「あ〜〜、かったるいわねぇ・・・」
「何のびてるのよ、ミサト」
机に突っ伏すミサトを見て、リツコは呆れた声を上げた。
「だって退屈なんだもん。あ〜あ、一発どかーんと大きな事件でも起きてくれないかしら?どうにもやる気ってのが出てこないのよ」
「本当にあなたは非常時向きの人材よね・・・」
「誉め言葉と思っておくわ・・・って、リツコ。何か用なの?」
「別に。暇そうな葛城先生を見物に来ただけよ」
「嫌な趣味ねぇ・・・私も保健室の先生ってのが良かったわぁ、楽そうだし」
「・・・消毒用のアルコールは飲めないわよ、ミサト」
「・・・知ってるわよぉ・・・やれやれ、これからつまんない授業かぁ。それで給料貰ってるんだけど、どうにかならないもんかしら」
「つまんないって・・・」
「本当に、人生って予想出来ないわ・・・私が学校の先生なんてねぇ」
「それはあなたがくじ引きで負けたからでしょ。NERVから来てる中で、本当に先生として授業やってるのはあなただけよ」
「リツコがMAGIでちゃちゃっと裏工作でもしてくれれば、こんな事にはならなかったのに・・・ああ、私って不幸」
「紙に書いたあみだくじを、どうやればMAGIで操作出来るのよ・・・」
そんな話をしながらも、相変わらず机に倒れ込んでいるミサト。
「(これじゃ、生徒に悪影響しか与えないわね・・・)表で何か適当にやらせたら?」
「へ?」
「表で生徒を適当に遊ばせて、後でレポートでも提出させるのよ。少なくとも、教室で授業しているよりは楽なんじゃないの?」
「・・・ナイスな提案ね、リツコ・・・んで、採点するのが楽な物って言うと・・・絵って所かしら?」
「(そこまで楽をする気?)あなた、絵の事なんて判るの?」
「ぜぇんぜん。でも、あんなの適当に点を付けときゃOKでしょ。芸術ってのは、見る方の問題なんだし」
「・・・そう言うもんじゃ無いと思うけど・・・一つの理屈ではあるわね」
「よっこらしょっと・・・でも、どうせだったら保健体育の授業ってのはどぉ?」
「・・・」
「何も知らない少年少女にお姉さんがあれもこれも、手取り足取り服を取り。ぜぇんぶ教えてあげるのにねぇ」
(・・・まさか、ここでも飲んでるの?ミサト・・・)
「んじゃ、行ってくるわ」
からーん、からからから・・・
リツコの沈黙の問いは、転がったエビチュの空き缶が答えていた。
(・・・教師・・・失格ね)
HISOKA
「写生?」
「そ。折角いい天気なんだし、教室の中に居るなんて勿体ないわよ」
「そんな事言ってもねぇ・・・ミサト」
「葛城先生でしょ?」
「(・・・面倒ねぇ)葛城先生、あんた自分の受け持ちの教科は何だったか覚えてる?」
「さぁ。忘れたわ」
「・・・」
ミサトにも予想外な程、嫌な沈黙が教室を満たす。
「・・・ま、まぁそれは冗談としても。あんた達としても、かったるい授業受けてるよりは楽でいいでしょ?」
「・・・」
葛城ミサト、泥沼への次なる一歩を踏み出す。同居人のシンジですら、目が点になっていた。思い切り呆れ果てている。
(・・・どぉして誰も笑ってくれないのよぉ(しくしくしく))
「・・・自分で自分の授業をかったるいって・・・」
「・・・酔っぱらいの戯言にしちゃ上出来のアイディアだけど・・・んっとにどうしようもないあばずれ女ね。婚期を逃し続けて四半世紀とは良く言ったもんよ」
「そんなに短くないわ・・・」
「・・・あんたもなかなかシュートな突っ込みをするようになったわね・・・ファースト」
「酔っぱらいって・・・葛城先生ってそんなに飲むの?」
「まぁザルに酒を開ける様なもんね。一日のアルコール消費量は、ガロン単位じゃなきゃ数えられないわ」
「・・・バーレルの筈よ・・・」
因みに1米ガロンは3.7854リットル、1バーレルは158.98リットルである。極めて大雑把な例で言うなら、1ガロンは一升瓶二本分。1バーレルは一般的な浴槽一個分の容量になる。
「せっかくウケると思ったのに・・・みんな、私に優しくしてよぉ(しくしくしく)・・・いいもん、ヤケ酒飲んじゃうから」
生徒の白い目にさらされながら。ミサトは一人、そう誓っていた。
「う〜ん・・・」
目の前で、両の親指と人差し指で四角形を作りながらアスカ様が首をかしげる。さんざん文句を言いながらも、真面目に取り組んでいる姿が性格を表している・・・のかも知れない。
「構図としては悪くないんだけど・・・どうにもあの木がジャマねぇ」
「・・・あなたもそう思うの?」
「な、何よファースト!?いきなり出て来ないでよ、びっくりするじゃない!」
「あの木・・・ジャマなんでしょ?」
「そ、そうよ!それがどうかしたの!?」
「私もそう思ったの・・・それじゃ、さよなら・・・」
腰を上げて何処かに行こうとするレイに、アスカ様は嫌な予感を覚えた。反射的にレイに問う。
「・・・待ちなさいよ、ファースト。あんた、何をする気なの?」
「爆破するの・・・要らないから」
「・・・止めなさい」
「んぐっんぐっんぐっんぐっんぐっんぐっんぐっ・・・かぁ〜!お天道様の下でビールが飲めるなんて、幸せな仕事よねぇ(はぁと)」←教師とは、そんな仕事ではありません。
ぷしゅっ!
クーラーボックスにもたれ掛かり、ミサトは次なるエビチュのプルタブを開けた。
「手間もかかんないしぃ、これからずぅっとこうしようかしらね〜んぐっんぐっんぐっんぐっんぐっんぐっんぐっ・・・」
「・・・大体こんな感じなんだけど、ちょっと違うわねぇ・・・ここを、こぉして・・・」
アスカ様は、スケッチブックの上でやみくもに鉛筆と消しゴムを走らせている。感性の赴くままに、と言えば聞こえは良い。だが実際にには行き当たりばったりと言うべき代物となっている。
「よし!シンジ、どうよ?こんなもんで」
自分の描いた絵をシンジに無理矢理見せつけるアスカ様。満面に浮かべた笑みは会心の出来だから、では無い。誉めて貰う事しか想定していない為だった。
「・・・アスカ・・・それ、何?」
しかし。シンジにその手の器用さを求める事が、そもそも無茶な相談である。
「何って・・・見て判らない?」
「・・・判らないから聞いてるんだけど」
恐ろしいほど素直に、アスカ様の絵が下手だと指摘するシンジ。
「う、うるさいわね!こんなチンケな景色じゃ、私の芸術家としての魂が輝き出さないのよ!」
言いたい事は何となく伝わるのだが、やっぱり良く判らない事を言ってるアスカ様。要するに、こんな景色は書きたくないと言いたいのだろう。
「大体あんたはどうなのよ!人の事は言えるんでしょうねぇ!」
書きかけのシンジの絵をひったくりながら、アスカ様の脳裏にはシンジの絵をけなすための言葉が続々とリストアップされて行く。
(どんな絵を描いてるんだか知らないけど、あ〜言う事をほざく無礼者には思い知らせてやらないとね!)
だが。
「・・・」
シンジの画力はまぁ人並みなのだが、一つだけはっきりしている事が有る。それは、アスカ様の絵と比べれば遙かに上手だと言う事だ。
(っとにこいつは、バリバリの芸術人間ね・・・チェロと言い絵と言い料理と言い一般社会に出て役立つ事はからっきしなのに・・・!ちょっと待ちなさいよ!この私が、バカシンジに劣る部分が一つでもあるって訳ぇ!?そんなん納得出来る訳無いでしょ!・・・こんな物!)
びりびりびりっ・・・ぱっ
「ふっ・・・儚いわね、芸術って・・・」
発作的なアスカ様の怒りに触れ、舞い散るかつてのシンジの絵。今はただの紙吹雪を遠い目で見つめながら、いかにも思慮深げにアスカ様が呟く。
「・・・まぁいいか」
「え?」
予想外のシンジの台詞に、アスカ様は耳を疑う。
「あれちょっと変かなぁって思っていたから、おかげで一から書き直せるよ」
シンジは皮肉を言っているのでは無い。素直に感謝しているのだ。思い切って切り捨てた方が、結果として良くなる事の方が多いのだから。
(・・・こいつはぁああ!)
しかし。アスカ様に、そんなシンジの思いが伝わろう筈も無い。一気に血は沸点を越え、憎悪が意識を漆黒の闇の色に塗り潰す。
「・・・シンジ。あんたの芸術心ってのに、私がアレンジを加えてあげるわ」
「アレンジって・・・どうやって?」
「こうやって、よ!」
ざくっ、がきぃ!
一瞬でシンジの背後に回り、スリーパーホールドをかますアスカ様。両足でシンジの腰をホールドし、右手でシンジの後頭部を押してぎりぎりと頸動脈を締め上げる。
「っ・・・苦しいよ・・・アスカぁ・・・」
「どぉ!?段々景色が、シュールに歪んできたでしょ!」
必死になって、自分の首に巻き付いたアスカ様の腕にタップをするシンジ。
おーとーせ!おーとーせ!おーとーせ!おーとーせ!
もがくシンジを押さえ込みながら、アスカ様は幻聴を聞いていた。シンジのギブアップの合図にも気づかず、ぎりぎりとシンジの頸を絞めていく。
お願いだよぉ、ギブアップするから離してよぉ!アスカ・・・ぁ・・・?
かくん
シンジの首が前に倒れ、両腕がだらりと下がる。
「・・・あれ?・・・ちょっと!バカシンジ、演技は止めなさいよ!」
がくがくとシンジの体を揺さぶるアスカ様。無論反応は無く、シンジの頭がかくかくと揺れるだけだった。どう見ても、演技とは思えない。だいたいシンジに演技力があるとも思えないが。
「・・・ちょっとやりすぎたかしら・・・ん?そう言えば確か・・・気付けとか言って膝で背中を押すと気が付いたりするわよねぇ・・・それよ!」
シンジの背後に回ったままで、両腕を握り右膝をシンジの背中に押し当てるアスカ様。
「えーっと、ここをこうして・・・こんな感じよねぇ。まぁ失敗しても、今より状況は悪くならないでしょ」
根本的に誤った発想で、しかもうろ覚えの応急処置を施そうとする。
「ぅおりゃあ!」
ぐぎっ!
「・・・あら?・・・人間の肩って、こっちに曲がったっけ?・・・痛ててっ!曲がる訳無いじゃないって・・・え?」
「・・・」
力無く、シンジの体は前のめりに崩れ落ちた。それが返事だと言わんばかりに。
「・・・これは・・・ぜったいに、やばいわね・・・」
さらさらさら・・・
「ふぁ・・・ああって、幾ら何でも寝ちゃまずいわよねぇ・・・んじゃ、気付けにもう一本っと」
ぷしゅっ!
さらさらさら・・・
「んぐっんぐっんぐっんぐっんぐっんぐっんぐっ・・・ぷは〜〜!やっぱこの瞬間が最高よね!でも・・・おつまみ欲しいなぁ・・・シンちゃんに頼んじゃおっかなぁ」
さらさらさら・・・しゃっしゃっしゃ・・・
「?この音・・・何?・・・って、レイ!?ちょっと、あんた何描いてるのよ!」
「・・・あなたよ」
「・・・」
しゃっしゃっしゃっ・・・ごしごし、さらさらさら・・・
「・・・どんな風に描いてんのよぉ・・・どれどれ・・・はうぅっ!」
好奇心が怒気に勝り、ミサトはレイのスケッチブックをのぞき込んだ。その瞬間に、ミサトの動きが凍る。
極めて写実的に、レイはミサトの姿を描いていた。足下に無数の空き缶を置き、顔を真っ赤に染めてビールを流し込むその姿を。レイにも良心の呵責が有ったらしく、その人物画には黒く目を消す線が入っていた。それでもミサトの姿だと、誰にでも判るだろう。
「レイ・・・それ、提出したら・・・点数は無しよ」
「・・・そう、駄目なのね・・・」
惜しいとかもったいないと言った感情を一切感じさせず。スケッチブックをめくりながら、レイは冷ややかな目でミサトを見つめている。
「何よぉ、その目は!女だからビール飲んじゃいけないって言う訳ぇ!?」
「・・・」
「はんっ、所詮あんたには判りゃしないわよ!アスカやシンちゃんには冷たくあしらわれるし、馬鹿ガキ連中の程度に合わせたギャグは黙殺されるし、おまけに加持は最近ちっともかまってくれないし!飲まなきゃやってらんないのよぉ!」←生徒に愚痴っちゃいけません。
「・・・そうじゃ無いわ・・・酔えるあなたが羨ましいだけよ・・・」
「・・・飲む?」←未成年者にお酒を飲ませてはいけません。
「・・・はっ!天井が・・・ない・・・って・・・外か」
「おめでとう、バカシンジ!」
「・・・え?」
出し抜けの、妙に明るいアスカ様の声がシンジの耳に届く。
「びっくりしたわ、突然シンジが倒れちゃったもんだから。どうしたの?睡眠不足?」
妙に明るい声と表情のアスカ様。その満面の笑みを浮かべた顔が、僅かに引きつっている事をシンジは見落としていた。それに昔から言う。犯罪者は己の罪を隠すために饒舌になる、と。
「?・・・僕は・・・寝てたの?」
「ああ、可哀想に!未だ意識が朦朧としてるのね!」
「・・・そうだった・・・のかな?」
「まさかシンジ!知らない間に、リツコに怪しい薬でも飲まされたの!?」
「?・・・じゃ、あれは全部・・・夢だったって事?・・・うぅっ!」
「!?どぉしたの、シンジ!」
「・・・体の節々が痛くて・・・それに、やけに息苦しいんだ・・・」
「体の節々って・・・やぁねぇ、ミサトみたいに年寄り臭い事言わないでよぉ。でも息苦しいってのは問題ね・・・じゃあ、もう少し横になっていたら?少しは楽になるかも知れないわ」
「そうだね・・・そうするよ」
(ほっ・・・どうやら誤魔化せた様ね。ふんっ、バカシンジを言いくるめる事なんざ、この私の手に掛かれば赤子の首を捻る様なもんよ)←手です。それに、本当に捻った者の使う喩えではありません。
(おっかしいなぁ・・・アスカってこんなに優しかったっけ?)
首を傾げながら、シンジは考え込む。首を傾げる時の激痛が、夢では無く事実だと教えている筈なのだが・・・そんな疑問を胸に、取り敢えずシンジは草むらに横になった。
「?・・・どうして正座なんてしてるの、アスカ?」
「・・・別に意味なんてないわよ」
膝枕でもしようとしていたらしいアスカ様は、ぎゅっと拳を握り。シンジの愚かすぎる問いに、可能な限り感情を押し殺して答えるのがやっとだった。
(あ〜、もうっ!どぉしてこいつは、こんなに鈍いのよぉ!)
そんなもんを、求めるあなたが間違っている。
「・・・何をしてるの?」
「ふ、ファースト!?なな何もしてないわよ!大体なんでいつもあんたは突然現れるのよ!」
「碇くんが呼んでいたから・・・ギブアップがどうとかって。何をしたの?碇くんが倒れてる・・・」
「あの・・・綾波?僕、寝てるんだけど・・・」
「そう・・・生きてるのね・・・良かった・・・」
「別に殺そうと・・・じゃなくって!あんた!何か用でもあるの!?」
「・・・碇くんに有るの。行き倒れを見つけたけど・・・どうすればいいの?」
「行き倒れ?」
「あんた、随分時代錯誤な物言いをするわね・・・」
「見に来ると判るわ・・・そう言った理由が」
「勿体付けるわねぇ。はっきり言いなさいよ、ファースト」
「・・・楽しみが減るわよ・・・?どうしたの・・・それ?」
「?それって?」
「気が付いてないのね・・・動かないで・・・」
かぷっ
レイがシンジの首にむしゃぶりつく。それを見て、アスカ様とシンジの時が止まった。
綾波が僕の首筋に噛みついている・・・?何かを吸っているみたいだ・・・。生暖かい感じが首筋から伝わってくる・・・。
首筋を、綾波の漏らす息がくすぐっていた。僕の鼻腔を、綾波の匂いが満たして行く。いいや・・・綾波が僕そのものを覆い尽くして行くみたいだ・・・ああ・・・理性が・・・いっその事ここで・・・でも、アスカも見てるし・・・。
食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ・・・って、そうじゃない!
「な!・・・なななな何をするんだよ、綾波ぃ!?」
やけに状況を楽しんでいた様な気がするが、シンジはレイを自らの体から引き剥がす。その声で、ようやくアスカ様も我に返った。
「あああんたねぇ、公衆の面前で何やってんのよ!」
「・・・私と碇くんの他には、あなたしかいないわ・・・碇くんの首が鬱血しているから・・・悪い、汚れた血を抜いてあげたの・・・」
「・・・え?」
血に塗れた唇を拭うレイの一言で。自らの首が黒々と変色していた事に、シンジはこの時初めて気が付いた。
「・・・どうして、こうなったんだろう・・・?」
「さ、さぁ?不思議な事もあるもんねぇ。とにかく!さっさと行き倒れとやらを見に行きましょ、シンジ!」
「う、うん・・・」
「・・・これが、行き倒れね・・・」
「そう・・・」
何人もの生徒が輪を描く様に立ち竦んでいる。興味本位で近寄りたい気持ちが半分、遠巻きに関わり合いたくないと言う気持ちが半分で。
円の中心には、一人の女性が横たわっていた。死んでいるのでは無い。高いびきをあげながら眠っている。
ただ眠っているにしては、その姿には品が無さ過ぎた。はしたないとかみっともないと言う言葉が、余りにも似合いすぎる。仰向けになって、ほぼ大の字となり。幸せそうな笑みを浮かべて、その女性は眠っている。
「・・・ミサトさん・・・」
ミサトの周囲には、無数のビールの空き缶が転がっていた。緩やかな風に揺れ、飲み干した主に添い寝をする様に。
「・・・あれ、変だな・・・どうして歪んで見えるんだろ?」
「心が痛いからよ・・・」
「情けないのは判るけど・・・シンジ、何も泣く事は無いでしょ・・・相田は居る?」
「・・・何をする気なの?」
「この馬鹿に、制裁を与えないとね・・・」
「駄目だよアスカ、仮にも先生に暴力は」
「どぉして私が制裁って言うと、直に暴力につながるのよ!」
「だっていつも・・・はぐっ!」
がきいっ!
アスカ様の黄金の右から繰り出された電光石火のアッパーカットが、シンジの顎を捉える。
「だから、なのよ・・・」
「うっさいわねぇ。雉も鳴かずば喰われまいにって言うでしょ?」
(・・・撃たれまい・・・だよ、アスカぁ・・・)
「ん?来たみたいね。早速だけど相田!あんたに命令するわ。この馬鹿の写真を腐る程取りなさい!」
「・・・これを?」
「フィルムを何本使っても、その分はNERVの経費で落としてあげるから。その代わり現像後に、写真共々フィルムは総て没収するからね」
「・・・僕のメリットが無いじゃないか・・・」
「あんたに芸術家としての名声を与えてあげるわよ(にやり)。世間一般に知れ渡る程にね・・・不服?」
顎を押さえて横たわるシンジの姿を横目で見て。断るだけの勇気は、彼に有ろう筈も無い。
「相田ケンスケ、一命を賭して写真を撮らさせて頂きます!」
「いい?こう言う時じゃなきゃ撮れない様な、傑作を撮りなさいよ・・・」
「おい、葛城・・・ちょっといいか?」
「え?なぁに、加持くん」
もしかして、ひさかたぶりのデートのお誘い!?通路の陰となった所で手招きをする加持に、スキップをしながらミサトは駆け寄る。まるで主人に呼ばれて、尻尾を勢い良く振る子犬の様に。
「・・・葛城、見て欲しい物が有るんだが・・・」
え!?何?何なの、見て欲しい物って?ひょっとしたら婚約指輪とか!?
浮かれまくるミサトの前に加持が取り出したのは、一冊の雑誌だった。
「・・・投稿写真?・・・これって確か・・・!ちょっとぉ、こんな雑誌をレディの前で広げるなんて何考えてるのよぉ!」
「いや、うちの若い連中が見てる雑誌なんだけどな・・・」
「ちょっと貸しなさいよ・・・うわぁ・・・こんな事までぇ?・・・したいの?」
「・・・そうじゃない・・・問題はここなんだ・・・」
「?何処よぉ・・・ここ?・・・!」
「これ・・・もしかしてお前か・・・?」
そこには。目線に消しを入れられた、短めの黒いスカートが破れんばかりに両足を広げて、酔い潰れて眠る一人のレディの姿が写し出されていた。
間違いないわ・・・これは私・・・でも、どぉして・・・どぉしてぇ!
フリジットプリズンを喰らったが如く、凍てつき身動きの叶わぬミサト。そんなミサトをやや虚ろになった目で一瞥してから、加持は口を開いた。消え入る様な、震える声で。
「これ以上、自らを貶める行為は慎んでくれ・・・頼む」
「・・・(はっ!)あぁぁぁあのそのこれはね・・・加持くん?」
二秒程度の沈黙を肯定と判断し、今更始まったミサトの弁明に耳を貸さずに加持は去っていく。背中に哀愁を漂わせ、心なしか寂しげな足音を残して。
ひゅう〜
取り残されたミサトは、木枯らしの鳴る音を確かに聞いていた。
「・・・うぅっ、又独り寝の夜が続くのね・・・」
袖口で、浮かんでもいない涙を拭うふりをするミサト。それからふと思い立って、ミサトは再び食い入る様に写真を見つめた。
「・・・これ、一体誰が投稿しやがったのよ・・・えぇっと、投稿者ケンスケ・・・ケンスケって・・・!相田ぁ!?」
ばりっ!
ミサトの手から雑誌が千切れ飛ぶ。
「あんのクソガキぃぃぃ!」
ミサトは反射的に、懐から携帯電話を取り出した。目で確認する事無く、ボタンを叩く。
「もしもし、保安部?私よ、葛城・・・そ、作戦部長のね。命令よ。相田ケンスケって言う中学二年生を至急拘束しなさい。え?容疑?そんなもんあんた達で考えなさい!拘束後は何をやってもいいから、絶対に吐かせなさい・・・何を?だからそんな事、あんた達で考えなさいって言ってるでしょ!いい、口を割るまでは殺しちゃ駄目よ・・・え?口を割った後?そんなもんどうでもいいわよ・・・ガキの一人や二人、くたばった所で誰も悲しみゃしないわ・・・」
それから三十分後。一人の少年が、黒い背広にサングラスの男数人に拘束された。
「僕が何をしたって言うんだぁああああ!」
「俺達にも判らんよ。だが、これが俺達の仕事だからな・・・」
彼は黒塗りの車に投げ込まれ。その行方は・・・誰にももう、判らない。
おしまい
INAさん、本当にありがとうございました!!
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