い。
木々の間から幾重にも白い刃が差し込まれる。
私は目の前に現れた刃にそっと手を差し込む。
張り詰めていた冷気が夜の束縛から解き放たれて、息吹を吹き込まれていくような感じ。
手袋越しに伝わって来る、柔らかくて温かい手の感触。
何してるの?綾波。
彼の声で私は我に帰る。彼と傍らの彼女は私より少し前に居る。
私は思わず足を止めていたらしい。
いそいそと彼の隣に走り寄って、彼に朝日との握手の感触を伝える。
光の手って、温かいのね・・・。
彼は黙って頷く。
彼にも分かってもらえた。一つの気持ちを共有できた。
そのことが私の胸を熱く震わせる。
彼の向こう側から、彼女が顔を覗かせる。不満そうな顔。
何がそんなに不満なの?
何時でも彼の傍らに寄り添えるのに。彼の温もりを直に感じられるのに。
レイ。あんた、光と握手してたの?
ええ。
私は短く答える。彼女に言っても分からない。
彼の腕に絡めて離さない両手で、光の手と握手できる筈がないから。
・・・何かしら。この胸の底からふつふつと沸き立つ、焦げ付くような感情は。
さっきから、いいえ、彼が彼女を選んだ時からずっと感じていた、胸の内側を掻き毟られるような感触。
恋愛小説を読んでいると頻繁に感じる、何とも言えない何処か不快な気持ち。
彼女は少し首を傾げる。やっぱり彼女には分からないのね。
彼と同じ気持ちを持てない彼女。どうして彼は彼女を選んだのだろう?
私が傍らに居たなら・・・何時でも貴方と一つの心を持てるのに・・・。
掴み所のない者同士だから、握手できるってわけね。
そうね。
素っ気無いと自分でも思う。
でも、これは自分の気持ちを言葉にすることに慣れていないだけじゃない。
私が彼と向かい合う時、私が彼と言葉を交わす時、
彼女からの視線や言葉に必ず感じる感情に、私が胸の奥に感じる感情と同じ匂いを感じるから。
やがてその感情がどうしようもない怪物になって、私を覆い尽くしてしまいそうな気がするから。
そうならないように、無意識に昂ぶりやすい彼女の感情を逸らそうとしているのかもしれない。
彼女には特に素っ気無い受け答えをしてしまうのは、そのためかもしれない。
それが彼女には「掴み所のない女」と映るのだろう。
・・・やっぱり、彼女には分からないのね。
森を抜けた私達の前に、公園の中央を縫うように流れる広い川が現れる。
川の岸辺は、コンクリートの大きな階段が観客席のような、ちょっとした広場になっている。
休日ともなるとボール遊びをしたり談笑する人達で結構賑わい、それを目当てに数店の屋台が並ぶこともある。
でも、この時間には犬を連れた人がたまに通り過ぎるくらいで閑散としている。
私達は大きな段差を一歩ずつ下る。
ふと彼を見ると、傍らの彼女を気遣うように、彼女と歩調を合わせている。
階段を降りる時くらい、その腕を放せば良いのに。
私の歩調が自然と早まる。心に沸き立つ焦げ付くような感情に後押しされるように。
岸辺には先客が居た。
無数の鳩や雀が、首を規則的に上下に振ったり、リズミカルに飛び跳ねたりしている。
身体を膨らませて群れを成して冷気を凌いでいる鳥も居る。
人に馴れているのか、距離が近くても飛び去ったりしない。
もしかしたら、人間の存在なんて、鳥達には風景の一部でしかないのかもしれない。
動きが止まったような水面が白く煌いている。
音もなく静かに流れる川には、別の時間が流れているのかもしれない。
道路からも離れた岸辺には、未だ静寂と冷気が佇んでいる。
森の中とは打って変わって開けたこの世界には、私達しか存在しないような気分を抱かせる。
何だか・・・別の世界に来たみたいね・・・。
彼女が意外な呟きを洩らす。
彼女も同じ気分を感じていたのかしら?彼は・・・どうだろう?
僕達しか居ないような・・・そんな気分だね。
彼も同じだった。嬉しいのは勿論だけど、どうもすっきりしない。
一つの気分を共有できるのは私と彼だけじゃなかった。
彼女も、彼と同じ気持ちを味わっている。
悔しいような、でも、何処か・・・嬉しい気分。
複雑に絡み合った心の毛糸が、不可思議な模様を生み出している。
私達の足元から地面に伸びる影が、少しずつ短く、そして色を濃くしていく。
昼間見るものよりずっと大きな光の球が、東の彼方から姿を見せ始める。
冷気に滲んでいた白銀の光が、冷気を溶かす黄金色へと移り変わっていく。
東の方に浮かんでいた黒い雲の断片にも、
冷気の中に佇んでいた公園の草木にも、
目覚めて間もない岸辺の鳥達にも、
悠久の時を静かに流れる川にも、
蒼の空間に浮かんでいた白亜の建物にも、
黄金色の光に照らされた全てに、一日の息吹が吹き込まれていく・・・。
彼は・・・これを私に見せたかったのね。
一日の始まりを。静寂と冷気が支配する世界が雪解けの時を迎える瞬間を。
蒼の世界で眠っていた全てのものに、今日を生きる息吹が吹き込まれていく様を。
光が変わると、全てが動き出すんだよ。
彼は前を見ながら語る。
少しずつ、岸辺に人影が増えて来る。
遠くから風に乗って車の行き交う音が耳に届いて来る。
群れを成していた鳥達が餌を啄(つい)ばみ、羽を広げて飛び立って行く。
黄金色に照らされた空が、蒼から青へとその色を変えていく。
私は大きく息を吸い込む。
凛とした空気が胸の奥に染み込んで来る。
目覚めの時にはあれほど嫌だった冷気が、今ではむしろ心地良い。
大きく吐き出した息が霧になって、黄金色の中に溶けていく。
深呼吸かぁ。あたしもやってみよっと。
彼女が続いて息を吸い込み、少し間を置いて吐き出す。
彼女の口元に現れた霧は、見る見るうちに光の中に消えていく。
爽やかな彼女の横顔。彫りの深いその顔は、女神を思わせる。
彼女が不意に私の方を向く。無意識に心が身構えてしまう。
だけど、今の彼女は眉間に皺を寄せることもない。棘のある言葉を並べることもない。
ただ、待ち合わせ場所の噴水に佇む天使のような穏やかな微笑みを浮かべている。
寒い中、早起きして良かった、って思わない?レイ。
ええ。来て良かったわ。こんな奇麗な風景が見れたから。
私も自然と顔が綻(ほころ)ぶ。
彼女と同じ気持ちを抱いていることに喜びを感じている私が居る。
夜明けの光は、人と人との間に立ちはだかる氷塊も溶かしてしまうのかしら。
草木の葉が、川の水面が、黄金色の光を浴びて様々な色に煌いている。
音量を増した鳥達の歓喜の歌声が辺りにこだまする。
私達の目の前で、世界が大きく胎動している。
新しい一日を始めるために・・・。
光から黄金色が消えた後には、いつも目にする世界があった。
時計を見ると、岸辺に辿り着いてから30分も経っていない。
夜明けの舞台は、そんな僅かな時間で私達に静から動への変移を見せてくれた。
一日一回の限定公演に誘ってくれた彼に・・・感謝。
誰も「帰ろう」とは言い出さない。
直ぐに帰るのは何となく惜しい気がする。
もう少し観劇の余韻に浸っていたい。
彼も彼女も、きっと同じ気持ちなんだろう。
夜明けって、ただ太陽が昇るだけだって思ってたけど・・・違うのね。
彼女が感慨深そうに言う。私もそう思う。
ただ夜から朝になるだけじゃない。
暗かった世界が明るくなるだけじゃない。
夜明けは静から動へ世界が移り変わる瞬間だったのね。
うん。それにね、夜明けにはその日によって、いろんな表情があるんだ。
同じ場所でも天気によっても違うし、季節によっても違う。
勿論、場所が違えば同じ天気で同じ季節でも、また違った表情が見えるんだ。
夜明けの表情・・・。彼は不思議なことを言う。
彼女も意味が分からないのか、首を傾げる。
表情って、どういうこと?
思わず疑問を口にする。彼が分かるものを私も分かりたい。
今日みたいな晴れの日はやる気満々の笑顔で・・・。
曇りや雨の日は、ちょっと不安で、悲しそうな感じって言えば良いかな・・・。
雪の日は独りで瞑想しているって言うか・・・。
上手く言えないけど・・・表情に喩えるとそんな印象を感じるんだ。
彼らしい表現ね。でも、そう言われると分かりやすい。
そう言われれば確かに、表情は光の具合に喩えられるわね。
明るいとか暗いとか、ちょっと曇ってるとか・・・。
表情からも、心で感じる光が出てるのかな?
彼女の口から出た意外な表現。昔なら「バッカじゃない?」とか言いそうだけど。
彼の顔を下から覗き込むように見詰める表情。昔なら見下したような冷たい目を向けそうだけど。
彼女は変わってきているのね。
彼がその変化に惹かれたのか、それとも、彼が変化を呼び起こしたのか。
多分・・・後者の方ね。
そうかもしれない。輝いている、とかいう表現があるのも頷けるね。
彼女の表情がぱあっと晴れ上がる。・・・これもそんな表現の一つよね。
これが彼女にあって私にはないもの。私が見ても魅力的と思う、様々に変わる多彩な表情。
私もずっと彼の傍に居られたら、あんな表情が出来るようになったかもしれない。
小さく、音もなく洩れる溜め息。
白く氷結した息は、直ぐに白い光の中に消え去っていく。
一瞬だけ形になった吐息。私の彼への想いは一度も形にならずに居る。
これが切ないっていう気持ちなのね・・・。
ねえレイ。これから一緒に朝御飯食べない?
彼女の思わぬ誘いに引っ張られるように、私の顔は彼女の方を向く。
彼の向こう側で、彼女は少し怪訝そうな顔をしている。
私の表情が余程意外そうなのかしら?・・・実際意外だけど。
そんなに驚かなくても良いでしょ?
でも、どうして?
どうしてって・・・。これから帰って独りで食べるより良いんじゃない?
学校以外、いつも一人の食事。私にとっての一つの日常。
でも彼女に言われて、頭に浮かぶその日常が、急に寂しく見える。
どうして今日は、そんなことを考えてしまうんだろう?
そうね・・・。独りより良いかもしれない・・・。
そうだ。今朝はいつもと違うから。
彼と彼女と同じ風景を見た。同じものを感じた。
いつもと違う過ごし方をしたこの時間を、これで終わりにしたくない。
彼女も・・・同じなのかしら?
じゃあ決まりね。シンジ。一人分追加はOKよね?
ミサトさんの分が用意してあるけど・・・。
どうせ起こさなきゃ昼まで寝てるんだから、構わないわよ。
彼女らしい考えね。でも彼女は、私を迎えてくれるみたい。
木漏れ日が眩しい森。光溢れる公園。夜明け前とは違って見える風景が広がる。
でも、夜明けの光の中で移り変わったのは、岸辺の風景だけじゃなかったみたい。
夜明けの向こうには、新しい世界があった・・・。
新しい何かが、起こりそうな予感がする・・・。
〜REI's version Fin.〜
筆者後書き
1999年の遅い「書き初め」を仕上げたMoonstoneです。本作は「落書き部屋」では初めての、通算でも2作目という
レイが主役のSSです。そういえば、「Where is my
Daddy?」でもまったく出番なかったっけ(^^;)。
嫌いだからという訳ではなくて、単に書いてないだけです、はい。
一応「Beyond the dawn」はもとより、「日だまりの心模様」の一連の作品はザッピングものです。
今後順時発表していくアスカとシンジを主役に据えた作品を含めた計3作品で一つの話を形成しますので、併せてご覧ください。
本当は一気に行く筈だったんですけど、勝手が分からなくて・・・(^^;)。HTMLソースにその形跡があります。
Moonstoneさんへの感想メールをお願いします!
tomonori@ims.ac.jp
までお願いします。