朝、目覚めた時には、アスカの姿はなかった。夢だったのかな?でも布団に微かに残るアスカの匂い、それが昨晩の事が現実だった事を教えてくれる。恐らくアスカは身支度の為に戻ったのだろう。
さて……、僕も帰り支度を始める事にしよう。
……何か音がする、ミサトさんの部屋からの様だ。壁に耳を当ててよく聞いてみると、どうやらイビキの様だ。ミサトさん、戻って来てたんだね。
「シーンジ!おっはよー!」
「あ、お早うアスカ。」
「朝風呂にでも入って来たら?気持ち良いよ。」
「僕はいいよ。」
「何で?」
「朝食の用意しておかないと……。」
「はあ?……あのねぇ、そう言う事は宿の人がやってくれるんだから、アンタが手伝う必要はないの。」
「うん、でも……なんかしてないと落ち着かなくて……。」
「デモもストライキもないの!家事がしたけりゃ家に戻ってからにしなさいよ。休める時に休んどかないとダメでしょうが。」
「うん、そうだね……。」
「そうそう、自分から進んで損する事無いの。さあ、さっさと行った行った!」
いそいそと出て行くシンジを見ながら、思わずアタシは溜息をついてしまった。なんでアイツは自分からイバラの道へ進もうとするのかねぇ……。でも……
「今度からはアタシも一緒だからね……もっと苦労するわよ……。」
「困ったわねぇ……。」
「んがー。」
「まいったなあ……。」
「んごー。」
「何とかしなさいよぉ。」
「んな事言ったって、起きてくれないんだからぁ……。」
「加持ぃもっと飲めぇ!ムニャムニャ……」
ミサトさんが何時戻って来たのかは判らない、でも、ブラックホールよりも深い深度で眠りをむさぼっているのは、目の前で展開されている紛れもない事実。
先ずは、僕がオーソドックスに声掛け、揺さぶり、布団捲りをやってみたけど効果無し。次はアスカがくすぐり、電気アンマ、ボディプレス等のプロレス技を仕掛けたものの、決定的なダメージ……もとい、有効打とはならなかった。
「(ゼエゼエ)……ったく、なんて鈍感!シンジ並だわ。」
「……僕って、こんなに鈍感なの?……。」
「こうなったらシンジ!ユニゾンで攻撃よ!絶対仕留めて見せるわ!」
「やっつけてどうするんだよ。起こさなきゃいけないだけだろ。」
「!……そう言えば、何で起こすのに躍起にならなきゃいけないのよ。別に今日帰れなくなって困るのはミサト一人だけじゃないの、バッカみたい!。」
「よっ!お早うさん!」
「!……加持さあん……ふえええん……。」
「お、おい、どうしたって言うんだよ。」
「……なるほどね、そう言う事か。」
「加持さあん、どうしたら良いのぉ……。」
アスカは加持さんに猫かぶり状態で甘えている。なんかこの光景を見るのは凄く久し振りだな。なんだかんだ言っても加持さんはアスカにとっては憧れの人、この接し方は直らないだろうね、僕には辛いけど……?……あれ?……何でこんな気持ちに?……この気持ちって何だろう?……。
「ほら、アスカ、シンジ君が焼きもち焼くぞ。」
「あ……。」
「僕は……別に構いませんよ……。」
「……そうか。」
「ところで加持さん、どうしてここに?」
「おっとそうだった、葛城に『明日、朝飯食べに来い』って言われて来たんだが、まだ寝てるとはな……
しょうがないな、先に食べ始めよう。折角の食事が冷めてしまうぞ。」
「ふぇ!?……もう御飯なのぉ?……。」
「「み、ミサトさぁん……」」
「すっかり冷めちゃったね。」
「ホントにもうミサトったらぁ……。」
「あらぁ、冷めても美味しくなきゃ本物の料理じゃないのよぉ。」
「「むー!!」」
「まあまあお二人さん、そうカリカリしなさんなって。」
「「でもぉ……。」」
「ところで葛城、俺から言って良いか。」
「あ……そうね、お願いするわ。」
「「何ですか?」」
「……実はな、俺と葛城は出張扱いでこのまま箱根に残る事になった、約1週間の予定でね。」
「「え!?……」」
「俺達は外輪山の中で滞在する事になる、君達はまだ中に入る資格を持ち合わせていないから、済まないが一足先に帰って欲しいんだ。」
「そんな……。」
「いくらなんでも急じゃない……。」
「昔からNERVはこういう事が好きだからね……、この事も、昨日の打ち合わせで決まった事だ。」
「真面目に仕事してたんですね……。」
「な〜んだ、二人で再会でも祝ってたのかなーって思ってたのに。」
「まあ、終わってからチョッチだけ付き合って貰ったけどねー。」
「三時間程な……。お蔭で久しぶりに午前様が出来たよ。」
「ほほー、じゃあリクエストにお答えしてもう一度三途の川を見て来ますかぁ?」
「お、おい葛城、誰もそんな事言って無いぞ……。」
「あれ?この前、山の中を見せて貰ったけど……?もしかして御法度だったって事なの?」
「ん?……。恐らく、通り過ぎるだけだから許可が降りたんだろうさ。」
「ふ〜ん。」
「あの……ところで、僕達どうやって帰ったら……。」
「鉄道、しか無いなぁ……。」
「え……。なんか……不安だなぁ……。」
「大丈夫、今から出たら日が沈むまでに帰れるさ。」
「意外に速いんだ……。」
「でも、あんな大量の荷物は持てませんよ。」
「悪うござんしたねぇ!」
「……。(そう思うなら今度から少なくして欲しいね)」
「まあまあ……。とにかく必要最小限だけ纏めれば良いわ。残りはこっちで送ってあげるから。」
「さ、そうと決まったら早く準備しよう。俺達もなるたけ速く現地入りしないといけないからな。」
「「は〜い……。」」
……バタン
「……葛城、本当にやるのか?俺はあのままで充分だと思うがな……。」
「あの子達、このままだと絶対進展しないのよね……。だから、後もう一押ししてあげるのよ。」
「余計なお世話だと思うんだがねぇ……どうなっても知らんぞ……。(あの子達も大変だねぇ)」
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ミサトに駅まで送って貰い、旅費を受け取った。往復分の運賃+食費を2人分、別々に渡してくれた。
「万が一の為」
と言う事らしいけど、喧嘩しようが別行動を取るつもりはないから、余計なお世話、と言っておくわ。
「ねえシンジ。」
「え?何アスカ?」
「アンタ何で制服なんか着てるのよ。情けないわねぇ。」
「何言ってるんだよ。昨日アスカが川に突き落として台無しにしたからじゃないかぁ!あれ1着しか持って来てなかったんだからぁ!」
そうか、それで川に入るのを嫌がってた訳ね。悪い事しちゃった、謝りたいんだけど……
「そんなの、一着しか用意して無いアンタが悪いのよ。」
「アスカが不用意に荷物を造り過ぎるからじゃないか。」
素直じゃないのよね……。
「ま、いいわ。ところで、リーダーはアタシで良いわね?」
「え!?二人しか居ないのにリーダーって言うのは……」
「もうっ、つべこべ言わないの!で、どうやって帰るの?」
「え?」
「どういう行程で帰るのかって聞いてんのよ。」
「あ、うん。……取り敢えず甲府の方に出るよ。それから小諸をまわるか第二新東京をまわるかはそこで決めよう。」
「そ、分かったわ。アタシ、こういう事はよく解んないから、頼りにしてるわよ。」
「あ……うん!」
『頼りにしてる』か……。意外にアスカの役に立てる事もあるんだな、僕は。でもおかしいな、今までのアスカなら、こういう時は仕切りたがる筈なのにな、わざと僕を立ててくれているんなら、嬉しくないな。
「シンジ、どこの電車に乗るの?」
「えーと、2番線だね。」
「りょーかい。さ、行くわよ!」
「え!?ちょ、ちょっと……。」
いきなりアスカは僕の手をグイグイ引っ張って歩き出した。やっぱり仕切りたいんだね。でも、助言を求めるなんて事は無かったよな、……変わったんだね、アスカは。
「な!?何よこれぇ!」
電車に乗り込んだアタシ達は子供達の群れにびっくりした。小学校低学年位の集団、遠足かしらね。せっかくシンジと座りたかったから急いだのに、これじゃあどうしようも無いじゃない。
その内、その中の一人がアタシを指差して……
「あ!外人だぁ」
「わあ、目が青いや……。」
子供は正直ね、見た目だけですぐに興味を持ってくる。偏見じゃないのが救いかな。
でも、やっぱり見た目だけで騒がれるのは嬉しい事じゃないわ。つい嫌な事を思い出してしまう。
『アイツだよ、跳び級で入学した奴は』
『けっ、澄ました顔しやがってよぉ……』
『アイツには凡人の苦労なんて解りゃしないよ……』
あの頃は見た目で関心を惹くのに必死になっていた様に思う、本当のアタシを見て欲しい、そう思っていた筈なのに。
『一人で生きて行く』その決心が悪い方向に動いていたのかもね。誰の力も借りないで生きて行くなんて出来っこないのに、そうして見せるって意気込んでいた。
そんな事をしなくても、他人の力を借りたとしても、ちゃんと自分の足で立って、自分の意思で考えて、自分で行動出来る。アタシが日本に来てから学んだ教訓の一つね、反面教師ばかりだった様な気もするけど。
何か複雑な気分になっちゃった。でも、子供達の手前、それを顕にする訳にも行かないから、愛想笑いを振りまいてなんとか取り繕っていたけど、シンジには判ってしまったのかな。
「アスカ、気にする事無いよ。」
「うん、どうって事無いわ、この位。」
「……そう……。」
「お姉ちゃん達……恋人?」
「「……え?」」
随分と感が鋭い子が居るものね、こう言うのを『マセガキ』って言うんだっけ?この一言でたちまち話題が変わってしまった。
「そういや、いい感じだよね。」
「ねえ、どうなの?」
「どうなの、って言われてもねぇ……。」
「あ、アタシに振らないでよぉ。」
「わあ、日本語上手ぅー。」
「あったり前よぉ、アタシのママは日本人なんだからぁ。」
「それって、ハーフって言う奴?」
「ん、まあ、そう言う事ね。」
「へー、凄いなあ。」
こういう会話も悪く無いか……。シンジは横で微笑みながら見てくれている。顔が心持ち引き攣っている様だけど……。
「ちょっと、アンタも参加しなさいよ。」
「え!?いきなり言われてもさぁ……。」
「そこを何とかするのが男ってもんでしょうが!」
「わあー、尻に敷かれてるぅ。」
「そ、そんなぁ……。」
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終点の駅で子供達と別れて、急行電車に乗り換える。ここまでは一昨日と同じだ。
座席に向かい合わせに座る。何故かアスカは御機嫌な様だ。
「アスカ、嬉しそうだね。何かあったの?」
「へっへー。やっぱり判るぅ?」
「何となくだけどね。」
「一昨日、シンジを追い掛けて、同じ様に電車に乗ったでしょ?その時に、こうやって一緒に乗れたらなあって思ってたのよ。まさかこんなに早く実現するなんてね……。あ、海だわ。」
「ここ、一昨日と同じ線路だよ。気が付か無かったの?」
「うん……シンジを観察するのに夢中だったから……。」
「そう。……あのさ……アスカ、覚えてるかな?この沖合いだったよね、僕達が初めて会ったのは……。」
「まだ1年前だもの、覚えてるわよ。でも遠い昔の様な感じだなあ……そういえば今とおんなじ格好してたわよね、アタシ達。」
今アスカが着ているのは黄色のワンピース、僕が着ているのは制服、本当にあの頃に戻った様だ。
「あはは、そうだったね。」
「アタシ、あの時は結構アンタに期待してたのよ、戦歴とか聞いてたからね。ところが会ってみたらこの顔でしょ、『ホントにこんな冴えない奴がパイロットなの?』って思って幻滅しちゃった。人は見かけじゃないのにね。」
「でもやっぱり、最初は見た目で判断しちゃうよ。僕の場合は……目の前に突然仁王立ちで現われて、平手打ち喰らって……あの時居合わせたみんなの中で、アスカを知っていたのはミサトさんだけだったからね。何にも知らない僕は、アスカの事を『自分勝手で我が儘、付き合いたく無い苦手なタイプ』って思ったよ。」
「お互い第一印象は最悪だった訳ね。」
「それが1年経ってみると、こうしている訳だろ。”人生、一寸先は闇”ってよく言ったもんだね。でも正直、『苦手』って言う所は変わってないんだ。」
「悪かったわねぇ……。」
「別にそう言う意味で言ったんじゃ……」
「フフフッ……解ってるって……。」
そこで会話が途切れた。僕は壁に凭れ掛かって、アスカは窓枠で頬杖を突いて、ただぼんやりと海を眺めている。たぶん、各々であの頃に思いを巡らせていたんだと思う。
僕は、何故かその沈黙を破りたくなった、アスカと話がしたかったんだと思う。僕はふと、思い浮かんだ事を口にした。
「あの……アスカ?」
「なによ。」
「あの……それでさ……あの時はありがとう。弐号機に乗せてくれなかったら、僕は船ごと使徒に沈められていた訳だから……。」
「あん?……そうだったわねぇ……。どうしてあの時アンタを乗せたんだろうねぇ、最前線でアタシの才能を見せつけてやろうと思って乗せてしまったけど、別に乗せなくてもアタシの活躍振りは見せられたのよねぇ……思えば、あれが全ての始まりだったのかな……。」
「始まりって?」
「そうよ、あの時にアタシの人生、大きく変わっちゃったのよ。もし、アンタを乗せないでいたら、エースパイロットとしてバラ色の人生を謳歌出来たと思うわ、負ける事も無かったろうし、傷付く事も無かったろうし。」
「そんな……」
アスカにこんな事を言われるとは考えもしなかった。本当は僕なんかどうでも良かったのか!?
「嘘だろ……」
そう続けたかったけど、あまりに突然の事だったからショックで口が動かない。
そんな僕に気付いたのか、アスカは視線を外から僕に移して言葉を続ける。
「でもね、結局最後は同じ様になっていたと思うわ、恐らく今よりも酷い事になっていたかもね。
使徒を全部倒した後はエヴァ共々アタシは用済、エヴァにしか生き甲斐を見いだせていないアタシは誰からも見放されたと思い込んで……早いか遅いかだけで、結局は壊れていたと思うわ。そして、他人を拒絶し続けていたアタシを助ける事が出来る人は誰も居ない。……死んでたわね、確実に……。」
「!……」
「だから、あの時シンジと一緒に弐号機に乗って正解だったと思っているわ。あれから苦しみの連続で全然良い事は無かったけどね……。」
「アスカ……。」
「あの時、弐号機の中で、一瞬だったけど心を一つに重ねた。それがアタシを変えるきっかけになったのよ。お蔭で『人間失格』から、ただの『ヤナ女』にランクアップ出来たのよね。ちょっと不満だけどシンジには感謝してるわ。」
「『ヤナ女』だなんてそんな……。僕には勿体無い程『眩しい良い女の子』だよ。嘘じゃない、本当だよ。」
「うふふふっ……。アリガト。」
アスカはにっこり笑ってくれた。
「最後にもう一つ、あの時に輸送船から死人は一人も出てないわよ。忘れっぽいわねぇ。」
「あ……そうだったかな……。聞いてないから知らないや……。」
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一昨日急行電車を降りたのと同じ駅で、今度は別の線路に乗り換えた。今度乗った電車も、嬉しい事に、向かい合わせの座席だった。
「何時見ても綺麗な山ね……。」
「富士山は日本一の山、って言うからね。僕はあの山が好きだよ。」
「向こうじゃあ日本の象徴だって聞いたけど……。たしかに誇れる姿よね。」
「お前さん達は富士山の名前の由来を知っておるかね。」
ふと後ろの方から声がした。振り返ってみると、そこには一昨日、電車でシンジと話をしていたお婆ちゃんが立っていた。
「ここに座って良いかな。」
「あ、どうぞどうぞ。」
「どっこいしょっと。ほう、今日は可愛いお連れさんが居る様じゃな。」
「あ、どうも、初めまして……。」
「さてと、えーと、お名前はなんじゃったかな?」
「あっと、僕はシンジ、彼女はアスカって言います。」
「おおそうかい、シンジ君にアスカちゃんね、どうも忘れっぽくてのぉ……。おお、富士山の話じゃったな、お前さん達は『竹取物語』と言う昔話を知っておるかね。」
「名前だけはあるんですけど、詳しくは……」
「アタシは外国から来たから……」
「おおそうかい。それじゃあ、今話してあげようかの。むかしむかし、ある所に『竹取りの翁』と言う……」
昔、お爺さんが竹の中から女の子を見つけた。その子は「かぐや姫」と名付けられ、貴族や時の権力者がお嫁さんにしようとした程、美しく成長した。しかし、姫は月から来た人間で、ある満月の夜に、迎えに来た使者達と共に月へと帰って行った。育ててくれたお礼にと不老長寿の薬を残して。しかし、残された老夫婦は姫が居ないのに長生きしても仕方が無いと、その薬を姫に返す為に一番高い山の頂上で燃やしたそうだ。そこから、「不死の薬を燃やした山」が変化して「不死の山」、そして「富士山」になったそうだ。
シンジは一昨日の電車の中と同じ様な表情で、やはり仕切りに頷いている。こうして見ていると、お婆ちゃんに教えを乞うている様な感じがする。
アタシは思い出せない程の昔の頃に思いを馳せていた。こうやってママに昔話なんか聞かせて貰っていたんだろうな……。シンジはどうだったのかな……。
「おっと、もう降りなくちゃね。シンジ君、アスカちゃんを大切にな。とても良い娘だよ、この娘は。」
「あ……はい……」
「少々じゃじゃ馬かも知れんがの。」
「あ……はあ……」
「むむむむっ!」
鋭い、鋭すぎるわ……
「ほっほっほっ……、それじゃ、元気でな。」
「お婆ちゃんこそお元気で。」
「また会いましょ!」
「はいはい、またな。」
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「ねえシンジ、一昨日はあのお婆ちゃんと何の話をしていたの?」
「う〜ん……。人生相談?かな?……。」
甲府と言う駅に着いたところで、昼食を取る事にした。駅ビルの食堂街でも良かったんだけど、さっきのお婆ちゃんの雰囲気が離れなかったのかしらね、駅前の小さな食堂で定食を頼んじゃった。当たり前だけど和風の食事、箸が上手に使えなくて悪戦苦闘する羽目に。シンジが不安そうに見ているので、気を紛らわせてあげようと、さっきの事を話題に持って来た訳ね。
「ふ〜ん、相談ねぇ。」
「僕は行き先が富士山麓だって事以外は殆ど話をしてないんだけど、あのお婆ちゃん、話を全部何処かで聞いていたみたいに僕に話してくれたんだ。」
「なんて言ったの?お婆ちゃん」
「『何を迷っているのかは知らないけれど、昔に気を取られ過ぎて今の自分を忘れちゃいけないよ。自分の足下をしっかり見て歩きなさいよ。自分に手を差し出している人、自分の手を求めている人、自分と手を取り合っている人、自分の周りにいる人をしっかり見なさいよ。でも、だからと言って、周りに流れてもいけないよ。自分を見失っちゃいけないよ。』ってね。」
「ふ〜ん……。」
これが『以心伝心』の力かしら。何も聞いて無い筈なのに、殆ど当てはまっているアドバイスだと思うわ。経験量の差ね……。
「はい、アスカ。」
「え?何これ。」
「身をほぐしてあげたから、こっちを食べると良いよ。大丈夫、口はつけて無いから。」
突然シンジは焼き魚の皿をアタシのと交換してくれた。シンジは喋っている間にもこういう事をしていた、ホントおせっかい焼きね。将来苦労するわよ、ホント。
「いいわよ、アタシの食べさしだし、第一恥ずかしいじゃないのよ。」
「『気にしたら負け』だろ?あんまり長居も出来ないしさ。だから、ね?」
「じゃあ……貰ってあげる……わよ。」
「うん、ありがとう。」
……それはこっちのセリフよ……バカ……
食事を何とか済ませた後、再び駅に戻った。
「さあアスカ、どうしようか?」
「どうって?」
「ここからだと、第二新東京行きの電車が直通で出てるよ。小諸に出ようと思ったら途中で乗り換えだね。」
「アタシは、乗り換えが少ない方が良いな。」
「じゃあ、このまま第二新東京行きに乗ろう。それだと一回で済むよ。」
「じゃ、決まりねっ。」
第二新東京行きのホームは、人でごった返していた。こんなに乗るの!?入って来た電車も既に人が一杯。何でこんなに居るのよぉ。
とにかく、行くと決めた以上は乗らなきゃ仕方が無い、何とかドアの付近に場所を確保出来た。
「さすがは首都行きね。こんなに居るなんてね……シンジ?」
アタシはシンジの様子が変なのに気付いた。シンジは両手をドアに突いて、踏ん張っているのか時々顔をしかめている。そう言えばアタシの周りには隙間が出きている。シンジはアタシを護ってくれているんだ……。そこまでしなくても良いのに……。
「シンジ、そんなに頑張ってくれなくても良いよ。アタシは平気よ。」
「いや、良いんだ。僕が好きでやってる事だから……。」
「アタシは全っ然良く無いわよ。目の前でしかめっ面されて、良い気分でいられる訳無いでしょ。それに……」
シンジにそっと寄り添って、耳元で囁く。
「アタシ……アンタとだったら……密着したって……平気だよ……」
「そんな急に……僕は……困るよ……」
シンジは顔を真っ赤にして、呻く様に言う。
せっかく気を使ってあげたのに、かえって逆効果だったか……とにかくこのままだとシンジが持たないわ。
「ん〜……仕方ないわね、経路変更よ。何処で乗り換えるの?」
「後……4つ目位、小淵沢って駅だよ。」
「りょーかい……無理しないでよ、まだ先は長いんでしょ?」
この先、二人で家に帰り着くまでには、本当に長い道のりとなったわ……。
<後書き>
みなさま、こん**は。跡見です。
アスカ様の言う通り、本当に先は長いです。ちょっと引っ掻き回してやろうかと思ったのが運の尽き、本当に終わらせる事が出来るのか?>この連作
それでは、また次回お会い出来ます様に……。
跡見さん、本当にありがとうございました!!
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