「よく僕の(モグモグ)居場所が判ったね。(ガツガツ)」
「当然、(モグモグ)アンタ達の(モグモグ)行動パターンなんて(モグモグ)決まり切ってるじゃないの。(ガツガツ)」
遅れに遅れた昼食。普段なら食べて終わってから本格的になる会話も、今日ばかりは同時並行の状態だ。弁当を掻き込みながらの会話は、さながら戦場の様にも思える。
いつもならアスカが話しかけて来るのに、話を始めたのは僕からだった。午前中、只ひたすらに頭を下げ続けて疲れていたのかも知れない。こうして、アスカと向かい合っている事がとてつもなく素晴らしい事に思えたから。僕はこの瞬間がとても大切に思えた。
「で、さっき、2バカと何話してたのよ。(モグモグ)」
「(モグモグ)……。」
「言えない事?(モグモグ)」
「そうじゃないよ。でも、今はまだ言えない。」
「そ。じゃ、後で聞き直すわ。(ガツガツ)」
「……ゴメン。」
まだ終わって無いんだ。だから、まだ言え無いんだ。
「……後ろめたい事な訳?(モグモグ)」
「……。」
「”沈黙は肯定”、で良いわね?(モグモグ)」
「……。」
痛い所を突いてくるなあ、アスカは。僕の思ってる事が見透かされている様な感じだ。
もし浮気でもしようものなら、直ぐにばれちゃうだろうね……何でこんな事が浮かんでくるんだ!?……
「御馳走様。後ヨロシクね。」
「あ……う、うん。」
アスカが自分の席に戻ると同時に、予鈴のチャイムが鳴った。
結局、僕は弁当を食べきれなかった。
Tomi's EVA vol.17
落書き部屋1周年記念&250000Hit記念&独立2ヶ月経過記念&バレンタイン追想SS
(^^;
厳粛なる日(中編)
午後に入ってからは、誰も僕の側に来る事は無くなった。やはり、午前中の事が広まったのだろうと思う。
実際、教室の入り口で残念そうに僕の方を見る女子生徒が何人か居たそうだ。ついでに、と言って何なんだろうけど、怒りの視線を向ける男子も増えていたそうだ。
この事を知ったのは放課後、知らせてくれたのはアスカだった。
「アンタも罪な男ね〜。あんなに女の子泣かせちゃってさぁ。お蔭ですっかり悪役じゃないの。」
「あははっ、そうだね。」
「『そうだね』って、何でそんなにさらりと言えるのよ……あ……もしかして……アタシ絡み?」
「……『そうじゃ無い』と言えば嘘になるね。」
「そ、そう……。」
そう答えて目を伏せたアスカの顔がほのかに赤かった様に思えた。ストレート過ぎたのかな?
「で、でもさ、ここ暫くは、一人で居るのは危ないわよ。」
「どうして?」
「今日、敗者となった男共が黙って見てると思うの?格好のストレスのはけ口になっちゃうじゃないのよ!アンタ、どう見たって苛められっ子タイプなんだからねっ!」
「あ、そうか。」
「ったく、ホントに前後も考えないで行動するんだから……。」
「……ちゃんと考えてるよ。」
「どこが?」
「……チョコレートを渡そうとするその子が幾ら僕に好意を持っていてくれても、僕はそれに応える事は出来ないんだ。遅かれ早かれ、その子を傷つける事になる。だったら、今から断っておいた方が傷も浅くて済むと思うんだ。その為に僕に危害が加わる様な事が有っても、それは仕方が無いと思う。どう見ても、贅沢過ぎる事だからね。」
「……やっぱり考えてないじゃないのよ……。」
「え?」
「ま、良いわ。その辺の続きは帰り道でね。」
「うん……あれ?アスカ、今週は……。」
「そ、週番なのよ。だから悪いけど、待っててくれる?代わりにアンタの用心棒引き受けてあげるから。」
「用心棒?」
「そ。アンタに入院でもされたら、死活問題だからね。」
「……そんなに深刻な事なのかなあ?……」
「深刻なのよ。少なくともアタシにとってはね。」
「う〜ん……分かった、待ってるよ。」
「そうして貰える?」
「ここじゃ邪魔になるだけだから、廊下に出てるよ。」
「そうね。言っとくけど、姿消したら承知しないからね!良いわね!!」
僕は廊下に出た。特に何かする事も無いから、ただ、いそいそと動き回るアスカを見ていた。
「家でもあれだけ動いてくれたらな……。」
そうしたら、死活問題じゃなくなると思うけど……そう言う意味じゃ無いって事?……う〜ん……。
「よぉ!相変わらずセンセも御熱い事で。」
「え!?な、何の事だよ!?」
突然、トウジが横から声を掛けてきた。慌てる僕をニヤニヤしながら見ている。
「隠さんでもええって。惣流の事じぃ〜っと見てからに……熱いのぉ〜、ホンマ。」
「ああ、いや、その……あれ?トウジ、もう帰ったんじゃ無かったの?」
「え!?あ、んん、まあ、色々有ってな。」
真っ赤な顔をしてしどろもどろするトウジ。初めて見たな、トウジのこんな表情。
「そや、シンジ、すまんけどな、仲間に混ぜるって話な、あれ、無しや。」
「『仲間』って一人者がどうのって言うあれ?」
「そうや。」
「どうしてさ?」
「いや、その……あれやさかいに……。」
「『あれ』じゃあ解んないよ。」
「『あれ』ちゅうたら『あれ』やがな。お前ホンマ鈍いやっちゃな!」
「う〜ん……。」
解らないから聞いてるのに……。でも、『見れば解るだろ!』と言いたいみたいだな。
何かいつものトウジとは違う所は……有った、昼休みが終わってから、ずっと惚けたような顔してたじゃないか。じゃあ、昼休みに何か有ったんだ。何だろう?……
……『ヒカリが拗ねてたわよ。』……
洞木さん?……そうか!
「そうか!貰えたんだね。良かったじゃないかトウジ、おめでとう!」
「あ、いや……おおきに。」
照れ隠しにだろう、手を頭の後ろで組んで笑い飛ばすトウジに釣られて、僕も笑ってしまった。
「碇君……。」
「え?な、何?綾波。」
突然声を掛けられて振り向いた目の前に、綾波が立っていた。
「少しだけ……良い?」
「え……。」
僕は迷った。アスカにここを動くなと言われてるじゃないか。今ここを離れるとアスカに心配を掛けてしまう。アスカを不安にさせない様に、そう決めたじゃないか。でも、綾波の目は真剣だった、懇願している様にも見えた。
『一体どうしたら……。』
そう思い、再びアスカの方を見やると、これから作業半ばと言った所の様だ。終わる迄に戻って来られれば、何とかなるかも知れないな。
ゴメン、アスカ、やっぱり綾波は放っとけないよ。
「う、うん。」
「じゃ……来て。」
僕がそう言って頷くと、綾波は踵を返して歩き出した。何処へ行くんだろう?……
「もて過ぎるのも、考えもんやなぁ……。」
****************************************
「ねえヒカリ、首尾はどうだったの?」
「うん……有り難う。」
清掃の最中、アタシはヒカリに声を掛けた。ヒカリは俯いてそう言った。そっか、上手くいったのね。
アタシはヒカリに向かって、親指を立ててウインクしてみせた、『おめでとう!』と言う意思を込めて。ヒカリは頬を赤く染めた可愛らしい笑顔で応えてくれた。
本当は、ヒカリに独占インタビューを敢行したいところだったけど、後で攻められるのが判りきっていたから、反撃の態勢を整えてからにしようと思った。
それに、今はシンジを待たせている事の方が、今のアタシには気掛かりだった。
用心棒とか言って、シンジと一緒に帰る算段は整えた。未だに話の切り出し方は思いつかなかったけど、一緒の時間を少しでも増やせば何とかなる筈よ。え!?シンジが危ないって?ああ、そんなのハッタリに決まってるでしょ。そんな事したらアタシが10倍にして返してやってるんだからね。もう誰も来ないわよ。
突然、廊下の方から笑い声が聞こえてきた。声がした方を見やると、鈴原が笑っているのが見えた。ヒカリの事を待ってるのかな?アイツが一緒ならシンジも退屈しないわね。ちょっとだけ助かったわね、そう思いながら作業を続けた。
一通りの仕事が終わって、シンジが待ってる廊下へと出た。
「……あれ?居ないじゃない。」
辺りを見回してみたけど、シンジの姿は無く、鈴原1人だけしか居なかった。
「アイツ、何処に行ったのよ……。」
「シンジか?アイツやったら、さっき綾波と一緒にどっか行きよったで。」
「!」
そんな、いつの間に!……
あの後、レイは行動を起こす気配が無かった。放課後になって姿が消えたから帰ったと思ったけど、早計だったのね。さっき、鈴原の姿しか見えていなかった事に警戒すべきだったわ。
これはやばい!超弩級にやばい!!
「ちょ!ちょっと鈴原!どうして碇君を引き留めなかったのよ!」
「へ?何で儂がアイツ引き留めなアカンのや?」
「『何で』って、あなたね!」
「ちょ、ちょっと!ヒカリが熱くなってどうすんのよ。」
「で、でも、アスカ……。」
「こう言う時こそ落ち着かなきゃね。まだ熱くなるには早すぎるわ……そうよ、まだよ……。」
「アスカ……。」
「仕方無いわよ、相手が優等生じゃあね。アイツ、バカだから女の子の誘いをそう簡単に断る筈無いわ、ヒカリが声掛けたって付いて行くわよ。そう言う奴なのよ、アイツは……。」
シンジの中でのレイの存在はアタシのそれと同等、若しくはそれ以上の筈。彼女に声を掛けられたら、あのバカはホイホイ付いて行くに決まってる。
……もしレイが迫るような事があれば、シンジは……
頭の中に湧き出て来た悪い予感を振り切るように、努めて明るい声を出す。
「鈴原、シンジどっちに行ったの?」
「ええとやな……あっちやから、たぶん校庭のどっかやろ。」
「Danke!……じゃあ、あのバカを探しに行ってきますか。」
「……頑張ってよ、アスカ。」
「うん!」
心配そうにヒカリが声を掛けてくれたのに、アタシは笑顔で応えた。
アタシは校舎の外へ出て、校庭を探し始めた。
「……居た……やっぱりね……。」
焼却炉の側に立つアカシアの木の下に2人は居た。取り敢えず、校舎の陰からそっと様子を窺う。
2人は会話を交わしている様ね。レイが俯き加減でボソボソと喋って、シンジはそれを時々頷きながら聞いているみたい。
シンジを見て、アタシは愕然とした。シンジの手には白地に赤の小さなハートマークの包みがあったから。そう……やっぱりレイの言ってた『用事』って、その事だったのね。
レイだって女の子、今日の事を知っていればこう言う行動に出るのは当たり前よ。そんな事よりも、今日一日、あれほど一生懸命にチョコを断わっていた筈のシンジが、レイからはあっさりと受け取っていた事の方がショックだった。
でも、それは至極当然の事よね。今朝のアタシの言動がシンジを落胆させたことは火を見るよりも明らか。そして今、シンジの目の前にいるの綾波レイ。シンジがなびいても仕方がないじゃない。
でも、アタシは許せなかった。頭では納得いっても、アタシの心はそれを許さなかった。
……シンジ……やっぱりアタシの事嫌いになったの?……
……違うわね、レイの方が上だっただけじゃない……
……シンジ、許せない……アタシをここまでその気にさせておいて……
……アタシが勝手に突っ走っただけだったの?……
……嫌いよ……シンジもレイも……嫌いよ、大っ嫌い!……
……こんな風にしか考えられないアタシなんて……大っ嫌い!!……
今のアタシには吹き出す黒い感情は抑えられなくなっていた。
「……あれ?ここは?……どうしてここにいるの?……」
ふと、我に還ると、アタシは一人屋上で、ほのかに赤く染まった山並みを眺めていた。
「……そうか、キレたんだ……。」
やっぱり無理だったのね、感情の制御なんて……。
「これで……”Der Schluβ”(終わり)かぁ……最後の最後で……参ったわねぇ……明日ヒカリなんて言ったら……あれ?」
ふと、気付かない内に頬を伝う物があったのに気付いた。
「……そうよね……悔しいよね……負けたんだもんね……。」
負けた相手はレイじゃない、自分自身。一人で戦うにはまだまだアタシは弱過ぎた……。
次から次へと溢れ出る涙を抑える事が出来ず、その場に崩れ落ちた。ただ、泣く事だけは必死に耐えた。
「苦しいよぉ……。」
側に誰が居る訳でも無いのに、泣き言が漏れ出す。
……こんなに苦しいのにどうして耐えなきゃいけないのよ。泣いたらスッキリするじゃない……
でも泣きたくない、泣く訳には行かなかった。泣いたら全てが終わってしまいそうだったから。アタシはまだ終わらせたくはなかった。
一頻り涙を流した後、そこそこ平静取り戻しつつあったアタシの目は、傍らにある鞄へと移った。
「……どうやって処分しようか……。」
アタシが食べるのはあまりに情けないし、他の誰かに上げると言うのは絶対に考えられない……捨てるしかないか……。
もはや、アタシを支配していたのは憂鬱な気怠さだけだった。あの時と同じ感じの……。
「……惣流さん。」
「!!、な、何よ優等生!!」
ぼーっとしてて気付かなかったのか、気配を消すのが得意なのか、突然現れたレイにアタシは驚いて飛びすさった。
「……碇君、待ってるわ。」
「あ……そ……。」
すっかり忘れていた、と言うより忘れたかった。嫌いになった訳じゃないけど、あんなシンジを見た以上、辛くなるから会いたくはなかった。
「……。」
「……どうしたのよ。もう用は済んだんでしょ?さっさと帰りなさいよ。」
平静を装っていたものの、依然マイナスに振れていた感情から来る苦渋の表情を隠す事は出来なかった。
そんなアタシをいつもの無表情で見ていたレイは、おもむろに鞄の中に手を入れた。
「……これ、あなたに……。」
「え?……!!、こ、これって!?……」
レイが両手で差し出したのは、間違いなくさっきシンジに渡した筈の包みだった。
「……これって、さっきの!……。」
「……見てたのね……。」
「えっ!?……あっ!……うん……。」
「これ、ヴァレンタインデーのプレゼント……葛城三佐から聞いた、今日は異性に好意と感謝の気持ちを込めてプレゼントをする日だって……。
惣流さんは同性だけど、どうしても感謝したかった……だから、受け取って欲しいの。」
「そ、そう……。あ、有り難う。」
予期せぬ出来事の連続にシドロモドロになりながらも、レイからプレゼントを受け取った。
そっか、ミサトがねぇ……今思えば、天下のヴァレンタイデーだって町中が騒いでいても、浮世離れしたレイが気に留めるとは思えない、黒幕が居る事は明々白々じゃないのよ。こんな事に気付かないなんて、シンジのバカさ加減が移ってきたのかな?……違うわね、元々アタシがバカだっただけじゃない。人の所為にするのは良くないか。
プレゼントの包みを見ながらそんな事を考えてる内に、気分が大分落ち着いて来た。それと共に、レイに対する疑問が強くなってきた。この娘、どう言うつもりでアタシなんかに……シンジには?……。
「一つ聞いて良い?」
「何?」
「これ、アンタが用意したの?」
「赤木博士。」
「あ、そう。」
あの二人、すっかりオバサンしちゃってまあ……そんなに他人の人間関係引っ掻き回して、何処が面白いって言うのよ!?
「あと一つ、さっきシンジに渡したのは……どう言う意味なの?」
「……同じよ……碇君に会っていなかったら、私はヒトにはなれなかった……あなたが居なければ、碇君は私を助ける事は出来なかったと思う。」
い、いきなりそんな方向違い、でもないか……えっと……そう!重い話を持ち出すなんて……侮り難いわ……。
「……何だかよく解らないけど、礼を言わなければならないのはこっちの方だわ。アタシやシンジだって、何度もアンタに助けて貰ったからこそ、こうやって居られるんだからね。」
「……そう、分からない。」
反応が弱すぎる、話が続かないじゃないのよ。う〜、やっぱり苦手だわ。
「アンタ、『好意と感謝の気持ちを込めた』って言ったわね。」
「言ったわ。」
「好意と感謝、どっちが上なのよ。」
「感謝。」
「アタシには、ね……シンジには?」
「……判らない。」
そう口では言ってもね、『好意が上』ってね、目が言ってるわよ。この時だけは、レイの気持ちが良く解った様な気がする。
自分を表現する事が不器用なレイだから助かっているのかも知れない。感謝すべきなのかしらね?……
「『判らない』ねぇ……ま、まあ細かい事はともかく……。」
「あなたが聞いてきた。」
「う、うっさいわね!……ともかく!何かお返ししなくちゃね。」
「要らないわ。」
「え?何でよ!?」
「礼される覚え、無いから。」
「あのねぇ……アンタには無くても、こっちにはごまんと有るのよ。アタシが借りは作らない主義なの、知ってるでしょ!」
「……じゃ……一つだけ、私の要望、聞いてくれる?……それだけで良いわ。」
「『要望』って、アンタねぇ……ホントにそれだけ?」
「(コクリ)……。」
『要望』って『御願い』って事よね……まさか、『このまま身を引け』、なんて言うんじゃ……んな訳無いか……多分……。
「ふぅ……分かったわよ。で、要望って何よ?」
「碇君を一人にしないで。碇君を支えられるのは惣流さん、あなただけ。……信じてるから。」
「そ、それって……どう言う事?」
「あなた……今、心を閉じていた……碇君も同じだった……だから……心を開いてあげて……。」
”心を閉じる”?……独りになるって事か……そう言えば、さっきレイが近づいて来ている事に気付かなかったもんね……それだけしっかりとからの閉じこもっていた事になるわね。
……殻に閉じこもって、勝手に嫉妬して、他の事に考えが回る事は無かった……シンジの事を考えなかった……
……シンジは今日一日苦しんでいた。他の女の子のチョコを断り続けて、女の子を泣かせ続けて……レイに誘われた時にも悩んだ筈よね……そんなシンジをアタシは独りにしてしまった……
……アタシには、シンジを好きになる資格なんて無いのかも……
「……心を閉ざさないで……心を開いてあげて……信じてるから。」
レイが繰り返して言う。まるで、アタシが自分の言いたい事を理解していないと言わんばかりに。
その声に気付いて思考の深淵から浮かび上がったアタシがレイを見た時、レイの目が違っている事に気が付いた。強い意志が感じられる目つき、以前にも見たことが有った様な?……そうだ、シンジがディラックの海に取り込まれた時に、悪態をついていたアタシにレイが噛みついてきた時にもこんな目をしていたわ……
……怒ってるの?……そうね、このアタシに叱咤を飛ばしてくれているのね……。
”心を開く”?……心の内を相手に見せると言う事、胸の内を明かすと言う事よね。
シンジに今の思いを打ち明けろって言うの?そんな事したら、こんな弱いアタシなんて見せたら、絶対シンジに愛想尽かされるわ。そんなのはイヤ!嫌われたくないわ!シンジはそんな奴じゃない、そう解っていても、信じていても……
……”信じてる”?……”信じる”か……何を信じるの?……シンジの事?……!、そうよ!信じなきゃ!アタシのシンジへの想いを、そしてシンジを!……
何血迷ってたのかしら、アタシって本当にバカだわ。頭で考えただけで諦めるなんてアタシらしく無いじゃない。
こうなったら正面突破あるのみ、当たって砕けようじゃないの。そうしたら、もし本当に砕けたとしても諦めがつくってもんよ。
「それって、『二人で腹を割って話し合え』って事?」
「分からない。」
そう言ったレイの表情が、少し和んだような気がした。読心術でも心得てるのかしら?
この娘、ホントに何考えてるのか解らないのよね。このままアタシを沈めときゃ、シンジをモノに出るって言うのにね。
ま、それが『綾波レイ』って言う娘なのかもね。
「そ……まあ、聞いてあげるわ、その要望。」
またレイに助けられたわね、本当に感謝するわ。だから、少しばかりお返しさせて貰うわよ。
「でも、一つだけ条件があるわ。」
「……何?」
「これからはアタシの事を『アスカ』って呼びなさい。アンタと付き合いだして結構経つのに、未だに『惣流さん』なんて呼ばれてるのは他所他所し過ぎて癪なのよ。これは命令よ。良いわね!」
「……分かったわ、そ……あ……ア、アスカ。」
「うんうん、それでよろしい!」
「……。」
「あ!シンジの事忘れてた!……それじゃ、また明日!」
「……さよなら。」
アタシは挨拶もそこそこに、一目散に屋上を後にした。
「……明日……日曜日……会えない筈……。」
「シンジ……何処に居るのよ……?」
慌ててしまって、シンジの居場所をレイから聞くのをすっかり忘れてしまっていた。取り敢えず、教室に戻ってみるものの、教室は無人となっていた。
シンジは何処に?……さっきシンジとレイは校舎の外にいた、と言う事は……昇降口かな?
昇降口まで降りてきたアタシは、予想通りシンジが居るのを確認した。そして……ハッタリが的中しているなんて、まだ居たの!?
「だーから言わんこっちゃない、あのバカが!」
アタシは足下に在ったスリッパを2足分ほど掴むと、シンジに向かって駆け出した。
****************************************
「そんな意味が在ったのか……。」
ヴァレンタインデーのチョコってただ単に女の子が好意を込めて送る物だと思ってたけど、色々意味が在ったんだな。
そんな感慨を持ちながら、綾波がくれた包みを暫く眺めていた。
ふと、視界に人影が入ってきたのに気付いた僕は何気なしに顔を上げた。人影はトウジと洞木さんだった。二人で帰るんだな、遠くから見ているから、表情ははっきりとは判らないけど、幸せそうな雰囲気は感じ取れた。
そう言えば、洞木さんがトウジの前で変にどもったりするのを不思議に思っていたら、アスカに
「アンタそんな事も判らないの!?ホントに何処まで鈍感バカなのよ!!」
ってなじられた事があったなぁ……ははは。
洞木さん、週番だったな。もう終わったんだな、結構早いなぁ……そう言えばアスカも週番……!、マズイ!!
包みを鞄に詰める手ももどかしく、慌てて校舎に戻ろうとした僕の目の前に、3人の男子が立ちはだかった。
「碇シンジだな?」
「……誰の事だい?」
「とぼけるな!」
「お前の事に決まってるだろ!」
判ってるなら、一々聞かないで欲しいな……。
いつの間にか、後ろにも2人並んでいた。囲まれちゃったか。
「何の用だい?」
「お前だけは許せない。」
「ネクラの癖して、どうしてお前だけ!……」
「やっぱり今日の事か……。」
やっぱり、そう言う事が目的か。まあ、いきなり殴られたんじゃ堪ったもんじゃ無いけどね……。
ゴメン、アスカ。アスカの言う通りだったよ、忠告を無視した報いだね……何発殴られるかなぁ、ちゃんと歩いて帰れるかな?……
「観念した様だな。」
「こうなる事は予想済みだからね。」
「そう言って貰えると嬉しいねぇ。」
「まあ、お手柔らかに御願いするよ。」
「じゃあ、死ね。」
そう言って、正面に居た少年が拳を振り上げる。全然聞いてないじゃないか。これはもうダメかな?……死んだ振りでもするか……。
僕は目を閉じて歯を食いしばり、2・3秒以内に襲ってくるであろう衝撃に備えた。
スパーン!
スパーン!
スパーン!
スパーン!
「人の言う事は素直に聞くもんよ!解ってるの!?」
「え?……」
4発の乾いた音に続いて聞き慣れた声がした。驚いて目を開けると、目の前にアスカが立っていた。
地面には顔を押さえて転がる4人の男子。その傍らには、それぞれ片方だけのスリッパが落ちていた。
「あ、アスカ……。」
「ホントに……アタシが居ないとまともに喧嘩も出来ないのぉ?」
「アスカだって知ってるだろ、僕が人を殴ったり傷つけたりするのは嫌いだって事。」
「あらぁ?喧嘩に弱いからじゃないの?」
「それは結果論だよ。喧嘩が嫌いだからやらない、やらないから弱いまま、と言う事だよ。」
「ま、何とでも言えるけどさ。」
「酷いなぁ……。」
「ま、良いでしょ……コホン、そう言う訳で、早速の用心棒、御引き立て頂き有り難う御座いま〜す。」
「あ、そうだったね……ゴメン。」
「ひ、卑怯だぞ!助っ人使うなんてよ!」
ただ一人残っていた少年が声を張り上げる。しかし、足が目で見て判る位震えている、逃げ出せないから虚勢を張ったのだろう。
「あら、1人をシメるのに5人掛かりで襲ってきた奴に言われたか無いわねぇ。」
「碇シンジ!お前、女に助けて貰って恥ずかしく無いのか!?おい!!」
「その女に、しかもスリッパ1発で伸されたアンタ達の方がよっぽど恥ずかしいと思うんだけど。(ニヤリ)」
「ひ……ひいいいっ!たっ助けて!!」
少年は悪態をついた。けどアスカはそれに動じる筈は無い。
万策尽きたらしい少年は、僕の背中に回り込んだ。盾にするつもりの様だけど……。
「なあ、助けてくれよぉ。」
「……と言ってるけど、どうするアスカ?」
「アタシはやられた事は10倍にして返す主義なの。まあシンジは無事だし、放免してやっても良いんだろうけどさ、また変な考えを起こされると厄介だから、ちょーっとばかり調教しなきゃね。
本来ならボコボコにしてやるところだけど、1発で済ませてやってるんだから、むしろ感謝して欲しいわね。」
「だってさ。僕はもう許しても良いと思うんだけど、アスカは言い出すと聞かないから……助けてあげられなくてゴメン。僕でも逆らうのはちょっとね……。」
「そ、そんなぁ!」
「さーて、覚悟は出来た?」
余裕の表情で近づいてくるアスカに、少年は恐れおののいてますます僕にしがみついた。恐怖のあまり声も出なくなった様だ。
確かに、アスカの喧嘩の強さは校内でもトップクラスだという噂は流れているけど、ここまで怖がる程のものでも無いと思うんだけどなあ。実際に叩かれている僕が言うんだから間違い無いと思うけど。
「ねえアスカ、もうその辺で止めてあげたら?」
「……そうね、これじゃあアンタが邪魔で何も出来無いしね。こんな奴放っといて帰りましょ。」
「……助かった……。」
そう言って少年が後ろから顔を出した途端、
「Unbedarft!!(甘い!!)」
ドコッ!
僕の肩越しにアスカのハイキックが決まった。顔面に靴の形を残し、少年はゆっくりと崩れ落ちた。
「……フッ……情けないわね……。」
そして僕も……
『あ……青のストライプ……確か、干してあったの、1週間程前だったかな……』
……ノックアウトした……。
「あ……あのさ……シンジ……。」
「へ!?」
アスカの僕を呼ぶ声で現実世界へと引き戻される。アスカはさっきの蹴りの体勢のまま固まっていた。つまり、足が僕の肩に乗ったままの状態、と言う事になる。向こうを向いているので、どんな表情なのかは判らない。でも、僕には頭に大きな汗が張り付いている様に見えた。
「ちょっと……アタシの言う通りに動いてくれる?」
「え?う、うん、良いよ。」
「じゃあ、先ず足持って。」
「うん。」
「で、そのままゆ〜っくりとしゃがんで。」
「この位?」
「そうそう。んで、手を放して。」
「ハイどうぞ。」
「……。」
アスカは無言のまま足を戻すと、そのまましゃがみ込んだ。
「くぅ〜っ……。」
「あ、アスカ、どうしたの?」
いきなり内股を押さえて苦しがるアスカ。僕は訳も解らず声を掛けた。
その声に応えるかの様にアスカは振り向く。その時アスカが見せた表情は、何故か涙目で、しかも僕を睨み付けていた。
「アンタねぇ!!」
「な、なんだよ。」
「人の許可も無しに背丈伸ばさないでよ!!お蔭で……痛った〜……肉離れしたかも……。」
どうやら、蹴りを繰り出した時に足の付け根の筋肉を痛めた様だ。
「そんな事知らないよ!大体、どうして蹴りなんか入れたんだよ、正拳突きで十分だったじゃないか。」
「何言ってんのよ!パンチじゃ届かなかったから蹴ったんじゃない!リーチってものを考えなさいよね!」
「リーチって言ったって、一歩踏み込めば同じじゃないか!スカートなんだから少しは考えてよ!」
「……見たのね?……」
「当然じゃないか!見えない方がおかしいだろ!って……あ……。」
「そう……見たのね……。」
涙目ながらもニコニコとした表情でアスカが言った。でも、こめかみの辺りがぴくついているみたいだ。怒りを抑えているというのがありありと判った。
「し、仕方無いじゃないか!目を瞑る暇さえ無かったんだから……。」
「くう〜っ……仕方無いわね……本来なら、天誅を喰らわせてやって然るべきところだけど、今回は特別に用心棒代の積み増しで許してやるわ、感謝しなさいよ。」
「う、うん……で、用心棒代って?……」
「う〜ん、そうねぇ……取り敢えず、負ぶって貰いましょうか。」
「『取り敢えず』?」
「そうよ。なんせ5人分+天誅だからねぇ、こんなもんで足りる訳ないけどさ、取り敢えずね。」
「う、うん、分かったよ。じゃあ病院に行こう。」
「却下。家に帰りなさい。湿布ぐらい有るでしょ?」
「確かに有るけど、一応診て貰っといた方が……。」
「……5人分……(ぼそり)」
「う……わ、分かったよぉ……。」
耳元でアスカが囁く。参ったなぁ、暫くはネタにされるな、これは。
用心棒代の事はともかく、僕の所為でアスカが傷付いたのは確かな事だった。それに対して、僕がしてあげてるのは、ただ背負って運ぶ事だけ。
また借りを作っちゃったな……いつもアスカには借りばかり作って、これっぽっちも返せてはいないじゃないか……自分が情けないよ、僕は。
「よいしょっと……どうなったって知らないよ。」
「大丈夫だって!どうにかなったら、経費に繰り入れるから安心しなさい!」
「余計に安心出来ないよぉ……。」
アスカを背負い、ゆっくりと歩き出した。
歩を進める内に、いつもと感覚が違う事に気付いた。何だか息苦しい。それもその筈、足に力が入れられないアスカは、手だけでしがみつく格好になっていたからだ。当然胸に掛かる圧力が強くなって、呼吸がままならない。
僕自身の体勢も、アスカがずり落ちない様に、自然と前屈みになっていた。これでは腹式呼吸もやり辛い。
「あのさ、アスカ……ちょっと、苦しいんだけど……。」
「ちょっと位……我慢、しなさいよ……アンタ……男でしょ……。」
しがみつくのに必死になってるのか、アスカの返事も辛そうにしか聞こえない。
「辛いの?」
「……ちょっと……手が、痺れてきたかな?……」
「じゃあさ、ちょっと休もうか。」
「……そうね……あ!じゃあアタシあそこが良い!!」
突然元気な声を上げたアスカが指差した所は、丘の上の公園だった。
「ええーっ!?あそこまで行くのぉ!!」
「……天誅……(ぼそっ)」
「ぐ!……わ、分かったよぉ、行けば良いんだろぉ……。」
「結構結構、Let's go!!」
「ちょ、ちょっと!暴れないでよ!」
僕の事はこの際どうでも良い。頑張るしかない。しかし、アスカがあそこまで持つのかどうか心配だった。このままぶら下がり続けるつもりなら途中できっと音を上げるだろうな。。
でも、アスカが言い出した事なんだし、疲れたらその場で休めば良いだろう。そう思い、公園に向かう事にした。
<つづく>
<後書き>
う〜みゅ……
も〜どんどん伸びる伸びる(^^;
心理描写の書き込みでどんどん膨らむ、私の悪い癖ですな。でも、こうしないと、そのセリフを言わせた状況が自分でも解らん様になってしまうもので。(^^;
改善したかったから敢えてシリーズを外れたのになぁ……ますます酷くなってもうた。(-_-;)
しかも、シリーズで使えそうなネタだったやないけ>レイちゃん
自殺行為だったかのぉ……。(-_-;)
突っ込み入れられる前に弁解、「何で土曜日やのに学校あんねん!」と御思いの方へ。
理由なら何とでもこじつけられます。がしかし、ここは敢えてそれをしないで『問題無い。何事にもイレギュラーは付き物だよ。』との言葉を送らせて戴きます。
週休2日なんてものが陰も形も無かった世代の戯言です。(;_;)
今回のドイツ語ですが、辞書には載ってない意味の単語が登場しました。その辺の解説はラストに後回しにします。
次回は後編です。これで終われる筈……と思いたいですわ。(^^;
では、また御会い出来ます様に……
跡見さん、本当にありがとうございました!!
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