「……戻って来ないんですよ。」
「もう少し女心を勉強した方が良いわね、シンジ君。」
「……はあ……。」

アスカが出て行ってから暫くして、リツコさんが来てくれた。
アスカが戻って来ないのを心配していたらリツコさんにそう言われた。まるで一部始終を見ていたかの様だった……いや、見ていたと思う……
そうこうしている内にアスカが戻って来た。

「お帰り、アスカ。」
「あ、ただいま。リツコ、来てたの……。」
「あら、随分な言い方ね。こっちはずっとあなたを待ってたのよ。」
「それは……悪かったわね。」
「私、暇じゃないからさっさと始めるわよ。先ずは状況の整理からね。」

アスカが席に就くのを待たずにリツコさんは説明を始めた。


Tomi's EVA vol.11

箱根温泉・・・その後(後編)


「‥‥11:20、ミサトからあなた達の護衛についての依頼あり。21:30、しなの鉄道線不通の第一報。原因は信号関係のトラブルの可能性。同時刻、戦自の一部に不穏な動きとの一報あり、二人の捜索開始。で、翌日0:35、二人の身柄を保護。‥‥ざっとこんなものね。」
「か、簡潔すぎるわ……。」
「話は始まったばかりよ。次、補足説明に入るわね、ミサトからの依頼は私に対する個人的な物だったわ。彼女からの依頼って、ろくな事がないからあまり引き受けたくなかったんだけど、あなた達が絡んでいたからOKを出したわ。‥‥鉄道が止まった原因については現在でも不明‥‥、意図的に止められたのは確実ね。私なら簡単に止めてみせるわよ。」
「どうやってですか?」
「方法は簡単だけど、それは秘密よ、真似されたら困るしね。‥‥その後に戦自の部隊(一個中隊規模と推定)が「テロの可能性がある」と言って出動、同鉄道の上田〜篠ノ井間の施設を占拠。‥‥丁度あなた達が居た辺りね。」
「じゃあ、あの時の人影は……。」
「やっぱり兵士だったんだわ。」
「次は発見時のあなた達についてなんだけど‥‥発見時、シンジ君は失血性ショックの為意識不明の重体。アスカはそれを目の当たりにして、錯乱状態に陥っていた。その為、施設への搬送に手間取った。‥‥これだけよ。」
「……はあ……。」
「で、搬送に手間取った理由って何?」
「アスカ、あなたがシンジ君を放そうとしなかったからよ。5人掛かりでやっと引き離したって聞いてるわ。」
「あははは……。」
「それから、シンジ君に当たった銃弾についてね。シンジ君には悪いけど、いい資料になったわ。使われた弾丸は長らく開発が囁かれていながら一度も表に出て来た事の無い、対人用の新型弾だったわ。内部に10分以内に死亡させる事が出来る程の毒性の強い薬品が仕込んであって、命中したらお終いだったわね。幸いかすっただけだからあれで済んだけど、もう五分収容が遅れていたら、どうなっていた事か。痛みを感じなかった事と、出血が止まらなかった事は、その毒素の所為ね。現在、毒素は体から完全に抜けている事を確認済だから、安心してね。」
「シンジ……。」

アスカが済まなさそうに僕を見つめる。

「ゴメンね……アタシの所為で酷い目に合わせちゃった……。」
「良いんだよ、気にしないでよ。逆に嬉しいんだよ、僕にもアスカを護れるんだって、ちゃんと護る事が出来たんだって、思う事が出来たんだから。」
「ゴメンね……。」

アスカがしょげている、こんな表情のアスカは滅多に見られるもんじゃ無いし、これはまたこれで可愛くて、いつもの僕だったら惚けてしまう所だけど、僕にとってはこんな顔のアスカはアスカじゃない、今は元気になって貰わないと……。そこで、ちょっと一計を講じてみた。

「アスカ、悪いけどさ……あまりゴメンって言わないでくれる?なんか……専売特許使われてるみたいでさ……。」
「な!いきなり何言い出すのよ!折角人が感謝してやってるてぇのに、その言いぐさは何よ!もう知らないっ!(ぷいっ)」
「(クスッ……)はいはい御馳走様。とにかく、戦自があなた達を狙ったと言う事は事実だから、正式に抗議しておいたわ。返事は知らぬ存ぜぬの一点張りだったけど、秘かに関係者が処分されている事は掴んでるから。一応は一件落着ね。」

成功成功っと。あっと、一番聞きたい事まだ聞いてないや。

「あの、ところでリツコさん、何時退院出来ますか。」
「すぐにでも出来るわよ。」
「ホントですか!」
「但し、3日間は安静の事。家事労働一切厳禁よ。シンジ君がそれに耐えられる訳が無いと思うから、後2日間は入院の事とします。安静にしてなさいよ。それじゃ。」
「そ、そんなぁ……。」
「異議あり!絶対おかしいわ!昏睡状態から今日目覚めた筈の人間が直ぐに退院出来るなんて有り得ない!リツコ!シンジに何したの!」

席を立つリツコさんに向けて、突然のアスカの発言。そりゃそうだ、深く考えるまでもない。僕もアスカと共に疑問の視線を向ける。

「……い、あ、その……」

二人揃った無言の圧力に気押されたのか、一瞬リツコさんは狼狽の色を見せた。

「……ご免なさい、白状するわ。……一服盛らせてもらったの。治療は促進装置で一昼夜で済んだけど、戦自に圧力掛けたかったから少し大人しくしてもらったのよ。」
「……アンタ……まだアタシ達を道具にしようって言うの!お蔭でアタシは……どんなに……」
「アスカ!落ち着いて!……リツコさん、そこまでして戦自に圧力を掛ける理由は何ですか?」

怒りに震えるアスカを宥める為に、わざと落ち着いた声で訪ねた。

「……戦自内部にはあの事件の事を恨みに思ってる人がまだまだ多いわ。特に、エヴァパイロットだった貴方達は非難の的にされやすいわ。アスカは弐号機でまともにやり合った訳だしね。並の対策では私達でもあなた達を護り通すには限界がある。だから、戦自に自分達でそれを排除する様に仕向けるしかなかったのよ。……またこちらの勝手な都合であなた達を苦しめてしまったわね。……私は恩返しすらまともに出来ないのね……ホント嫌な女……私って……。」
「もう良いですよ、リツコさん。こうやって助けて貰ったのは事実なんですから。それに、そうなる立場になってしまっているのは僕達は承知してるんです。」
「……そこまで考えてるとは思わなかった。……だって、恩に着せる様な事、した憶え無いんだから。」
「ありがとう……あっと、アスカ、今日は滞泊を許可します。久々なんだからゆっくり話し合うと良いわ。」
「あ……はい!」

リツコさんはアスカにそう告げると、寂しそうな笑みを浮かべて出ていった。

****************************************

完全看護の病院で泊まっても良いなんて、リツコも粋な事言ってくれるじゃない。これでゆっくり話しが出来るわ……でも、何を話せば良いのかしら?二人だけになった病室を沈黙が包む。でも、雰囲気は悪くはないわ、なんて言うか……あったかいのよ。
とにかく何か言わなきゃ。アタシは口を開いた。

「……久しぶりね、シンジ……。」
「僕は……あまり実感無いなぁ……。」
「そっか、ずっと寝てたんだよね……。」
「アスカ、ちょっとやつれたんじゃない?」
「そうね、誰かさんのお蔭で思いっきりダイエット出来ちゃったわねぇ。」
「……ゴメン……折角誓ったのに……もう破ってしまうなんて……。」
「あん?誓いって?」
「『アスカがいつも笑っていられる様にする』って事さ。電車の中で言った筈だけど……。」
「誰に誓ったの?」
「『誰に』って……。」
「言えないでしょ?それはね、自分で自分に誓った事だからよ。守れなかったからっていきなり謝られても、こっちが混乱するだけよ。そう言う事は自分の心の中だけにしまっておきなさい。」
「そうだね……ゴメン。」
「もう一言言わせてもらうわ。人生なんて泣き笑いの連続よ、いつでも笑って居られるなんて出来っこないの。何時でも笑顔なんかしてたら唯のバカにしか見えないわよ。いい?怒ったり泣いたり苦しんだり、そう言う感情があるからこそ喜びが引き立つんじゃないの?初めはどんなに苦しくても、最後に笑えればそれで良いじゃない。『終り良ければ全て良し』って奴よ。」
「そうだね、僕も賛成するよ。」

どうしてシンジはこう言う話しかしてくれないのかしらね、もっと他の話もしたいな……。でも、アタシだから話してくれるんだよね。だったらもっと話してくれても良いのよ、ちゃんと聞いてあげてるからね。
でも、悪戯心が頭をもたげて来た。ちょっと茶化させて貰うわよ。アタシは、シンジの目の前に人差し指をピッと立て、ウインクをしながら喋った。

「但し、ビルの屋上とか、駅のホームの端っことか、風呂場で剃刀持ってる時なんかに笑っちゃダメよ。」
「……。はははは……」

あ、笑ってくれた……。でも、反応が遅い、このニブチンが!

「む!」
「はははは……。ゴメンゴメン、真剣に話してるのに笑っちゃって……。でも、確かにそんな時の笑いは本物じゃないと思うよ。もっと精一杯生きて、来るべき時に笑えたら良いと思うよ。でも、随分先の話しだよなぁ……。」
「そう願いたいわね。……さてと、夕食、アタシの分を買って来なくちゃ。じゃ、アタシ売店に行って来るわ。」
「分かったよ。気を付けて。」

****************************************

アスカの前に並べられた食べ物の数々……。3人前位有りそうだ。思わず心配になって声を掛けた。

「……随分買い込んだね……アスカ……。」
「まあね。明日から行動開始なんだから、今の内からエネルギー貯えとかなくちゃね。」
「行動?何の?」
「『惣流アスカ、完全復活計画』よ。体力を付ける為に運動を少し、ね。この3日間食べたのって言えば、小諸で買ったハンバーガー位なのよね。お蔭で体重だけじゃなくて体力も落としちゃったのよねぇ。」
「……ゴメン……。」
「なんでアンタが謝るのよ。アタシが勝手にやった事なんだから気にする方が間違いよ。も〜お腹ぺこぺこなんだから早く食べさせてよぉ。」
「ゴメン、邪魔して悪かったよ。」
「さぁ!ガンガン食べるわよぉ!」
「あ……。」

そう言うが早いか、早速食べ始めるアスカ。まるでミサトさんの様な食べっぷりだ、その鬼気迫る光景に、僕は言いかけた言葉を飲み込んだ。
『だんだんミサトさんに似て来たね……アスカ……』

「う〜っ……く、苦しいよぉ〜。」
「3日間まともに食べてないんだろ、そんなに一気に食べるからだよ。」
「アンタが止めてくれないからでしょうが……う〜ん……。」
「そんな事言わなくても解ってると思ってたからさぁ。」
「う、五月蝿いわねぇ……う〜、やっぱルパン三世の様にはいかないわ……。」
「ちょっとアスカ、ネタが古過ぎない?」
「う〜っ、アタシもう寝るわ……。」

そう言って椅子(ソファと言った方が良いかも知れない)の背もたれを倒してベッドにするアスカ。完全看護の病院なのに付き添い人用の設備が置いてあったりするのが何とも不思議であったりする。これが公的機関の矛盾点なのだろうね。
でも見るからに硬そうなベッドだ。少し迷ったけど、思い切って声を掛けてみた。

「……あのさ……なんだったら……こっちのベッドで寝る?僕がそこに寝るよ。」
「はあ?何言ってんのよ。アンタは患者でしょ、患者は患者らしく大人しく寝てなさい……う〜っ……。」
「じゃあ、一緒に……てのはどうかな……。」
「う〜ん……そうしたいのは山々だけど、スカートに皺寄っちゃうから、やっぱイスの上で良いわ、それにここに寝るのが付き添い人のお約束って奴だしね。」
「そう……。」
「あ〜らシンちゃ〜ん、そんなにアタシと寝たかった訳ぇ?」
「いいい、いや!そう言うのじゃなくて!……その!……そこだと……寝るの……辛そうだから……。」
「良いの良いの。野宿に比べりゃこんなの朝飯前って奴よ。じゃ、おやすみぃ。……う〜ん……」

もう少し突っかかって来るかと思いきや、あっさりと返されてしまった。
旅行に出てからのアスカって、何か無防備になったって言うか……親しみが持ち易くなったって言えると思う。アスカが変わって来たのは事実だけど、これが本来のアスカなのかも知れない。でも、喜怒哀楽がコロコロ変わるって言うのもな……。

「……ね、寝れない……。」

リツコさんに眠らされていたからだろうな、だんだんと体の痺れが取れて来ると同時に目が冴えて来て、夜中の2時を回ったと言うのにベッドの上で悶々としている。さっきまでウンウン唸っていたアスカは漸く落ち着いたのか、静かになった。
真っ暗な病室、空調の音とアスカの寝息だけが聞こえて来る。それに耳を傾けながら、この一週間の事を思い起こす。
この旅行は、過去の自分にケリをつける為だった。その目的通りになったと思う。そして、僕がこの世界に居る理由が見つけられた様な気がする、と言うよりも、確認が出来たと言った方が良いかも知れない。
それはほんの些細な事だろう。それは一生保ち続けられるものでは無いだろう、将来、それを失う時が来るかも知れない。でも今はそれで良い、それは今までの僕には持ち得なかったものだから……大切にするよ、アスカ……。

「……シンジィ……」
「え?何?」
「(すうーっ……)」

寝言か……。僕が出てるんだな、どんな夢なんだろう、楽しい夢だと良いな。でも暗くて寝顔がよく判らないや。
……早く寝ないと、このままじゃコウモリ男になってしまうぞ。何とか頑張って寝てみよう……。

翌朝(と言っても殆ど昼前だったけど)、目が覚めると、既にアスカの姿は無かった。テーブルの上に朝食とメモが置かれていた。

『バカシンジへ・・・家で待ってるからね!』

お世辞にも上手いとは言えない字で書かれていたそのメモを見て、思わず顔を綻ばせる自分が居た。

****************************************

「ただいまぁ〜って、誰も居ないか……。」

病院たら帰って来たアタシは、ついいつもの調子で声を上げた。いつもならシンジが居てくれていて「お帰りぃ!」って応えてくれる筈なんだけど、ついさっきまでシンジの居る病院に居たんだからそんな訳無いよね。
……寂しいな……。でも、後2日……そう、たった2日の我慢で元の様に戻れるんだもん、10年間孤独と戦って来たんだからこれ位ワケないよね。

風呂を沸かして入り、部屋で動き易い服装(いつもの部屋着ね)に着替え、軽く食事を取る。これだけするにも一苦労、如何にシンジに頼り切っていたかを実感した。ミサトも居ないのが唯一の救いね、二人分の面倒なんて見られたもんじゃないわ。
さてと……、シンジが帰って来るまでに部屋の掃除ぐらいやっておかないとね。出掛ける時のままの部屋をざっと見渡す、よく片づいてるわね、でもよく見てみると家具が埃でうっすらと白くなっているみたい。掃除機と雑巾がけか……、さて、やるわよ!

こんなに苦労するとは思わなかったわぁ……。掃除機なんて簡単じゃないの、なんて思っていたら大間違い。本体の車輪は思う様に動いてくれないからイライラするし、ホースやコードの取り回しを考えながら動かないと、直ぐどっかに引っ掛けたり、物にぶつけたりしてヒヤリとする羽目になってしまうのよ。何でシンジは鼻歌混じりで出来るのよ!雑巾がけだってそう、絞り方一つ、拭き方一つで表面に水滴模様が残ったりする。綺麗に拭き取れない、コイツ、アタシに怨みでもあんのォ〜!。
……これってやっぱり、経験の差かな?これじゃ、アタシには勝てそうにないわね……。

何とかまる昼日中掛けて、リビングとキッチン、それにシンジの部屋の掃除を終えた。アタシの部屋は何時でも出来るし、ミサトの部屋は手のつけようが無いから放っておいた。
丁度夕食時に掛かっていたから食事の用意をする。冷蔵庫には何も入っていなかったから、インスタントラーメンを作って食べた。唯茹でるだけだから簡単な筈なんだけど、麺の茹で具合だとかスープの濃さだとか、言い出したらキリが無い程の不満が出て来る。自分で作った物だから文句は言えないけど、これがシンジの作った物だったとしたら間違いなくそのまま捨ててしまう程の不味さ。もっとも、シンジだったらこんな物は作らないし、上に色々盛りつけてくれるから見た目から美味しいのよね。
シンジへの依存度の高さに増々呆れるアタシ。アタシは天井を仰いで苦笑した。

「なーにが『一人で生きる』よ……アホらし……。」

ピリリリリリ……

「はい、葛城……あ、ミサト……
……そうなのよ、シンジがね……
……明日!?ホント!!……
……分かったわ!アリガト!!。」

電話の主はミサトだった。アタシ達の一件を聞いて、予定を繰り上げて帰って来るらしい。で、なんと一緒にシンジを連れて帰って来るんですって!そっか、ミサトの奴、リツコに何かねじ込んだわね。やってくれるじゃないの。
それじゃ、何か快気祝いでもしなくちゃね……どうしよう……なんにも料理出来ないじゃないの……困ったわ……。
その時、こう言うのを『天佑』って言うのよね、アタシに救いの手が……。

ピリリリリリ……

「はい、葛城と惣流と碇です……え!?ヒカリなのぉ!久しぶりーっ!……」

そう、それはアタシの唯一の親友、洞木ヒカリからの電話だった。実は、アタシが退院する少し前に、シンジが街中で相田とばったり会ったらしくて、その時に連絡先を彼に教えたらしいの。そこから流れたのね、2週間程前だったかな、鈴原から電話があったのよ。その時シンジは買い物で留守だったからアタシが出たの。そしたらあのジャージバカ、

『なんや、相変わらずシンジを尻に敷いとんのか。センセも可哀想にぃ……。』

なんて言い出すもんだから喧嘩になっちゃった。鈴原ぁ!今度あったらタダじゃ済まないわよぉ!!
おっと、本題からずれちゃったわね。たぶん、ヒカリは鈴原から知ったのだろう、二人とも上手くいってるみたいね。

「……うん、今アタシ一人なの。ミサトは出張で、シンジは……ちょっと過労でね、入院してんのよ……うん、そうなのよ……温泉旅行にいってね、アイツそう言う雰囲気に慣れてないみたいでさぁ、そのまま家に帰って来たらバタンキュウなのよぉアイツったらぁ……え?イジメなんかないってぇ……うん、今は仲良くしてるよ。ヒカリが疎開してから色々あってね……今こうしてられるのもみんなアイツのお蔭なんだ……え!?告白ぅ!へえ〜、やったじゃんヒカリぃ……え!?違うって?……アタシ!?何でぇ?アイツはタダの同居人よぉ!……何故って……アタシ達ね、身寄り無くなっちゃったから、それで……ううん、良いのよ、気にしないで……だから違うって……まあね、それは認めるわ……うん、アリガト。あ、それでね、ちょっと相談が有るんだ……」

****************************************

その夜、僕は夢を見た。
……ある木の根元に僕が凭れ掛かって座っていて、それを見つめるアスカが居る。アスカの目には涙、僕はそれを何とかしたくて喋ろうとするんだけど、上手く喋れない。

『……アタシだってシンジの事……好きよ、大好きよ……』

アスカは確かに僕にそう言ってくれた、そして……

夢にしては現実味が有るなぁ……これが目が覚めてからの感想。
今のは夢の話しだと思うけど、本当にアスカがそう思ってくれていたらなぁ……これが僕の希望。
でも実際どうなのかは判らない。だって、その言葉を聞いた事がないから、言ってくれたのは『一緒に居たい』と言う言葉だけ……これが現実。
情けないけどね、確証が掴めない以上、僕がどう思っていようとも同居人以上の関係は望めそうもないな。でも、アスカは僕に笑いかけてくれる、それだけで充分じゃないか。勝手な解釈でアスカに迷惑を掛ける事のない様にしよう。
……僕は、たぶんアスカの事、好きなんだろうな。でも、そう思う一方で、そう思ってはいけないと言う声も聞こえる。自分が情けないから、自信が持てないんだ……。

病室には朝から入れ代わり立ち代わりでNERVのみんながお見舞いに来てくれた。何度も同じ事を聞かれ、何度も同じ事を答える。ちょっとうざったいな。
エヴァに乗っていたあの頃は僕を見てくれる人なんて居なかった、そう思っていた。実際、あの時はみんなが自分の事だけで精一杯だったから、自分も含めて、そんな余裕なんてなかったんだ。でも今は、僕の周りにはこんなに一杯僕を見てくれている人がいる、そう感じる事が出来る。
でも、今日は一番僕の事を見ていて欲しいと思う人が現れていない。どうしたんだろうな、そう思っている内に陽射しが少し弱くなって来た事が感じられる時間になっていた。今日は来ないのかな?やっぱり僕は彼女にとってはその程度の人間だったのか……。
僕が卑屈になり始めていた時、病室に二人の人が入って来た。

「シンちゃ〜ん、久しぶり〜。」
「よっ!元気そうじゃないか。」
「ミサトさん!加持さん!……あれ?今は箱根の筈じゃ……。」
「シンジ君がこんな目に遭ったって言うのに、のんびり仕事なんてやってられないわよ。だから、何とか予定を早めて帰って来たのよ。」
「……すいません。僕の為に……。」
「君は何も悪くはないよ。戦自の動向も考えずに帰してしまった俺達の方にも責任は有るんだからな。」
「……はい……」
「まあまあ、湿っぽい話しはその位にしてさ……。シンジ君、支度して。」
「はい?何のですか?」
「君は現時点を持って退院だ。こんな所じゃつまらないだろうからって葛城が交渉してくれたんだよ。」
「そう言う事よん。私達はロビーで待ってるから、焦らないで来てね。」
「はい!ありがとう御座います!」

加持さんの運転で家路に就いた。ミサトさんは、僕がロビーに下りて来る前から、車の後部座席で眠りこけていた。
加持さんが言うには、ミサトさんは事件の知らせを聞いてから、3日間徹夜で仕事をこなして来たと言う事らしい。
……やっぱり迷惑掛けっぱなしなんだよな、僕って。情けないな……

「たっだいまー!アスカー、王子様のお帰りよー。」
「い、いきなりそんな!ミサトさぁん……。」

バタバタ……

「おっ、おっ帰りー!」
「あ、ただいま……い!?」

奥から飛び出して来た人影を見てびっくり!全身真っ白だったのだ。でも、声を聞く限り、アスカだと思う。何してたんだろう?

「あの〜どちら様で?」
「や〜ね〜ミサトったらぁ、アタシよアタシ!」
「アスカなのか?どうしたんだよ、真っ白じゃないか。」
「え?……あ!あははは……やーねー加持さんったらぁ、そんな事どうでも良いじゃないのぉ……。そんな事よりさ、みんなしてそんなとこ突っ立ってないで、早く上がりなさいよ。」
「う、うん。」
「それで、みんな荷物降ろしたらリビングに集合してよ。良いわね?」
「そう言えばなんか良い匂いがするわね……。」
「へっへっへー、楽しみにしててよぉ。」

自分の部屋に入った。
ベッドの上には旅行の荷物が入っていたカバンが口を開けたまま置かれていた。洗濯物を抜き出してある様だ。部屋を見回してみると、所々物が動かしてある、どうやら掃除をしてくれていた様だ。
アスカ、一人で頑張ってたんだな。”『完全復活計画』の行動”って、もしかしてこれの事だったのかな。確かに家事は重労働だからなぁ、まあ慣れればそうでもないし、誰かの喜ぶ顔が見られればそれで疲れも吹っ飛ぶしね……。
簡単に荷物を開いて仕舞い込んだ後。僕はリビングに移動した。

リビングには既にミサトさんと加持さんが居た。二人が視線をテーブルに落として、固まっている様だ。特にミサトさんの表情は明らかに『げんなり』している。
僕もそんな二人の視線の行き先を見た。テーブルに所狭しと並べられているのは、口を開けた缶詰めの数々だった……。

「ようやく揃ったわね。」

そう言ってアスカが風呂場から出て来た。どうやら汚れを軽く流して来た様だ。

「アスカちゃん……何なのよ、これ?」
「ああ、それ?非常持ち出しの荷物に入ってたやつよ。期限切れそうだったから引っぱり出して来たのよ。」
「あ……そ……。」
「だってさ、いきなり今日帰って来るなんて言うんだもん。こっちにも段取りってモノがあるのに、それを狂わされちゃあねぇ……。」

そう言いながらキッチンに入っていくアスカ。それを睨むミサトさんは明らかに不満顔だ。

「折角人がアスカの為に頑張ってあげたって言うのに……。」
「だからこれしか出来なかったのよ。」

そう言いながらアスカがキッチンから運んで来たのはパイだった。

「これ、アスカが作ったのかい?」
「そうよ。ホントはもっと豪勢な物やりたかったんだけどね、アタシ料理出来ないし、時間も材料も無かったしね、これで精一杯よ。」
「さっきの匂いの源はこれだったのね……。」
「……ありがとう、アスカ。」
「良いのよ。こっちこそ何にも出来なくてゴメンね。アタシが退院した時より貧相だし……。」
「そんな事ないよ。気持ちだけで嬉しいから……。」
「おーい、イイところ悪いんだけどさぁ、早く食べようよー。」
「あ、そうね。じゃ、一応パーティなんだから、先ずは乾杯から。アタシが音頭をとるわよ……コホン、それでは、碇シンジ君の素早い退院及び葛城ミサトさんの副所長昇進、そして加持リョウジさんの再就職を祝って……カンパーイ!」

「「「「カンパーイ!!」」」」

「ねえアスカ、このパイの中身は何?」
「んーっとね、ホントはアップルパイにしたかったんだけど、無かったから缶詰めのパイナップルを使ったのよ。不味かった?」
「そんな事ないよ、美味しいよ。在り合わせでこれだけの事が出来るんだから、やっぱりアスカは凄いよ。」
「なかなか良い味してるよ。考えたもんだね。」
「そう言って貰えると苦労したかいがあるわ。」
「じゃあ、そう言う事で、シンちゃんの代わりに明日からもよろしくねん。」
「残念でした。明日からは缶詰めとインスタントラーメンとレトルトカレーで我慢して貰うわよ。料理出来ないって、さっき言ったでしょお。」
「葛城、俺はそんな事心配しなくても良いと思うぞ。」
「どうしてよ?」
「副所長だろ?明日から食べる暇も無くなると思うんだけどな。」
「は!……しょ、しょんなぁ……(ガク……)」
「じゃあ……やっぱり僕が作りましょうか?」
「ダメ!アンタは絶対安静の身でしょ!向こう2日は外出禁止、向こう3日は家事一切禁止!分かったわね!」
「わ、分かったよ……。」

ずいっと身を乗り出して迫ってくるアスカに気押されて、僕はただ頷くしか無かった。

ささやかなパーティの後、僕はアスカにそのまま部屋に押し込められてしまった。空の缶を纏めようとしただけなんだけどな。アスカが缶詰めを引っ張り出して来たのは、期限が云々と言う事よりも、後片づけの手間を省きたかったからの様だ。

やっぱり今晩も寝れそうにない。寝溜めは出来ないって聞いていたのに、それはやっぱり嘘じゃないかと思う。
少し夜風に吹かれようと思ってベランダに出た。月がとても綺麗だった。しかし、空に上がっているのは満月じゃなくて下弦の月、それだけ日数が過ぎているんだな。その間、僕はアスカを心配させ続けていた訳だ。

「シンジ……。」

ふと、背後から声が掛かった。

「あ……アスカ?どうしたの?」
「それはこっちのセリフ。アンタこそ何やってんのよ。」
「眠れないから、月を見てたんだ。アスカは?」
「戸締まりとか確認しないと寝れないでしょ?シンジ、いつもそうしてるじゃない。」
「それ位僕がやっとくよ。今日は疲れたんだろ?早く寝なよ。」
「ダメ。アンタが寝ないとアタシも寝ないわよ。」
「困ったなぁ……。」
「それもアタシのセリフよ。……いいわ、付き合ってあげる。」
「別に良いよ、無理しなくたって……。」

眠たそうにしながらも、アスカは僕の隣にやって来た。

「で、何考えてたの?」
「え?何って……。」
「いくらバカシンジでも、頭空っぽで眺める筈は無いでしょ。」
「……随分日にちが経ったんだなって、思ってたんだ。……僕が前に月を見ていたのって、満月の時だったろ。こんなに月が細るまで、またアスカを苦しめてしまったんだなって……。」
「まあ、苦しんでたのは確かだけど……ちょっと違うのよね。昨日病院で言った通りよ、あの時にアタシがボケボケして立ち上がったりしたのが原因なんだから。自業自得って奴よ。」
「違うよ、僕がドジ踏んで弾に当ったりしたからだよ。」
「シンジィ、それ、アンタの悪い癖よ。何でもかんでも自分で背負い込もうとしてさ……。さっさとやめなさいよ。それじゃあいつまで経ってもバカシンジのままよ。」
「んなこと言われたって無理だよぉ、僕の性格なんだから……。」
「ったくぅ……付き合ってらんないわねぇ……ふああぁ……。」
「だったら、早く寝なよ。」

アスカは盛んに欠伸を繰り返している。そんなに眠いんだったら早く寝たら良いのに。

「アンタが寝たらね……。」
「アスカ、最近しつこくなったね。」
「昔からこうよ。」
「……?……」
「どしたの?」
「……いや……つい最近、同じやりとりしなかったかな?そんな気がするんだけど……?」
「……したわよ……」
「何時だったっけ?」
「そこまでは言えないわねぇ。」
「どうしてさ?」
「シンジが思い出してくれたら、アタシ、凄く嬉しいから……。もし思い出したらね、取って置きの方法で誉めてあげるわ。」
「そう……。じゃあ頑張ってみるよ。でもさ、なんかヒントないの?」
「そうねぇ……。『満月の夜』とでも言っておこうかしら?」
「満月か……あの晩の事かな?」
「ノーコメントよ。」

僕はそのまま考え込んでしまった。どうやら、あの晩の事らしい。と言う事は、途切れた記憶の中に答えが有ると言う事になる。
アスカは「それを思い出したら……」と言った。あの時に何かがあったのだ、アスカが嬉しく思う何かが……。
ふと、横にいるアスカを見た。アスカは手摺にもたれて眠っていた。

「アスカ、アスカ。(ユサユサ……)風邪ひくよ。」
「ん……あ、寝ちゃってたか……。」
「僕の負けだよ。もう寝るからさ、中に入ろう。」
「ん……。」

僕に続いて、アスカが目を擦りながらついてくる。
アスカを部屋に導いてから、戸締まりの確認に回った。これ位はやらせて貰わないとね。
自分の部屋に戻ってみると、寝息が聞こえてきた。何が起こっているのかを察知した僕は、思わず天井を仰いでしまった。

「またかよ……。」

僕のベッドでアスカが眠っていた。さっき確かに部屋に入れた筈なのになあ……。寝惚けるにも程があるよ、夢遊病にでもなったのか?
仕方がないから床に寝る事にしようと思って、布団を取りに出て行こうとした時、不意に手を掴まれた。

「つ・か・ま・え・たっ(はあと)」
「な、なんだ、起きてたの?何時の間に入ってたんだよ。」
「アンタが戸締まりの確認をしてる間にね。ふん、アンタのする事なんか全部お見通しよ。」
「でも、どうしてここに居るんだよ……。」
「家事一切厳禁の決まりを破った罰よ。もう少しアタシの相手をして貰うわよ。」
「僕は良いけどさ……アスカ、眠いんだろ?明日から僕の代わりに動くつもりだったら、無理しないで寝たら?」
「アタシね……」
「?」
「アタシね……寂しかったの……シンジが入院してる間。でもね、辛くはなかったよ。だって、またこうしてバカやって楽しく過ごせるのが判ってたから……だから嬉しいの、もう少し楽しませてよ。」
「……分かったよ。でもさ、何するんだよ?」

アスカは起き上がって、ベッドの端に座った。そして、自分の隣をポンポンと叩いて、僕に座るように促した。
僕がその通りにすると、眠たそうにしながらもにっこりと微笑んで話を続ける。

「アタシの話し相手で充分よ。」
「何を話すの?」
「それ位考えなさいよ。アタシから始めたら罰にならないじゃないの。」
「う〜ん……。僕が話すと明るい話にはならないからなぁ……それでも良いの?」
「別に良いわよ。どうせアタシにだって明るい話題なんて無いんだから。」
「それじゃ……加持さんはどうしたの?」
「帰ったわよ。確か、篠ノ井って言ってたっけ。」
「そう……。」
「ハイ終わり。次は?」
「次!?う〜ん……あ、あの……今日はありがとう。それから……ゴメン。」
「何よいきなり……何がゴメンなのよ?」
「今日、病院に来てくれなかったろ?まさかあんな事する為に頑張ってたなんて知らなかったから、アスカの事、怒ってしまったんだ。」
「そんな事で?別にいちいちあやまんなくったって良いわよ、連絡取りたくっても出来なかったんだから仕方ないわよ。」
「ありがとう……。」
「良いわよ、気にしないで。」
「うん……。あ、あとね、パーティの時に食べたパイの事なんだけど……あれ、誰に教わったの?」
「え?あ……ああ、あれは本に載ってた……」
「そんな筈ないよ。僕はそんな記事は見た事無いよ。」
「バレバレって奴ね……。あんまり言いたく無いけどなぁ……昨日、ヒカリから電話があったの。その時に教えてもらったのよ。」
「……そう、良かったじゃないか。元気だった?」
「うん、また同居してるって言ったら、アンタとアタシの仲、勘ぐってたわよ。」
「はははは……。」
「また会えるかな……。」
「洞木さん、第2新東京市に居るんだったよね?」
「そう聞いたけど……。」
「また今度行けば良いじゃないか。……もう良いかな?アスカは明日からの為にも、もう寝た方が良いよ。」
「じゃ、アンタはしっかり回復してよね。その為にも、もう寝なさい。」
「うん、分かった。」
「それじゃ、お休み。」
「うん、お休み……って、そこは僕のベッドだよぉ!」

アスカは、僕のベッドに潜り込み直していた。

「情けない声出さないでよ!みっともないわねぇ!」
「うう……やっぱり僕は床の上か……。」
「違うわよ。アタシが病人のアンタの為に添い寝してあげるのよ。」
「……添い寝?」
「そうよ。病院でアンタが苦しんでる間、何も出来なかった分をここで取り返すのよ。」
「……そう……。」
「それに、アンタ放っといたら、勝手に朝御飯作りかねないからね、ここで監視するのよ。」
「信用されてないな……。」
「家事の方面に関してはね。アンタ、もう体に染み付いてる様だから、油断ならないのよね。」
「……参りました。絶対アスカが起こしに来るまで起きないよ。だから自分の部屋に……うおっと!」

いきなりアスカに手を引っ張られて、僕は勢いよくベッドに倒れ込んだ。

「つべこべ言わずにさっさと寝る!」
「はい……。」

結局こうなるのか……。悪い気はしないけどさ、余計眠れそうにないよ……。

「狭いわねぇ……もっとそっち行きなさいよ……。」
「無茶言わないでよぉ、シングルサイズなんだからぁ。もう落ちそうだよぉ。」
「それ位根性で何とかしなさいよ。」
「そんな無茶苦茶な!……。」

****************************************

翌朝、誰かが言い争っているらしく、部屋の外が騒がしくて目を覚した。声の主はどうやらシンジとミサトらしい。やっぱりシンジの奴、勝手に始めたのね。そう思いながらアタシは起き上がってキッチンへと向かう。
やっぱり寝不足ね、足がふらついて思うように歩けない、変に意地張って起きてるんじゃなかったわ。

「なあによぉ〜どうしたって言うのぉ?……」
「あ、アスカお早う。聞いてよ、ミサトさんが早起きして朝御飯作ってるんだよ。」
「ん?……なんだシンジがやってるんじゃないのか……。……ええっ!!
「何もそんな大声で驚くことないじゃないのよぉ。私だってやる時にはやるんだからね、何時までもあなた達だけには任せておけないもの。」
「気持ちは嬉しいんですけどね、やっぱり料理だけは……。」
「な〜に言ってんの、ただのインスタントラーメンじゃないの。」
「……臭いからして怪しいわね。何入れたのよ。」
「それが教えてくれないんだ。」
「隠し味はやっぱり食べてからでないと教えられないわ。」
「どれどれ、ちょっと見せてよ。」

そう言ってアタシは鍋の中を覗き込んだ。

「……。シンジ、あっちにパンが残ってたわね。」
「ちょっとぉ。食べないってぇ言うのぉ!」
「悪いけど、朝からコテコテの物は食べたくないから遠慮させて貰うわ。ほら!行くよシンジ!」
「あ、アスカぁ、そんなに強く引っ張らなくったって……。」

「(つるつる〜)う〜ん我ながら良い出来だわ。」
「そりゃ良かったわね。」
「分量少な目にしておいて良かったわー。欲しくなってもあげないからねー。」
「要らないわよ!」
「それよりもミサトさん、早く行かないと遅刻ですよ。」
「おっといけない!(ずるずる〜)じゃあ、悪いけど後片づけよろしくね。それじゃ!行ってきます!」
「「行ってらっしゃーい!」」

こうして、またいつもの一日が始まった。でも、今までのいつもとはちょっと違うわ。シンジの代わりにアタシがいそいそと動き回って、シンジがそれを眺めるという、全く立場が逆転している状態になっているのが一つ。まあ、後はペンペンがまだ帰ってきていないのと、ミサトの襟章が派手になった事ぐらいかな。
シンジは居心地が悪そうにリビングで座っている。アイツはアタシ程ちょっかいの出し方が上手くないからね、余計に寂しそうに見えるのよね。

「シンジー、これ退かしていいのー?」
「え?ああ、それは動かさなくても良いよ。」

やっぱり、アタシから仕掛けてやんないとダメなのよね。

走り回りながらふと考えた。これって、花嫁修行って奴?辛いけど、そう考えると気が楽になるよね。シンジが復帰したら、またたっぷり甘えさせて貰おうっと。もう旅行前のシンジじゃないもの、遠慮しなくても良いよね。
……これからアタシ達はどうなるか判らないけど、きっと大丈夫よ、どんな困難だって二人で乗り越えて行ける筈よ。離れ離れになる事があるかも知れないけど、アタシはそんな事は考えには入れないからね。だって、信じてるから、シンジの事。
今は、アタシができる精いっぱいの事をやるまでよ。もう一度、今度はしっかりと、シンジの口からあの言葉を聞く為にね……。

「シンジー!ちょっとこっち来てよー!」

シンジが笑顔でやって来た。
シンジの笑顔はアタシだけのモノよ!……な〜んちゃって!
今はこれだけで充分よ。でも、満足はしないわよ……。
絶対シンジの方から「好き」って言わせてやるんだから、そうしたら、アタシだって自信を持って言えるわ「好きよ」ってね……。


<終>


<後書き>

ここまで読んで下さった皆さん、有り難うございました。

この連作も漸く終演となりました。
今、自分で見返してみました。なんと長いことでしょうか……呆れちゃいますね。想定以上にLAS度も高いし。(^_^;

この連作は、自分の中で溜まったもやもやをスッキリさせようとして始めた物です。自分自身の補完をしようとすれば、必然的にこの二人に立ち直って貰うしかありませんでした。独白めいたセリフが多いのはその所為ですね。また、例外はありますが、二人の中のどちらかの視点から話を書く形式にしたのもその為です。

最終話投稿に関しての反応は、ゼロといっても過言ではありませんでした。ただでさえ感想とか少ない方だと思っていますので、予想はしていたんですけど、やはり……。
それでも楽しみにしてらっしゃる方が居られるという事が励みになりました。有り難うございます。

ようやく私もこの世界の二人も地盤が固まってきました。これで活動終了しようと思っていたのですが、もう少しこの世界で楽しんでみたい、そう思うようになってきましたので、もう少し続けようと思います。書きたかったシチュエーションもまだ残っていますし。

当面の目標としては、登場人物の拡充ですか(^_^;
『落書き部屋』ではデフォルトである綾波レイさんや霧島マナさんを出してみようかと。その為にもう少しこの二人を研究しないと……。

次は単発モノか、新連作になるかは判りませんが、12月を目標にしてボチボチ取り掛かる事にします。それまで、しばしのお別れです。

それでは、またお会い出来ます様に……。


跡見さん、本当にありがとうございました!!

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までお願いします。


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