「パターン青、使徒です!」
 伊吹マヤの澄んだ声が、司令室に響き渡る。
 「エヴァ各機。発信!」
 マヤの言葉を受け、葛城ミサトの凛とした声が続く。
 珍しく真剣な表情をしている。
 正面の巨大なスクリーンには、使徒、と呼ばれる巨大な異形の生物と、それを迎え撃つ戦自の戦闘機の姿が映し出されていた。
 しかし、使徒、天使の名を冠したその敵の前に、そのような兵器などが通用するはずもなく、さながら紙飛行機のように、あえなく一機、また一機と墜とされていく。
 「無駄、だな。」
 「ああ。」
 相変わらずなにを考えているのか良く分からない二人。
 碇ゲンドウと冬月コウゾウ。
 この、特務機関ネルフと呼ばれる組織の、司令と副司令の地位にいる男たちである。
 「しかし、いいのか?」
 「問題ない。」
 やはり良く分からない。
 なにが問題ないのかは知らないが、そう言ったゲンドウの視線はモニターに映し出された、紫色の巨人へと注がれていた。
 エヴァンゲリオン初号機。
 その操縦席にいるのは、彼の息子、碇シンジであった。
 その姿を見詰めゲンドウは・・・実は何も考えていなかった。




新世紀EVANGELION
〜Lost Memories〜
Produced by <人類総マナリアン計画実行委員>



 「シンジくん、辛そうですね。」
 そう言ってマヤは、エントリープラグ内のシンジを気遣う。
 「あんなことがあった後、だからね。」
 真面目な顔でそう返すミサト。
 端から見ていれば、まともな会話に見え、事実、日向マコトや青葉シゲルからは、ミサトもマヤもシンジを気遣う優しい女性、と見えていた。
 しかし、この場に居合わせたもう一人の女性に言わせれば、そうではない。
 『ショタコンビが。』
 白々しいやり取りを後ろで見つめつつ、赤木リツコはそう心の中で呟いた。


 さて、その標的にされているシンジであるが、いつにもまして暗く沈んでいた。
 その原因はつい先日起こった、謎の人型兵器の事件。
 兵器の名が"トライデント"というものであったということも、そこに軍が関わっていたということも、シンジにとってはどうでもいいことであった。
 シンジの心の中にあるのは、一人の少女。
 初めて好きと言ってくれた少女。
 初めてシンジに人を好きになることを教えてくれた少女。
 初めてシンジが好きになった少女。
 初恋の、少女。
 その少女の名は、霧島マナといった。
 軍のスパイとして送り込まれた彼女は、任務からシンジに近づいた。
 だが、そのふれあいの中で、彼女はシンジを愛し、庇い、そして、光の中に消えていった。
 恋人の死。それを簡単に受け入れられるほど、シンジはまだ、大人ではなかった。
 死んだ、とは思いたくなかった。
 けれど、
 そんな気持ちを抱えたまま、しかしシンジはエヴァンゲリオンのコクピットにいた。
 彼女を追いつめた、そのエヴァの中に。


 「危険ね。」
 そのリツコの言葉は、その場にいる全員の思いでもある。
 今のままのシンジを戦いに向かわせるのがいかに危険で、残酷か、それはもちろんわかってはいる。
 けれどそんな少年の感傷に構っていられるほど、余裕もないのが実情でもあった。
 戦いとはかくも悲しく、辛いものなのである。
 だから、惣流アスカはこう叫ぶ。
 「いつまでもうじうじしてんじゃないわよ!」
 彼女なりの思いやり、激励、だと思う。
 たぶん。
 嫉妬、では・・・ない、はず。だよな?
 綾波レイは何も語らない。
 ただ、いつもと同じようにシンジを見つめるだけ。
 ほんの少しだけ、いつもより憂いを浮かべた表情で。
 

 その彼らの危惧は、残念ながら現実のものとなってしまう。
 零号機と弐号機、二機のエヴァに追いつめられた使徒は、その活路を初号機の方へと求めた。
 心に迷いを持つシンジは、向かってくる使徒を避けることができなかった。
 そんなシンジを守るべく、アスカもレイも使徒を追う。
 もはや逃げ道はないと感じたのか、使徒は自爆を図る。
 初号機を巻き込んで。
 爆発、閃光、そして衝撃。
 しばし後、視界が回復したその特。
 使徒はその姿を消し、後にはぼろぼろの初号機だけが取り残されていた。


 特殊装甲と、そしてATフィールドに守られているエヴァである。
 たとえその機体がぼろぼろになろうとも、中のシンジの命はかろうじて守られる。そのはずであった。
 そして、
 確かに、シンジの身は無事ではあった。
 ただ一つ、その記憶を除いて。






 「記憶喪失ぅ〜!?」
 そう言って大声を張り上げるのはもちろんアスカ。
 「使徒がその姿を消す時に、一緒にシンジくんの記憶を吸い取った、ということね。」
 「いったいどういう理屈よ。」
 しれっとした顔でそう述べるリツコに、ミサトがもっともな突っ込みを入れる。
 「そんなのわからないわよ。」
 「ならなんでそう言いきるのよ。」
 「こんなもんきょうびの科学者が直感で分からないでどうするのよ。」
 おいおい。
 ちなみに当のシンジは、なにがなにやらわからず、ほけーっとしている。
 あまりいつもと変わらないような気もするな。
 「じゃあ、アタシたちの事も覚えてないって言うの?」
 芝居じみた言い方で、そう叫ぶアスカ。
 これを見る限り、どうも状況を楽しんでいるようにしか見えない。
 が、そんなことにシンジが気付くはずもなく、
 「ごめん。そう、みたい。」
 心底すまなそうにそう謝る。
 記憶があってもなくても、あまり言動は変わらないようだ。
 「あんなに愛し合った仲だったのに!」
 ここぞとばかりに大嘘をかますアスカ。
 ちなみに嘘の中には個人的願望が120%。
 「え?し、知らないよそんなこと!」
 「ひどいわ、キスまでした仲だったのに!」
 誰かこの女止めろよ。
 「なに言ってるのアスカ!」
 そうそう、さすがミサトさん。大人である。
 「シンちゃんは私の恋人だったのよ!」
 ・・・
 「ちょっと葛城さん!シンジくんは私の・・・」
 「碇くんは私の恋人。」
 マヤやレイまで加わり、はやくも泥沼の様子を呈する戦場。
 リツコの、
 「無様ね。」
 という一言が全てを端的に表していた。
 なおシンジは。
 「最低だったんだ、僕って。」
 深い自己嫌悪に陥っていた。






 「記憶喪失やて?」
 「本当か、シンジ。」
 「大変ね。」
 翌日シンジは学校に来ていた。
 友人たちと接すれば記憶が戻るきっかけを掴めるかもしれない、というリツコの発案である。
 案としては悪くないのだが、その友人が友人だから、ねえ。
 「お前はクラス一のおちょうしもんやったんや。」
 「洞木さんとは恋人同士で・・・」
 一体何人彼女がいることになるんだろう。
 「ちょ、ちょっと相田くん、私まで巻き込まないで・・・」
 そういうヒカリの叫びは、シンジには届いてはいなかった。
 が、そうからかいつつも、トウジやケンスケには、けれどほんの少し複雑な想いがある。
 あの辛い思い出もまたないのなら、それはそれでシンジにとっては幸せなのかもしれない、と。
 いい友人たちである。
 ま、アスカ同様この状況を楽しんでいる節も、大いにあるが・・・
 そんなこんなで教室につくまで質問攻め、&おもちゃにされたシンジ。
 が、ここでも彼に待っていたものは・・・
 「そうか、ほんまに何も覚えてへんのか。」
 教室の扉を開けながら、トウジがそう話し掛ける。
 だが、そのトウジの言葉に答えたのはシンジではなかった。
 「じゃあ。私のことも忘れちゃったの?」
 「え?」
 「好きだ、って言ってくれたじゃない!」
 さあ、いったい何人目の恋人でしょう(笑)。
 まったくどいつもこいつも。
 しかし、それに対するシンジの反応は、それまでとはまったく違っていた。
 「マ・・・ナ?」
 そこにいたのは、死んだはずの、シンジにとって何より、誰より大切な少女。
 そして。
 「やっぱり本物の彼女だと威力が違うわね。」
 と、アスカの神経を逆なでするような台詞をさらっと言ってのけるのは、もちろんリツコ。
 が、そのリツコの言葉は、幸運にもアスカには届いてはいない。
 なぜなら。
 「なんでアタシはわかんなくって、この女ならわかるのよ!」
 どうにも収まりのつかないアスカ。そりゃ当然だろう。
 「愛情の差じゃない?」
 逆なでしまくりのリツコ。
 「だいたい死んだんじゃなかったの、アンタは!?」
 「救命カプセルで脱出して、保護されたって、言わなかったかしら?」
 リツコのこの言葉を聞く限り、大人たちは皆知っていたようだ。
 「聞いてないわよ!」
 ちなみにそんなやりとりを、シンジとマナは・・・実はまったく聞いていなかった。
 「シンジ・・・」
 目に涙を浮かべ、シンジにその身を任せるマナ。
 「マナ、マナ、マナ!」
 流れ落ちる涙を拭おうともせず、マナをしっかりと抱きしめるシンジ。
 「良かったな、シンジ。」
 「ほんま、良かったわ。」
 思わずもらい泣きするケンスケとトウジ。
 そのトウジの横で、ヒカリもまた、涙で言葉はない。
 無言のまま、そっとトウジに寄り添う。
 「ありがとう、トウジ、ケンスケ。」
 マナの存在が、シンジに記憶を取り戻させたようだ。
 「愛の力は偉大ね。」
 ぎゃあぎゃあ喚くアスカなどそっちのけに、リツコがそう呟く。
 「リツコさんが、マナを?」
 「言い出したのはリョウちゃんだけどね。」
 「加持さんが・・・」
 出番もないくせに、しっかりおいしいとこは持ってく加持リョウジであった。
 ちなみに今彼は・・・実はミサトとマヤの執拗な追撃に遭っていた。
 「なんであの子を連れ戻したのよ!」
 「ああ、私のシンジくんが〜」
 おいしい、かなあ?


 さて、忘れられつつあるアスカ。
 「ちょっとシンジ!」
 嫉妬の炎を燃やしつつシンジに迫るアスカであったが、次のシンジの一言がアスカを奈落の底に突き落とした。
 「あ、アスカさん。」
 「アスカ・・・さん?」
 「もしかしてシンジお前。」
 「アスカのこと・・・」
 「え?アスカさんがどうかしたの?」
 どうやらアスカのことだけ、シンジの記憶から抜け落ちているようであった。
 「よっぽど、思い出したくなかったのね。」
 シンジの横でうんうんと頷くマナ。
 「あれ、マナはアスカさんと知り合いなんだ。」
 思いっきりボケまくるシンジ。
 その一言一言がアスカに鋭く突き刺さる。
 「ううん。全然。」
 マナもマナである。酷すぎ。
 その時、
 プツン、とどこかで何かが切れる音がして、
 「アンタらー!」
 アスカ、大爆発。
 「きゃあ。シンジ助けて!」
 わざとらしくシンジにしがみつくマナ。
 その様子にさらに烈火の如く怒るアスカではあったが、これはまったくの逆効果であった。
 シンジにしてみりゃ愛しい愛しい恋人と、見ず知らずの女(!)である。
 比較するまでもない。
 だから当然、
 「マナは、僕が守る。」
 となるわけなんだな、これが。
 完全にアスカは敵だよ、これじゃ。
 「うがー!」
 さらに怒りを増すアスカ。既に人外魔境。
 「そうか、アスカさんは使徒だったんだ!」
 おいおい、どこをどうすりゃそういう発想が出てくるんだ、お前は。
 「なるほどね。人の姿を借り、人間社会に溶け込もうとする新たな使徒。これは貴重なサンプルだわ。」
 こらこら。
 間違いなくわかっていながら悪乗りするリツコ。
 「シンジくん、霧島さん、使徒を捕獲するのよ。連れ帰って解剖しなきゃ。」
 ああ、アスカの運命やいかに。


 結局、
 なんとか解剖だけは免れたアスカであったが、最後までシンジに思い出してはもらえなかったそうな。
 「人には、決して忘れたくないことと、何があっても忘れていたいこと、その二つのものがあるものなのね。」
 レイちゃん、見事に締めてくれてどうもありがとう。




−おわり





あとがき

ジェイ:ども、はじめましてジェイという者です。趣味でエヴァ小説、というかマナちゃんとシンジくんのラブラブ小説を書いてます。
マナ:私メイン、というわりには出番少ないんですよね、私の。
ジェイ:その代わり一番おいしいとことってるからいいでしょ。
マナ:いやあ、一番おいしいのはアスカさんでしょう。別の意味で。って、あれ?アスカさんは?
ジェイ:あっち。
アスカ:フガフガフガー!
マナ:なんです?あれ。
ジェイ:いや、うるさそうだから。つい。
マナ:大丈夫ですかね。
ジェイ:エヴァの装甲と同じ材質の鎖で縛ってあるから、大丈夫でしょう。
マナ:では気を取り直して、本編の説明いきましょう。
ジェイ:基本的には鋼鉄の直後から、サターン版の1を元に、コメディ調に。
マナ:アスカさんがお笑いを一手に引き受けてるんですよね。
ジェイ:シンジくんとマナちゃんはひたすらラブラブに。アスカはへっぽこにって言うのがコメディかく時の基本だから。
マナ:またそうやってLASに喧嘩売って。
ジェイ:でもそれが売りでもあるし。
アスカ:なぁにが売りですってー!?
ジェイ:うわぁ、鎖を食いちぎってきやがった。
アスカ:覚悟はできてるんでしょうねえ。(バキバキ)

以下、正視に堪えない状況なので省略。

マナ:な、なんかものすごいことになってるみたいなんで、今日はこの辺で。では、これからもよろしくお願いします。



新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。


ジェイさん、本当にありがとうございました!!

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komatsu@yk.netlaputa.ne.jp
までお願いします。


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