『……忌まわしい『使徒』の襲撃からもう1年以上経つ訳ですが、私達の前に新たなる脅威が訪れようとしています。15年振りとなります『台風1号』が、紀伊半島沖約500Km南方の海上で発生しました……』
「台風ねぇ。ただの自然現象じゃない、手軽に『使徒』と並べないで欲しいわね。」
「へぇ、懐かしいわね。それじゃあ、今から防御策を考えますか。」
「『防御策』って、大袈裟ねぇ。ただの強力低気圧でしょ?」
「あー全然格が違うわよ。そんじょそこらの低気圧と較べちゃあダメ!」
夕食後、アスカとミサトが天気予報を見て騒いでいる。後片づけを終えたシンジも会話に加わる。
「ミサトさん、台風ってそんなに凄いんですか?」
「何でシンちゃんまで……あーそっか、二人とも知らないんだ。」
「ええ。学校で習ってはいるんですけど……。」
「何か嘘クサイのよね。第一、ドイツじゃそんなモノ来ないもん。」
「まあ、そう言ってられるのも今の内だけだと思うけどね……。取り敢えず明日から、台風来襲に備えて装備を整えておくわよ。」
「「はーい。」」
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『……現在、時速約20Kmの速さで北北西に進んでおり、今後、近畿から関東沿岸にかけて上陸する可能性があります……』
ゴクゴク……
「ぷっはーっ!やっぱ朝はこれに限るわねぇ〜。」
「よくも毎回飽きないわねぇ。」
「楽しみって物はそう簡単には飽きないものなのよ。」
「そんな事よりミサトさん、備えの方は良いんですか?」
「あ、そうねぇ……。取り敢えず、溜まったもの全部洗濯して、それと雨戸の具合確かめといて。」
「それだけ?」
「そうよ、来なかったら骨折り損だもんね。もう少し様子を見るわ。」
「「……。」」
本当にやる気はあるのか!?と、いつもながらミサトを疑う二人であった。
ミサトが仕事に出た後、取り敢えず言われた通りに洗濯を始めるシンジと、その様子をリビングで眺めるアスカ。いつもと変わらない風景。
「ねぇシンジ、本当に来ると思う?」
「天気予報の適中率が下がってるって言うからね、どうかな?」
「MAGIを使ったら簡単に予想がつくと思うけどなぁ。」
「いくらコンピュータが良くてもデータが無いとダメだと思うよ。」
「そうよね……。世の中不便になったものよねぇ。」
「その責任の一端は僕達にあるんだよね……。」
「あのねぇ……その話はもう終わったの、クヨクヨしたところでどうしようも無いじゃない。気にしちゃダメ、忘れなさい。」
「……うん……そうだね……。」
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『……勢力を拡大し、速度も上がっています。明日夜半頃に東海から関東地方に上陸する可能性が強まりました……』
「ただいま。」
バタン
夕方、仕事から戻って来たミサトは、ビールに手をつける事無く、そのまま自室に入ってしまった。
今朝と全然違うその様子に戸惑う二人。
「どうしたの、ミサト?」
「僕にも解んないよ。」
ガラッ
「シンジ君、突然で悪いけど、明日一番にこれだけの物を買っといて欲しいの。」
「あ、はい。」
「わぁ結構あるわねぇ、一人で持てる?」
「何とかなると思うけど。」
「いいわ、手伝ってあげるわよ、買い物。」
「ありがとう、お願いするよ。」
「それじゃ、二人にお願いするわ。でシンジ君、雨戸、どうだった?」
「異状無しよ。アタシが見てあげたわ。」
「オッケー、さあ明日から戦争よぉ!」
「戦争、ですか……。」
「そう!自然との厳し〜い戦いが始まるのよ!」
「やる気満々ねぇ。」
「あったり前よ!久々に陣頭指揮が採れるんだから!そうそう、来襲の確率70%だそうよ。MAGIがそう弾き出したわ。」
「ホントに来るの?信用出来ないわ。」
「大丈夫、気象庁のデータとウチで独自に集めたデータとを使っているから信用に足りるわ。」
「ふーん……。」
「よくデータ貰えましたね。」
「今度からMAGIをバックアップ的に貸し出す事になったのよ。まあ小遣い稼ぎって訳ね。」
「やっぱり予算厳しいんだ……。」
「そう言う事。さあ、今日はさっさと寝ましょう。明日はろくに寝られ無いと思うから。」
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『……中型で非常に強い台風1号は現在……の速さで北西に進んでおり。今夜半前には東海地方に上陸する可能性が強まりました……』
「じゃあ、二人とも頼んだわよ。私は家の方の準備をしておくから。」
「はい。」
「じゃ、行って来まーす!」
シンジとアスカは自転車に二人乗りでスーパーに向かう。アスカは後ろの車軸の上に立ち乗りし、シンジが漕いでいる。いつも荷物を載せているからか、シンジは漕ぎながらも空を見上げる余裕がある様だ。
「ちょっと雲が出て来た様だね。」
「そうね……。でも、なぁんか実感湧かないなぁ。」
「なんて言ったら良いのかな、いつもよりも、何かこう、押し黙ったって言うか、異様に静かに思えるんだよ。『嵐の前の静けさ』って奴だと思うんだけど。」
「そう言われると……何か薄気味悪いわね。いつもベランダで感じる風と少し違う気がするわ。」
スーパーで手分けして買い物を済ませる二人。しかし、同じ事を考えている人が多いのか、既に品切れの物もあった。いつもは行かない遠くのスーパーや商店街等も廻って、何とか全部買い揃えられた時には、既に昼をまわっていた。
「ありがとうアスカ。まさかここまで苦労するとは思わなかったから……。」
「あん?ああ気にしないで良いわよ。アタシが言い出した事なんだから。それよりもさぁシンジ、雲が流れるの、速くなって無い?」
「あ、ホントだ。何か凄い勢いだね。」
「こうなるとボヤボヤしてられないわね。うんしょっとぉ、さ、早く帰ろ。」
「アスカ、重いんだったら僕が持つよ。」
「”No Thank You”よ。大体、何処で持つのよ。自転車の前も後ろも満載で、それを押してるアンタの両腕にも袋がぶら下がってて、背中にも満タンのリュック、どう見たって出来っこ無いでしょうが。それに、今アタシが持ってるのが一番軽いんでしょ?」
「そうだけど……。でもさ……」
「デモも本番も無いの!そんなにアタシが心配ならさっさと帰る事ね。ほら!早く早く!」
「ああ!待ってよぉ!」
「「ただいまー!」」
「お帰りなさ〜い。ご苦労様ぁ。」
「ふ〜、重かったわぁ。」
「これだけあったらキャンプにでも行けますね。」
「この文明社会の世の中、ライフラインが断たれると大変よぉ。あの停電騒ぎで解ってくれてると思うけど。」
「う〜ん、本格的防災対策ねぇ。」
「それじゃあ、私はこれから本部に行って来るわ。多分、二三日は帰って来れないと思うわ。悪いけど御留守番お願いね。」
「そりゃいいけど。どうして本部なんかに行く訳?」
「この町を造った訳だから、まあ、自治体の役目もしょってる訳よ。責任者だから一応本部に詰めとかないとね。」
「それで、『陣頭指揮』って訳ね。」
「分かりました。」
「それじゃ最後に注意点。
風の音が止むまで窓には近づかない事。何が飛んで来るか判らないからね、雨戸なんていざとなったら役には立たないものよ。
食料と明かりはテーブルに乗せておくか、手の届く範囲に置いておく事。突然暗くなると結構慌てるわよ。
お風呂はシャワーだけ。湯船には水が張ってあるけど、非常用だから沸かさないでね。それから早めに入っておく事をお勧めするわ。
携帯はどちら片方だけ電源を入れておくと良いわ。通常回線は混雑するかも知れないから、緊急時以外は受け専用のつもりでいて頂戴。
解った?」
「う、うん……。」
「何とかね……。」
「何か心もとないわね……でも、信用してるわよ。二人で力を合わせて、この大局を乗り切ってね。」
「「はい!」」
「うんうん、元気でよろしい。それじゃ!行って来ます!」
「「行ってらっしゃ〜い!」」
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普段の日没よりも早く、辺りが暗くなって来た。それと同時に雨が降り出す。風はさほど酷くない様だ。
それでもシンジは早めに雨戸を閉じる事にした。
「アスカぁ、もうシャワー浴びて来たらぁ!」
自室にいるアスカに向かってシンジが叫ぶ。それに応える様にアスカが出て来た。
「もう入んなきゃダメなのぉ。まだ食事前じゃない。」
「やっぱり警戒しとかないとダメだろ?。入ってる最中に停電したらどうするのさ。」
「ううっ……それはイヤ……。」
「だろ?だったら早く入った方が良いと思うよ。その間に食事の用意しておくからさ。」
「分かったわ」
アスカは支度をしに部屋に戻り、シンジはキッチンで冷蔵庫から在り合わせの物を取り出し、夕食の用意を始める。
それから約十分後……
ふっ……
「大丈夫か!?アス……カ……。」
「……い!!」
恐らく、雷に依るものであろう、『瞬断』が起こった。
アスカの悲鳴に慌てて風呂場へ行くシンジ。そこで見たものは、脱衣場に飛び出してペタンと座り込むアスカの姿。勿論彼女には何も身に纏う余裕など無いから……。
「あ……あの……その……」
「……い……い、いつまで見てんのよ!このエッチ!痴漢!変態!ドスケベ!!」
「あ、あわわわ!ご、ゴメバコッ!!
……キュウ……
アスカの投げた柔軟剤のボトルが眉間に命中、御愁傷様……。
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「アスカぁ、早く食べないと冷めちゃうよぉ。」
「……」
「……はあ……なんでこんな時に……。」
シンジが気付いたのは、リビングの床の上、気絶している間に運ばれたらしい。
急いで食事の用意を済ませたシンジは、自室に居るであろうアスカに声をかけた。が、アスカは閉じこもったまま出てこない。
とっくに料理は冷めてしまっているが、あの後シンジはそうなっても不味くならないメニューに変更した。在り合わせの物でそこまでしてしまうのはさすが。しかし、アスカに対する接し方は未だに上達していない。良くも悪くもさすがはシンジ、と言う所か。
今のシンジの一番の心配は、部屋に籠っているアスカの事。アスカの部屋の窓には雨戸が無い。廊下側の部屋なので格子しかはまっていないのだ。幸いにも今の所風向きは窓の向きと丁度反対側、しかし何時何が飛んで来るか判らない。リビングにいるのが一番安全なのだ。何とかして部屋から出て貰わないといけないのだが、次第に焦りが募ってくるシンジには良い対処法が思い浮かばないのであった。
一方のアスカは、シンジに見られてしまった恥ずかしさはさほど強くは無かった。同居する以上、こうなる事は予想出来たし、そうなっても構わないと覚悟は決めていたからであった。
それよりも、とっさの事とは言え、シンジに物をぶつけてしまった事に対する後悔の方が大きかった。素直に謝れば済むものを、彼女のプライドが許さない。そしてそれに苛立つ自分を抑える自信が無いのが辛かった。今シンジと顔を合わせれば、必ず心にも無い事を言って喧嘩になる、その後とても後悔するから、悲しくなるから、なんとしても避けたかったのだった。
やはりアスカもシンジとの接し方が巧く無い。いつも喧嘩の経緯は堂々巡り、毎回同じ事を考えて部屋に籠っている。
ついに待切れなくなったシンジは、アスカの部屋の前にやって来て説得を試みる事にした。早く部屋から出さないと、その一心で。
「アスカ、聞こえてる?」
「……」
「勝手に言わせてもらうよ。さっきはゴメン。突然の事で後先考えずに飛び込んだのがいけなかったと思ってる。バカだよ、僕は。」
部屋の中でアスカは静かに泣き出した。シンジはこんなに自分に気を使ってくれている。自分の所為で責任の無いはずのシンジに謝らせている。早く仲直りしたいのに、どうすれば良いのか判らない。
普段なら、シンジを部屋に招き入れる事でもしてきっかけが作れただろう。しかし、泣いている事を悟られるのはまずい、そう思った途端に言うべきで無い事を言ってしまっている自分に気が付いた。
「アンタホントにバカよ!あれだけの事しておいて、謝るだけで済むと思ってんの!大体アンタには誠意ってモノが感じられないのよ!」
「確かにいつも安易に謝罪の言葉を使い過ぎていると思う。でも、僕の性格を解ってくれているんなら……」
「うるさい!放っといてよ!もうアンタとは口なんかきいてやんないから!絶交よ!!」
昔のシンジならここで引き下がっていただろう。しかし、シンジのアスカを思う心が彼を遂に行動に駆り立てた。
荒々しく戸を開けて入って来るシンジに驚くアスカ。
「ちょっと何よアンタ!勝手に入ってこないでって言ってるでしょ!」
慌てて声を張り上げるアスカだが、シンジの、今までに見た事の無い強い意思を秘めた表情を見た途端に、声が出なくなってしまった。
シンジは無言のままアスカの腕を掴むと、そのまま抵抗するアスカをリビングまで引きずり出した。大胆極まり無いシンジの行動にアスカはただ驚くしか無かった。
シンジは、呆然とするアスカをソファに座らせると、毛布を渡し、いつもの穏やかな表情に戻って、アスカに語り始めた。
「ゴメン、あのまま部屋に籠られていたら危険だと思ったから、こうするしか無かったんだ。アスカに万一の事があったら、僕は……。
僕は絶交されたって構わない。出て行けと言うなら直ぐにでも出て行くよ。今の僕は、アスカが無事に元気で居てくれたら、他には何も要らないから……。
食事はキッチンにあるよ。僕は部屋に戻ってる、何かあったら呼んでくれたら良いよ。」
「……待ちなさいよ……。」
「……何?」
「アンタもここに居なさいよ……アンタの部屋の方がよっぽど危険だわ……だからここに居なさいよ……」
「分かった……ありがとう……。」
シンジはアスカの隣のソファに座った。風が相当強くなってきているのか、雨戸がガタガタ音を立て始めていた。
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『……現在、台風は静岡県清水市付近に上陸し……富士市で最大瞬間風速40m/sを記録しています……』
風向きが変わって来たのだろう、雨戸が立てる音が、ガタガタと揺らす様な感じから、ドンドンと何か物をぶつける様な感じに変わっていた。
アスカはソファの上で毛布に包まり、膝を抱えて座り込んでいる。時々明かりが明滅を繰り返す。その度にアスカは不安そうにシンジの方を見やるのだが、シンジはそれに気が付かない。
シンジは、唯ひたすらテレビの台風情報を見ている。見ている、と言ってもただ眺めているだけ、内容なんかこれっぽっちも頭に入っていない。
突然シンジが何か思い出した様に立ち上がった。
「ゴメン、シャワー浴びて来るよ。」
シンジはこの気まずい雰囲気に耐え切れなくなってしまっていたのだった。
アスカは関心が無い様にちらりとシンジを見ただけで何も言わなかったが、話を切り出すチャンスを窺っていただけに、内心、シンジが居なくなるのは寂しく思えた。
と、その時また明かりが瞬断で明滅した。それを見てアスカはニヤリと笑った。
それから約5分後、明かりが消えた。再び点るまでの時間、約3分。それから少しして、浴室からシンジがブツブツ言いながら脱衣場に出て来た。
「参ったなあ……お湯が出なくなっちゃったよ……。」
「シンジィ〜、大丈夫だったぁ?」
「あ、うん、何とかね……え!?」
脱衣場に入り口には、薄ら笑いを浮かべ、腕を組んで仁王立しているアスカが居た。
「さすがは鈍感バカシンジ、あの停電でよく飛び出さなっかたわねぇ。折角笑ってやろうと思ってたのに……。」
「あ、あのぉ……、じゃあ何でそこに居るの?」
「ふん!『目には目、歯には歯、覗きには覗き』よっ!」
「そうなの……じゃあ、僕の逆ストリップでも見る?」
「!、も、もう結構!充分よ!そんなモン見たって何の徳にもなりゃしないわよ!ったく、すぐ調子に乗ってからに……。」
顔を真っ赤にして出て行くアスカを見ながら、シンジはホッと胸を撫で下ろした。
「……機嫌、直ったみたいだね、アスカ。……前隠してて正解だったな……。」
****************************************
「御馳走様、美味しかったわよ。」
「うん、良かった、喜んで貰えて。」
アスカがキッチンで遅い食事をしている間に、シンジはソファを壁際に移動させた。出来るだけ窓から遠い所で少しでも楽に過ごせる様に、との考えからである。
シンジが座っている隣にアスカも座る。
「今夜は寝れるかな……」
「風さえ止めば大丈夫だよ。」
「なんか……恐いな……」
「心配無いよ……。」
不安がるアスカを元気付けようとするシンジ。しかし、台風の牙は容赦無く二人に襲い掛かる。
フッ……
「また消えた……。」
「ねえ、すぐつくよね?」
「判らないよ……。今度はダメかも知れないし……。」
「もう、うんざりよぉ……。」
そう言って、シンジにピッタリと寄り添うアスカ。誰だってこれだけついたり消えたりを繰り返せば気が滅入ると言うもの。
ただ、今回は20分経っても30分経っても復旧する気配は無かった。
「ともかく、明かりを取って来るよ。アスカはここを動かないで。」
そうシンジは言い残すと、手探りでキッチンに向かう。足下に何が落ちているか判らないので、四つん這いである。
漸くテーブルに辿り着いた。テーブル上の配置を思い出しながら、端を掴もうと手を延ばした。すると、手に暖かくて柔らかい感触を感じた。その途端、
「何すんのよ!このドスケベ!」
と言う叫び声と共に、手が叩かれるのを感じた。
「てっ!!……?、アスカ……なの……?」
「そうよ!」
「なんでここに居るんだよ!動かないでって言っただろ!」
「何よ!アタシが何処に居ようと勝手でしょうが!」
暗闇の中、一人で居るのが寂しくなったアスカはシンジの後を追い掛けたのだが、先回りをしてしまっていたのだった。
「とにかくそこ退いてよ。明かり取るんだから。」
「分かったわよ!」
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「あのさ……さっき……何処触ったの……僕……?」
「まっ!レディにいきなりなんて事を聞くのよ!この変態!」
「!……まさか……とんでもない所を……」
「例えば?」
「たっ、『例えば』ってそんな事!……聞かなくても……解るだろ……」
「まあ、シンちゃんウブねぇ〜。……いいわ、教えてあげる。アタシの、ムッチムチのふ・と・も・もよっ!」
「……なあんだぁ〜、良かったぁ〜。」
「但し、内股ね。」
「いいっ!!」
「うそうそ、冗談よ。」
「びっくりさせないでよぉ……寿命縮まっちゃったじゃないかぁ……。」
「うふふふっ……。」
蝋燭の光がほのかに照らすリビング。光の魔力と言うべきなのか、少々危ない方向に進む二人の会話。
しかし、そんな良い(?)雰囲気をぶち壊す台風の次なる魔手。
ガシャン!!
「何だ!?」
「シンジの部屋からよ!」
懐中電灯を片手にシンジの部屋へ飛び込む二人。
そこで二人は恐れていた事が現実になった事を悟った。何かが雨戸ごと窓を突き破ったらしい、窓に開いた大穴から雨が吹き込んでいた。窓ガラスは強化ガラスなので破片で怪我をする事は無い。が、居合わせていたら怪我をしていた事は確実である。
「アスカ!箒とちり取りと持って来て!」
「分かったわ!」
とにかく穴を塞ぐ事が先決である。
シンジは、朝買い込んだ物の中から、厚手のベニヤ板を取り出すと、窓にあてがう。大きさはピッタリだった。しかし、いざ固定しようとすると、風圧で板が動いてしまい巧く行かない。その度に木の葉混じりの雨がシンジに吹き付ける。次第に焦りが募るシンジ。
何度目かの挑戦の時、突然横から二本の手が伸びてきて板を押さえた。それはアスカの手だった。
「!、あ、アスカ!?」
「一人で何でもしようとしないの。こういう時の為に二人で留守を預かってるんでしょ?」
「そうだったね……。じゃ、しっかり押さえててよ。」
「オッケー!」
「これでヨシっと!」
「はぁ〜、ふぅお疲れお疲れ。」
「掃除は朝になってからにしよう。また何か飛び込んできたら危ないし。」
「そうね。……!、シンジびしょ濡れじゃない!」
「あ、ホントだ。」
「早く着替えてよ。風邪ひくわ。」
****************************************
「……なんか蒸し暑くなってきたわね。」
「空調が止まって相当経つからね……。」
「酸欠になるって事は無いわよね?」
「大丈夫だよ。自然換気に切り替わるって説明書にあったよ……。」
「……シンジ?アンタ何か変よ。」
あれからまた、二人は元の様にソファに座っている。黙っているのも辛いので、ぽつりぽつりと会話を交わす。
その内アスカが頻りに腕を摩るシンジに気付いた。
「……もしかして……寒いの?」
「……う、うん。まあね……。」
そう言うシンジの肩を触るアスカ。確かに冷えている。
「!、ちょっとぉ!それならそうと早く言いなさいよ。風邪ひくわよ!」
アスカはそう言うと、毛布を自分の体ごとシンジに巻き付けた。
「ちょ、ちょっと!」
「こうすれば早く暖まるでしょ?」
「う、うん……ゴメン……」
「何でそうすぐに謝るのよ。何か悪い事した訳?」
「そうじゃなくて……迷惑掛けっぱなしだから……」
「アタシはそうは思って無いわよ。この位当然よ。だってさ、アタシ達家族でしょ?」
「……家族……そうだよね……家族だから、だよね……」
そう呟くシンジの言葉に一抹の寂しさを覚えるアスカ。
「あのっ、あのねっ、か、家族って言っても色々あるじゃない。てんでバラバラの所とか、一心同体の所とか。だからねっ、アタシ達はね……なんて言うか……ああっもうっ!だから日本語ってーのはイヤっ!」
「無理しなくて良いよ。国語の学者だって、こんな時に見合う言葉なんて出てこないよ。
……僕達は、同居人で、仕事仲間で、生死を掛けて戦った戦友で、互いに激しく傷つけあった敵同士で、そして同じ時間を共有する家族で……。こんな間柄じゃ一言で片付けるなんて出来ないよ。」
「そう……よね……。」
「でも、僕の勝手で悪いんだけど……
僕はもっとアスカに近い関係で居たいと思う。一つに、と言う訳には行かないけど、ちょっと手を延ばせば何時でも届く、手を差し出せば何時でも手を取って貰える、そんな関係になりたいな……なんて思ってる。そうしたら、一つだけピッタリな言葉が出来るんだ。他のみんながその言葉を使ってくれると嬉しくなる、そんな関係になりたいと思う
……ホント勝手だね。身分もわきまえないでさ、僕は。」
言葉を選びながら、辿々しく語るシンジ。アスカにはシンジが言わんとした事が解ったのだろうか。
「シンジ……アンタ、男でしょ。だったら実力でそう出来る様にしなさいよ。
……アンタにだったら出来るわ、アタシが保証する、責任取っても良いわよ。
……期待してるからね……シンジ……。」
蝋燭の明かりでは良く判らないが、アスカの頬が赤く染まっている様にシンジには思えた。
思わずアスカの肩を抱き寄せるシンジ。何も言わずにシンジにもたれ掛かるアスカ。二人とも、心が穏やかになって行くのを感じた。
それに呼応するかの様に、ガタガタと激しく揺すられていた雨戸が次第に静かになっていった。
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翌朝、鳥の鳴声で目を覚ますアスカ。いつの間にか眠っていた様だ。隣ではシンジが安らかな寝息を立てている。
シンジが風邪をひいていないか心配になったアスカは、シンジの額に手を当ててみるが、懐から出したばかりの手では良く判らない。額で熱を計ろうとシンジの顔の正面に回り込んだ時に、シンジが目を覚ました。
「……あれ?……アスカ……どうしたの……?」
「えっ、あっ、なっ、何でも無いわよ!」
「あ……そう……?」
「それよりもさ、熱っぽいとかだるいとか、そんな事無い?」
「あ……うん、大丈夫だよ。アスカのお蔭で風邪はひかずに済んだみたいだ。」
「そう……。それじゃ、外の様子を見てきてよ。もう朝みたいだし。」
「分かったよ。」
雨戸をこじ開け、ベランダに出て辺りの様子を窺うシンジ。ベランダは一面に木の葉や小枝が落ちている。
シンジの部屋の窓の前に、看板らしき鉄板が落ちていた。これが昨日の犯人の様だ。
マンションの周りは、殆どの木が薙ぎ倒されていた。既に自転車置き場や駐車場の辺りではマンションの住民達が後片づけを始めている。
「こりゃ酷いわねぇ。ガラクタだらけじゃない。」
「そうだね。さてと、僕達も後片づけを始めようか。」
「昼迄に片づくかなあ……。」
シンジはベランダで、アスカはシンジの部屋で、片づけを始めた。
ベランダは鉄板を除去し、雨戸が風圧で歪んだ事を確認した以外は大した事は無かった。
しかし、シンジの部屋は凄惨だった。殆どの物が雨で濡れ、砕けたガラスの処理にも相当の手間を要した。
「こりゃ、使えないわね。どうすんの?」
「仕方が無いよ。暫くリビングで過ごす事にするよ。布団は客用のを使うとするか……。」
「……シンジ……あのさ……良かったら……」
ピリリリリ……
「あ、ミサトさんからだ。」
「……むう……(ミサトの奴、タイミング悪過ぎよ!)」
『あ、シンジ君。そっちの方は大丈夫だった?』
「ええ、僕もアスカも無事です。ただ、停電したのと、後、僕の部屋の窓が壊れてしまったんです。暫くリビングで過ごす事になりそうです。」
『あ、そう、大変だったわね。こっちも大変だったわよ。町の全世帯の約65%が停電して、街路樹は85%が倒れたらしいわ。あと、信号機や標識もボロボロね、怪我人も出てるそうよ。まだまだ被害は広がりそう、修復のメドが立つ迄は戻れそうに無いわ。』
「そうですか。」
『だからシンジ君、私の部屋使ってくれても良いわよ。いちいちソファとか動かすの大変でしょう。』
「いえ、いいですよ。代わりに部屋を片付けてくれって言われるのがオチですからね。」
『あら、バレてた?』
「バレバレよ!それにシンジはアタシの部屋で寝るの!」
携帯に繋いでいたイヤホンマイクで事の始終を聞いていたアスカは、さっき言おうとしていた事を、ミサトに対抗する意識からか、勢いに乗って喋ってしまった。
「え!?そんなこと聞いて無いよ。」
「今聞いたでしょ。文句あるの?」
「そう言う問題じゃ無くて……」
『はいはい、御馳走様。とにかく、明日の昼に一旦戻るわ。すぐ持って出られる様に着替えとか用意して貰えるかしら。』
「分かりました。用意しておきます。」
『それじゃ!』……ピッ!
「アスカ……さっき言った事、本気なのかい?」
「本気よ。さっき部屋に戻った時にね、ガラスにヒビが入ってるのを見つけたのよ。だから心細くてね……。な〜に、ただ同じベッドで寝るだけじゃない。簡単な事でしょ?」
「そんな……簡単じゃ無いよ……」
「じゃ、昨日言った事はウソな訳?……違うでしょ?大丈夫よ、シンジになら出来るって。」
「……分かったよ。それじゃ、アスカの言葉に甘えさせて貰うよ。」
「そうそう、最初っからそうすれば良いのよ。」
「……あ、もうお昼だね。食事の用意をするよ。」
「早く停電なおんないかなぁ。お風呂もダメ、テレビもダメ、空気も澱んで気持ちが悪いし、おまけに食事も味気無い。」
「後、丸一日は掛かると思うよ。ここ町外れだろ、後回しにされるんじゃないかな。」
「でも、以外とミサトがせかして予定繰り上げてくれたりして。」
「う〜ん、それはあり得るなぁ。」
パッ……
「……アスカの言う通りだったね……。」
「えっへん!」
『……今日は、『二百十日』に当たります。これは、立春の日から数えて210日目に当たり。台風が襲って来易い日とされています……』
「何よぉ!1日遅いじゃな〜い!」
「……そう言う問題じゃないよ……。」
<終>
<後書き>
遂に大台突破!ま〜くさん、10万HITおめでとう御座います!
やはりこういう節目を目の当たりに出来たのは、自分の事の様に嬉しいものです。\(^o^)/
この話の着想は、やはりと言うか、台風7号のお蔭ですね。
来襲当日は本当に肝を冷やしましたよ。我が家は停電の惨禍からは免れましたが、周り一帯は全てブラックアウト。隣の市ではさながら阪神・淡路大震災直後の大阪市内の様に”青い屋根”の家が大半を占めています。何でも、伊勢湾台風よりも強い風が吹いたとか。
『箱根‥‥』の方はもう少しお時間を頂戴したいと思います。またボコボコ膨らみ始めちゃいまして……。
それでは、『落書き部屋』が増々発展致します様祈念致しております。
跡見さん、本当にありがとうございました!!
跡見さんへの感想メールを!
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