惣流アスカ・ラングレーあるいは優雅なる日常
柴レイ
惣流アスカの朝は絶叫とともに始まる・・・・・・
「シンジぃ!!!なんでもっと早く起こしてくれなかったのよぉ!!!」
「なんども起こしたよ。でも全然起きようとしなかったじゃないか。」
「うるさい!!!あんたは口答えをしてはいけないの。あ〜早くシャワーを浴びなきゃぁ。」
「アスカぁ、いくらなんでも僕の前で、パジャマを脱ぎ始めないでよ。」
「時間がないの。このあたしに朝シャンなしで、登校しろというの。信じらんな〜い。」
「登校って?」
「なに暢気な顔してんのよ、バカシンジ。今日は日曜日ではないわよ。」
「確かに日曜日じゃないけど・・・・・・でも・・・・・・」
「でも、何よ!!!」
「第三新東京市平和記念日・・・・・・祝日で、学校は休みじゃないか。」
「ほへっ・・・・・・そうだっけ???」
「そうだよ。だから今日は午後からイベント・ホールで平和式典があるから、僕達は綾波達とともに、出席するんだろ。忘れてたの?」
「うみゅ〜」
後を向いて座りながら、非難の言葉を向けるシンジに対して、アスカは急にバツの悪そうな表情と、可愛らしい呻き声を上げる。
下半身はまだパジャマズボンをはいていたが、上半身は既にブラを半分めくれた格好であったアスカであったが、
そっとシンジに背後から近づくと、それでも視線をアスカの方へは向けようとしないシンジの視線の先に、外したブラをひらひらさせる。
「おこっちゃ、や〜よ。シンジ。」
「なっ・・・・・・なにやってんだよ、アスカ。」
「おやぁ〜嬉しくないのぉ。新しいオカズをあげるからさぁ、それで怒鳴った事を勘弁してもらおうと思ったのにぃ。」
意地悪そうな笑みを浮かべながら、ちょっち色っぽそうな声色でシンジに語りかけるアスカ。
お互いに高校生になっているから、本来はとても危ない行動である筈だが、アスカは超オクテマンのシンジを軽く見ているようだ。
アスカの読みは正しく、シンジは高校生男子らしく狼君どころか、山羊さんへと変わっていた。
「やめてよぉ・・・・・・アスカぁ・・・・・・もう僕ダメだよぉ・・・・・・あう・・・・・・なにすんだよ!!!」
アスカは今度は、パジャマズボンを膝までめくり、右足をシンジの右肩へと乗せる。完全に面白がっていた。
「可愛い子山羊さん。天才狼少女の、このあたしが食べちゃってあげようかしら。がるるるぅ・・・・・・」
一箇所ではなく、身体全体をカチンカチンに固めたシンジに更に攻撃を加え様としたアスカであったが、不意に後方から声がかかった。
「アスカ・・・・・・あんた、シンちゃんに何やってんのよ。」
「アスカ・・・・・・不潔よ。」
「お猿さん・・・・・・私の碇君にむかって、何さかっているのよ・・・・・・殲滅されたいの・・・・・・」
その声を聞いて、今度はアスカもカチンカチンに固まった。彼女の頬を一筋の汗が流れ落ちる。
座っているシンジの後方に片足で立ち、右足をシンジの肩に乗せて、上半身裸のままの態勢で・・・・・・
すると、アスカの体重を右肩に受けながら、俯いていたシンジが、ボソっと呟いた。
「今日の事があるから、みんながこのマンションに昨晩から泊まっていた事も忘れていたの?」
「ママァ・・・・・・」
情けない様な、すがる様な声を上げるアスカ。しかし彼女に更に追い討ちの声がかかる。
「朝からええもん見せてもろうたわ。ケンスケ、ビデオ回してるやろな。」
「抜かりはないよ、トウジ。これは高く売れると見たね。最新式のデジタルカメラをようやく買えそうだよ。」
「アスカ、俺はおまえをドイツでこんな子に育てた覚えはなかったぞ。せめて人前では自重してくれよな。葛城じゃないんだから。」
最後の加持の言葉がとどめであった。もはやアスカは臨界点を突破してしまった。そして
「やだぁぁぁぁぁぁ!!!」
朝のコンフォートマンションに、ひときは大きな叫びが轟いた。
お日様は、お空のちょうど真上にさしかかっていた。
第三新東京市を見下ろせる、小高い丘に建てられた、こぎれいなイベントホールには多くの人々が集まってきていた。
既にステージでは、様々なアトラクションが催されており、なかなか盛況で、見物人もとても楽しんでいる様子だった。
旧ネルフを代表するアスカやシンジ達・・・・・・チルドレンの出番は、三時過ぎの予定であった。それにそなえて彼らは、
互いの打ち合わせもあるという事で、集まっていなければならないのであるが、肝心のアスカの姿が無かった。
「アスカは、どこにいっちゃったんだろう・・・・・・」
心配そうに呟く、シンジ。それに対してレイはぶっきらぼうに応える。
「アスカの事はもういいじゃない、碇君・・・・・・どうせまたいつもの気まぐれが出ているのよ・・・・・・」
「そんな事言わないでくれよぉ、綾波ぃ〜」
「そないなこと言うてもなぁ、おらへんもんはしょうがないやん。最悪は、わいらだけでなんとかしたらええし。」
「トウジまでぇ・・・・・・」
「惣流さんの事に、あまり気を揉まない方がいいと思うよ、シンジ君。彼女は、僕達の理解の及ぶ範囲の外で生きているのだからね。」
「カヲルく〜ん・・・・・・」
レイだけではない、トウジとカヲルもなんか諦めモードだ。シンジも味方がいないとなると、直ぐに安直な結論へと心変わりする。
「仕方ないのかもね。まぁ今朝の事もあったし。今日はアスカ、だめなのかもしれないね。」
「その通りよ、碇君。」
「まぁ今晩優しく抱いてあげたらええねん・・・・・・ぐはぁ!!!なにすんねんな、綾波ぃ・・・・・・」
「これはこれは・・・・・・フォース君も沈黙したようだね。それでは、三人で打ち合わせを始めようか、シンジ君。」
大の字で、寝転がるトウジを置いて、シンジとレイ、そしてカヲルの三人が、ホールの中の控え室へと向かった。
その様子を、建物の影からサングラス越しに見つめる者がいた。歯軋りする音がまわりに響き、怒りのオーラであたりを凍らせながら。
「ったくぅ・・・・・・シンジのやつぅ・・・・・・そんなにファーストとナルシスホモがいいのぉ・・・・・・」
そんなたいそうご立腹のアスカの背中を、とんとんと叩く者がいた。しかし怒りに燃えるアスカはそれを無視しながら
「鈴原も鈴原よ・・・・・・もう少し頑張んなさいよ。たまにいい事を言ったと思ったら、すぐ寝ちゃうんだからぁ・・・・・・」
それでもアスカの背中を誰かが、とんとんと叩く
「こうなったら、朝の事は恥ずかしかったけど、やっぱり出向かないといけないのかしらねぇ・・・・・・」
とんとん
「うるさいわねぇ!!!今取りこんでんのよ・・・・・・って、あんた誰?」
我慢できなくなって大声を出しながら、振りかえるアスカ。しかし彼女の目の前にいたのは、見知らぬ少女の姿であった。
年は十四歳くらい。第三新東京の中学校の制服を着ており、真っ黒いストレートの黒髪と黒い瞳が印象的で、
しかもその黒髪は、きれいに三つ編にしてあって、腰まで伸びていた。表情はとても勝ち気そうな感じが出ていたが、
それでも目鼻立ちはまるで外人の様に整っていて、誰が見ても美少女と感嘆せざるを得ないような美しさを持っていた。
思わず女の子同士でありながら、見惚れてしまうアスカ。しかし、この少女は外見通りの勝ち気そうな口調で
「私の出番まだぁ!!!」
唐突な意味不明な発言に、アスカの表情にハテナマークが浮かぶ。
「ユウジ君は、何処にいるのぉ?早く見つけないと、おばさんに怒られんのよねぇ。」
「あんたは、何を言っているの?誰よユウジ君って?」
「もおいいわ・・・・・・ここにはいないようね・・・・・・ところで・・・・・・」
少女は諦めたような表情を浮かべたが、不意にアスカにむかって右人差し指をビシッと突き出した。
「そ・・・・・・それは私の・・・・・・」
「惣流アスカ・ラングレー。エヴァのヒロインの座は、このアズサが奪い取ってみせるからね。」
「はぁ・・・・・・なんなのよぉ〜この子・・・・・・」
自身たっぷりにアスカに宣言する、少女の姿にアスカは戸惑いを隠せない。しかし、少女はそんなアスカの姿をにやりと見つめた後
「じゃぁまったねぇ・・・・・・おばさん・・・・・・」
「なっ・・・・・・ななな・・・・・・おっ・・・・・・おばさん・・・・・・」
口をパクパクさせるアスカを尻目に、そのアズサと名乗った少女は脱兎のごとくその場から駆け出して行った。
すぐにその姿は人込みへと消えて行く。呆然とその様を見つめていたアスカであったが、ふと気がついたように叫んだ。
「なんなのよぉ〜あんのガキやぁ!!!この私に向かって、おばさんだってぇ!!!」
あたりかまわず喚き散らすアスカ。しかし、また彼女の背中を、とんとんと叩く者がいた。
「のわぁによぉ!!!まだ話があんのぉ!!!あんたみたいな小娘に大事なユウジは・・・・・・ってあれ?」
興奮の為か、自分も意味不明な言葉を口走るアスカ。しかし、そんなアスカの表情が直ぐに落ちついたものに変わった。
今度後にいたのは、生意気な謎の少女ではなく、馴染みの相手、マナであったからだ。
「マナっ・・・・・・どうしたの。なんか私に用。」
「司令・・・・・・じゃなくってぇ、アスカさん・・・・・・ふにゃ?・・・・・・私にも変な病気がうつったみたい。」
アスカ同様、不思議な電波を受信してしまったのか、つられておかしな事を言いかけたマナであったが、
直ぐに気を取りなおして、アスカにむかって俯き加減になり、小さな声で話しかけた。
「アスカさん、その・・・・・・ごめんなさい・・・・・・相談にのって欲しいの・・・・・・」
そのマナの言葉に、興奮していたアスカの表情が、きりっと引き締まった物に変わる。
そして冷静な口調で、マナに語り掛けた。
「どうしたの、マナ。私でよければ相談にのるわよ。」
アスカは、そう言って優しくマナの肩をたたき、二人で連れ立って、どこか座れる適当な場所を求めて歩いて行った。
「ムサシって・・・・・・あの?」
「そうなの。あの時私をおいて、一人で脱出ロケットに乗って逃げたムサシよぉ。」
「えっとぉ〜みなさん、SS投稿コーナーの『鋼鉄の少女戦士マナ〜あなざぁえんでぃんぐ』を御参照ください。」
「誰に言ってんのよ、アスカさん。」
「いえ、こっちの事よ。それでマナ、そのムサシが帰って来たって事なの。」
「そうなの・・・・・・いまさらね。私もあれから色々と大変なめにも遭って来たのに、その時はなんにもしてくれなかったのに。」
「だよねぇ・・・・・・外基地科学者に、超獣にまでされちゃったんだもんね。」
イベント会場に、出店していたハンバーガーショップで、ビック・スケルトン・セットを食しながら、アスカとマナが話し合っていた。
時計の針は二時を指していた。そろそろステージでチルドレン達の出番が近づいていたのだが、アスカはその事を忘れているようだった。
「ムサシは、『今までゴメン、これからはマナの側についているから、大切に守るから』って勝手な事言うのよ。調子のいい事言ってさぁ。」
「ふんふん・・・・・・でもその調子のいい事を聞いた時、実は嬉しかったんでしょ。」
「なっなんでよぉ・・・・・・そんなこと・・・・・・」
「だって、今のマナの顔が嬉しそうだったもん。」
「そういう顔してた・・・・・・」
「うん。してた。」
アスカの指摘に、顔を真っ赤にして俯くマナ。それをアスカは優しそうな顔で眺めていた。
「そう・・・・・・嬉しかったの・・・・・・でもね・・・・・・」
「でも?」
「私・・・・・・少し涙ぐんでいたのかもしれない。そしたらね、ムサシが・・・・・・いきなり抱きついてきたの・・・・・・」
「あらまぁ情熱的ねぇ・・・・・・シンジもその半分でいいから・・・・・・」
「それで私思わず、ムサシを引き離して、顔をひっぱたいちゃったの・・・・・・」
「あちゃぁ〜」
「そしたらムサシ。怒りもせずに、私の顔を悲しそうな目で見て、それで走って行っちゃったの・・・・・・」
マナは、そこまで言うと、声が涙声に変わっていた。
「私・・・・・・それからどうしたらいいか・・・・・・わかんなくなって・・・・・・誰に相談したらいいかも・・・・・・」
「マナ・・・・・・」
「私・・・・・・自分の気持ちがわかんない・・・・・・本当にムサシの事どう思っているのかも・・・・・・なんで叩いちゃったんだろう・・・・・・」
アスカは、マナにかけてあげる言葉を持てなかった。マナは暫く俯いたままであったが、やがて立ちあがると、
「ごめんなさい、アスカさん。」
と言って、外に走って行った。アスカはその後姿を、ビック・スケルトンを大口あけてかぶりつきながら
「はぐはぐ・・・・・・はんとかひてあへないとね・・・・・・ごっくん・・・・・・最近味落ちたわねぇ〜ジョップスのハンバーグも・・・・・・」
そんな事を言いながらも、更にフライドポテトのMサイズに手を伸ばそうとしていたが、不意に窓に写る男の子の姿を見て
「あれは!!!確かぁムサシ君じゃない!!!」
そう言って席を立ち、ハンバーガーショップの前を、ちょうど考え事している風で歩いていたムサシに駆け寄ろうとした。
とにかくなんか言ってやろうと思って意気込んでいたアスカであったが、ムサシに声をかけようとした寸前に背中を掴まれた。
「何よぉ背中を引っ張るのわぁ・・・・・・あっ加持さん・・・・・・ミサト・・・・・・」
振りかえったアスカの前にいたのは、加持とミサトの姿だった。驚くアスカに対して、ミサトが口を最初に開く
「よけいな事しない方がいいわよ。アスカ。」
「よけいな事って?えっどうして?」
「ムサシ君をマナちゃんの事で、問い詰め様としてたんでしょ。」
「う・・・・・・ということは聞いていたのね。私とマナの会話を。」
その問いには、加持が答えた。
「たまたま偶然にな。葛城と一緒にアスカの事探してたんだよ。そしたらこいつがさ、腹減ったというから、スケルトンのLセットとか・・・・・・」
「加持ぃ・・・・・・そんなことどうでもいいじゃん・・・・・・」
「で・・・・・・私とマナが話しこんでいるのを見つけたと・・・・・・つい声をかけられなくってそのまま聞いていたと・・・・・・全然気づかなかったわ。」
「そういう事だな。まぁこいつが、いじきたなく俺の分までぱくついているから・・・・・・あいててっ・・・・・・」
「あんたは黙ってなさい。よけいな事までぺらぺらと。」
加持の耳たぶを強く引っ張りながら、ミサトはアスカに
「アスカだってわかっているんでしょ。あの二人が両思いだって事。そりゃムサシ君にも様々な事情があって、
今まで会えなかったんだろうけど、それでもこうやって再会して、お互い心の底で求め合っている事に気づいたんじゃない。
会えない時間が〜愛育てるのさ♪・・・・・・って所だったんでしょうね。」
「この前、リッちゃんが、葛城が妙に古い歌を知っていると言ってたが、まったくだな。いつ頃の歌だよ、それ?」
「あんたは、混ぜ繰り返さないの。ったく・・・・・・それでね、アスカ。確かにムサシ君はタイミングを早まったみたいだけど。」
「だから、私がそのあたりの事を・・・・・・」
「それがよけいなお節介だっつうの。」
ミサトはそう言って、再度ムサシに近づこうとするアスカを止め様とした。加持もアスカに語りかける。
「彼らの事は、彼らに任せるのが一番だって。マナちゃんだって、自分の気持ちには気がついているんだから・・・・・・なっ。」
「加持さんがそこまで言うのなら・・・・・・」
アスカもようやく納得した風であった。ムサシの姿は、三人の近くから離れ、人込みの中に消えて行った。
暫しの時が三人の間に空いたが、アスカが不意に思い出した様に、二人に問いかける
「ところで・・・・・・さっき私を探しているって・・・・・・」
「あっそうなのよぉ、肝心な事忘れてたわ、アスカ。あのね大変なのよ。」
「どうしたのよ一体?、ミサト。」
「三時から始まる、平和記念式典のあんたたちの出番の事よ。」
「あ〜あれね。別に私はどうでもいいんでしょ。シンジとレイとナルシスホモで勝手にやるって・・・・・・」
「いやぁそれがな・・・・・・アスカ・・・・・・」
「どうしたの加持さん、何かがあったの?」
表情を曇らせた、加持とミサトを見て、アスカの胸にいやぁな予感がよぎった。
「それでシンジ君は、ステージの真ん中には立ちたくないと。」
「うん・・・・・・恥ずかしいもん・・・・・・それに僕には向いていないと思うし・・・・・・」
「本当にガラスの様に繊細なんだね、君の心は。」
「タブリス・・・・・・あなたが碇君の代りに壇上に立つといいわ。私は後ろで碇君といっしょに見守っているから。」
「君の提案は、好意に値しないね・・・・・・リリス。繊細なシンジ君と僕こそが後に控えるべきで、それとは程遠い君こそが・・・・・・」
「あらっ、繊細というのは碇君の為にある言葉でしょ。ナルシストなあなたは、リリンの上辺だけの喝采だけが生きがいではないの?」
「そういう生意気な口が、シンジ君のお父さんが好きだというオヤジ趣味で、しかもすぐに白化して痴態をさらす君から・・・・・・」
「あなただけ、黒い月の中で補完してあげようかしら・・・・・・」
「おとなしく、僕達の側から身を引いて、髭オヤジの元に帰ったらどうだい・・・・・・」
「やめてよぉ二人とも・・・・・・怖いよぉ・・・・・・」
「碇君・・・・・・いまからあなたのお尻を狙う悪質な使途を退治してあげるわ・・・・・・」
「僕とシンジ君のローズ・ガーデンを荒らす、惨めな害虫を駆除してあげるよ・・・・・・」
「誰が害虫よ・・・・・・」
「悪質な使途とはね・・・・・・君にこそふさわしい・・・・・・」
「助けてぇアスカぁ!!!」
「・・・・・・という訳でね、彼らのいる控え室に、催眠ガスを流すしかなかったんだよ。」
「催眠ガスって・・・・・・シンジまで・・・・・・シンジはなんにも悪くないじゃない。」
「やむをえなかったんだよ。事は緊急を要したから。後一歩判断が遅れたら、サードインパクトが起こりかねなかった。」
「だからって・・・・・・そりゃぁしょうがないのかもしれないけど・・・・・・シンジがぁ・・・・・・」
加持に向かって、不安げに呟くアスカであったが、ミサトがすかさずフォローをいれるように
「シンジ君は大丈夫。今は病室ですやすやと眠っているわ。多分もうすぐ目覚めると思う。なんの心配もないわよ。」
と答えたので、ほっと胸をなでおろした。すると今度はミサトに向かって腹立たしげに問いかける
「それで、後の二人はぁ・・・・・・」
「リツコが、研究室にあの二人を連れて行ったわ。マヤもくっついていたわね。とても嬉しそうに鼻歌を歌っていたから・・・・・・」
「リッちゃんの鼻歌程、恐ろしいサインはないな。」
「まぁ〜ちょっとはあの二人をおとなしくなる様に、改造して欲しいわね。」
「改造・・・・・・ってアスカ・・・・・・あんたも怖い事をさらりと言うわね。」
「シンジを怖がらせた報いよ。当然じゃない。」
「サードインパクトを起こしかけたという事は、どうでもいいんだなアスカにとっては。」
加持もミサトも、アスカの物の言い様に、なんか空恐ろしい物を感じていた。この子が一番怖いのでは・・・・・・
シンジの為だったら、地球がどうなっても・・・・・・ってあれっ・・・・・・シンジもいっしょか・・・・・・似たものカップルか・・・・・・
そう考えながら、二人はアスカの姿を見ていたが、アスカが急に声を発した。
「もぅ二時五十分じゃない!!!急がなくっちゃ!!!」
「アスカ・・・・・・それじゃぁ・・・・・・」
「私しかいないんでしょ。やるわよ。五人のチルドレンの代表として、しっかり務めてくるわよ。」
そう言いながら、アスカは舞台に向かって走っていった。その後姿を、加持とミサトは頼もしげに見つめていた。
「やっぱり立派ね、アスカは。」
「まあな・・・・・・確かにネルフは解散されたが、これからの人類を背負ってたつのは、あの子達なんだろうな。」
「アスカの演説見に行かないとね。私達・・・・・・旧ネルフも代表してくれてるんだから。」
「そうだな。走るぞ!!!葛城!!!」
今日の式典のハイライト、地球を守った最大の功労者、チルドレンの登場に、人々がいっせいにステージ向かって行った。
その人込みを掻き分ける様に進む、加持とミサトの姿があった。
・・・・・・・・・・・・結果として、私はたいした実績はなんにも残せなかったんです。
地球を・・・・・・私達人類を守る為に、必死になって戦ってきたのは、今日ここにはいないんだけど・・・・・・
ファースト・チルドレン・・・・・・サード・チルドレン・・・・・・そして私達を支えてくれた、ネルフのみんな。
それなのに、この私は彼等の頑張りの半分も出来なかった。でも、これだけは自身をもって言えるわ。
私は自分自身の為に・・・・・・そしてそれがみんなの為になると思って、自分に出来る事を精一杯やったわ。
ネルフのみんなだってそう。確かにやって来た事は間違っていたのかもしれない・・・・・・
でも信じてください。私達はまわりのみんなを不幸にしようなんて思ったことは一度もなかったわ。
自分を、そしてみんなを救いたいと思って、真っ直ぐな気持ちで頑張ってきたんです。
昔から人類の歴史は、争い事の繰り返しだったという人がいる。戦争が文明を進化させてきたんだという人がいる。
でも私は違うと思うわ。争いを、人を殺す事を目的に私達は進化してきたんじゃない。
ただ幸せになりたいから。まわりのみんなと喜びを分ち合いたいから。始めは、それだけの事だった筈なの。
そのやり方を今までどこか間違えてきたんだと思う。ネルフもそうだったと思うわ。
様々な間違いを私達は犯してきた。この私だって、過ちの連続だわ。でも今それを反省する気持ちを持っている。
自分は、実はなんのたいしたことも出来ないままだったんだって、正直に見つめる事が出来る。
だから明日からは・・・・・・いえ、今日の今ここから、自分に出来る事を考え、実行していこうと思うわ。
ここに集まっている皆さん。平和を求める気持ちはみんな一緒だと思う。私達は、過去の過ちを反省して、
そしてこれからも間違いを犯すのかもしれないけど、それでも逃げないで、怖がらないで、
一歩一歩争いのない、みんなが幸せになる世の中作りを目指して、進みましょう。
私の言う事を、世間知らずの綺麗事というのは、簡単な事だわ。でも私は間違った事は絶対言ってない。
間違ってはいないのよ。みんなで幸せになりたい。その為に頑張るわ。惣流アスカ・ラングレーは、
幸せになるためだったら、もう何も恐れないわ・・・・・・もう何も恐れる事はないの・・・・・・怖くなんかないわ!!!」
アスカは、自分の発言に酔いしれる様に、最後は同じ言葉を繰り返していた。そんな彼女に暖かい拍手が向けられた。
でも、その中には、子供の夢みたいな理想論だという覚めた呟きもあちこちで漏れていた。
アスカは、ステージを退場し。代りに今度はロックバンドが現われて、激しいビートを刻み出した。
若い女の子達の黄色い歓声が飛び。場は一気に華やいだ。大人達は、徐々に場を離れて行った。
アスカは、ステージを降りて舞台裏にいた。そして、ステージではなく、反対側にある窓から外の様子を見つめていた。
彼女の視線は、人込みの中のある一点にそそがれていた。そこには、一組のカップルの姿があった。
木にもたれかかっている女の子の姿があった。それに必死に語りかけている男の姿があった。
やがて女の子が右掌で両目を覆い、そして男の胸にもたれかかっていった。男は優しくそれを抱きとめた。
日も大分暮れ始め、肌寒さも増し始めていた。それでも抱き合うカップルのまわりには暖かい空気が満ち満ちている様に見えた。
アスカは、それを見ながらそっと呟いた。とても嬉しそうな表情で。
「お幸せに・・・・・・頑張ってね・・・・・・」
そんなアスカに後から声がかかる。
「アスカ、お疲れ様。さっきミサトさんから聞いたよ。素晴らしい演説をしたんだってね。」
「遅いわよ・・・・・・バカ・・・・・・」
「ごめんよぉ・・・・・・でもどうしたの・・・・・・なんかとても嬉しそうだね。」
アスカは、シンジのいる方向に振りかえった。そしてウインクしながら、ゆっくりと語りかけた。
「“そして二人はいつまでも幸せに暮らした・・・・・・なのに私にはなにもくれなかった”」
「アスカ・・・・・・」
「ヨーロッパではね、“めでたしめでたし”・・・・・・の代りにこう締めくくる国があるんだって。」
そう言った後、アスカは外へと出て行った。始めきょとんとしていたシンジも慌てて後を追う。
彼女の名前を呼びながら近づいて来るシンジに向かって、アスカは両掌を口元に持って行き、大声で叫んだ。
「シンジぃ・・・・・・来週はわかっているわよね!!!」
「もちろんさ!!!忘れるもんか!!!」
シンジも負けずに声を返す。アスカは、それを嬉しそうにかみしめながら、もう一度シンジに向かって思いっきり叫んだ。
「日付が変わった瞬間に、誰よりも早く言うのよ!!!絶対だからね!!!」
終わり
******後書き******
アスカ様、お誕生日おめでとうございます!
柴レイさん、本当にありがとうございました!!
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