「ん……。」

僕が目覚めた時、目の前には知らない天井が在った。

「あれ?ここは?……」

でも、この雰囲気は以前にも何度か感じた憶えが有る。と言う事は……。
周りを確かめる為に起き上がろうとした時に、体の異常に気付いた。思う様に動かない、まるで痺れ薬でも飲まされた様だ。やっとの事で起き上がり、辺りを見回すと、思った通りそこが病室である事が確認出来た。

「またか……。」

僕はそのまま後ろへパタリと倒れ込んだ。
突然目が覚めたら病院のベッドの上だった、と言うシチュエーションは何度も経験済みだから特に驚くことはなかった。
しかし、僕の頭の中では色々な疑問が駆け巡る。何故病院にいるのか?何故寝かされているのか?それに、アスカは何処に行ったんだ?
兎にも角にも記憶を辿れば何か解る筈だよな、なんだ簡単じゃないか。今までの経験からして、周りは危険な状況ではない様だから、考え込んでも大丈夫だろう……。


Tomi's EVA vol.10

箱根温泉・・・その後(前編)


……肩を寄せあってからどの位時間が経ったのだろうか、目が覚めた僕は、ふと、電車が駅に停まったままなのに気付いた。直にアスカも異変に気付いた様で、目を覚ました。

「何か有ったの?」
「……おかしいんだ、とっくに長野に着いていなければならない時間なのに、途中で停まってるんだ。」
「確かに変ね。ちょっと車掌に聞いて来るわ。」

そう言ってアスカは席を立った。程なくして、アスカは後ろの方から顔を赤くしながらドカドカと戻って来た。

「あ、アスカ、どうだったの?」

アスカは何も答えずに、そのまま僕の横を通り過ぎて前の方へと歩いて行った。誰も居なかったから怒ってるんだろうな、そう思う。
また暫くして、アスカが走って戻って来た、今度は顔面蒼白だ。

「誰も居ないわ!客も乗務員も!絶対おかしいわ!」
「本当!?」
「間違いないわ!アタシがこの目で確かめて来たんだから。何の放送も無しに乗務員が居なくなるのはおかしいわ……。」
「僕たちが眠ってる間にあったのかも知れないよ。駅舎の方に行ってみよう、行けば何か判るかも知れないよ。」

電車を降りて駅舎に向かった。駅務室には灯りが点っている、有人駅の様だ。しかし……

「……もぬけの殻ね……。」
「アスカはどう思う?突然誰も居なくなった、てことは……。」
「……このままここに留まると危険、と考えるべきね。」
「そうだね……。とにかくここを離れないと不味いよね。」
「それはリーダーたるアタシが決める事よ。」
「……そ、そうだったね……。(まだ拘ってんの!?……ハア……)」
「さ、行くわよ。」

僕達は、線路伝いに長野を目指して歩き出した。明かりが殆どない夜中、駅から無断借用した懐中電灯1本だけが頼りだ。
砂利で覆われた線路道は足元が不安定な上に、途中には幅の狭い川を跨ぐ鉄橋など、歩くのに注意を要する所が多い。僕達は一歩一歩確実に歩みを進めて行く。

「うおっと!」
「しーっ!」
「う、うん……。」

側に並行する形で道路が走っている様だ。しかし、ヘッドライトを消した車が時折走って来る。その度に懐中電灯を消して息を潜めなければならない。道路を歩くのは危険行為である事を認識させられる。普通の人ならば「何だろう?」で済む事だろうが、僕達には警戒すべき状況なのだ。もう僕達は一般人ではないのだから。
途中、駅に差し掛かった。ホームの灯りは消えていたが、何故か人が立っている。微かに無線機の雑音が聞こえる。

「ちょっとぉ……ゲロマズじゃないのよ……。」
「奴ら、何処の連中だろう……。軍?戦自?テロリスト?それともNERV?」
「今のNERVの保安部隊って、敷地の自衛目的にいるんでしょ?こんな所にいる筈無いわ。ま、どっちみち見つかるとヤバいのは間違いないわね。」
「どうやって突破しようか?……」

その時、後方からヘッドライトが迫って来た。慌てて見つからない様に隠れる。
ヘッドライトの正体は、ついさっきまで乗っていた電車だった。ついていたのはヘッドライトのみで、車内の灯りは消えていた。ホームの人と電車から降りて来た人が何か会話を始めた。

「あれは乗務員じゃないな。なんて言ってるんだろう?」
「……これはチャンスよ。シンジ、電車の陰に隠れて進むわよ。」

反対側のホームに人の気配は無い。僕達は電車の発する騒音に紛れて足音を消しながら、一気に駅を通り抜けた。

「アスカ、これからどうする?」
「どうするって、家に帰るんじゃないの?」
「さっき通った駅の駅名を見て判ったんだけど。もうすぐ千曲川の鉄橋に差し掛かる筈なんだ。大きな川だから、勿論人が通れる様にはなってる筈だけど。さっきの駅の様子から考えると……。」
「渡るのは危険、と言いたいのね。」
「そうだよ。挟み撃ちにでも遭ったら大変だと思うから。」
「じゃあ、どうすんのよ。」
「このまま川を下って行けば、確か松代に行ける筈なんだ。」
「ほう!なるほど……」
「それで良い?」
「それに決定!さっさと行くわよ!」

僕達は姿勢を出来るだけ低くして、堤防の中腹辺りを歩き始めた。上の道を歩けば「どうぞ見つけて下さい」と言っている様なものだから、多少の歩き辛さは我慢しなければならない。
幸いと言うべきか不幸にもと言うべきか、この頃には、空に満月が高く上がっていた。懐中電灯無しで歩けるのは助かるんだけど、相手が暗視スコープでも使っていたらもうお手上げと言う事になる。案の定、堤防道にも無灯火のジープが走って来る、シルエットには自動小銃らしき物を携えた人物の影、近くで停車して双眼鏡みたいなものを使って辺りを見回しているのが判る。

「あれを何とかして手に入れたいわね……。」
「暗視スコープかい?どうやって?」
「どうやら相手は一人、力づくで取るわよ。」
「ちょ、ちょっと!」

アスカは言うが早いか、足音を忍ばせてジープに近づいて行く。

「せいっ!」
「!」

程なくしてドタバタと音が聞こえて来た。そして音が止んで暫くすると、アスカが走って戻って来た。そしてそのまま僕の手を掴むと堤防を駆け下りる。

「あ、アスカぁ!ど、どうしたのさぁ!」
「失敗しちゃった!」
「……ああ……やっぱり……。」
「だって防弾チョッキ着てたんだもん、アタシにだって限度ってモノがあるわよ!」
「相手は銃持ってるんだよ、その位の装備はしてて当たり前だと思う。」
「うっさい!」

町中に入った。もう深夜、人影などある筈はない。人混みに隠れる事は出来ないが、人影は全て敵だと見なし易くもある。とにかく全速力で走り続ける。
まっすぐ松代を目指していたつもりだけど、人影を見つける度に進路変更を余儀無くされ、殆ど進めていなかったと思う、そしてとうとう山の中に逃げ込まざる逐えなくなった。

「……どっちに進んだら良いのかな?……」
「無茶苦茶に走ったから……判んないよ……。」
「下手に動くとヤバいわねぇ……。」
「追手の動きが判らないから、どうしようもないな……。」
「先ずはアタシ達の位置確認をしましょ。どっか見晴しの良い所はないのかしら?」
「そんなところに出たら危ないんじゃないのかい?」
「そんな事は百も承知よ。でも、このままじゃこっちも無駄なエネルギーを使うわ。少しでも良いから景色が見渡せるところに出られれば良いのよ。」

少し斜面を下ってみると、コンクリートで固められた擁璧の頂上に出た。
姿勢を屈めて景色を見渡す。目の前には民家が散在する田園、その向こうには満月の光を受けキラキラ輝く千曲川の流れ。

「……綺麗……。」
「そうだね……。」

アスカがうっとりとした声で呟く。僕もその眺めに見とれていた、追われていると言う事を忘れてしまった位だ。

「……おっといけない、忘れる所だった。え〜と、このまま右手に進めば良いんだね。」
「ん?……あ、そうね。行きましょか。」

そう言ってアスカが立ち上がった時、僕の視界の片隅で何かが光った。

「アスカっ!」
「え……。」

バスッ!

咄嗟に僕がアスカを押し倒すと同時に、アスカの後ろに立っていた木の幹に穴が開いた。

ドサッ……

「ちょ、ちょっとぉ!いきなり何すんのよぉ!」
「ご、ゴメン!……怪我無いかい?」
「無いけど……一体何のつもりよ……さては月の光に惑わされたかぁ?」
「そんなんじゃないよ。」

アスカから離れた僕は、黙ってさっきの木の穴を指差した。

「あ……。」
「不用意に立ち上がっちゃいけないだろ?」
「あ、アタシとした事が……狙撃に気付かないなんてぇ……。」
「今は嘆いてる場合じゃないよアスカ、早くここを離れよう。」
「そ、そうね……。」

再び歩き始めてからどの位経ったかな?僕はだんだん気分が変になって来て、堪らず傍らの木に凭れ掛かってしまった。

「シンジ?どうしたのよ、いきなりフラフラしだしてさ、疲れたの?」
「そんなつもりは無いんだけど……そうかも知れない。」
「もうだらしないわねぇ!しゃきっとしなさいよ!しゃきっと!」
「……うん。」

再び歩き出そうとした途端、足が縺れて転んでしまった。

「ったくぅ……ほら、さっさと……!、ちょっとシンジ!怪我してるじゃない!」
「え?……そうなの……気が付かなかったな……ハハハ……。」
「笑ってる場合じゃないでしょうが!」

アスカに助け起こされて、木の根元に落ち着いた。

「アスカ、怪我っていうのはどの辺り?」
「え!?……左上腕よ……痛くないの?」
「うん全然。かすり傷じゃないの?」
「見た目だとかすり傷と言えるわね。でも、意外に深そうよ、出血が酷いわ、まるで血管でも切ったみたいにね……。とにかく手当てしなきゃ。」
「お願いするよ。でも、そんな怪我、何時したんだろう……さっきの、避け損なったのかな?……」
「ちょっとアンタ!手先まで真っ赤になってるじゃない。何で気付かないのよ、この鈍感!」
「ホントに何にも感じないんだけどな……。」

そんなに焦らなきゃいけない程の怪我なのか?そう思って僕は左手を見た。血で真っ赤になっているのが判る、これじゃ確かに酷いと言えるだろうな。
そして、視線を移した先のアスカの顔には幾筋もの汗が流れているのが見て取れた。相当焦っている様だ。

「くっ!何で止まってくれないのよ!何で!!」

アスカは止血しようとギリギリ腕を縛り上げているが、ハンカチが真っ赤に染まるのにそう時間は掛からなかった。

「それって、手に負えないって事だよね……。」
「アンタは黙ってなさい!」

もう僕は動けそうにない。このままでは追手に見つかるのは時間の問題だ。早くアスカだけでもここから立ち去らせないと……。

「ねえアスカ……僕の事は良いから……早く本部に行って……」
「何言い出すのよ!アンタなんか放っといて行けると思ってんの!これさえ止まったら……。」
「……無理だと思うよ……それより本部から……人を呼んで来た方が……。」
「Nein!イヤよ!絶対二人で行くんだから!」
……

ハッキリ思い出せるのはこの辺りまでの様だ。
僕はアスカに先に行く様に説得している間に気を失った様だな。出血多量に因る失神、ってとこか……相変わらずバカやってるな、しかも早速誓いを破ってしまった様だし……どのツラ下げてアスカに会えば良いのかな……参ったなあ……。

「あら!シンジ君、目が覚めたのね!」
「あ……え〜っと……伊吹さん?……ここは何処なんですか?どうして伊吹さんが?……」
「ここはNERV本部内の病院よ。で、私は赤木副所長に言われて様子を見に来たところ。ここに運ばれてから3日間眠ってた事になるんだけど、気分はどう?シンジ君。」
「なんて言うか……全身が痺れてるって言うか……だるいって言うか……ぼーっとしててよく判んないんです……そうですか、3日経ったんですか……。」
「そう、3日よ。……あ、早くアスカちゃんに知らせてあげないとね。あの娘喜ぶわよ。」
「アスカは無事なんですか?僕、何がどうなったのか良く解らなくて……。」
「ええ、無事よ。あと、詳しくは副所長の方から説明が有ると思うわ。それじゃ、早くみんなに知らせないとね。」

伊吹さんが出て行ってから、再び記憶を辿り出す。……え〜っと……あれからどうしたんだっけなあ……。

****************************************

「アタシ……何したの?……何が出来たの……?」

誰も居ない家、アタシしか居ない部屋、何もしないアタシ。
……いや、何も出来なかっただけ、シンジに何もしてあげる事が出来なかった。そう、ただアイツを困らせただけ……なのにアイツ……笑っていた……。自分が死ぬかも知れないって時に……笑いかけてくれた……。でも、アタシは何も出来なかった……。
アタシの所為でシンジが苦しんでいるのに、アタシだけがのうのうとしている訳にはいかない。だから、自分で軟禁生活という刑罰を科した。最低限度の用を足す時以外はただひたすら部屋に閉じこもって祈り続けた。食事も最低限度にしたし(もっとも、食べる気がしなかっただけだけど)、お風呂に入る事を断つという”願掛け”もした。
本当なら、ずっとシンジの側で励ましてあげたかった。でも、危険な状態だから、と言う理由で顔を見る事すら叶わなかった。しかも、アタシ達のNERV内での身分は最も下の扱いとなっていたから、本部施設に自由に立ち入る事も出来なかった。
余りに無力な自分を呪わずにはいられなかった。だから、アタシはここで知らせが届くのを待っている。今に良い知らせが届く……大丈夫よ、絶対に……。それだけを信じる事でアタシはアタシ自身を支えて来た。性に合わないけど、ただひたすら待ち続ける。だって、それが今のアタシに出来るたった一つの事だから……。
そう、信じてる……アイツの……シンジの事を……。

そして今し方、電話で知らせが届いた。嬉しさの余りベッドの上で跳ね回ってしまったわ。
でも、はたと考え込んでしまった。一体どういう顔をして会えば良いの?シンジはアタシの所為で傷ついた、だからといって辛気くさい顔は出来ない、逆にシンジを自己嫌悪に追い込むだけだと思うから。でも、はしゃぐ事も出来そうにないし、素っ気無く接したら悲しませるだろうし……あ゛〜どうしたら良いのよぉ〜!

人前に出られる様に手早く身支度を整えたアタシは、伊吹さんに連れられてNERV本部に向かった。
シンジの居る病室の前でしばし佇む。この向こうにシンジが……どんな顔をしようか……会ってみたら何とかなるか……。意を決して扉を開けた。
ベッドと椅子以外は何にも無い部屋。シンジはベッドの上で起き上がっていて、窓の外を眺めていた。そして、アタシに気付いたのかこっちにゆっくりと振り向いた。

「あ!……アスカ……」

驚きの色が混じっていながらも、落ち着いたシンジの声。笑みを含んだ表情でアタシを見ている。
……ダメだわ、やっぱり涙が出て来た。

「……シンジ……ぐすっ……良かった……」
「アスカ……ゴメン……また泣かせちゃったみたいだね……。」
「何言ってんのよ……嬉しいから泣いてんじゃないのよ……やっぱり死んでないからバカは直ってないわね。」
「そうだね。でも、アスカのお蔭で死なずに済んだんだしね……。」
「……アタシは何もしてないわ。傍で泣きじゃくってただけよ、情けないけどね……。」
「そう……じゃあどうしてどうして助かったのかな?……。」
「……シンジ、覚えてないの?あの時の事。」
「そうなんだ。僕が動けなくなって、アスカに先に本部に行く様に頼んだ辺りまでは覚えてるんだけど……、後はぼーっとしてたのかして、よく思いだせないんだ。」
「そう……。あの後ね、アンタと押し問答になっちゃってね、もっともアンタは譫言でしか返してなかったみたいだけど……そうこうしてる内に保安部隊に発見されたのよ。」
「そうか……あともう少しで目的地だったんだね。」
「そうよ……。」
「……取り敢えずは良かったと思うべきなんだね。」
……そっか……覚えてないんだ……。
「え?……。」
「あ、ううん、何でもないわ。あ、アタシ水替えて来るわ。」
「あ、アスカ……。」

思わず口を突いて出た呟きがシンジに聞こえてしまった。意味を悟られては不味い、そう思ったアタシは花瓶をひっ掴むと、急いで廊下に出た。

バタン

「水……さっき替えて貰ったばかりなんだけど……。」

洗面所で流れる水をぼーっと見ている。その流れに落ちて行く光の粒。

『何も覚えていない……』

その言葉だけが頭の中でぐるぐる回っている……。

……
「Nein!イヤよ!絶対二人で行くんだから!」
「僕なら大丈夫だよ……でも……早く助けを呼ばないと……分かってよ……。」
「当たってからどれだけ経ってると思ってんのよ!もう行って戻って来る時間なんて無いわよ!だからアタシが……。」

アタシはシンジの腕の下に潜り込むと、何とかして担ぎ上げようと踏ん張った。

「ふんっ!このっ!……ち……く……しょ……だっ!」

でも、自分より体重の有る人間を動かせる様な力が有る筈も無く、5歩程歩いただけで、足を滑らせて尻餅をついてしまった。

「つつつぅ……。」
「アスカ……無茶……すんなよ……」
「アタシは決めたの!シンジの行く所は何処にだって付いて行くってね!手を取り合うってそう言う事でしょ!」
「僕は……アスカの笑顔が……見たいんだ……。」
「だったら、ここで終りだとか変な考えを起こすんじゃないわよ!言ったでしょ!アンタが居ないと笑えないって!」
「アスカなら……大丈夫だよ……これからも……いろんな人に……会えるよ……僕より……もっと良い人だって……きっと……現れるよ……。」
「そんな事ない!シンジより良い人なんて……見つかりっこないわよ……絶対に……。」
「そう言って……貰えると……光栄……だね……でも……僕の為に……苦しむのは……見たく……ないな……」
「あのねぇ、苦しい事が有るからこそ、嬉しい事は何倍にでも感じられるのよ……。」

もはや譫言と化したシンジの説得を聞き流しながら、アタシは再び傷の手当てに挑戦する。
出血の勢いは酷くなってはいなかったけど、全然衰える様子も無い、何らかの毒素が作用している事が想像出来た。つまり、アタシの手には負えないと言う事。でも投げ出す訳にはいかなかった、諦めたらその時点で終わりだから。絶望との戦いに挑む、過去に一度は負けたモノ、でも今度は負ける訳にはいかない。
シンジも諦めてはいないみたいね、『何に対して』かが違うけど。

「アスカ……早く……」
「Nein!No!却下!拒否!イヤ!」
「アスカ……最近……しつこく……なったね……」
「昔からこうよ。」
「困ったなあ……頼むよ……僕を……殺す気かい……」
「アンタが何と言おうと絶対イヤ!!」
「アスカ!」
「!」

突然の大声に体がビクッと竦んだ。シンジの何処にそんな力が……。

「いいかい……『死んで花見が……咲くものか』……て言う文句が……ある……生きてさえいれば……必ず良い事……が有る……筈だよ……仮に……僕がダメ……だとしても……ちゃんと……君を見てくれ……る人が……現れる……筈……」
「……何よ……変な考え起こすんじゃないって言ったでしょ……。」
「僕は……アスカが……好きだ……」
「え……今、何て?……」
「好きな人には……何時までも……生きて欲しい……と思うだろ……そして自分……の事を何時まで……も覚えていて……欲しいと……思う……もんだろ……」
「そんな……イヤよ!アタシは絶対にイヤ!……アタシだってシンジの事……好きよ、大好きよ……
だって、シンジ以外に考えられないのよ、アタシを見てくれる人なんて。エヴァに乗って、自分を壊す程苦しんだアタシなんて、普通の人が知ったところで解って貰える訳無いし、絶対アタシから距離を置いてしまうわ。だから、シンジ……一緒に苦しんだアンタでないと本当のアタシを解ってくれる人なんて居ないのよ。
……だから……アタシの前から消えないでよ……シンジが消えたら、アタシはアタシで無くなるわ……アンタ、またアタシを壊す気なの……冗談じゃないからね……。」
「……はは……参ったね……やっぱり……アスカ……に……は……」
「ちょ、ちょっと!シンジ!もう喋らない方が良い!……もう良いでしょ……無駄な説得なんか止めてさ……頑張ってよ……。」
「へへへっ……これで……最後に……アスカ……君に……出会えて……良かった……よ……」
「アタシだって……。アンタと出会った事……人生最大の汚点にして、最大の誇りよ……。出会えて良かった……。」

アタシはそっとシンジと唇を重ねた。シンジは微かに笑ってくれた。

「アタシ達……まだまだこれからでしょ……最後なんて言わないの……ね……。」

シンジは微かに、そしてゆっくりと頷く。そうよ、頑張ろうよ……もう無駄だろうけどね……。

その時、気配に気付いて振り向いたアタシの目に幾筋かの光がこっちに向かって来るのが見えた。追手が迫って来たらしい。さっきまで暗視スコープ使ってた筈なのに、随分大胆になったわね。でも今となってはそんな事関係無いわ。これで終りか……。

「フッ……呆気なかったわね……。」

せめて何があっても離す事のない様にと、シンジを強く抱き締めて、間もなく訪れるであろう最後の瞬間を待った。

「いたぞ!こっちだ!」
「こちら103号、チルドレン2名共保護、オクレ。」
「え?……保護!?」
「私共はNERV保安部隊の者です。あなた方を保護に参りました。」

アタシは力が抜けて行くのを感じた。味方が来てくれたのだ。助かった……。

「シンジ……助けよ……。」

そして同時に、シンジの反応が無くなっている事に気付いた。

「?……シンジ?……ちょ、ちょっとシンジ!何とか言いなさいよ!寝てる場合じゃないわよ!起きなさい!起きろーっ!!」

パン!パン!

思いっきり揺さぶった。頬を思いっきり叩いた。でも、シンジは動かない。

「……起きてよぉ……。」

……ダメなの?……もう……。
……折角気持ちが確かめられたのに……もう一度、いえ、何度だってその言葉を聞きたいのに……もう聞けないの……。
再び独りになってしまった、そう自覚した途端、アタシの中で何かが弾け飛んだ。

「い……いやあああっ!!!このバカバカバカバカ!!何でアンタはそうバカなのよ!またアタシを裏切る気!側に居るって言ったでしょ!またアタシを独りにするの!?独りはイヤだって、何度言わせりゃ気が済むのよ!このバカあーっ!!……。」

ゴボゴボ……

「!」

流れる水が目の前で渦を巻く、ふと我に還ったアタシの目に映った光景。ぐるぐると回って闇の中へ落ち込んで行く様を見ていると、まるでアタシの心の内を見せてくれているみたいね。

「ホント……バカね……アタシ……。」

あの後の事は良く覚えていない、我に還った時はICUの前で座り込んでいたわ。伊吹さんや青葉さんが側で励ましてくれていたっけ。その後ミサトに頼まれたと言う日向さんに送って貰ったのよね。

……今はシンジが生きてくれている事に感謝しなきゃね、もっと前向きにならなきゃ。あの時のシンジの言葉が本心かどうかは判らないわ。あんな特殊な状況じゃ、勢いで、なんて事も有り得るから迂闊に信用は出来ないもんね。
でも、やっぱりあの時のシンジの言葉は本物だと思いたいわ、それをこれから確かめるのよ。覚えてくれていなくても良いじゃない、また初めからやり直すだけよ、これから……。
アタシは顔を軽く洗うと、頬を軽く2・3回叩いて気合いを入れた。そして鏡の中のアタシに向かって呟いた。

「アスカ……行くわよ……。」


<後編へ続く>


跡見さん、本当にありがとうございました!!

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