ある晴れた日の午後 〜碇シンジのモノローグ〜
人類総マナリアン計画



 それは暖かな春の日の昼下がりだった。
 僕は、待ち合わせの場所へと足を向けていた。
 街の真ん中。
 大きな大きな時計台の下。
 知らず知らずのうちに、歩みが速まる。
 彼女とのデート・・・
 2回目のデートだ。
 いや、3度目かもしれない。
 あれを、デートと呼ぶならば・・・


 初めてのデートは、湖で。
 彼女が見たいといった湖。
 湖を見たことがない、といった彼女の言葉は嘘だったけど、湖を見たいといった彼女の気持ちは、ほんとだった。
 僕のことを好きだと言ってくれた気持ちも、きっと本物だった。そう、僕は信じている。
 あの日、初めて交わしたキスも、キスしてくれたその気持ちも、間違いなく本物だった、と。


 僕にとって、生まれて初めてのキスだった。
 伝わってくる彼女の唇の、優しく、柔らかな感触。
 甘酸っぱいような、くすぐったいような、不思議なその気持ち。
 ほんの少しだけ、ほろ苦い、その思い出。
 アスカとしたキスとも、ミサトさんとしたキスともまったく違う。
 僕にとって、一番大切な思い出。
 それだけに、苦い思い出。


 彼女が軍の人間でなかったなら、僕がエヴァのパイロットでなかったなら。
 何度そう思ったことだろう。
 そしたら、ずっと一緒にいられたのに。
 なにごともなければ。
 普通に出会い、普通にひかれ会い、そして普通に結ばれることができたのだろうか?
 きっと、そうだったんだろうと思う。
 街を歩くたびに、目に飛び込んでくる恋人たちの姿に、自分と彼女を重ねあわせ、僕は思いつづけた。


 2度目のデートは、彼女との別れの日。
 彼女は軍に追われる身となり、僕らの、いや僕の、目の前から姿を消さなければならなくなった。
 そんな彼女に何もしてやれない、自分が情けなかった。
 最後に一目、こうやって彼女に会えたのも、僕の力じゃない。
 加持さんが、会わせてくれたから。
 最後の最後まで、僕は何一つ、できなかった。
 青く澄んだ空を見上げて、彼女が言った言葉だけが、いつまでも僕の耳に残っていた。
 『いつか、必ず会いに来るから。』
 涙をこらえて、笑顔で彼女が言った、その言葉だけが。


 でも、戦いの中で、僕は次第に彼女を忘れていった。
 いや、正確には忘れようとしただけだ。
 彼女を忘れようと、綾波に縋り、ミサトさんに縋り、そして、アスカに縋った。
 でも、駄目だった。
 他の人に縋るほど、僕の中でどうしようもない彼女への想いが募っていくのがわかった。


 サードインパクトのあったあの日。僕は綾波にこう言った。
 「自分が好きになれそうな気がする。」と。
 『彼女が好きだと言ってくれた自分』を。
 そうだ、結局僕の心の中にはずっと彼女がいた。
 目の前にいなくとも、たとえ触れ合うことができなくても、彼女はいつも心の中にいた。
 僕を支えていてくれた。
 僕にはどうしても彼女が必要なのだと、その時知った。


 けれど、それを認め、そして行動に移るまでには、それから更に10年もかかった。
 何もかも、しがらみも、束縛するものも、本当に何もかもが無くなった。
 会いに行こうと思えばいつでも僕は彼女に会いに行けた。
 それを邪魔するものはもうない、はずだった。
 でも、僕は行けなかった。
 表向きの理由は、アスカがいたから。
 僕を必要としてくれる、僕が必要としている人。そんなアスカをほおってはおけないから。
 でも、それは嘘だ。
 それは詭弁で、自己欺瞞で、偽善だと、どこかで気付いていた。
 本当は怖かっただけ。
 変わってしまった彼女を見るのが。
 自分がもう必要とされていないと言われるのが。
 なにより、もう、彼女は僕のことを好きだと言ってくれないかもしれないということが、一番怖かった。
 だから僕は逃げた。
 アスカに。
 けれどそんな僕の気持ちを、アスカはずっと知っていた。
 けれどそんな僕の気持ちが、アスカを傷つけていると、僕は知らなかった。
 そして、
 アスカは僕の元から、去っていった。
 僕はまた、そんな自分が嫌いになった。


 そんな時、僕は彼女に再会した。
 10年ぶりに再会した彼女は、僕の思い出の中の彼女と、何一つ変わってはいなかった。
 もちろん、少女だった彼女も大人になり、見違えるほど、きれいになっていた。
 けれど、その優しさも明るさも、何より僕を好きだと言ってくれたあの時の気持ちも、まったく変わってはいなかった。
 だから僕は迷わなかった。
 そして、もう一度、自分を好きになろう、と心に決めた。
 彼女が好きだと言ってくれた、その自分を。


 待ち合わせの時間まで、まだあと30分もあった。
 でも、彼女はもう、そこにいた。
 10年ぶりのデート。
 それがいかにも待ちきれない、と言った風な仕種で。
 そんな仕種が、なぜか無性にいとおしくて、
 「マナ!」
 そう、僕は彼女の名を叫んだ。
 春の風が、静かに彼女の髪を揺らし、そのそよ風の中で、彼女は微笑んだ。
 「シンジ!」
 駆け寄ってくるマナを、僕はしっかりと、抱きしめた。


Fin




あとがき

ジェイ:ども、人類総マナリアン計画第二段です!。
シンジ:なんか、ある意味すごい話ですね。マナの日用のマナSSなのにマナが出てこない。
ジェイ:問題ない、予定通りだ。
シンジ:なにが予定通りなんですか、なにが。
ジェイ:まあそれはそれとして、
シンジ:話を逸らしましたね、まったく都合が悪くなるとそれなんですから。
ジェイ:マナちゃんと再会してハッピーエンド、はいいんだけど、アスカはどうなったの?
シンジ:あ!え、えっと、
ジェイ:すっかり忘れてるよねえ。これはちっとひどいんでない?
シンジ:それは・・・その・・・
アスカ:その、なに?
シンジ:ア、アスカ!?
ジェイ:ゲ!・・・じゃ、じゃあ、あとは二人で、ごゆっくり・・・(すたこらさっさー)
シンジ:ああ!?ジェイさん!
アスカ:さ〜て、シンジくん?
シンジ:あ、いや、その・・・。・・・ごめん。
アスカ:ごめんですむかー!悪・即・斬!
シンジ:うぎゃあー!


メールアドレス:komatsu@yk.netlaputa.ne.jp






新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。


ジェイさん、本当にありがとうございました!!

ジェイさんへの感想を!
「新・落書き伝言板」
または、メールでお願いします。


「投稿作品展」へ戻ります。