もう一年程前になるだろうか、宇宙の片隅のちっぽけな星で大異変が起こった。その大異変でその星の人類は約40%を”消失”させるに至った。その星の人類はその大異変を「サード・インパクト」と呼んだ……。
この世界では、その「サード・インパクト」、スクリーン上に出て来たモノとはちょいとばかり毛色が違ってしまいました。何処が違うのかは当の作者にも解りませんが。(^^;
まあ取り敢えず、その後の話です。湿っぽい話ですが、お気楽にどうぞ……。


Tomi's EVA vol.1


箱根温泉・・・前夜


いつもと同じ夕食のシーン。ミサトさんはまるでケモノの様にがっつき、アスカは子供の様に満面の笑みを浮かべ乍ら頬張って、僕の作った料理を食べている。その様子を眺めていると、僕もやはり嬉しい。でも、突然、これ迄の辛い記憶を思い出し、不安が黒雲となって僕の心を覆い尽くす。このささやかな幸せが又崩れしまうのでは無いかと言う、言い様の無い黒い感情。
本当に忘れてしまいたい、忌まわしい戦いの記憶。文字どおり何もかも失ってしまった。何も無いと思っていた僕にも失う物はあったんだ。皮肉にも、それらは戦いに身を投じてから得た物だった。親しくしてくれる友人達、本当の家族のように接してくれるミサトさん、そして、アスカ……。
アスカとの出会いは衝撃的だった、なんせいきなりパンツだったモンな……。初めは付き合い辛かった、僕とはまるで反対の性格をしていたから。それに彼女は、容姿端麗、エヴァの操縦技術は僕よりも数段上を行き、14歳と言う若さで既に大学を卒業していると言う天才的頭脳の持ち主で、僕とは住んでいる世界が違う人だった。でも、ユニゾンの訓練をした頃からだと思う、彼女から何かを感じ取っていた。何か、僕と同じ所が有るんじゃ無いだろうか?そんな漠然とした感じ。ミサトさんの優しさや綾波のお母さんの様な感じとは明らかに違う、何か同じ物を求めている様な……、そんな感じがした。


「なーにシンちゃん、くらーい顔してんのよぉ。もっと食事時はパーッと明るくしなくちゃぁ。」
「えっ!?そ、そうですか?いつも通りじゃないですか。アハハハ……。」
「……。所でさぁ、明日から仕事4連休なんだけど、どっか遊びに行かない?お互いの全快祝いもかねてさぁ。」
「3人でせせこましく?寂しいわねー。」
「まー良いじゃ無いのぉ、他の人はみんな仕事だし。日頃の努力の賜物でせっかくの盆休みも貰えたんだし、有効利用しないとね。」
「何処へ行くんですか?」
「やっぱぁ、海とか山とかでパーッとはしゃぐのよ!日頃の鬱憤をここで晴らすのよ!!」
「アスカはどうするんですか?まだ激しい運動は避けた方が良いって……。」
「へ?あ、そっか……。じゃあテーマパークって所かしらね。」
「遊園地ぃ?子供じゃ無いんだから。嫌よ。」
「じゃあ、アスカさん、何処が宜しいのでしょうかぁ?」
「うっ……、何処って言われても……。シンジ!ほら、アンタも何か言いなさいよ。」
「いきなり振らないでよ。」
「うっさいわね!男なら細かい事でグダグダ言わない!バシッと言いなさいよ、バシッと!」
「ちょっと待ってよ。考えるからさ。」
「早くしなさいよ。」


最近珍しくなった、アスカの真剣な表情。無理も無いか。
この戦いでの一番の被害者は彼女かも知れない。彼女は、僕と同じく、この戦いですべてを失った。でも、その殆どは僕が奪い取ったと言っても良いだろう。彼女を追い詰めたのは、他ならぬ、僕なのだから。
戦いが終わってから、僕はその事を悔やみ続けた。その頃には僕が彼女に何を見い出していたのかは解っていた。僕は、彼女となら解りあえる、この寂しさを、この心の痛みを、巨大な罪の十字架の重さを。一緒に居たかったんだ、彼女と。でも、それは叶わぬ夢。彼女の心を打ち砕き、更に罪を重ねた僕にはもうそんな資格は無い。
病院でベッドから動ける様になってからも、退院してミサトさんと同居を再開してからも、僕はアスカの病室を訪れる事は無かった。僕はアスカから逃げていた、会っても苦しくなるだけだから。もう苦しむのは嫌だった。でも、僕は心にポッカリと穴が開いてしまっているのに気付いた。穴から悲鳴が聞こえる、「それで良いのか?それで満足か?」と。……僕はどっち選んでも苦しむしか無いらしい。いっそのこと、壊れてしまった方がどんなに楽だろう、そう思う時もあった。
そんな僕を知ってか知らずか、アスカは再び僕の前に現われた、以前よりも眩しくなって。もう、僕の手には届か無い存在になってしまったと思えた。でも、アスカは以前と変わらぬ調子で接してくれている。心の穴が閉じて行くのを感じる。僕の心には既にアスカが住んでしまっていた様だ。僕にはやっぱりアスカが必要なのだ、エースパイロットでも天才少女でも無い、惣流・アスカ・ラングレーと言う名の一人の女の子が。

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「仕方ないじゃ無い。アスカ病み上がりでしょ?」
「その病み上がりに戦闘を無理強いしたのは何処のどなたよっ!!」
「アハハハ……、あの時は他に頼りが無かったのよ。悪かったと思ってるわよぉ。」
「どーだか……。じゃアタシの事も考えてよね。」
「ねえアスカ、もう少しの辛抱だからね。だから今回は……。」
「ダメッ!そんなの却下よ!!大体誰のお蔭でここで……。」

あれ!?考え込んでいる間に話があらぬ方向に進んでいる様だ。二人の間が険悪になっている、早く止めないと……。

「あの…ミサトさん、宿まで連れて行く位なら良いんじゃ無いですか?さっきと違う事言いますけど、そろそろ運動し始めないといけないと思うんです。」
「話が分かるじゃない、バカなのに。」
「バカは余計だよぉ……。」

筋違いな事は言って無い様だ。良かった。

「ともかく、行き先は僕で決めさせてもらいますよ、喧嘩にならない様に。良いですね?」
「うーん、シンちゃんのお言葉とあれば仕方ないわね。葛城家はシンちゃんで持ってるからねぇ。」
「そうね、いいわ。アンタに譲るわ。」

何か、二人とも妙に素直だな。でも勢いとはいえ、言ってしまった以上、後には引けない様だし。

「じゃあ、箱根辺りの温泉って言うのはどうかな?ゆっくり浸かって、ちょっと豪勢な食事して……。」
「温泉かぁ。ま、無難な線だけど、何でまた箱根なの?」
「いえ、行きたい所が有るんです。」
「……!、シンちゃんそれが目的か!」
「ねぇシンジ。『行きたい所』って何処よ。」
「あ……、うん、母さんのお墓参り。丁度お盆だし。」
「顔赤くして言う事かぁ?んでねぇ、『盆』って何の事?」
「うん、先祖の霊を供養の為にあの世から迎えて一緒に過ごす期間、て言うのが本来の意味なんだけど、最近はお墓参りで済ます人も多いんだって。西洋で言う『ハロウィン』と同じだね。ただ、あそこまでお祭り騒ぎはしないけど。」
「ふ〜ん。なんかジジ臭いわね。ま、良いわ、アタシも行ってあげる。」
「ゴメン。これは一人で行きたいんだ。」
「えー何でよぉ。」
「そうよ、みんなで行っても良いじゃない。一応御挨拶しとかないと。ねぇ、アスカ?」
「な、何でそう言う話になるのよ。い、一体何の挨拶よ!」
「おやぁ?お顔が赤くなってますよぉ?」
「べっ、べっ、別に赤くなんかなって無いわよ!ごっ、御馳走様!」

タッタッタッ……バタン

何で恥ずかしがるのかなぁ?解んないや。もしかして!……、まさか……ね。

「へっへっへっ、良いわねー若いって。」

ニヤニヤしていたミサトさんだけど、ビールを最後まで飲み切ると真剣な表情になっていた。

「ホントに一人で?」
「ええ。実の所を言うと、行くのは母さんの墓だけじゃ無いんです。でも行き先は言えません。」
「……。じゃあ聞かない事にしておくわ。無理に聞いたからってどうにもなら無い様だし。」
「すみません……。」
「あ、そうだ。大体の行動予定を組んどかないとね。アスカ呼んで来てくれる?」
「はい。」

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あーあ、思わず逃げ出しちゃった。御飯、途中だったのに。シンジの事となると、ミサトったら……。ま、意識し過ぎるアタシにも問題有り、ね。
アタシは日本にたった独りでやって来た。側には加持さんが居てくれたけど、一人の女性として真剣に見ていてくれている訳では無かった。子供扱い、不満だった。周りには誰もアタシの事を解ってくれる人は居なかった。
行きがかり上、アイツと同居する事になった。最初はアタシを畏敬の念を持って見ていた様だけど、段々と普通の女の子として見てくれる様になったらしくて、アイツ、別の顔を見せ始めた。特に嫌な顔をするで無しに家事をこなすアイツ。文句を言ってやると、ムキになって言い返すアイツ。喧嘩になると、全然悪く無いのに謝るアイツ。気遣いは素晴らしい程鋭いのに、女心には超鈍感なアイツ。そんなアイツの前ではアタシも自然に振る舞えた。
アタシは期待していたに違いない。『アタシの事、解ってくれるかも。』独りで居なければならない辛さを、独りでいる寂しさを。でも、鈍感なアイツにそれが解る筈は無かった。イジメっ子が好きな子を苛めるのと同じようなもの。アイツにはアタシの小さな期待は届かなかったみたい。独り相撲。空回り。どんどん苛酷になる戦いの中では、アイツに振り返ってもらうなんて出来なかったのよ。
アタシは加持さんの言う通り子供で、背伸びしていたのを見抜かれていたのね。こんな事に気付かないなんて、自分でも呆れるわ。でも、アイツはアイツなりにアタシを見ていてくれた様ね……。あの時まで、それが判らなかった。正直、悔しい。

『出来れば、こんな風にならない出会いがしたかったね。』
『……同感。』

戦いが終わって、シンジは明らかにアタシを避けているようだった。一度も病室には姿を見せなかったから。ミサトはほぼ毎日見舞いに来てくれて、シンジの様子を聞かせてくれた。シンジはアタシを酷い目に合わせたのは自分だと攻め続けている様だと。そのままだと危なっかしいから、と言う事で同居を再開した事も聞いたわ。
そして、アタシの退院が決まった頃、アタシも元の様に同居したいと希望した。その時、ミサトは言ったわ、

『私は正直いって、あまり賛成したくは無いの。シンジ君には凄い重圧になってしまうから。でも、これは彼には克服して欲しいと思う、先の事を考えるとね。ま、こればっかりはシンジ君次第だし、私には手出し出来ない事ね。でもね、アスカ、今の貴女を見ていたら、貴女にならシンジ君を手助けする事が出来るかも、って思えるの。でも、中途半端な事じゃ返ってシンジ君を追い込むだけよ、かつて貴女の様にね。もしかすると、これはアスカにとっても試練になるわね。冷酷だけど、テストさせてもらうわ。後でこれを見て欲しいの、これでも決心が揺らぐ事がなければ大丈夫。また明日来るから、返事を聞かせてもらうわ。その気があるなら、また3人で暮らしましょ。』

そう言って、ミサトが置いて行ったビデオには、前の病室での映像が……。これを見てショックを受けない奴が居たらお目に掛りたいわ。でも、アタシは決心した、だって、シンジは画面の中でアタシに助けを求めていた。必要としていてくれた。落ちる所まで落ちたアタシにはそれだけで充分だった。今度は、アタシがシンジを見てあげる番ね。シンジを解ってあげたい、シンジを救ってみせる、それはシンジの為、そしてアタシ自身の為……。
そう勝手に意気込んで来たのは良いけれど、どう手を付けて良いのやらサッパリ解らない。心の問題となると複雑だから、自分も傷付くのは覚悟の上。だけど、頭で解っていてもやっぱり恐い物は恐い。だって、それは今まで一番恐れていた事、そして一番痛かった事だから。

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「アスカ、起きてる?」
「バカ!勝手に入ってこないでよ!」 「ご、ゴメン!寝てると思ったから。」 「バーカ、このアタシがお風呂にも入らないで寝ると思ってんの?」
「ゴメン……。呼んでも返事が来なかったから……。」
「え、そうなの?で、何の用?」
「えっと、その、ミサトさんが明日からの予定を詰めたいから来てくれって。」
「分かった、行くわ。」

「……と言う事で、ギリギリだから、宿の手配は私が今からしておくわね。それじゃおさらい、1日目と4日目は移動日ね。2日目は単独行動日、3日目はみんなで行動する。天候が不安定だから、行き先はまた現地で変更の余地あり、と言う事で良いわね。」
「解りました。」
「りょーかい。」
「後、これだけは覚えておいて。貴方達はもう普通の人間じゃ無い。エヴァに乗っていたと言うだけで狙われる可能性は十分にある。もうNERVは特務機関じゃ無いから、以前の様に貴方達を守る事は出来ないの。だから、特に2日目は注意してね。」
「……?だったら、2日目もみんなで動けば良いじゃない。」
「誰だって、たまには独りで気侭にして居たいと思う時もあるでしょ?」
「そうですよね。」
「……。これ、シンジの発案ね……。」
「質問はないわね?それじゃ解散。」
「何か気になるわ……凄く……。」
「あ、アスカ、さっきの残り、そのまま冷蔵庫に入れてあるから、お腹空いたら食べてよ。」
「残飯?ま、有り難く貰っとくわ。」
「うん、それじゃ。」
「……あ、シ、シンジ。」
「え?何?」
「……その……あ……ありがと。」
「……気にする事……無いよ。それじゃ。」

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「思いっきり気にするってーの……。」
思わず呟いた。今アタシは一人でさっきの食べ残しを食べている。明日の用意も一応整って、他にする事が無くなったから。
「ありがと……か……。」
恥ずかしかったけど、思い切って言ってみた。アイツ、頬赤くして喜んでたな……。言ったかいが有るってモンよ。それにしても、
「何するつもりだろ……アイツ……。」
墓参りごときでミサトがあんな事を言う訳が無い。シンジの奴、何か企んでる。でもアタシには何も言ってくれない……。当然かもね。だってまだアタシの事を避けてる。アタシだって罪人、アタシが一番でいる為に、アタシを守る為に犯した罪。シンジにだって酷い事をした。
シンジはアタシの事をどう思ってるんだろう。本当にアタシの事解ってくれるのかしら。只の同情ならゼッタイ嫌!同情買う位なら独りの方がまだマシよ……。でも……、
「嫌よ……もう……独りは……。」
最後の一口は塩っぱかった。

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「何処に行こうか……。」
明日の支度をし乍ら考える。行きたい所が有るとか言いながら、本当は行き先なんか決めて無かった。その場の思いつきを口にするなんて、我ながらとんでもない事をしたな。
「ありがと……か……。」
アスカからその言葉を聞くとは思わなかった。あれからアスカは変わったんだ、特に目の輝きが増した、そう思う。でも僕はその瞳を見つめる事が出来ない。

僕にはアスカを見る資格が無いから……?
僕にはアスカを守る権利が無いから……?
アスカに僕が拒絶されるのが恐いから……!

やっぱり僕は全然変わらない、最低な奴だ。
アスカは僕の事を解ってくれるだろうか?許してくれるだろうか?許されたとしても、僕はアスカの事が解ってあげられるのか?
とにかく、何か踏ん切りが欲しかった、今までの僕にケリを付けたいから。今、僕はここで生きる意味を見つけた様な気がする。昔の僕は、生きている振りをしていただけだった。あの町に来て、エヴァに乗る様になって……。
……!、そうだ、あの場所に行けば何か掴めるかも。”守るべき物”が有った頃を思い出せる、あの場所に。
でも、辛い事も思い出すから、本当は行きたく無い。
「でも、今しか、行かれないと……思う……。」


<後書き>
皆様、初めまして。跡見(とみ)と申します。
小学校の宿題以来、ウン十年ぶりに書いた作品です。本当は小ネタを創っていた筈が、どんどん膨らんで連作ものになってしまいました。これは一重に自分の文才の無さにあります。(^^;
「エヴァ」と言う作品を初めてじっくりと観たのが98年1月のWOWOWと言う超弩級の初心者です。まだ深淵は見えていませんが、それでも突き動かされる物がありました。それで、突き動かされてみたのがこれです(^^;。

宜しければ、これからもお付き合い下されば嬉しいです。m(__)m


跡見さん、本当にありがとうございました!!

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