ギアナ高地・・・・・。

南米はベネズエラにそびえたつ、時間の流れから取り残された世界最後の秘境。

かつてここで、人類の命運を決する戦いが行われたことを知る者は少ない。

そして今・・・・・。





          真心を君に〜3/14の奇跡





この誰一人いないはずの魔境に、気合いの入った声が響き渡っていた。

「どうしたぁ、シンジ! もう立てぬかぁ!」

「む、無理だよ僕には! 超級覇王電影弾なんて!」

「未熟! 未熟ぅ! 未熟千万! だぁからお前はバカシンジなのだぁ!!」

その年の2月14日。

珍妙なプレゼントばかり贈られて落ち込むシンジの前に現れた、救世主・マスターアジア。

彼は何かと落ち込みがちなシンジを元気づけるように「碇シンジ君を守る会」の同志達から頼まれて、

はるばるやって来たのであった。もっとも、それに反対する者(ミネ・・)もいたが。

シンジの中にかつての弟子と同じ魂の輝きを認めた師匠は、絶望のふちに立つシンジを立ち直らせるべく、

思い出の地・ギアナ高地へとシンジを連れて来た。

シンジ本人はかなりいやがっていたが、師匠はそんなことにはお構い無しである。

師匠は、我が子を千尋の谷へ突き落とす獅子の心を以て、あえてシンジに厳しくあたった。

その熱い心が、シンジに伝わったのだろうか。

ここに来たばかりの頃は、小さな声で「僕には出来ません」と繰り返すばかりだったシンジが、最近は

自ら積極的に教えを乞うようになり、生意気にも師匠に口答えするくらいの元気を取り戻していた。

どうやらシンジは師匠の中に、理想の父親の姿を見い出したようであった。






ギアナ高地で修行を始めてから、1ヶ月にもなろうかという、ある日のことであった。

その日の稽古が終わり、夕食の準備に取りかかろうとした師匠の前で、シンジが片膝を付いて訴えた。

「師匠、僕を第三新東京市にすぐ戻して下さい!」

シンジの顔を見た師匠は、そこに並みならぬ決意がこもっているのを、すぐに察した。

「ほう・・・いつもの僕には出来ない、という理由ではなさそうだな。訳を言ってみよ」

師匠の意外にも理解ある言葉に、シンジは少しとまどったようだったが、すぐに真剣な表情で話しはじめた。

「こんなことを言ったら師匠は笑うかも知れません。しかし、僕には大切なことなんです。師匠がここに

僕を連れて来たあの日、僕は大切な人たちから贈り物をいただきました。そのお礼をする日が間近に

せまっているんです!」



そう、シンジが言っているのは、ホワイトデーのことである。

怪しいおまけばかり付いていたとはいえ、たくさんの女性から心のこもった贈り物をもらうというのは、

シンジにとって生まれて初めてのうれしい体験であった。

今まで自分は一人だと思っていたシンジに帰る場所が出来たことを、その2月14日の贈り物が教えて

くれたのである。



シンジの必死の嘆願を、師匠は目を閉じて聞いていた。

かつての弟子とはちがい、それまで親の愛など知らずに育って来た少年である。

それゆえ彼は、つい最近まで人と接することを望みながらも恐れ、自分の殻に閉じこもるような生き方を

していたのであった。

さらに悪いことに、最近まで彼の周りにいたのは、師匠から見れば脆弱な精神の持ち主ばかりであった。

息子と心を通わすことを恐れつづけた父親をはじめ、互いに意地をはって本当の気持ちが伝えられなかった

男と女、母親の呪縛から逃れようとして果たせず、同じ過ちを繰り返した女、そしてシンジと同じ心の

傷を負っていたのに、理解しあって傷を癒すことよりも相手を見下して自分の傷を隠す生き方を選んだ

少女・・・。一度起ってしまったことに「もしも」は禁句だが、師匠は、シンジのもとにもう少し早く

自分が現れていれば、と思うことが何度もあった。自分でなくともかつての弟子や、シンジを兄のように

慕う例の将軍の娘と早く会っていれば、おそらくは・・・。

そのような境遇に最近までおかれていたシンジにようやく出来た帰る場所を、師匠自らの手で奪うような

まねだけは、彼は絶対にやりたくなかった。



師匠は目を開けると、シンジに言った。

「よかろう。ワシだって男だ、お前の気持ちはよく分る。そのかわり・・・」

「そのかわり、何ですか?」

「お礼が済んだら、また修行だ。よいな?」

「はい、ありがとうございます!」

ようやく空に上がった月が、師と弟子を優しく包み込むように光を投げかけていた。






その日の夜、大平洋上空を日本に向かって驚くべき速さで飛んで行く黒い影が、各地の哨戒機やレーダーに

捕らえられた。

その影の主、師匠の愛馬・風雲再起が駆るモビルホースの馬上には、シンジと師匠の乗るマスター

ガンダムの姿があった。

「この分ならば、13日の早朝には第三新東京市に戻れよう。返礼の品は相手を考えて選ぶのだぞ」

師匠が、シンジに言わでもがなの注意を与える。

「はい、その辺は大丈夫です」

どうせ変な物しか貰ってないから何をお返ししても大丈夫、という台詞をシンジは危うく言いそうに

なったが、何とかこらえた。

それから数時間後の第三新東京市上空。

朝日を背に颯爽と現れた風雲再起とマスターガンダムは、駒ヶ岳へと降り立った。

「では、ゆくとするか」

「はい!」

師と弟子は、まだ朝靄の立ちこめる第三新東京市に向かって歩き出した。



「それじゃ、ちょっと部屋に帰って財布取って来ます。ここで待っててください」

師匠をマンションの入り口に残し、シンジは軽い足どりでミサトの借りている部屋へと向かう。

(何を買おうかな? 山岸さんにはなにか小説でも・・・マナは・・・!? なんだ!!)

部屋の前にたどり着いたシンジの目の前に、妙なものがあった。

目指す部屋のドアの前に、何本ものテープらしき物が貼られていた。

よく見ると、それは「立ち入り禁止」と書かれた封印テープであった。

どうやら警察か何かの現場検証が行われている最中のようである。

(ミサトさん、アスカ・・・なにがあったんだ? この1ヶ月の間に)

シンジは部屋の前で呆然と立ちつくしていた。

その頃・・・。






「シンジのバカバカ! もう絶交よ!」

ネルフの医療施設内の病室の一角から、ここ一月ほど繰り返された絶叫が今日も聞こえてきた。

声の主は、シンジの同居人の1人、惣流アスカ・ラングレーである。

彼女はベッドによこたわって、歯を食いしばりながらうなっていた。

ほとんど全身に巻かれた包帯が、彼女の姿をより痛々しく見せている。

ことの始まりは、2月14日までさかのぼる。

いつもより遅く帰宅したシンジを、アスカは玄関先でからかっていた。

本当は自分が想いをこめて作ったチョコレートをさっさと渡したかったのだが、ただ渡すのも

芸がないと彼女は考えたのだ。この年頃の少女らしい、なかなかの天の邪鬼ぶりである。

ところがシンジは、予想以上に落ち込んで彼女の前から姿を消してしまったのだ。

シンジはアスカに会う前にとんでもないものばかり貰って気が滅入っていたこと、アスカにからかわれた

後で、シンジはベランダで空にいる母に泣きついていたところをマスターアジアにさらわれた、などと

いう事情を、その時のアスカは知らなかった。

1人残されたアスカは、シンジが置いていった荷物の中からいくつものチョコレートや贈り物を発見し、

嫉妬の炎に身を焦がしていた。特に、最近何かとシンジにちょっかいをかけてくる将軍の娘からの

贈り物を見つけた時は、危うく部屋全体が燃え出すのではないかというほどのオーラを放っていた。

そして悪いタイミングで帰宅したミサトが興味半分でアスカの品改めを手伝った時、それは起った。

特にこったところもない、ありふれた包装の包みを二人が開けたとたん、部屋がすさまじい光と熱の

渦で満たされたのだ。

後の調査で分かったことだが、その包みには成分不明の爆発物と思われる代物が、これでもかとばかり

に仕掛けられていたのである。それによって引き起こされた爆発は、ミサトとアスカが病院で二人して

うなっている今の状態ですら、運がいいというほどの規模であった。その日以来、シンジの姿を見た者が

今日にいたるまで1人としていないのも、事情を知らない残された者達には大きな謎であった。

警察が早速調査を開始したが、すぐにネルフが横やりを入れてきたために、調査の引き継ぎをネルフへ

依頼する、という形で手を引くことになった。ネルフの内部調査の結果・・・。



「まさか内部の人間が嫉妬のあまりやりました、なんて言えないもんなぁ」

司令室で加持リョウジは、集まった面々の前でそうぼやいた。

「今年はレイの作戦が見事に成功してしまいましたね・・・」

日向マコトが、あきれながら話す。

「今回の警察に対する措置は、ネルフを守るためのものというのは理解できます。でも私、こういう

やり方好きにはなれません」

伊吹マヤが険しい表情でつぶやいた。まあ、汚いことが嫌いな彼女でなくても、今回のネルフの事実

隠蔽の手は好意が持てないだろう。

「で、結局この事件はどういうふうにケリをつけるんですか?」

青葉シゲルが一座の長・冬月コウゾウに意見を伺う。

「葛城君の家のガス器具の不備、ということになるだろう・・・。しかしレイもとんでもないことを

しでかしてくれたな。葛城君には事情を説明してはいるが、アスカ君は・・・」

そこまでいうと冬月は頭を抱えてしまった。

「レイがやったと知ったら当然とんでもない手で報復するだろうし、かといって今のままシンジ君が

やったと勘違いしたままにしておくのも・・・しかしシンジ君はどこに行ったのかね?」

冬月が話し終わると、一座は重い沈黙に包まれた。



「レイももう少し大人だと思ったんだけどねぇ・・・」

司令室で冬月先生と生徒達が悩んでいる頃、ミサトは病室でリツコの訪問を受けていた。

「大人の女だって恋すれば何をやらかすか分らないのよ。ましてや世間一般の常識にうといレイだもの」

リツコはそう言うと、今むきおわったリンゴの一切れをミサトに差し出した。

「そういうミサトも身に覚えがあるんじゃなくて? レイ大尉、でしたっけ? あの人に職権を乱用して

やたらと迫ったのは誰だったかしら」

ネルフのロンドベル隊出向時に、ミサトが作戦参謀なのをいいことに、一目惚れしたアムロ・レイ大尉に

やたらとくっついていたことは、隊の中では知らぬものがいないほど知れ渡っていた。

「うるさいわね〜、あたし知ってるんだからね、あんたが獣戦機隊のあのかわいい男の子にちょっかい

出してたの。あたしは少なくとも今は年相応の恋をしてるもの、美少年好きの誰かさんとちがって」

「ぐぅ・・・」

ミサトの予想外のつっこみに、リツコは言葉を失った。

「な、何よ。私は雅人君に、彼の猫型ロボットに載せてくれって頼んだだけよ。人聞きの悪いこと

言わないでちょうだい」

あわてて弁明するリツコ。しかしその態度はどこかぎこちない。

「ふ〜ん、その雅人く〜んのランドライガーってライオンなんだけどねぇ・・・まあ、そういうことに

しておきましょうか。それよりも・・・」

ミサトがここまで話した時、病室の外から叫び声が聞こえて来た。

「シンジのバカバカ! もう絶交よ!」

ミサトが浮かぬ顔でリツコに話しかける。

「アスカ、入院してからずっとあの調子なのよ・・・いい加減、本当のこと教えてあげた方がいいんじゃ

ない? あたしとしては、トウジ君の事の二の舞いは避けたいのよ」

「バカね、今本当のことを言ったら、アスカ直るものも直らなくなっちゃうじゃないの! とにかく

シンジ君が帰ってくるのを待つしかないわ」

リツコがあわててミサトに反論する。

「ほ〜んと、シンちゃんどこに行っちゃったのかしら?」

ネルフの諜報部をもってしても行方がつかめないシンジ。ミサトは窓の外を見つめてため息をつくしか

なかった。






「みなさん、一体何があったんですか!」

ネルフの司令室で頭を抱えていた一同は、いきなり聞こえて来た声の方へ顔を向けた。

噂の主、碇シンジが血相を変えて一同の方へ向かってくる。弁髪の初老の男も一緒だ。

「シンジ君、今までどこへ行っていたのかね? 大変なことが起ったのだよ」

冬月はこうシンジに問いかけた時、シンジの側にいる初老の男に気づき目が点になった。

「何だと・・・なんであんたがここにいる・・・?」

リョウジをはじめとする他の面々も、あんぐりと口を開けたままの表情になっている。

何か言いかけたシンジを制して、師匠が冬月に話しはじめた。

「つい先日まで、ワシとシンジは異国で武術の修行をしておったのだ。ところでシンジの家に何か

あったのか? なにやら調査の途中だったようだが」

冬月は我にかえると、師匠に事情を説明しはじめた。

「実は、葛城君の部屋で爆発が・・・」

「綾波だ・・・」

シンジは心の中でそうつぶやいた。

この時、ようやく自分を取り戻したリョウジがシンジに話しかけた。

「とにかく、すぐにミサトとアスカの見舞いに行ってくれないか? アスカは、その爆発が君のせいだと

誤解している」

「ええ!?」

思わぬ濡れ衣に驚くシンジ。彼はすぐに回れ右をすると、そのまま司令室から走り去った。

「ふむ、早速見舞いに行くか・・・シンジ、その心構え立派! それではワシも失礼する」

すぐにシンジの後を追う師匠。あとには呆然と二人を見送る冬月先生と生徒達の姿があった。

「何であの人が・・・道理でシンジ君の行方がつかめなかった訳だ・・・」

リョウジがぼそっとつぶやいた。






「シンジのバカバカ、もう絶交よ!!」

入院してからこの台詞を何度叫んだのだろうか。

叫び終わったアスカは、ベッドの上で歯を食いしばっていた。

アスカが何気なく叫んでいるこの台詞が、彼女が密かに憧れていた女性技師の口癖にそっくりである

ことに、本人はまったく気づいていなかった。

(・・・いくら何でも部屋ごと吹っ飛ばそうとすることないじゃない! 何考えてるのよ!)

入院当初はそう思ったものの、こうして毎日見なれぬ天井をながめながら考えていると、アスカには

シンジの気持ちがなんとなく分かったような気がした。

(お父さんがあんな人で、ずっとひとりでやって来て、いきなりエヴァに乗れ、だったのよね・・・。

あたしはエヴァに乗るために子供の頃から訓練を受けてたけど、シンジはあの時までなんにも

知らなかったんだもん、辛かったろうな・・・それを周りがよってたかって・・・)

その周りの人間の中にアスカがいたことが、今となっては悔やまれる。

(そう言えば、ロンドベルにいたころのシンジってとても楽しそうだったのよね・・・)

ロンドベル隊に出向していた頃のシンジは、普段からは想像出来ないほど表情豊かだったことをアスカは

覚えている。さっぱりした性格の年上の人間が多かったせいだろうか、シンジもいつものおびえた様子が

なく、どこにでもいそうな明るい少年のような振る舞いを見せていた。それに加え、カトルという何物にも

代えがたい親友に出会ったのも、シンジによい影響を与えたのだろう。アスカも一目見た時から、前向きな

シンジを思わせる性格のカトルに、好意を抱いていた・・・。

(カトル、今何やってるのかな?)

少し前の出来事を思い出していたアスカは、いきなり異様なプレッシャーを感じた。

(何なの・・・? この、感じ・・・)

やがて病室の戸が開くと、1人の少年が入って来た。

(ええ!? 何よ、これ)

そこに立っていたのは、確かに碇シンジであった。

しかし、彼女が知っていたシンジとはちがう何かを、全身にただよわせていた。

「あんた、誰・・・」

シンジから発せられる強力なプレッシャーにたえかねて、アスカが口を開いた。

「ちょっと、外国に行ってたんだ。挨拶もせずに出発して悪かった」

アスカの知らないシンジが、これまで聞いたこともないような調子で話す。

「ミサトさんの部屋で爆発事故があったんだってね。あれは、僕じゃないよ。いろいろ厄介かけてる

ミサトさんやアスカを吹き飛ばすなんて、僕には出来ないから」

(ちょっと・・・これ、本当にシンジなの? 何かおかしいわよ! いつものシンジなら、もっと

おどおどしてて、で、スケベな感じの目をして、で、でも、やさしそうで・・・)

戸惑うアスカの気持ちを知ってか、シンジは持っていた包みをアスカに手渡した。

「お見舞いだよ。早く元気になってね・・・それじゃ、さよなら」

(さよなら・・・? も、もしかしてまたどこかへ行っちゃうの!?)

シンジの気に押されてここまで何も言えなかったアスカが、ついに口を開いた。ここで別れてしまったら、

二度とシンジに会う機会はないような気がしたのだ。あわててベッドから体を起こすアスカ。

「ま、待ってよシンジ! あの日、あたしはチョコ作ってあんたの帰りを待っていたのよ! でも、

渡す前にあんたはどこかへ行っちゃって、そのあとチョコは吹き飛んじゃって、その・・・」

ここまで言ったアスカはまたベッドに倒れ込んでしまった。全身に痛みが走って、それ以上起きては

いられなかったのだ。

シンジの顔に初めて表情が浮かんだ。おだやかな、優しそうな笑顔だ。

「僕は当分どこにも行かないよ、学校で待ってる。だから、今は怪我を早く直すことだけ考えて。

おやすみ、アスカ」

シンジの姿が戸の向こうに消えた。

(おやすみ、アスカ・・・おやすみ、アスカ・・・)

シンジの何気ない言葉が、なぜかアスカの胸にしみた。

(何だか夫婦みたいよね・・・あ、あたしったら何考えているの!?)

思わずアスカは、枕に自分の顔を押し付けて黙り込んでしまった。わずかに見える耳が真っ赤なのは、

何も怪我のせいばかりではなかった。






学校では、久しぶりに登校したシンジの変ぼうぶりが噂になっていた。

以前とはちがう、何やら自信に溢れた物腰、落ち着いた物言い、そして時折見せる常人離れした身の

こなし・・・。

シンジの行く先には、必ず女生徒の群れが集まった。

この1ヶ月の間にシンジに何があったのかを皆が知りたがったが、彼は黙って微笑むだけであった。

そして夕方になると、シンジは必ず山の方へと向かうのであった。

今日も箱根の山中に、気合いの入った声がこだまする。

「かぁー!! 答えよシンジ、流派・東方不敗はー!!」

「王者の風よー!!」

(僕は戦う。自分が自分の足で立つために。そして、僕をささえてくれるみんなのために! そして必ず

師匠に勝つ! ガンダムファイトで!!)

師匠との稽古が終わったあと、シンジは夜空の星を見つめて、これからもくじけずに戦い続けることを

誓ったのであった。






3月14日、師匠の真心が、ついにシンジに奇跡を起こした。












おまけ・それぞれの3/14



ボンバーガール(ボンバザルではない)・綾波レイは、あの日以来、シンジの失踪に

心を痛めていた。

(碇君、もしかしてあの爆発で・・・これは、涙?)

悲しみに沈むレイの前に、1人の少年が立った。

「碇君!?」

おもわず顔がほころぶレイ。

「綾波、これはこの間のお返しだよ」

「あ、ありがとう、碇君」

天高く舞い上がるレイの心。しかし・・・。

「ちょっと付き合ってくれないかな」

(もしかして、今度こそ本当に碇君と一つに・・・)

しかし彼女の行く先に待っていたのは、渋い顔をした師匠であった。

レイは、恋敵をLRSフィールド発生器で吹き飛ばそうとした

件で、その後3時間に渡りえんえんと師匠の説教を受けるはめになった。



山岸マユミはシンジと図書室で話していた。マユミにとっては何にも代えがたい思い出の場所である。

会話ははずみ、楽しいひとときはあっという間に過ぎていった。

「それじゃ、これ。お返しだよ」

マユミに包みを渡して去っていくシンジ。マユミが包みを開けると、洋菓子の老舗の箱と本が出て来た。

「碇君も本が好きになってくれたのね・・・これは・・・『餓狼伝』!?

それは、最強たるべく戦う1人の格闘家の壮絶な生きざまを描いた小説であった。

この一ヶ月の間に、シンジの心境に重大な変化があったことをマユミは知らない。シンジにしてみれば、

自分が今好きな本を送っただけなのだが・・・。

(碇君・・・何があったの・・・?)

その夜マユミは、レイにチキンウイングフェイスロックをかけられて

悶絶する悪夢にうなされた。



霧島マナは、下校途中の路上で彼女を待っていたシンジに出会った。

「マナ、この間はありがとう。これ、お返しだよ」

「うわー、うれしい! ありがとう、シンジ!」

人目もはばからずシンジに抱きつくマナ。正直でよろしい。

「それで、ちょっと話があるんだけど」

「なあに?」

シンジの後ろから、ムサシとケイタが姿を現わした。

(げ、まさか)

極楽から冥土へ一気に突き落とされるマナ。ムサシが口を開いた。

「この間のバレンタインデー、僕とケイタとシンジ君が、君から全く同じ指輪を貰ったんだ。

婚約指輪だとかいって・・・これはどういう意味かな?」

ケイタが困った顔でマナに問いかける。

「もしかして、僕ら三人をバトルロイヤルさせて、勝者と付き合うつもり

だったの? マナはそんなことしないよね?」

「あ・・・あの」

ムサシが言いづらそうに話し出した。

「ひょっとして、僕ら三人になんとか兄弟になってほしかったの・・・?」

さすがに真面目なムサシには、なんとかの部分をはっきり言うことが出来なかったようだ。

「ごめん、みんな・・・あたしが調子に乗り過ぎたの・・・」

突然顔をおおって泣き出すマナ。純情な3人はさすがにそれ以上マナを責めることが出来なかった。

青春小説の一コマのような光景が、夕暮れの路上に展開されていた。

「もういいよ、マナ・・・それより今からみんなで、何か食べに行かないか?」

これはまずいと思ったシンジが、助け舟を出す。

「賛成!」

さっきまで泣いていたマナまでが元気に答えた。

(どうせマナは、いま心の中で舌出してるんだろうな〜)

同じ思いの3人と楽しそうな1人の美少女は、夕暮れ時の繁華街へと繰り出していった。

(いつまでも、こうしてみんなと楽しくいられるといいな〜)

3人の予想を裏切って、年頃の乙女らしいことを考えているマナであった。



「シンジ君、お礼どうもありがとうね・・・さあ、これを着るですぅ〜!!

「マヤさんの攻撃すでに見切った! 必ぃーっ殺! エーンジェル・フィンガー!!

ネルフの司令室に怒声と爆発音(何故?)がこだました。

ピンクの怪獣の強烈な右の貫手をかわしたシンジの右手が、怪獣の口の中に吸い込まれていた。中の

マヤの顔がどうなっているかは、ちょっと想像したくない

「ひ、ひどい・・・せっかくゴッドガンダムの着ぐるみ用意したのに・・・」

「武道家はそんな着ぐるみ着て戦いません、普通・・・」

そのままゆっくりと崩れ落ちるピンクの怪獣。シンジは止めの一撃を放った右手を握りしめ、喜びに

思わず涙していた。

(師匠、ついに僕はネルフ、いや世界最強の怪獣を倒すことが出来ました。

師匠直伝のこのは・・・じ、自分の期待よりもはるかに強大でありました!)

勝利の余韻にひたるシンジに、リツコが声をかける。

「ありがとう、シンジ君。これであの子もこりたでしょう・・・」

リツコはセーラー服を着たようなロボットの着ぐるみを着せられていた。そう、ミサトがなぜか執拗に

乗りたがったノーベルガンダムである。

「リツコさん、またやられたんですね・・・」

よく見れば、冬月先生と生徒達は皆、モビルファイターの着ぐるみを着用させられている。

「あの子、シンジ君がマスターアジアの弟子になった、って知った時からこれを

準備してたらしいの」

「なんとか脱げんかな、これ」

冬月がマスターガンダムの着ぐるみを脱ごうと必死になっている。ハッキリ言って似合い過ぎだ。

ちなみにマコトはジェスター、シゲルはローズ、リョウジはマックスターの各ガンダムの姿である。

マヤちょんもいい目をしている。

「こんなの・・・」

「?」

「こんな少女趣味のスーツ、ミサトにでも着せてりゃあいいのよ〜!!」

鬼の形相で叫ぶリツコ。たちまち着ぐるみの髪? が裂け、全身から恐ろし気な

オーラが立ちのぼった。

バーサークモードまで再現するとは、マヤちょんもいつもながらのいい仕事をしている。

そのまま司令室で誰彼かまわず襲いかかるリツコ。司令室はたちまち、ランタオ島ばりの

デスマッチのリングと化した。この場に司令がいなかったことは、不幸中の幸いである。

(シンジ、私はお前が失踪したと聞いて、心配で夜も眠れなかった。だから、お前が元気な姿で帰って

来た時にはとても嬉しかった・・・それなのに、お前に顔を合わすことが出来ない。シンジ、許してくれ。

この格好では、司令としての立場が・・・)

デビルガンダムの着ぐるみを着せられたゲンドウは、隠れているロッカールームで、

深いため息をついた。



『碇シンジ君を守る会』の会員へのお礼の品は、師匠からそれぞれのメンバーに届けられた。

「シロー、シンジ君からお礼が届きましたよ」

紫のザクの乗り手のアイナが、シンジからの手紙を読みながら、傍らにいるシロー・アマダに話しかける。

二人の周りには、本家LASやLRSよりも遥かに強力なLASフィールドが展開されていた。

シンジからの手紙に目を通していたシローがアイナに話しかける。

「へえ〜、シンジ君、師匠から拳法を習いはじめたのか。何はともあれ、元気になってよかったな」

「よかったですわね、これもあの方の励ましのおかげですわ」

(東方不敗、ありがとう)

二人は心の中で、シンジをここまで立ち直らせた師匠に感謝の言葉を告げたのであった。



「フフフ・・・面白いこと言ってくれるじゃないか」

シーマは自宅で、シンジからの手紙を読んでいた。しかし言葉とは裏腹に、その顔はとても嬉しそうである。

(・・・僕の母親も、シーマさんみたいな厳しくて優しい人だったのかなと、最近思うことがあります。

一度遊びに来て下さい。息子になったつもりで歓迎しますから・・・ちょっとわざとらしいですね)

シンジのような年頃の息子を持つにはまだまだ若いシーマだが、今まで軍の汚い仕事ばかりやらされて

悪党呼ばわりされることが多かった彼女にとって、このシンジの一言はとても心安らぐものであった。

「今度遊びに行って、あたしの愛機にでも乗せてやろうか。茶と紫のゲルググなんて、そうお目に

かかれないから、喜んでくれると思うけどねぇ?」

シンジの手紙を机にしまったシーマは、シンジの母親になった自分の姿を想像して思わず吹き出していた。



「いやぁ〜! シンジが、シンジ兄ちゃんが!」

第三新東京市の住宅街に、少女の叫びがとどろいた。

「ミネバ様、落ち着いて!」

声の主は、ミネバ姫とサラ少尉のお笑い主従である。

先にシンジからのお礼の品を貰っていたキシリア叔母から、彼の様子が変わっていることを聞かされた

ミネバは、不安な気持ちでシンジからのプレゼントを待っていた。そして手紙を読んだミネバは・・・。

「シンジ兄ちゃんが格闘バカになっちゃったよ〜! 繊細で優しいシンジ兄ちゃんが

好きだったのに〜!」

「ミネバ様、落ち着いてください。例え武道に生きる道を見い出したとしても、シンジ様は

シンジ様です! 粗野な男になるはずがありません!」

そうは言ったものの、サラも不安が拭いきれなかった。彼女の知り合いに、MSに乗れたということで

天狗になりすぎて失敗した、カツ君という好例がいるだけに・・・。

「でもあのおじいさんの所にいたら、ドモンみたいに無愛想なシンジ兄ちゃんになっちゃう・・・」

ミネバが泣き出しそうな顔でもらした。

「大丈夫ですよ、シンジ様に限ってそのようなことは・・・もしそうなったら、建国活動に力を入れて

彼のことは忘れてしまえば・・・」

サラがここまで言った時、ミネバの眉がぴくりと動いた。

「建国・・・?」

「そう、モテモ・・・

何か言いかけたサラの顔めがけて、ミネバのシャアザクキックが飛んだ。

「ここでそれを言うなァ! あれは私じゃない! 絶対私はあんな宇宙人なんかじゃ!」

なにか忌わしい因果を忘れようとするかのように、ミネバが叫ぶ。

ここで、鼻を手で押さえながらサラが反撃に出た。

「お言葉ですが、殿下のシンジ様に対する執拗なアプローチ、あれはまさしくファー・・・」

「うきぃ! その口塞いでくれる! 覚悟おし、サラ!

サラの不用意な発言により、多分宇宙一小さな公国でまたも内戦が勃発した。

その夜を徹して戦闘は続き、停戦交渉が始まったのは朝になってからであった。

今回はいつもよりかなり長い内戦であった。






それぞれの想いとともに過ぎていったホワイトデー。しかし乙女達の心は、一点に集中していた。



決戦は、6月6日!











あとがき

スーパーロボット大戦α発売記念ということで、完成に至らなかったSSをようやく書き上げました。

今回も(α)シンジはモテモテのようです。さあ、どう出る元看板娘!

「知らないわよ!!」

 


猛魂さん、本当にありがとうございました!!

猛魂さんへの感想メールを!
u2162481@urawa.cabletv.ne.jp
までお願いします。


「投稿作品展」へ戻ります。