翌日の朝、何時もの様に目が覚めた。やっぱり身体中に痛みが残っていた。でも、動けそうだったから、ゆっくりと起き上がった。
横ではアスカがまだ夢の中に居た。こうやって見ると、アスカの寝顔って可愛いよな。あの日以来、直接起こす様になったけど、なんだかんだと忙しいからじっくりと見るのは初めてなんだ。
……う〜ん、何時もの格好なのに、こうやって見ると、やけになまめかしく見えてしまうな……はっ!何処見てんだよ、僕はっ。でもでも!意識しだすと余計に目が行ってしまうっ!……そうだ、昨日初めて、しかも二回も!!だから余計に……ああっ!!駄目だ駄目だ!!

パンパンッ!!

はうっ!……か、身体が軋む……。」

気合いを入れようと両手で頬を叩いた途端に、身体中に電撃が走り、その場で顔を引き攣らせて悶絶する。まだ完治してないって事だね……。
……こんなの、僕じゃないよね。もしかすると、いや、本当に、僕も変わってきているのかもな。だとしたら、これは間違いなくアスカの所為だね。

「有り難う……アスカ。」

僕はアスカを起こさない様に注意しながらベッドを抜け出して、遅めの朝食に用意に取り掛かった。


Tomi's EVA vol.20
落書き部屋1周年記念&250000Hit記念&独立2ヶ月経過記念&バレンタイン追想SS (^^;
のおまけ? ヾ(--;
オヒオヒ……

”Aufraumen”


「ふわあああっ……あら?……シンちゃん随分早起きね。どっかお出かけ?」
「いえ、そんなつもり無いですけど……ミサトさん?何時帰ってきてたんですか?」

少し経った頃、ミサトさんが部屋から出てきた。僕を見つけて少々驚いてる様だ。僕だって驚いたよ。誰だって、居ないと思ってた人が出て来たらさ……。

「昨日の28時よぉ……ふぁ〜っ……。」
「え〜と……今朝の4時ですか。そんな遅くまで……って事は、今日は休みなんですね。」
「ん?まあ、多分ね……。」
「……ズルですか……また僕がお小言頂戴しなきゃいけないんですね……。」
「あははは……でさぁシンちゃ〜ん、お味はどうだったの?」
「え?何のですか?」
「んまたまたぁ、昨日貰ったんでしょ?アスカから。」

あっという間に攻守逆転。朝帰りだろうが徹夜だろうが関係無しか。こう言う時のミサトさん、戦闘中よりも頭の回転が早いって思えるなあ。

「え!?……あ、チョコですか……いえ、貰ってないんです、と言うより『今年は無しにしよう』って、二人で決めたんです。」
「な〜んだ、がっかり……でもまあ、合意の上なら何も言えないわね。」
「ふぁ〜あ……おはよ〜。」
「あ、アスカお早う。」
「おっはよ〜!!って……はっは〜ん、な〜るへそぉ。」

あ、今ミサトさんの目がキラーンって光った様な……。

「シンジく〜ん、質問訂正するわぁ……”アスカのお味は”どうだったの?」

どんがらがっしゃ〜ん!!

派手にアスカは滑った。う〜ん、素晴らしい反射神経だ、これはコントの乗りだね。それにしても……どうして滑った訳??

「ぬわっ!?ぬわっ!?ぬわんて事言うのよ!!
「?……味?……アスカ?……う〜ん??……。」
「いやぁ〜、そこまで進んでたとは……こりゃショックだわ。」
「そんな事して無いわよっ!!」
「味?……アスカ、の……ええっ!!ななっ!?なんて事言い出すんですか!!ミサトさんっ!!」
「う〜む、この反応速度の差から推して、本当に何も無かった様ね。まあ、その方が保護者としては安心だけどね。」
「「当たり前よっ(ですっ)!!」
「しっかし、寝床を共にするとわ……そこまで進展してたのね。ホント、お姉さんとしては嬉しいわ。とゆ〜訳で!シンちゃ〜ん、一本付けてねぇ〜。」
ぐっ!……はいはい、分かりましたよぉ……。」
「ううっ……どうしろってぇのよぉ……。」

ため息をつく事しか出来ない僕と、真っ赤になって『仕舞ったぁ!!』と頭を抱えるアスカ、そしてニヤニヤが止まらないミサトさん、何時もと同じ様で、何時もとは違う風景がそこには在った。

ピンポーン……

「あれ?はーい!!

こんな時間に誰だろう?でも、逃げ出せて結構結構、そう思って玄関に出た。そこに立っていたのは……

「あ、綾波じゃないか。どうしたの?」
「お早う、碇君……アスカ……居る?」
「え?ああ、アスカなら今起きたところ……アスカぁ!?

驚いた!これが驚かずに居られようか!?日曜の朝にやって来た事、僕やミサトさんじゃなくてアスカに用事が有ると言う事、そして『アスカ』と名前で彼女を指名した事、これこそ、青天の霹靂と言うべきであろう!!
僕の声が聞こえたのだろう、アスカがのそのそとやって来た。

「なあ〜に大声で喚いてるのよぉ……あれ?レイじゃない、どしたの?こんな朝っぱらから。」
「……会いに来たわ。約束通りに。」
「へ?約束??」
「そうよ。」
「???」
「……約束した……。」
「??????」
「……昨日、あなた、屋上で言った、『また明日』って言った……。」
「???……あ!
「……忘れていたのね……。」
「い、いや、その、だからね……あ、あれはね……そ、そのぉ……。」
「……。」

綾波の眉間に皺が寄っていた、結構怒ってるな。それを見たアスカの反応はすっかりシドロモドロ状態。さっきのミサトさんの攻撃がまだ尾を引いてるんだな……ミサトさんったら……あ、僕も思い出しちゃったよ……。

「あ、あれはね……慌ててて、その、そんな深く考えた訳じゃ……つ、つまり、その、『社交辞令』って奴で……。」
「……うそつき……。」

あーあ、こりゃ戦争勃発だね……でも、押されるアスカも珍しい、じゃなくて!……どうしたら良いのかな……。

「あ〜らレイじゃないの。なあんか楽しそうねぇ。でも、折角来たんだからこんな所で立ち話も何でしょ?ささっ、上がって上がって!」
「うん、そ、そうだよ!……その、お、お茶でもどうかな?」
「あ、ありがとう。」
「そ、そうしましょ!そうしましょ!!」

う〜ん、ミサトさん、ナイスタイミングだ……。

****************************************

どうせ4人揃ったんだからと、ミサトがピクニックを提案した。シンジも乗り気だったから、即決行となった。アタシは……ま、済んだ事はしょうがないわね。
シンジが朝食の用意をする間に、アタシは身支度に取り掛かった。急いだ方が良い様子だったから、シャワーを浴びただけですぐに出た。その時に、シンジは昨日ノックアウトの為にお風呂に入っていない事を思い出した。そこで、取り敢えずバスタオルを巻いてリビングに出ると、渋るシンジを強引にお風呂場に引き摺り込んだ。
脱衣場で、シンジはアタシを見てドギマギしていたが、アタシは『急いでるんだから、早く済ませなさいよ!』とドライヤー片手に一喝、さっさと脱がせてお風呂へ送り込んだ。何で恥ずかしがるかなあ?男だったら、柔肌の一つや二つ見せたって良いじゃない。勿論、アタシは目を瞑っていたから何も見ていないわよ。え?アタシは良いのかって?シンジも見慣れている筈よ、最近この格好で居る事が多くなったし。でもまあ、まだアイツ、目線泳がせてるけどね。
自室で一通りの用意を済ませた頃には、シンジも出てきていて、四人揃っての朝食となった。ミサトとシンジが身支度の為に消えていた間は、レイと二人でテレビを観ていた。観ているのはお笑い番組。日本独特のネタはよく解んないけど、総じて笑えるから結構気に入っている。時々、横目でレイの様子を観察してみる。無表情だとばかり思っていたけど、なかなかどうして、結構口元が緩む瞬間が有った。結構表情有るんだ、そう思った。NERVや学校じゃ笑える状況が少ないから、気付かなかっただけなのかも知れないわね。



出掛ける直前になって、ミサトは白衣の金髪女性率いる黒服軍団に拉致された。

「ごめ〜ん、後よろしくねぇん(はあと)。」

が、遺言だった。何を宜しくされたら良いのやら……。
とにかく、ここまで用意したのだから三人で行こうと言う事になった。が、行き先がどうしても思いつかない。レイはそんな事知る筈は無いし、アタシだって町中しか解っていない。やはりここは一発シンジに締めて貰う事にした。野外活動は男の分野だし、何と言っても、家出して彷徨った経験が有るから任せられる筈よ!……え、こじつけだって?アタシ厄介事は嫌いよ、文句有る?

シンジは、山に登ろうと言った。疲れるのはイヤだけど、一任してしまった以上、従う他に無かった。シンジもこう言ってるし……。

「大丈夫、行って損はしない所だからさ。」

途中までバス、シンジの先導で山を登った。そろそろ昼かなと言う頃、シンジは『さあ着いたよ』と言って立ち止まった。今立っているのは山の中腹、町が見渡せる所だった。
昼食のサンドウィッチを食べながら、街並みを眺めるアタシ達三人。シンジは感慨深げに、レイは涼しい顔で。アタシは難しい顔‥‥何かこの風景、引っ掛かるのよね。どうしてだろ?‥‥そんな事を考えていたから。
食べ終わった頃、おもむろにレイが『……ここ……知ってる。』と言った。

「『知ってる』って、アンタ、ここに来た事あんの?」
「……あなたもよ、アスカ。」
「えっ!?」
「ふふっ……やっぱり昼じゃ判んないかな。」
「うーっ……何だったっけ……。」
「……”人は闇を恐れ、火を使い”……。」
ああっ!!そのセリフ!」
「……思い出したのね……。」
うんうん!!夜だったら一発で判ったんだけどなぁ……そっかぁ、昼間はこんな風に見えるんだ……。」
「……あの時も、こうやって三人で街を眺めてたんだよね。あの後、僕思ったんだ。何時しか、出来れば今度はミサトさんや加持さん、父さんも一緒に眺める事が出来たらなあって……結局、また三人でだけど、眺める事が出来て嬉しいよ。」
「……私も。だって、あの頃が一番穏やかだったから。」
「同感同感……う〜んっ!気持ち良いわねぇ、はしゃいで遊ぶのも良いけど、こうしての〜んびり過ごすのも中々乙なもんよね……羊飼いの気分ってこんなもんかなぁ。ね、シンジ……ん?……寝ちゃったのか、つまんないの。」

何時の間にか、シンジは草の上に寝転がって、夢の世界へと旅立っていた。『実に最高っ!!』って言う顔して寝ているから、アタシもそれに倣って寝転がってみる。草がふかふかして気持ち良い。眠たくなるのも解るわ。

「ふう……良い夢見れそうね……。」
「……夢を見たわ。」
「へ?」
「……この前、夢を見たわ……初めてだった……。」
「ふ〜ん……どんな夢?」
「……笑ってた。碇君も、碇司令も、赤木博士も、葛城三佐も、NERVの人達も、学校の人達も……あなたも……後はよく覚えてない。」
「寝てる時の夢ってそんなもんよ。良い夢だって覚えてられるだけでめっけもんだと思わなきゃ。」
「……そう?」
「そうよ!……良かったわね、これでアンタも普通の人間だって証明出来たんだからさ。」
「……うん……。」

ここで会話が途切れた。レイとの会話なんて全くと言って良い程交わした覚えは無い。だからそう簡単に続けられるものではなかった。ま、真正面から付き合い始めたばかりだし、最初はこんなもんでしょ。
もう、一方的に突っ掛かるのは止めておこう。シンジやヒカリとはまた違った付き合い方を探さなくちゃ。

「う〜ん……あ、そうそう!前々から言いたかったんだけどさぁ、アンタ、もっとこう、感情を表に出せないの?」
「……今のままで良い。」
「何でよぉ!」
「判る人には、判るから。」
「あのねぇ、アンタはそれで良いかも知んないけど、これからのアンタの為にはね、言いたい事が相手に解り易いようにしなきゃいけない訳よ。言葉だけじゃ寸足らず、感情表現を交えないとダメよ。」
「……良い、あなたみたいにはなりたくないもの。」
なっ!!ぬあんですってぇ!!何でアタシが出てくんのよ!!一体、アタシの何処がイヤだってぇ〜のよっ!!」
「……何時も爆発してる……碇君、可哀想……。」
「どうしてそうアンタは何時も何時もカンに障る事ばっかり!!むきーっ!!

……ダメだ、やっぱり突っ掛かってしまう……よし、決めたわ!コイツには何時も突っ掛かってやるわ、何時しか、顔を真っ赤にして反論して来る迄、突っ掛かって、突っ掛かって、突っ掛かり続けてやる!!

「私は何もしてないわ。」
だぁーっ!!それよそれ!その非を認めない”如何にも私は第三者”的言い方!それがカンに障るのよ!!」
「……気にしないで。」
「気にするから言ってんでしょうが!!」

レイ!いい加減に怒りなさいよ!!……ああ、血管切れそう……。

****************************************

僕は夢を見ていた。アスカと綾波がじゃれあってるのを近くで笑いながら見ている、そこの所しか覚えていないけど、恐らくは僕とアスカが何処かに出掛けた夢なのだろうと思う。
目が覚めた時、アスカは肩で息をしていて、綾波は平然と本を読んでいた。アスカったら、また綾波に突っ掛かってたんだな。て事は、さっきのは、夢じゃ、無かった??……

綾波をマンションまで送ってから、家に戻ってきた。留守電に『ミサトは二・三日帰さないからよろしく』と言う旨のリツコさんからの伝言が入っていた。それを聞いて、アスカは『それは結構』と喜んでいた……まだ今朝の事を根に持っているらしかった。

夕食の片付けも終わって、宿題しなくちゃと部屋に戻った時に、机に包みが置いてあるのを見つけた。その包みは綾波のプレゼント……そうだ、まだ見てなかったよ……今日お礼の一つも言ってなかった。悪い事しちゃったな……後悔しながら包みを開けた。
中から出てきたのは写真立て、青色なんだけど、特殊加工が施されているらしく、光線具合で光沢が七色に変化するものだった。写真の代わりに一枚の紙が入れられていた。それには、綾波の字だろう、”Make it count!”と書かれていた。どう言う意味なのかな?そう思って辞書を調べてみたけど、上手く訳せなかった。
アスカに訊いてみるか、そう思って部屋を出たら、丁度アスカが風呂場から出て来たところだった。

「あ、アスカ、丁度良かった。」
「何よシンジ、写真立てなんか持って……アンタ、そんな物持ってた?」
「これ?綾波のプレゼントなんだけどさ、ほら、この言葉の意味を教えて欲しいんだ。」
「レイの?……あ!忘れてた!

そう叫ぶとアスカは慌てて部屋に戻っていった。少しの間を置いて、アスカも写真立てを持って戻ってきた。アスカのそれは赤色で、同じ様に七色に光沢が変化した。
アスカは自分の写真立てをまじまじと見詰めながら少し考え込んだ後、僕にそれを見せてくれた。

「う〜ん……アタシのは漢字よ。ほら。」
「どれどれ……『一期一会』か。」
「『いちごいちえ』?聞いた事有るけど、どう言う意味なの?」
「うん、『一生に一度の出会い』って言う意味だよ。元々は茶道の方から出て来た言葉らしいよ。」
「ふ〜ん……。」
「でさ……僕の方なんだけど……。」
「ん?それね、『今を大切に』って言う意味よ。有名な映画のセリフなんだけど、知らないの?」
「そうなんだ。知らなかったな……綾波のメッセージ、か……。」
「意味深長、よね。さすがレイだわ。」

それぞれに書いてある言葉は違う。でも、僕達に言いたい事は共通しているんだな、そう思えた。
……ありがとう、綾波……。

「……(ポンッ)そうだ、ちょっと待っててくれる?」
「え?うん、良いけど。」

アスカは僕の返事を聞くと、再び部屋から包みを持って来て、それを解き始めた。

「もう日付も変わっちゃってるし、良いでしょ。」
「何、それ?」
「来年の為に、御意見を頂戴しようと思ってね……はい、ちょっと試食してみて。」

そう言って、アスカが広げたのはチョコレート。もしかして?……

「これって、昨日の?」
「うん、まあねぇ……折角作ったんだから、そのままポイするのも勿体無くてね……さぁさ、お早くどうぞ。」
「う、うん。」

良いのかな?こんな事して。日付が変わっても、目的が目的だからなぁ……そう思ったものの、アスカ本人の勧めだから、と思って、チョコに手を伸ばした。アスカも同じ様にして、チョコを口に放り込む。

「「……むむっ!!」」
「あ、アスカ……これはちょっと……。」
「……ビター狙い過ぎたわねぇ……げぇ……結局、上げなくて正解か。こんな物に気持ちなんか乗せられないわねぇ。」
「そうかな?……アスカらしくて良いと思うけど。」
「どう言う事よ……。」

視線を落とすアスカ。僕は二個目を放り込むと、率直な印象を話した。

「これ、見た目は良いね。でも、見た通りの味を期待していたとしたら、ちょっと引いてしまうね。」
「む〜っ!」
「まあ落ち着いて、話は最後まで……でもね、じっくり味わうと、ほのかに甘いんだ。
僕、これはアスカそのものだなって思ったよ。見た目はとても良いけど、性格はキツい、でも、本当は優しい女の子だってね。
アスカは、チョコに知らない内に自分を混ぜていたんだよ。だから、このチョコはアスカの心なのかも知れないね……。」
「……シンジ……。」
「あ……ゴメン、気障過ぎた、ね。」
「……そんな事無いよ……シンジ……アタシ、シンジを好きになって良かった……。」

そう言って、アスカは僕に力一杯抱きついてきた。一瞬にして沸騰する僕。でも、自分でも気付かない内に、両手をアスカの背中に回していた。

「……ありがとう……アタシを好きなってくれて……。」
「そそ、それは僕のセリフだよ……有り難う、アスカ。こんな僕を好きなってくれるなんて……嬉しいよ。」
「その言葉、そっくり返すわ……。」

アスカは抱いていた手を放すと、僕を正面に見据えて、そして、ゆっくりと目を閉じた。
……これって、やっぱり……緊張が走るのを止める事が出来ない。初めての時の苦い経験が脳裏を過り、ますます拍車が掛かる。
でも、今僕がすべき事はこれしか無い。アスカの期待に応えられるのはこれしか無い。もうあの時の僕じゃないんだ!……意を決した僕は、両手でアスカの肩を優しく掴んで……。



「……ゴメン……。」
「え?……。」

僕が発した第一声は、謝罪の言葉だった。
アスカに触れているほんの少しの間に、不意に解ってしまった。初めてキスをした時のアスカは、僕に何かを求めていたんだ。僕にはその何かまでは解らない、恐らくアスカ本人もそうだろう。でも、僕がそれに応えられなかった事だけはハッキリと理解出来た。もし、あの時にそれが出来ていたら……。その悔恨の念が口を突いてしまったのだ。
気が付くと、アスカの顔が不安に満ちていた。仕舞った!悟られてしまったんだ!何とか誤魔化さないと!……

「……ゴメン……息止めるの、忘れた。」
「え?……プッ!アハハハ!!……なあにを言うのかと思ったら!そんな事。」
「……ゴメン。」
「良いのよ。もう暇潰しじゃないんだから。」
「うん……。」
「……それにね……もう終わった事でしょ?……確かに、あの時のシンジには失望したわ。でも、ちゃんと挽回してるわよ。ここにアタシが居るのが何よりの証拠じゃない。アンタがあの時のままなら、とっくにドイツに帰ってるわ……だから、もうクヨクヨしないの!”Make it count!”、昔に縛られちゃダメ!……ね?」
「あ、アスカ?……どうして?」
「ん?……どうせシンジの事だから、思い出したんでしょ?あの時の事。違う?」
「……ううん、違わないよ……参ったなぁ、全部お見通しか……やっぱりアスカには適わないや。」
「降参?」
「うん、ホールドアップだよ。」
「よろしい。じゃ、降参の印!」

そう言って、アスカは再び目を閉じる。

「あ、いや、その……。」
「……もうそんな雰囲気じゃない、てか?」
「……ゴメン。」
「……アンタ……バカ!?」
「……ゴメン。」
「……ふぅ……アタシにここまでさせておいて、良い度胸ねぇ……これは、罰が必要ね。」
「……ゴメン。」
「猶予を与えるわ。お風呂で頭冷やして来なさい。」
「……うん。」
「覚悟出来たら……あ、アタシの部屋に、き、来なさい。」
「え!?」
「は、反対する権利は無いっ!!もし来なかったら、明日の朝は来ないと思いなさい!」
「そ、そん……。」
「ほら!さっさと行って来い!!」

有無を言わさず、風呂場に叩き込まれた。
本気で怒らせちゃったみたいだなぁ。女心って解んないよ。呆然とそんな事を考えながらお風呂から上がると、明日の用意を済ませてアスカの部屋に向かった。多分、永久に戻れなかったりなんかして。

コンコン……

「……入るよ。」
「よく来たわね……いい加減待ちくたびれたわよっ!」

薄暗い部屋のベッドの上で胡座をかいていたアスカは、満面の笑みを浮かべながらそう言い放った。

****************************************

「「行ってきま〜す!!」」
「クエッ!!」

翌日の朝、ペンペンに見送られて家を出た。

「う〜んっ!……」
「……。」
「気持ちいい朝ねぇー。」
「……あ……。」
「どしたの?」
「……宿題……忘れた……。」
「あ、そ……別に良いんじゃない?一緒に並んで廊下に立つのも。」
「……て事は、アスカも?」
「まあねぇ……って、昨日はずっと一緒だったでしょ?」

何時もの様に他愛も無い事を話ながら、何時もの様にシンジと並んで歩く。只……ね……

「ところでさぁ、アスカ……あんまり強く掴まないでくれない?」
「この位でドギマギしないでよぉ……イヤなら……負ぶってくれるの?……」
「あ、いや!その……。」
「アハハハ、血圧上がった?」

只、昨日の山登りのお蔭で、二人とも一昨日の変調が再発してしまった。シンジは普通に動けるらしいけど、アタシは太ももに湿布を貼っている。運動神経抜群を標榜しているアタシにとっては、筋肉痛などみっともない事この上なしよ。だからばれない様に、シンジの腕にしがみついて『朝からお熱いねぇ〜』モードの振りをして、シンジに支えて貰っているのだった。
ヴァレンタインデーの直後だし、誤解は思いっきりされると思うわ。でも、もうそろそろ公に認めても良いかなって思うし、ついでに資源の無駄遣いと悪い虫が減ってくれれば、一石二鳥なんだけどな……。

「お早う!ヒカリ!……それと2バカ。」
「お早うアスカって、朝から何やってるのよ二人とも!」
「えへへぇ、まあ色々有ってさぁ。」
「お早う碇。」
「お早うさん!」
「あ、みんなお早う。」
「おぉセンセぇ、到頭ここまできたか。」
「うん……トウジに負けてられないなって思ってね。」
「そうそう!聞いたわよ、一昨日仲良く帰ったんだってね。この鈍感が当てられた位だから、相当ラブラブだったんでしょうねぇ……アタシも見てみたかったわぁ。」
「そ、そんな事!……でも、アスカも上手くいったみたいね。」
「それがねぇ……ね、シンジ。」
「うん、僕貰ってないんだ。」
「え!?どうして??」
「『だーいしっぱーい!』だったからよっ!」
「……うそ!」
「本当だよ。事情を聞いて、じっくり話し合った上で、また来年に再挑戦って言う事にしたんだ。」
「……なぁトウジ、再挑戦って事は……。」
「そうやな、ケンスケ。これから一年、こいつらこの調子って事かぁ!か〜っ!!何ちゅう羨ましい事を……。」
「それって、それって!……」
「……『イヤ〜んな感じ』……クスッ……。」
「どわああっ!!」
「あ、綾波さん!?」
「お、俺の……。」

何時の間にか、レイが仲間に加わっていた。鈴原は思いっきり驚いていたし、セリフを取られた相田は涙をじょ〜っと流している。ヒカリだって目を白黒させていて、平然と構えていたのはアタシとシンジだけだった。

「……お早う、碇君、アスカ、洞木さん。」
「うん、お早う。」
「綾波さんって意外とお茶目なのね。」
「レイ……やれば出来るじゃない!!」
「そう?」
「そうよっ!!」

そうよレイ、これが第一歩なのよ!
アタシは、はにかむレイを見ながら、未来の綾波レイ像に思いを馳せていた。



昼休み、シンジとくつろいでいたところに、相田がやって来た。

「済まないな惣流。一昨日のお金忘れてたよ。」
「あ、そう言えばそうだったわね。ほら、さっさとよこしなさいよ。」
「じゃ、これを。ちゃんと利子とお礼入れてあるから。」
「お礼?」
「そうさ。一月後じゃ問題になるだろうから、早いうちに返しておくよ。」
「……分かった、貰っとくわ。」
「それじゃあな。」

さすがは相田、意味を理解していたのね。
実は、あの時の袋の中に、昼食とは別にココア味のスナック菓子を入れておいたのよ。ま、シンジの数少ない親友な訳だし、何かお礼程度の態度は示しておくべきと判断してね。だからって、所謂『義理チョコ』を渡すほど感謝もしてないから(盗撮されてたからね!)、こんなもんでしょ。
鈴原に関しては何もしていないわ。だって、ヒカリが居るんだもんね。だから、ちゃんとお膳立てしてやる事で気持ちに代えておいた。アタシにはそれ以上のものは用意出来ないわ。
相田から貰った封筒には、利子付の現金(利子は消費税と同じ額、ケチ!)と、写真が3枚入っていた。写真は3枚とも同じ絵柄、昨日の物らしい。バス停でアタシとシンジが喋りあっているのをレイが微笑みながら見ていると言う物だった。中々良い絵だと思うわ。でも、また盗撮したのね。
まあ、軽く締めてやるだけにしておこう。問題を大きくしたところでどうなるってもんでもないし、シンジも『程々にね』って言ってるし。



この写真は、今は三人それぞれの写真立てに収まっているわ。アタシもシンジも、この写真を見る度にレイのメッセージを思い出している。

……この出会いを、この瞬間を大切に……

<終わり>


<後書き>

それでは、登場したドイツ語の解説を……。
尚、読み方のカタカナは、電子辞書(クラウン独和辞典CD-ROM)での発音を聞いて当方で変換したもの。こちらの方がよりネイティブに近いかと。
また、イタリック体の文字は”ウムラウト”、”β”は”エスツェト”と呼ばれる特殊文字。フォントに有る訳無いので、それぞれ代用させて貰った。

☆Guten Morgen ! Hikari und zwei Dummkopfe. ”グーテンモーゲン!ヒカリ ウント ツヴァイ ダンコップェ”
 『お早う!ヒカリと2バカ』                                  (ド)
 ”Morgen”は、”モルゲン”とは発音しないそうだ。(”rの母音化”と言う)
 ”zwei”は『2』、”Dummkopf”は『馬鹿者』の意味。”e”が太字になっているのは複数形の変化語尾、アップ時には勘違いで付いていなかった。後に指摘されて(どうも有り難う御座います!)、気になって調べ直したらこの有り様。ドイツ語は複数形の表し方が数種類有るので要注意である。

☆Danke! ”ダンク”
 『ありがと』
 一番軽い言い方。丁寧になると、”Danke schon!(ダンク シェーン)”や”Vielen Danke!(フィーレン ダンク)”になる。

☆Der Schluβ ”デア シュラス”
 『終わり』
 要は、”The end”の事。
 ”Der”は、英語の”The”と同じ。後ろに来る単語によって形が変わるのでややこしい。(これを『格変化』と言う)
 ”Schluβ”は、厳密に言えば、『完結』の意味。同じ意味の単語で”Ende(エンデ)”が有るが、こちらは『末端』の意。『銀河英雄伝説』で頻出しているので、こちらの方が有名か?

☆Unbedarft!! ”ウンベダフト”
 『(判断が)甘い』
 辞書には『経験に乏しい・(事情などに)暗い』と言う意味で出ているが、『愚かな・頭の単純な』と言うニュアンスを含んでいるので、この様に訳せる。
 他にも同じ訳の単語は有るが、この単語が一番人を見下している表現になる。
 因みに辞書で『甘い』と出ている”Suβ(ズィース)”は味覚の『甘い』と言う意味。

☆Mein Freund ”マイン フロイント”
 『私の(男性の)恋人』
 ”Freund”は『男性の友達・味方』、『ボーイフレンド・恋人』と言う意味。
 『女性の友達・ガールフレンド・恋人』は”Freundin(フロインディン)”である。

☆Mein Verlobte ”マイン ファロプテ”
 『私の婚約者』
 ドイツ語を習うのは、大抵大学に入ってから。だからこうなってないとおかしいと思うのは私だけ?
 それとも、”Mann(マン)”『夫』の方が良かったか?

☆Prosit! ”プローズィト”
 『乾杯』
 これも『銀英伝』で有名か?
 大学時代の面々が集まると、飲み会はこれで音頭を取る。

☆Gute nacht ”グーテ ナハト”
 『お休みなさい』
 ここではその他の挨拶を。”Guten Tag(グーテン ターク)”は『今日は』、”Guten Abend(グーテン アーベント)”は『今晩は』

☆Aufraumen ”アウフロイメン”
 『後始末する』
 これは、『分離動詞』と呼ばれるもの。『前置詞+動詞』の組み合わせで作られ、文章内ではそれぞれに分割される、と言うもの。
 ”Auf”は英語の前置詞”on”とほぼ同義のもの。”raumen”は『取り除く・明け渡す・片付ける』の意。

これで、漏れ落ちは無い筈……

****************************************

今回の話、かなり伸びてしまいました。それだけ、収めるべき伏線が収まっていなかったと言う事ですね。儂ってバカ!!

”Make it count!”の出典は映画『TITANIC』のジャック・ドーソンのセリフです。私の一番のお気に入りです。
こうやって、皆さんと関わっている(殆ど一方通行みたいなもんですが)この今を大切にしたいなと思う今日この頃です。

最近、ソリティアにうつつを抜かしてます。勿論『愉快な仲間達』なんですけど、これはWin専用ですよね。私はMacなので、『Virtual PC』なるエミュレータを喰わせまして、それでやってます。ところが、ソフトを起動させた途端、WAVE音声が変になってしまうんですよね。サンプリング周波数がいきなり11KHzに変更されてしまう様で、何言ってんのか判らん様になってしまいます。お蔭で、無声状態で遊んでます、トホホホ……。
それでも、バニーなアスカ様壁紙はGET出来たし、次は花札、その次は麻雀を狙ってます。麻雀、兄貴に教えて貰おう。
そうそう、『大富豪』の初回特典は是非取らないとねっ!!

では、また御会い出来ます様に……


跡見さん、本当にありがとうございました!!

跡見さんへの感想メールを!
tomi-yoshina@mba.nifty.ne.jp
までお願いします。


「ステンショ跡見」へ戻ります。