「……そろそろ行こうか。」
「えっ?何処に?」
「目的地にだよ。ここまで来たら、さすがに来るなとは言えないし。」
そう言って、シンジは荷物を手早く纏めると、さっき走って来た方向に歩き始めた。またも慌てて追い掛ける、でも今度はシンジの直ぐ後ろを歩く、もう隠れる必要が無いから、やっぱり尾行だなんて性に合わなかったわ。ホントは横に並びたいんだけどね、道なんて無いに等しい所を歩いてんだから出来ない相談よね、贅沢は言ってられないか。
また森の中に入った。さっきの場所は森の中の広場みたいな所だったみたい。でも、すぐに森を抜け出した。シンジは立ち止まり、
「ほら、あそこだよ。」
と指差した。
そこは草原だった。でも、かなり異様な感じがする。中央には大きな窪地があり、周りは鉄条網が囲っている。アタシ達の周りには、明らかに爆発の影響ね、へし折られて焼けこげた木々が立っている。
「覚えてるかな?ここで何があったか。」
その場に二人で座った後、シンジは言った。
「この跡、NN兵器ね……。……そうだった、ここで弐号機が爆雷でボロボロにされたのよね……それと、アンタが『霧島マナ』って子に振られた場所でもあったわ。」
ジト目でシンジを見る。そんなアタシを知ってか知らずかシンジは続ける。
「そう、マナはここで消えたんだ。」
「何でこんな所に?アンタ、辛い思い出は嫌だったんじゃなかったの?」
「……。確かに、ここでの思い出は辛い事しかない。元々僕の思い出は辛い事しかないんだ。でも、あの頃の僕は強かった、そう思うんだ。今から思えば、良く出来たな、って思う事をやってのけているんだ。
僕は、今の僕から変わりたい、その為にここに来た、あの頃の僕を変えていたもの、あの頃の僕を支えていたもの、それを思い起こす為に。でも、あの頃を思い起こせるのはここしか思いつかなかったんだ。」
アタシはショックだった。なんでアタシじゃなくてあの女なのよ。アタシにだって強いシンジを見せてくれたじゃない。その事……覚えてないの?……
「バッカじゃないの!」
「え!?」
「シンジ、アタシの前じゃそんなに弱虫だった?」
「……。」
「弐号機の中でアタシと一緒に戦ってくれたのは誰?浅間山で沈んで行くアタシを引き上げてくれたのは誰?最後の戦いでアタシを助けてくれたのは誰?みんなアンタでしょ!。」
シンジの顔が微かに青ざめる。本当に忘れていたの……?
「……そうだよ……僕だよ……。」
「じゃあ、何であの女のよ!アタシじゃないのよ!」
「……僕は思ったんだ、何故マナの事を想っていたんだろう。たぶん僕に優しくしてくれたから、たぶん僕に安らぎをくれたから、そして、たぶん僕の事を好きだと言ってくれたから……今から思えば、マナは本心を見せてくれてはいなかったと思う。でも、譬えそれらが嘘だとしても、僕はそれに応えてあげたかったんだ。そうする事で、新しい自分に変われそうな、そんな気がしたんだ。」
……あの女が居た時のシンジは強かった……真剣だったもの。でもその目はあの女に向けられていた。アタシじゃ無かった。アタシはそれが悔しかった。そして、いとも簡単にシンジの関心を奪っていったあの女が羨ましかった……。
だから、あの女とシンジを引き離そうと色々言って邪魔したし、あの女が連れて行かれた時は嬉しくて舞い上がったし、最後は……殺そうとした。
「ここで爆発の後、アスカ、『霧島さんの代わりになっても良い』って言ってくれたね。」
「……言ったわ。」
「それに僕は『要らない』って答えた。その時は、『こんな時になんて事を言うんだ、自分勝手じゃないか、僕の気持ちも知らないで!』そう思ったからそう言ったんだ。
後で後悔したよ、アスカの気持ちを踏みにじったんじゃないかって。でも、今はそう言って良かったと思う。」
「……どうしてよ。」
「アスカはアスカであって、マナじゃない。代わりなんて出来っこないんだ。
マナは優しかった。でも、アスカは違う、アスカは眩しいんだ。アスカにマナと同じものを求めるなんて出来ないんだ。」
「……。」
シンジ、アタシの事全然解ってない。アタシだってシンジに優しくしてあげる事ぐらい出来る。でも、アタシはその事をシンジに今まで見せた事は無かったと思う、解らなくて当然、よね。
「僕はアスカの期待に応えられる様な男じゃない。狡くて、臆病で、弱虫で、情けない男なんだ。」
「……。」
「最後の戦いの後、アスカは増々眩しくなって、僕は増々情けなくなった。アスカが戻って来た時につくづく思い知らされたよ。アスカは僕の手の届かない存在になってしまったってね。」
「!……。」
そんな……アタシ……全然眩しくなんか無いよ……。
「でも、今の僕はアスカが居ないと生きていけない、そう感じたんだ。だから、アスカに近づきたいと思った、その為に変わろうと思った、だから僕は、今までの僕にケリをつけたかったんだ。」
「……ケリ?」
「そう、ここを選んだのはその為なんだ。マナの事を思い出すのはこれで最後にする。」
シンジ、アンタ極端すぎるわ……。そこまでしなくても良い、これ以上シンジに辛い思いはして欲しくない、……アタシは、辛いけどね。
「……それじゃあの子が可哀想だわ。『人は思い出を忘れる事で生きていける』って言葉をを聞いた事があるわ。実際、アタシはそうして生きて来た。でも、忘れてはいけない事もあるのよ、例え死ぬ程辛くてもね。その思い出が忘れて良いものなのか、それともいけないものなのかは、後になってみないと判らないものよ。だから、忘れるのだけは止めてあげて。」
「……ありがとう。」
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暫く押し黙って窪地を見つめる。時間がただ流れて行く。シンジはこんな事をしに来た訳?やっぱアタシが仕掛けないとダメか……。
「シンジ……。」
「何?」
「……アタシ、そんなに眩しいの?……シンジはアタシを買い被り過ぎてるわ。」
「買い被ってなんかいない。本当にそう思ってる。」
「嘘。シンジは自分を卑下したいからアタシをダシに使ってるだけよ。でも、アンタ人選間違ってるわよ。アタシじゃ何の役にも立って無いわ。アタシの方が……」
「そんな事ない!アスカは綺麗で、明るくて、頭も良くて……。僕には勝ち目は無いんだ……住む世界が違うんじゃないのか、そう思える位に。だから、本当なら僕にはこうして居る資格も無いんだ。」
「違うわ!アタシはただ高慢で自分勝手でプライドが高いだけの情けない女よ。アタシにはシンジに勝っているものは何一つ無いのよ、アタシの方こそシンジと居る資格なんて無いよ……。いつもシンジの事をバカにして来たけど、本当にバカなのはアタシなんだから!……アタシ……なんだから……。」
「アスカ……。」
「惨めだよね……アタシ……。」
「アスカ、やっぱりバカなのは僕だ。アスカの気持ちも知らないで、一人で突っ走って、またあの時の様にアスカを追い詰めている。やっぱり最低だよ、僕は……。」
「シンジィ……。」
アタシは何か言いたかった。でも、顔を伏せて泣くのを堪えるのが精一杯だった。今泣いたら有耶無耶で終わってしまいそうだったから。
「アスカの気持ちは嬉しいよ。アスカのお蔭でケリが付けられそうだ。でも、やっぱりダメだ、変わってもダメだ。僕は僕自身が許せないんだ、どうしても。アスカの気持ちが解った今、尚の事許せなくなった、自分が。」
「シンジ……アンタ……。」
シンジの瞳には怒りと諦めの色が浮かんでいた。恐らく最後の壁。これを破るには、アタシももっと傷付く事が必要だと思う。アタシもシンジも同じ様に傷付いている事を解ってもらう事が。最後の賭、シンジが耐えてくれる様に願って……。
「アンタ……。」
もし、ダメだったら……終りね、……しかない。覚悟を決める。アタシは立ち上がって言い放った。
「アンタ、アタシが知らないとでも思ってんの!?アンタがアタシを避ける理由を。」
「……。」
「アタシ知ってんのよ。最後の戦いの前、アンタが病室で何をしていたのか。」
シンジは驚いた顔でアタシを見上げる。アタシはそんなシンジを睨み付けながら言い続ける。
「よくもまあ、勝手に人を慰みモノにしてくれたわねぇ!ま、キズモノにされなかっただけでも感謝すべきかしらぁ?。」
視線を逸らし、顔を伏せるシンジ。体が震えているのが判る。
「さあ!説明して頂戴。どういうつもりだったの!?」
突然、シンジは駆け出そうとした。すかさず後ろから組み付いて地面に引き倒し、シンジの上に馬乗りになる。そして襟首を掴んで引き上げる。シンジは歯を食いしばって顔を逸らし、目はギュッと瞑っている。
逃げるつもりなのね、アタシから……。アタシはそんなシンジに失望を感じた。でも、ここで引き下がれば負けた事になる、負ける訳にはいかない。感情が爆発する。
「アンタねぇ!また逃げる気!逃げたら解決出来ると思ってんの!?確かにアンタが立ち向かう事で傷付く人がいるわよ!でもねぇ!アンタが逃げる事で傷付く人だっているのよ!」
「……。」
「今直ぐ決めなさいよ!ここから逃げて一生後悔しながら生きている振りをするか!?ここで当たって砕けてから後悔するか!?さあどっちよ!」
「……く……」
「でもアタシは逃がさないわよ!ここで逃がすぐらいなら、アンタを殺してアタシも死ぬ!だって!……だって……生きててもしょうが無いもの……独りじゃ……。」
やりきれない思いが涙へと変わっていく。視界がぼやけ、泣き崩れそうになる自分をやっとの事で支える。
「……応えてよ……バカシンジ……。」
「……イヤだったんだ……自分が……。」
応えてくれた。相変わらず顔は背けたまま、でも目は開いていた。
「アスカを壊してしまって……綾波の正体を知ってしまって……カヲル君を殺してしまって……それでも何も出来ずに、ただそこに居るだけの自分がイヤになったんだ。自分を貶めたかったんだと思う、汚したかったんだと思う。誰かに助けて欲しかったんだ。
でも、綾波やミサトさんには求められなかった、出来る訳なかったんだ。だから、譬え無理だと解っていても、アスカの所に行った。でも、アスカは応えてくれなかった、そこに人形の様に横たわって居るだけだった。……気付いた時にはもう終わっていた。今までそんな事には及びもつかなかったのに、どうしてあの時だけ……最低だよ、僕は。」
あの時のアタシは周りの全てから、自分自身からも逃げていたから、応えられる筈なんて無かった。それでもシンジは一縷の望みを託して来た……絶望したでしょうね……。
アタシは、シンジの襟首を放すと、そのままシンジの横にへたり込んだ。シンジは仰向けに寝た体勢のまま空を見ている。
「……何時知ったの……この事。」
「……退院の直前よ。アタシがまた三人で暮らしたいって言ったら、『シンジは苦しんでる、アタシにもそれなりの覚悟が必要だからテストさせてもらう』ってね……。酷いもんよね。ミサトの作戦って昔から滅茶苦茶だったけど、今回のは一番辛かったわよ。また壊れたらどうしてくれたのかしらねぇ。」
「そう……。だったら、どうして……。」
「戻って来たかって?どうしてだと思う?」
アタシはシンジに覆いかぶさる様にしてシンジの両肩を掴んだ、真っ直ぐ顔を見る体勢になる。
シンジはアタシを見てくれている。アタシは思わず微笑んだ、顔はたぶん涙でグシャグシャだったろうけど構わなかった。
「アンタと一緒に居たかったからよ。病院で目覚めた時にね、もうアタシには何にも無い、何もかも無くなっちゃった、そう思ったの。でも、アンタが無事だって聞いた時に物凄く嬉しく思ったのよ。どうしてそう思ったのかを考えてる内に、何にも無い筈のアタシにも、アンタと出会ってからの思い出が、いいえ、アンタが居るって事に気付いたの。
……アタシはエヴァに乗って使徒に勝って、注目を浴びる事で自分を支えて行こうとしていたわ。でも、勝てなくなって、誰からも見向きもされなくなったと思った時に、アタシは自分の価値を自分で否定した。エヴァのエースパイロットと言う自分の一部分を否定されただけなのにね。それを自分の全てと思い込んで、自分で支えを壊したのよ。でも、アンタは最後まで、一人の人間としてのアタシを認めていてくれた。だから、あの時病室に来たんでしょ?でも、その時のアタシにはそれに応える事が出来なかった、人間をやめて人形になっていたもの……。
みんな終わってから、病院でね、ずっとアンタが来る事を心の何処かで待っていたわ。でも来てくれなかった。ミサトの話を聞いて、来たくても来れないんだって事を知って、昔のアタシの様になりかけているって判って、悲しかった。離れてはいたけれど、アンタはアタシの支えになっていたのよ。もうシンジを失う訳にはいかない、あの時応えてあげられなかった分、今応えて、そして支えてあげたい、そう思ったわ。だって、今のアタシはもうシンジと一緒に戦う事は出来ない、シンジを後ろから励ます事しか出来ない。力の無いアタシがシンジにしてあげられるのはそれだけだもの……。」
「……アスカ……。」
「アタシは、シンジの側に居たいの。アンタと一緒に笑ったり、泣いたり、喧嘩してみたり……。アタシの我が儘なのは解ってるわ……でも側に居たいのよ……。迷惑……?」
シンジはゆっくりと起き上がってアタシを見つめてくれた。
「……本当に僕で良いの?」
「……うん。」
その時、シンジは笑いかけてくれた。その目に涙を浮かべて。
「僕の方こそ、アスカの側にいられるなら嬉しいよ。……でも、僕が居たらアスカの迷惑になると思うんだ。アスカの評価が落ちるんじゃないのかな?きっと釣り合わないって、何故あんな男にこんな美人がくっつくんだ?とか、世の中不思議な事があるもんだって言われるよ。」
「そんな事ないわよ。言いたい奴には言わせておけば良いじゃない。アタシ達はアタシ達でしょ?」
「うん……、でも……自分のせいでアスカがけなされるのって、自分がけなされるより、辛いから。」
「あのねぇ、もっと自信を持って欲しいわね!なんてったってアンタは、この惣流・アスカ・ラングレー様を負かした世界で唯一の男、『碇シンジ』なんだからねっ!」
「……その顔で言われても説得力が無いなあ。」
「!……言ったわねえバカシンジ!」
「うんうん、やっぱりアスカはこうでなくっちゃ!」
「……。」
「……。」
「……あれ?変だよアタシ……涙が止まんないよ……。」
「……ありがとうアスカ、……ありがとう……」
「……『ゴメン』の次は『ありがとう』の連呼?(グスッ)……ホント情けないわね……。」
「だって……僕だからね……。」
「ホントバカね……。」
「僕だからね……。」
****************************************
あれからどのくらい時間が経ったのだろう。ずっと窪地を見ていたシンジが立ち上がった。
「そろそろ戻らないと、バスに間に合わないよ。」
「うん、じゃあ帰ろ!……と、その前に、一つやっときたい事があるんだけど……。」
「何だい?」
「さっきの話の続きなんだけど……、アタシにも悪い所はあったと思うわ。でもねぇ、乙女の純潔を汚す様な行為は、アタシは許せても”アタシのプライド”が許さないのよ。解る?」
「(タラー)……う、うん……」
「だから、見物料、貰っとくわよ。今ここで。」
「……どうすれば良いの?」
「グーで一発、良いわね?」
「……分かった。」
「じゃあ、いくわよ。歯ぁ食いしばっててよぉ……せーの!」
パコッ!!
「あたっ!!……あれ?」
「はースッキリしたぁ!」
「い、今のは?」
「ネコパンチ。」
「……はい?」
「さ、帰るわよ。」
「う、うん……だけど、今ので本当に……。」
「アタシが満足したのよ。文句あるの?」
「いや、そーゆー訳じゃないんだけど……。」
「さあ行くわよ。はい。」
と言ってアタシは両手を前に突き出す。
「え?何!?」
「さっさとおぶってよ。アタシ疲れてんだから。」
「……はいはい……。」
そう言ってシンジはリュックを前向きに掛けると、アタシを背負って元来た道を歩き出した。
最後のパンチはちょっと余計だったかな?ま、終わった事を形で示しておかないとシンジも納得しないだろうしね。しっかし、『ネコパンチ』とは我ながら子供っぽい手抜きだったわね。
これで、シンジもケリがつけられたと思いたいわ。なんだかアタシまで一区切りつけられた様な気がする。アタシがついて来て良かったでしょ?もう「一人でやりたい」なんてアタシの前では言って欲しく無いわ。……ね、シンジ。
****************************************
でも、なんだかシンジがまた少し遠くに行ってしまった様な気がする、近づけた筈なのにね。男の子ってこういうものなのかな、そう思うけど、シンジにはずっと側に居て欲しいな……。
両手に少しだけ力を込めて、シンジを抱き締める。アタシの大切な人が目の前に居る、そう思いたいから。
それに合わせたかの様に、シンジが突然立ち止まった。気付かれた!?
「え〜と……あれ?」
「どしたの?」
「……道に迷ちゃったかも……。」
「そ……。?……えええーっ!」
「……ったく、いきなり耳元で叫ばないでよぉ。」
「叫びたくもなるわよ!どおすんのよ!」
「分かったよ。ちょっと降りてくれる?荷物降ろしたいからさ。」
「……分かったわ。」
名残惜しかったけど、シンジの邪魔は出来ないよね。また後で我が儘聞いて貰う事にしよっと。
シンジはリュックの中からGPS装置を取り出した。
「なーる程……。用意いいわねぇ。」
「こんな森の中じゃ方向感覚なんて当てにならないからね。この前来た時はこんなに森は深く無かったし、ケンスケが一緒だったから良かったんだけど。」
「カプセル捜してた時の話ね。で、どう?」
「ちょっと待ってよ……。えーと……やっぱり少し外れたみたいだね。」
「戻れる?」
「何とかなると思うよ。えっと……ゴメン、悪いけど森を出るまで……」
「心配しなくても良いわ。歩けるから。」
「ありがとう。」
「じゃ、道案内ヨロシクねー。」
シンジはまた歩き出した。アタシはやっぱり直ぐ後ろ、細道なんてキライよぉ。
その内、森が薄暗くなって来る、日が傾いて来たんだわ。足下がかなり危うくなって来た。夜になると動けなくなるわね。早くここを抜け出さないと。
「キャッ!」
「大丈夫かい!?」
「つつつ……こ、この位ヘーキだって。」
「行きの時みたいに無理しないでよ。」
「うん。」
****************************************
何とかバス停まで戻る事が出来た。でも、このまま終わる訳では無いのよね。
「あちゃ〜。終バスが出た後だ。」
「何でこんなに早いのよ!まだ日が落ちたばっかりじゃない!どうすんよ!」
「仕方ないだろ〜。僕のせいじゃ無いんだからぁ。」
「とにかく!これからどうすんのよ。」
「歩くしか無いね。ヒッチハイクは危ないし。」
「駅まで軽く2時間は掛かるわよ。そんなのイヤ!。」
「ほら、駄々こねないで、ね。」
「う〜。」
渋々歩き出す。足どりが重い、このままじゃ宿に着いた途端に家に帰るまで動けなくなる事は必至ね。シンジに助けを乞おうとして、横に並んで歩くシンジを見た。シンジの表情も疲れ切っているのを見て罪悪感が湧いて来た。背負っている荷物は重かった筈だし、さっきアタシの我が儘を聞いてくれたから、アタシよりも疲れが来ているかも知れない。シンジに悪い事しちゃった。
一言謝ろうとした時に、前方から一台の車が近づいて来た。その車はアタシ達の目の前で止まった。もしや!……緊張が走る。
「よっ!お二人さん!良い雰囲気じゃないのォ。」
「「ミサト(さん)!」」
「迎えに来たわよん。」
「「????」」
「さーさ、早く乗って乗って!」
ブロロロロ……
「なーに二人とも呆然としてるのよ。」
「ミサトさん、どうして僕達がここに居るって判ったんですか。」
「ん?偶然に決まってるじゃないのよ。たまたま通り掛かっただけよぉ。」
「ミサト、尾行てたわね。」
「(ギクッ)さ、さーあ何の事かしらねー。」
「とぼけても無駄!あーアタシとした事がこんな仕掛けに気付かなかったなんてぇ!」
そう言って、アタシはメガネを取り出してヒラヒラと振る。
「集音マイク付きの発信器。これでもシラ切るつもり!」
「あはは……バレちゃった?」
「さあ、教えなさい。話全部聞いてたでしょ!」
シンジは隣で「もうどうでも良いや」といった顔をしてへらへら笑っている。気力が尽きたらしい。
「御期待に添えなくて残念だけど、何にも聞いちゃいないわ。」
「嘘おっしゃい!」
「ホントだって。それあんまり出力大きく無いから、途中で見失っちゃったのよ。」
「むー!」
「アスカ、貴女、途中でメガネ外したでしょ?」
「そうよっ。必要無くなったもん!」
「それが原因ね。食事している辺りまでは何とか聞けたけどね、そっから先はダメだったわ。」
「むー……。ま、一応信用してあげるわ。」
「……でも、良かったじゃない。シンジ君と仲直り出来たみたいだし。」
シンジは横でいつの間にか眠っていた。アタシはその顔を微笑みながら見つめる。
「……うん……ありがとうミサト、感謝するわ。あの時、ミサトが背中押してくれなかったら、アタシ一生後悔していたと思うわ。」
「お役に立てて嬉しいわ。」
「でもねぇ、勝手に発信器なんて邪道だわ。だから、ビールの約束は無しねっ。」
「ふぇ!?やっぱし!?」
****************************************
グゥ……
「お腹空いた……。」
宿の夕食は用意されていなかった、ミサトが要らないって言ったらしい。後でシンジに頼んで昼間の残りを貰う事にしよう。取り敢えずお風呂に入る事にした。
大浴場に行く途中で、小さな看板を見つけた。『露天風呂』……何これ?こんなのあったのかしら?ともかく様子を見に行ってみる。
「あ〜ら、アスカちゃんいらっしゃ〜い。あっはははは……。」
どうやら先客が居たみたい。露天風呂に酒は付きモンだってテレビでやってたけど、やっぱりミサトはビールを煽ってる。
「ここ、混浴だってねぇ。カッチョええ男でも居れば良かったのにね〜。まあ貸し切りだからいる訳無いかぁ。あっはははは……。」
すっかりオジンだわ。入んなくて正解、覗きに来だけで良かったわ。こりゃさっさと退場するに限るわね。
「あれー?何処行くのー?一緒に飲もーよぉ……あっはははは……。」
混浴かあ……。シンジに悪戯するには絶好の場所よね。でも、お風呂ネタは家で散々やってるから新鮮味無いのよねー。そんな事を考えながら風呂から上がると、その足でシンジの部屋に向かう。やっぱり浴衣って風呂上がりに着ると気持ち良いわねぇ。
「シンジィ、起きてる?」
「起きてるけどぉ。」
「あらら、しっかりとだれちゃってまあ……。」
「何か用ぉ?勉強なら明日にしてよぉ……今日は疲れちゃっててさぁ……。」
「そんなんじゃないわよ。お昼の残り貰いに来たんだけど。」
「あぁ、それならミサトさんに渡しちゃったよぉ。」
「ええー!なんでよぉ!」
「『シンちゃーん、お腹空いたよぉ、何かちょうだーい』って浴衣姿で迫って来たんだ。それで、身の危険を感じて、つい……。」
「あんのぉチチデカ女がぁ!」
キレたアタシは部屋を飛び出そうとした。けど、シンジがアタシを羽交い締めにして捕まえる。
「シンジ!止めないで!放してよ!」
「イヤだ!アスカ!落ち着いてよ!アスカ!」
「うっさい!食べ物の怨みは恐ろしいのよ!あまつさえアタシのシンジに色仕掛けで迫るなんて許せない!殺す!殺してやる!!」
「アスカ!落ち着いてってば!まだ残ってるから!」
「放して……へ!?」
「全部渡したなんて言って無いだろ。」
「う……。さ、最初からそう言いなさいよ!」
シンジに促されて座卓に就く。そう言えば、さっきアタシなんか凄い事を言った様な……。
シンジはいつもの様に手早く食事の用意をしてくれた。
「「いっただきまーす。」」
「ねえ、さっきミサトに渡したのってどの位の量なの?何かアタシが昼間見たのよりあんまり減って無い様な気がするけど。」
「……ミサトさんには言わないでよ。」
「言う訳無いでしょ?さっさと言いなさいよ。」
「どうやら、期限切れで棄てようと思っていたのを渡しちゃったみたいなんだ。」
「ぷっ……クククク……良い気味だわ……クククク……」
「期限が切れたからってすぐに傷むものでも無いから大丈夫だとは思うんだけど……。」
「クククク……ハア、ハア……ザマアミロってーの」
「あはは……、ちょっと言い過ぎだよ。」
「む……。んじゃもう一つ、この食べ物の量についてはどう言う理由なの?」
「さっき買い足したんだ。」
「アンタマメねぇ……。」
「そりゃどうも。」
****************************************
「ふー、御馳走様。」
「さーて、そろそろ寝よっかな。一日位ならすぐ寝ても太らないよね。」
「アスカ、あのさ……、明日何処か行きたい所ある?」
「なによ唐突ねぇ。んー……別に無いわよ。」
「それじゃあさ、一緒に行ってくれないかな?……母さんの所に。」
「お墓?」
「うん、そう。」
「……りょーかい。良いわよ。」
「ありがとう……。それじゃ、お休み。」
「うん、お休み。」
バフッ……
部屋に戻るとすぐに布団に倒れ込む。今日は本当に疲れたわ。でも、疲れた分だけ得た物も大きかったわ。有難うミサト。そして、有難うシンジ……お休みなさい……。
<後書き>
山越えたでぇ、いえい!と言うノリで居る跡見です。
いまいち言いたい事が表現出来ていない様で不満もありますが、一番すんなり収まった形がこれです。アスカ様、感情の起伏が激しい様な気もしますが、「お天気娘」ですから此の位オッケーと言う事にしておきましょう。(^^;
このシリーズを着想したきっかけは、『霧島マナ対策委員会』を読んでの事でした。だから、無理矢理ですけども登場して頂いております……名前だけ……。因に、この世界では、シンジ達はマナの生存を知りません。
今回、午前と午後に分けましたけど、午後の方が起きている時間が長い分、文章も長くなってしまいました。情景描写がど下手な私としましては、どうしても、セリフに逃げてしまいがちです。これで自分の思っている事って伝わるんですかねぇ?
大したアクシデントも思い付かないので、無事に家に帰してやれそうです。と言ってもやっと日程半ば、書く方も苦労しますね。
では、また次回お会い出来ます様に……。
跡見さん、本当にありがとうございました!!
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