クリスマス・スペシャル
『期間限定のマリア』 (中編)
by ミカンの大作
――翌朝・・・。
コンコン。
「アスカ・・・さん!朝ですよ、アスカさん!」
すでに第壱中学の女生徒の制服に着替えたマリアが、アスカの部屋の扉をノックをした。
しばらくすると、ゴソゴソと部屋の中で物音が聞えたと思うと、アスカが眠そうに目を擦りながら起きてきた。
寝起きの彼女の髪の毛は、ものの見事に爆発していた。
「う〜、おはよう〜、江戸川さん〜・・・」
「おはようございます。早く朝食を食べないと、学校に遅れますよ」
まだ完全に目が覚めきっていないアスカが、
キッチンのテーブルの上に並んでいた朝食を見て、驚きの声を上げた。
「うわ〜、すっご〜い!これ、みんな江戸川さんが作ったの?」
「そうですよ、さ、どうぞ」
「いっただきま〜す!」
と、アスカは、さっそく、眠気覚ましにとみそ汁を啜り始めた。
その様子を、エプロンをとりながらマリアがニコニコと見守った。
「ん?あれ?」
「ど、どうしました?口に合いませんでしたか?」
お椀を片手に首を傾げたアスカに、マリアが聞く。
「そうじゃなくて、このお味噌汁・・・、シンジの作ったのと同じ味だから・・・」
――ギク!
「そ、そうですか!?き、既製品のお味噌だから、どこにでもある味なんですよ、きっと!あはは・・・」
引き攣った笑いで、その場を誤魔化す。
さすがに、味付けまでは気が回らなかった。
(今度から、味噌の銘柄を変えよう・・・)
●
昼まで寝ているであろうミサトを放っておいて、二人は、早々に学校に行く事にした。
今にも雪が降ってきそうな空の下、肩を並べて歩く二人。
途中、道行く何人もの人が、この飛びっきりの美少女達に足と止めて振り返っていく。
――断っておきますが、『江戸川マリア』の中身は『碇シンジ』です。
「悪いわね、江戸川さん。お弁当まで作ってもらっちゃって」
「そんな、気にしないでくださいよ、アスカさん」
「本当に、ありがとうね。あ、そうだ!アタシの事、『アスカ』って、呼び捨てにしてもいいよ」
「えっ、そ、そうですか、じゃ、じゃあ、私の事も、『マリア』でいいです」
「そう?じゃあ、さっそく・・・、ねえ、マリア?」
「は、はい?」
「ボヤボヤ歩いていると、遅刻しちゃうわ!走るわよ!」
いきなり、マリアの手を引っ掴むと、アスカは元気一杯駆け出した。
「あ、あの、ちょっと!」
半分、アスカに引きづられるようになりながらも、マリアがそれに着いてゆく。
(へぇ〜・・・、アスカって、こういう所もあるんだ)
などと、普段では見れないアスカの『意外な一面』を見て、新鮮な感じがした『マリア』こと、碇シンジであったが、
(アスカと手を繋いで登校しちゃってるよ、僕!)
と、内心、『ガッツポーズ』も取っていた。
●
――第壱中学校、2−Aの教室・・・。
キンコーン、カンコーン〜。
「起立、礼、着席!」
ガタガタ・・・。
「おはようございます。え〜、皆さん、今日は転校生を紹介します」
老教師が早々に朝の挨拶を済ませると、廊下に待っていたマリアを教室に招き入れた。
教壇に立った彼女に向かって、生徒達の視線が一斉に集まってくる。
「あ、あの、え、江戸川マリアです、よ、よろしく」
おっかなビックリで、自己紹介をしたマリア。
微笑んだつもりであったが、その顔はかなり引き攣っていた。
『マリア』と名乗った少女が、転校生だとわかった瞬間、
「「「ばんざ〜い!ばんざ〜い!ばんざ〜い!」」」
と、男子生徒全員から万歳三唱が沸き上がった。
転校生が女子生徒、しかも、美少女とあって喜ぶ、男子生徒達。
(流行ってるのかな・・・、『ばんざい』って・・・?)
彼女は首を傾げて、そんな事を考えていた。
「それでは、江戸川さんの席は、そうですね、しばらくお休みする、碇君の席にでも座ってください」
「は、はい」
「じゃあ、皆さん、仲良くしてあげてくださいね」
老教師は、『この時間は、親睦を深める時間にして下さい』と言い残すと、そのまま教室から去っていった。
マリアが『碇シンジ』の席、つまり、自分の席に座ると、その周りに生徒達が集まってきた。
その大半は、男子生徒であるが・・・。
「ねえねえ、江戸川さんって、どこに住んでるの?」
「い、今は、アスカさんと同じマンションに下宿を・・・」
「って事は、碇とも同じひとつ屋根の下に!クソ〜、惣流どころか、江戸川さんまでも・・・!ゆるせん!」
シンジに対して、怒りを露わにする男子生徒に、マリアは顔を引き攣らせた。
男に戻った時の事を考えると、恐い気もする。
「江戸川さん、『彼氏』は?」
「い、いませんよ、彼氏なんか!」
「やった〜!じゃあ、今度の学校主催の『クリスマス・パーティー』に、ボクと行こうよ!」
「何言ってんだ!マリアちゃんは、俺と行くんだ!」
マリアを巡って、早くもモメ出す男子生徒達。
そんな彼らを尻目に、
(こんなに人からチヤホヤされたの、生れてはじめてだよ・・・。女の子になって、ちょっと、得したかも?)
と、『マリア』こと碇シンジは、そんな呑気な感慨に浸っていた。
「オラオラ、道を開けんかい!」
群がる男子生徒を掻き分けて、『三バカトリオ』の構成員、鈴原トウジと、相田ケンスケがマリアの前にやって来た。
「ワイは、鈴原トウジ、よろしゅう!」
「オレ、相田ケンスケ!ねえ、写真を撮らしてよ」
「へ!?い、いいですけど」
「うっひゃ〜、新商品だ〜!」
小躍りしながら、何度もシャッターを切るケンスケ。
この写真がどのように使われるか予想がついて、マリアはタラリと汗を落した。
「それにしても、物静かで上品で、何や『守ってやらなあかん!』って気にさせる女の子やな〜、江戸川さんは」
「そ、そうですか?」
彼女の事を『碇シンジ』だと、まったく気づかないトウジが続ける。
「このクラスは、気が強い女ばっかしで、江戸川さんみたいな、『か弱い』タイプは、一人もおらへからな!」
「「か弱い女じゃなくて、悪ぅござんしたね!」」
すぱん!
すぱん!
トウジの頭に、2発の小気味良い音が鳴り響いた。
「何すんねん!」
頭をさすりながら、トウジが振り返ると、そこにはスリッパを持って仁王立ちするアスカとヒカリの姿が・・・。
「『気が強い女』って、誰の事よ?言ってみんさいよ!」
「どうせ、私は『か弱く』はないわよ!どうせ、私なんかぁ〜!」
「あ、委員長、ちゃうちゃう!惣流はともかく、委員長の事を言うたわけやない!」
泣きそうに歪むヒカリの顔を見て、トウジが慌ててフォローを入れた。
「『惣流はともかく』って、どういう意味じゃい!」
トウジの顔面に、再びアスカのスリッパが炸裂した。
――そんなこんなで、放課後・・・。
「ほら、鈴原!サボってないで、掃除しなさいよ!」
「分かっとるがな、委員長、うるさいやっちゃの〜!」
「なんですって!」
放課後に残って、掃除をするいつもの面々。
ご多分に漏れず、マリアも居残っての掃除当番であった。
「・・・・・・。あの〜、相田君?」
「何だい、江戸川さん?」
カシャ!カシャ!
「その〜、掃除の時ぐらい、写真を撮るのやめてくれないかな?」
「いやいや、こういう家庭的なポーズもなかなか・・・」
モップ掛けをするマリアの写真を撮って、商品にバリエーションをつけようとするケンスケであったが、
バキッ!
と、アスカにモップで、ぶん殴られた。
そんないつにも増して、騒がしい掃除の時間。
マリアは、教室の外へ、一人でゴミを捨てに行こうとしているレイの姿を見掛けた。
「綾波・・・さん!手伝うよ」
廊下までレイを追っかけ、マリアがそう声を掛けると、彼女は小さな声で『ありがとう』と言った。
(綾波も昔に比べると、だいぶんクラスに溶け込んできたけど、まだまだかな・・・)
まだ、一歩、クラスに溶け込めない様子のレイ。
今だ、どこかぎこちなさが残っていた。
・
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二人でゴミ箱を抱えて焼却場に向かうマリアとレイ。
女の子として、どんな話題をしたらいいのか分からず、マリアが困り果てる。
沈黙のまま、焼却炉にゴミを捨て、運動場を横切り教室に帰ろうとしていると、突然、レイが立ち止まった。
「どうしたの、綾波さん?」
「・・・何か聞こえる」
「えっ?」
耳を澄ますマリアに、『にゃー、にやー』とか細い声が聞えてきた。
「ホントだ」
「・・・あそこだわ」
レイは声の出所を見極めると、植え込みの方へ走っていく。
「・・・いた」
植え込みを覗き込むと、
そこには雪のように白い仔猫が、寒さに震えながら『にゃー、にやー』と鳴いていた。
「仔猫だ、親猫はいないのかな?」
マリアは、キョロキョロと周りを見まわしたが、それらしき猫の姿は見当たらない。
「はぐれちゃったのもしれないね」
「・・・この子も、一人ぼっちなのね・・・」
「えっ!?」
その言葉に、息を呑んだマリア。
(時々、ドキっとする事を言うよな、綾波って・・・)
レイは、『にゃ〜、にや〜』と鳴く仔猫に手を伸ばすと、制服が汚れるのも構わず抱き上げた。
初めは警戒をしていた仔猫であったが、しばらくすると、安心したように『ゴロゴロ』と喉を鳴らしはじめた。
「綾波さんって、やさしいんだね」
「・・・そんな事ない・・・」
『ポっ』と頬を赤く染めるレイ。
そのレイの仕草に、マリアは『クスリ』と微笑んだ。
「でも、どうしよう、このままここに置いておけないな・・・」
「・・・私が、家に連れて帰るわ」
そう言うと、レイは、仔猫の白いフワフワの毛に顔を埋めた。
●
学校が終わると、マリアは一人でネルフ本部に向かった。
こうなった原因追究をしているリツコに、その進み具合を聞くためだ。
リツコの研究室に向かう途中、ポケットに手を突っ込んだ父、碇ゲンドウと鉢合わせになった。
(・・・と、父さん・・・)
ドキドキするマリアの前に、ゲンドウが立ち止まる。
「『6th・チルドレン』・・・、江戸川マリアだな」
相変わらず重苦しい、父の声。
ゲンドウの顔を見上げるマリアは、その重圧にゴクリと唾を呑み込んだ。
「は、はい・・・」
「す、すまん!」
いきなりマリアに謝ると、ゲンドウは廊下に土下座をした。
「まさか、私に君のような娘がいようとは!」
「はあ?」
「本当にすまない!あの頃、私も若かったのだ!」
呆気に取られるマリアに、床にゴリゴリと頭を摩り付けて謝るゲンドウ。
話がまったく、見えてこない彼女が、恐る恐る声を掛けた。
「あ、あの〜・・・、どういう事でしょうか?」
「すべて、赤木博士から聞いた!15年前、ユイというものがありながら、
私は、君のお母さんとも関係を持ってしまったのだ・・・、そして、生れてきたのが、君なのだよ!」
「えっ!?」
「今まで、辛い思いをさせて、本当にすまなかった!これからは、私もいるし、『シンジ』という兄もいる!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「これからは家族三人で平和に暮らそう!さあ、パパと呼んでくれ!」
大きく腕を広げて、そのまま、ゲンドウがマリアに抱きついてきた。
抱き着かれたマリアには、たまったものではない。
アゴひげが『ジョリジョリ』と当たって、かなり気持ち悪い。
「うわぁ〜、や、やめて〜!!!」
どこまでも、幸薄い少年の・・・、いや、少女の悲鳴がネルフ本部に響き渡った。
――リツコの研究室・・・。
コーヒーを飲みながら、サルベージのデータとにらめっこをしていたリツコ。
プシュ!
扉が開くと、髪の毛を逆立てたマリアが立っていた。
「リ・ツ・コさ〜ん〜!!!」
「あら、どうしたの?そんなに怖い顔をして?」
「父さんに何を吹き込んだんですか!?」
「ああ、その事ね、だって、しょうがないじゃない。
あなたを、ネルフに出入りさせる為には、それらしく身分を偽っておかないと」
「それが、『隠し子』ですか!?」
「あまりに効き目があったから、私も驚いているの。司令も身に覚えがあったのね」
「僕の家庭を崩壊させるつもりですか!」
――もう、崩壊してるって。
「それより、シンジ君こそ、学校でずいぶんとモテモテだったそうじゃない」
「え、そ、そうなんですよ、これで『下向き人生』も、少しは上向きになるかな〜って・・・、はっ!?
どうしてリツコさんが、その事を知ってるんですか!?」
「ネルフの科学力を、あなどってはダメよ」
リツコがいわんとしている事がわかったマリア。
つまり、機密保持のため、何かしらのスパイ行為を行っていたのだ。
「・・・それじゃ、単なる覗きですよ。そんな事より、元に戻る方法は解りましたか?」
「そう、それなのよ。ちょっと、このデータを見てちょうだい」
と、リツコは、一枚のプリントをマリアに差し出した。
そこには、意味不明の数字や、理解不能な文字の羅列が書かれてあった。
「???これで、元に戻る方法は解ったんですか?」
「全然」
すて〜ん!
「リ、リツコさ〜ん!!!」
「パンツが丸見えよ。とにかく、落ち着きなさい。これを見る限り『サルベージ』自体には、何の問題も起きてないの」
「で、でも、現に僕は『女の子』に・・・」
「そこが問題なのよ。これは、物理的要因ではなく、心理的要因が関係しているのかもしれないわ」
「心理的要因って、どんな?」
「それは、こっちが聞きたいわ。ねえ、シンジ君、あの時の状況を詳しく思い出してちょうだい?」
「あ、あの時の事ですか?それが、気がついたら病院のベッドの上で・・・」
「そう・・・、まあ、その辺の事が思い出せれば、元に戻れるかもしれないわね」
「はあ」
結局、何も進展していない事に、マリアはうな垂れて研究室を後にしようとした。
「あ、それと、シンジ君」
「はい?」
「わかってると思うけど、ミサト達に絶対にバレちゃだめよ」
「はいはい、わかってますよ・・・」
マリアはガックリと肩を落して、研究室を出た。
「はあ〜、元に戻る方法はわからないし、リツコさんは当てにならないし、
父さんには変な好かれ方するし・・・、これから、どうなるんだろう、僕?」
トボトボとマリアが廊下を歩いていると、『いた、いた!マリア〜!』と、アスカが手を振りながら走って来た。
「どうしたの、そんなに慌てて?」
「それがさ〜、家のお風呂が壊れたんだって。それで、ミサトが、今日は『ネルフ温泉』に入れって」
「へ〜、そうなの・・・」
「そうよ、だから早く行きましょ!」
アスカは、『グイッ』とマリアの腕を掴んだ。
「え?え?え〜〜!?わ、私も一緒に入るの!?」
「当たり前じゃん!女同士なんだから、別におかしくないでしょ!」
「そ、そりゃ、そうだけど!」
(そういう問題じゃないよ〜!!!)
こころの中で泣き叫ぶ、碇シンジ。
「いざ!『ネルフ温泉』へ!」
嫌がるマリアを、アスカが引きずるように連れて行く。
「ちょ、ちょっと、待って!駄目だって!イヤ〜ん!!!」
・
・
・
・
・
・
――リツコの研究室・・・。
プシュ!
「先輩〜!」
「あら、マヤ、どうしたの、そんなもの抱えて?」
マヤが持っている風呂桶とタオルを見つけたリツコが怪訝な顔をした。
「今から、『ネルフ温泉』に行くんです!先輩も一緒に行きませんか?」
「『ネルフ温泉』に?どうして、また、突然・・・?」
「それが、葛城三佐の家のお風呂が壊れちゃったそうで、
どうせなら、みんなで『温泉』に浸かりながら親睦を深めようって、葛城三佐が提案したんです」
「ミサトらしいわね・・・」
「だから、先輩も行きませんか?」
「そうね、たまには、そういうのもいいわね」
「わ〜い!先輩とお風呂だ〜」
『よいしょっ!』と立ち上がったリツコの脳裏に、ある不安が過ぎる。
「・・・・・・。ひょっとして、江戸川さんも一緒なの?」
「当然、そうなんじゃないですか」
それを聞いて、リツコが『タラリ』と汗を滴り落とした。
「ご、ごほ、ごほ・・・、ごめんなさいマヤ、私、今日、風邪気味なの、だから、やっぱり遠慮しておくわ」
「そうなんですか?残念です〜」
「だから、あなただけでも行ってらっしゃい」
「わかりました〜、お大事に!」
プシュ!
「・・・役得ね、シンジ君」
そう呟くと、リツコは『ニヤリ』とほくそ笑んだ。
●
――ネルフ本部にある大浴場、通称『ネルフ温泉』・・・。
かぽ〜ん・・・。
「う〜ん、やっぱり、手足を伸ばせるお風呂は気持ちいいわね〜」
同じ年頃の女の子より、少し長い手足を大の字にして、広いお風呂を満喫するアスカ。
その横では、アスカに背を向けて、マリアが湯船に浸かっていた。
(見ちゃダメだ!見ちゃダメだ!見ちゃダメだ!見たいけど!見ちゃダメだ!)
自らの『リビドー』と必死に戦う、『マリア』こと、碇シンジ。
「どうしたの、さっきから、こっちに向かないで?具合でも悪いの?」
様子がおかしいマリアに、アスカが近づこうとした。
「だ、大丈夫です!だ、だから、た、立ち上がらないで!」
「???まあ、いいけど・・・。でも、ファーストも来れば良かったのにね〜」
「あ、綾波さんは、こ、来ないんですか?」
「何か用事があるんだって」
マリアは、学校で拾った、あの白い仔猫の事を思い出した。
今ごろ、仔猫の世話でもしているのだろうか。
彼女がそんな事を考えていると、アスカが、突然言ってきた。
「そうだ!明日、学校が終わったら、買い物に付き合ってくれない?」
「買い物ですか?」
「ほら、もうすぐ『クリスマス』でしょ?だから・・」
ガラガラ・・・。
「はは〜ん、さては、アスカ、シンちゃんへのプレゼントね?」
浴場の引き戸が開けられると、『エビチュ』を片手にすっかりご機嫌のミサトが入って来た。
「ミ、ミサトさん!?う、うわぁ〜!」
バシャ、バシャ!
「どうしたの、江戸川さん?顔を真っ赤にしちゃって・・・、のぼせたの?」
ミサトに背を向けて、首を『ブンブン』と振るマリア。
(・・・モ、モロに見ちゃった)
「ちょっと、ミサト!変な事言わないでよ!何で、私がシンジにプレゼントをあげなくちゃいけないのよ!」
「またまた〜、照れちゃって〜、アスカったら可愛いんだから!」
湯船に浸かるとミサトは、渇いた喉にグイっと『エビチュ』を流し込んだ。
「ち、違うわよ!アタシにだって、プレゼントをあげる男ぐらいいるわよ!」
それを聞いて、マリアが『ピクリ』と反応する。
だが、何も言う事はできない。
「あら〜、シンちゃんというものがありながら、いつのまに〜?」
「だ・か・ら!アタシとシンジは、そんな関係じゃないわよ!も〜、変な誤解しないでよ、ミサト!」
アスカが口を尖らせた。
そんなアスカの態度に、マリアが気落ちしていると、『ガラガラ〜』と再び、引き戸が開けられた。
「もぉ〜、みんな、先に入ってたんですか!?声を掛けて下さいよぉ〜!」
プンプンと怒りながら、マヤが浴場に入ってくる。
途端にマリアが、湯船の中で『バシャ、バシャ』と暴れた。
「あれ、マヤだけ?リツコは?」
「それが先輩、今日、風邪気味なんですって」
「あら、そうなの?変ね〜、さっきまで元気そうだったけど???」
ミサトが首を傾げる。
「ちょ、ちょっと、マヤ!アンタ、何、持ち込んでんのよ!」
『ビシッ』と、アスカがマヤを指差した。
マヤが持つ風呂桶の中には、ピンク色の『怪獣マヤ』のオモチャが・・・。
「えへへ、可愛いでしょ?お風呂で遊ぶと、とっても楽しいのよ!」
「いい年して、んなもんで遊ぶな〜!」
●
――翌日・・・。
放課後になって、第三新東京市の繁華街に繰り出したマリアとアスカ。
街は赤と緑に彩られ、聞えてくるBGMは、どれもクリスマス・ソングであった。
「すっかり、『クリスマス』一色ね!」
クリスマス商戦に賑わっているショップを眺めて、アスカがはしゃいだ声を上げた。
「そうですね〜」
アスカの後をついて歩くマリアが、ぶっきらぼうに答える。
「どうしたのよ、さっきから、気のない返事で?」
「別に〜、どうせ、私には、プレゼントをあげるような彼氏いないしィ〜、クリスマスなんて関係ないしィ〜!」
頭の後ろで手を組んで、つまらなそうな顔のマリアが言う。
(なんで、僕が、どっかの誰かにあげるプレゼントを買うのに、付き合わきゃいけないんだ!)
内心、とっても面白くない『マリア』こと、碇シンジ。
要するに、アスカにプレゼントを貰える、『どっかの誰か』に焼きもちを妬いているのだ。
「それにしても、アスカにプレゼントを貰えるなんて、羨ましいわね〜、その男〜。
どんな顔だが、見てみたいもんだわ〜!ホッホッホ〜!」
ヤケクソ気味に高笑いしてみせるマリアに、アスカがつぶやいた。
「ア、アンタ、なんか性格、変わったわね・・・」
こんな調子の彼女を引き連れて、アスカはプレゼントを買う為に何軒かの店を見てまわった。
----しかし・・・、
「はあ〜、どこにもないわね・・・」
目的の品が見付からず、アスカが大きな溜め息を吐いた。
「ねえ〜、誰かにナンパされて、ご飯でも奢ってもらいましょうよ〜」
マリアがそんな提案をしてくる。
アスカが、プレゼントを必死に探せば探すほど、面白くないのだ。
「ダメよ!クリスマス・イヴは、明日なんだから!」
「うっ!」
「ごめん・・・、大きな声だして・・・。
でも、どうしても今日中に探しておかないと、明日に間に合わなくなっちゃうから」
ションボリと落ち込むアスカを見て、マリアの嫉妬は益々大きくなった。
(な、何だよ!そんなにムキになって!僕の気持ちも知らないで!
アスカなんか、アスカなんか・・・!)
なんとなく気まずい雰囲気で、お互いに溝を作ったまま、二人は、第三新東京市中の店を歩き回った。
・
・
・
・
・
・
「どうしよう、見つからない・・・」
散々、歩き回ってはみたものの、アスカの探している物が見つからず、
疲れ果てた二人は、公園のベンチに腰を降ろした。
「諦めるしかなにのかな・・・」
ベンチに座りながら、街が夕暮れに包まれていくのを見て、アスカが呟く。
すっかり気落ちしている彼女に、さすがのマリアも堪らず声を掛けた。
「ねえ?どんなプレゼントを探してるの?」
「あ、そうか、マリアには、まだ見せてなかったわね」
アスカは、背中に背負っていたリュックの中から、一枚のマフラーを取り出した。
「あっ!それ!」
マフラーを見て、マリアが声を上げた。
「ん?どうしたの?」
「う、ううん、な、何でもない、そ、そのマフラーがどうしたの?」
「これと同じマフラーを探しているのよ・・・。
これね、12月4日のアタシの誕生日に、ある男の子から貰った物なの」
「そ、そのマフラーと同じ物を探して、どうするんです?」
「誕生日プレゼントを貰った『お返し』に、その男の子に贈るのよ」
「へっ!?じゃ、じゃあ、クリスマス・プレゼントっていうのは・・・?」
「あれはウソ!シンジには、クリスマス・プレゼントじゃなくて、『お返し』をあげるのよ。
それが、たまたまクリスマスと重なっただけ」
『お返し』と称して、クリスマス・プレゼントを贈ろうとするアスカ。
素直にクリスマス・プレゼントをあげるのではない所が、惣流・アスカ・ラングレーという少女らしい所である。
「あ、あの・・・、わ、私、そのマフラーを売ってるところを知ってます」
「え!?ホントに!?見間違いじゃない?」
「いえ、見間違いじゃありません!」
キッパリと断言するマリアに、アスカが『ガバっ』と立ち上がった。
「今から行くから、そのお店を教えて!」
「はい!」
お互い手を取り合って、二人はベンチから駆け出した。
(そうだよ!見間違うもんか!)
明りが灯る夜の街を駆け抜ける、二人の少女。
(だって、そのマフラーをアスカにプレゼントしたのは・・・、僕なんだから!)
彼女の手を引きながら、マリアが振り返る。
「でも、何で、同じマフラーを贈るんですか?」
「そ、それは・・・、ぺ、ペアルック・・・って、ヤボなことを聞くんじゃないわよ!」
耳まで真っ赤にして、恥かしそうに答えたアスカであったが、
何故か、マリアまで真っ赤になっているのを見て、不思議そうな顔をした。
●
「ありがとう!助かったわ!」
綺麗にラッピングされたマフラーの包みを胸に抱いて、アスカはマリアに礼を言った。
辺りが薄暗くなって来た頃、二人は家路についた。
トボトボと肩を並べて歩く、アスカとマリア。
「ねえ、マリア・・・、アンタ、好きな人いる?」
「え!?す、好きな人ですか!?」
アスカの質問に、マリアは素っ頓狂な声を上げた。
「いるの?」
「あ、あの、その〜・・・、はい・・・」
小さく頷くマリアを見て、アスカが『クスリ』と笑った。
「ねえ、その人、どんな人?」
「ど、どんな人って・・・」
「いいじゃん、教えなさいよ!」
アスカが意地悪そうな顔で、マリアの脇腹を肘で突付いた。
「な、何て、言ったらいいのか・・・」
鼻の頭をポリポリと掻きながら、マリアが言う。
「直情的だけど捻くれてて、単純だけど素直じゃなくて、強がりばっかり言ってるけど、本当は寂しがり屋で・・・、
でも、そういう所が、なんか可愛いんです」
「ふ〜ん、ややこしい性格の人ね、一度、会ってみたいもんだわ」
アスカの言葉に、マリアは『プッ』と吹きだした。
「明日は、クリスマス・イヴか。プレゼントは買ったし、後は、『あのバカ』が帰ってくるだけね」
――ドキっ!
マリアが露骨に肩をびくつかせる。
そんな彼女の様子にも気づかず、アスカが続けた。
「もし、明日の夜の12時までに帰ってこなかったら・・・」
「か、帰ってこなかったら?」
「絶交だからね!」
アスカが星空に向かって、『グッ』と拳を突き上げた。
ビクッ!
(そ、そんな〜、ぜ、絶交だなんて〜!!!)
●
――ネルフ本部・・・。
「さあ、今日は、もう帰ろうかしらね」
仕事をひと段落させ、腕時計を見たリツコが、帰り支度を始めた。
・・・ドタ、ドタ、ドタ、ドタドタ!!!
プシュ!
「リツコさ〜ん!!!」
勢い良くドアが開くと、
『ド○えもん』に泣きつく『の○太』の如く、目に一杯、涙を浮べたマリアが研究室にやって来た。
「男!明日!絶交!アスカが!12時なんですぅ〜!」
「何を言ってるのか、サッパリだわ・・・、とにかく鼻水を拭いて、落ち着きなさい」
「チ〜ン!ズズッ・・・」
豪快に鼻をかむと、マリアは事の次第をリツコに語った。
「・・・と、言うわけなんです〜」
「なるほどね、若いってイイわね」
マリアの話を聞いて、遠い目をしたリツコが、しみじみと言った。
「だから、どうしても、明日の夜の12時までに、男に戻らなくちゃいけないんです!
リツコさん、何とかして下さいよ!」
「そうは言われても、何故、シンジ君が『女の子』になってしまったのか、その原因すらわからないのに、
急に『男に戻せ!』って言われてもね」
「そ、そんな〜・・・」
アスカとの約束まで、タイムリミットは、あと1日・・・。
それまでに、シンジは男に戻る事ができるのか!?
『期間限定のマリア』(中編) 完
後編に続く