「はぁーっ……なんで私ばっかりこういう目に遭うのかしらねぇ……。」
「ははは……仕方ないだろう、君はあの子達の”保護者”なんだから。」
「そうは言ってもねぇ……迂闊だったわぁ……あんな事言ったばかりに、またシンジ君を悩ませちゃうなんて……。」
「葛城、保護者と言う者は、只護ってやるだけが能じゃない。自ら護る力を育ててやるのも保護者の役目だ。その為に辛い目に会うのは当たり前じゃないかと思うが……君はよくやってるよ。もっと自信を持って良いぞ。」
「はは、ありがと。」
「それに、その事は俺も気になってたんだ。もし、君が言わないまま済まそうとするつもりだったら……遅かれ早かれ、俺が言っていた。」
「……マジ?」
「こんな時に嘘言ったってしょうがないだろう?」
「じゃあ、黙ってれば良かったんだ……。」
「本気か?」
「そう聞こえた?」
「……いや。」

「……辛いわね、何も出来ないのって。」
「いや、そうでも無いと思うぞ。使徒相手の戦闘じゃないんだ。確かに厄介だが出来る事は多いと思うんだがな。あの二人なら、まだ仕切り直しも利く。」
「ちょっと加持!あんた!」
「おいおい、勘違いするなよ。別に別れさせようとか言うんじゃないんだ。只、少し間を離して考えさせるのも手だな、そう思うだけだよ。
今のままじゃ、只の寄り合いだ。何故互いに側に居たいのか、それが解らないまま惰性で……まあ、これは考え過ぎかも知れないがな。」
「それは無いと思う。だって、アスカもシンジ君も、何時でも出て行けるのにそれをしようとしない。もう同居する理由が無いのによ。」
「そりゃあ、君が不敏だから、だろ?」
「一理あるわね……でも、シンジ君はともかく、アスカには当て嵌まらないわ。」
「ふむ、確かに……もしかすると、出しに使われてるのかもな。」
「うっ!……今、グサッと来た……。」

「……葛城。」
「何?」
「今、俺達に出来る事は見守る事、そして、然るべき時に手を添えてやる事だ。道が判らなくなったら足下を照らしてやる、踏み外しそうになったら支えてやる、そんな感じでな。」
「陰日向で支える、って事か。」
「そうだ。あの子達を信じて、自力で解決させてやるんだ。さもないと、これから先、自力で何も出来なくなってしまう。解るな?」
「そうね……私達、図らずもあの子達に命預けてきたんですものね。信じる位訳無いわよね。」
「そうだな……それにしても、ぶち壊しにはしたくないものだな……。」
「何だか、熱の入れ方が尋常じゃないわねぇ……何で?」
「んん?……言えんなぁ。」
「ケチ!」


Tomi's EVA vol.15

Series『SAIKAI』 その3

下僕の資格(その2)


「う〜ん、なぁに二人してボソボソいちゃくりあってんだか……。」
診察結果。
「こうやって見てると、悔しいけど、なかなか良い雰囲気よね。」
重傷かも知れないよ。
「でも、何時までああしてるつもりかしら?仕事は良いのかしらねぇ。」
予約時間にはもう間に合わないね。
「……シンジぃ、アンタさっきから何ブツブツ言ってんのよ。」
「はぁ……アスカ……僕達、どうしてここに居るの?」
「?……そりゃあ、加持さんとミサトがああして話し込んでるのを観察してるんじゃないの?」
「……僕達、そう言う目的でここまで来たの?」
アンタバカぁ!?アタシ達は、病院行きの道すがらにあの二人を見……あ……。
「はぁ……思い出した?」
「……悪かったわね。」
「じゃ、早く行こうよ。」
「……でも気になるわぁ……。」
「……自分の身体より?」
「う……わ、分かったわよぉ。」

翌日、シンジと一緒に病院へ検査結果を聞く為に行く途中、ミサトと加持さんが喫茶店で話し合ってるのを見つけた。
ミサトの深刻そうな顔から推して、話題は恐らく昨晩の事。ミサトは失言をしたと思っているのだろう。ビールの所為でうろ覚えだけど、あの言い方じゃあ、このバカを路頭に迷わせるだけじゃない。しかし、そんな事をおくびにも出さないシンジも中々のもんよねぇ。お蔭で、未だにやきもきさせられてるのよねぇ……。

……ミサトの言う通りかも知れない。以前の様に、虫酸が走るとか言う程の事は無くなったけど、男に近寄られるのは好きじゃない。言い寄られるのはもっとイヤ、アタシに声を掛けてくる輩は、どうせ見た目だけで惹かれているに決まってるから。
アタシが近寄られても、触れられても構わないと思えるのはシンジと加持さんだけ。逆にアタシがモーション掛けてやってるぐらい。でも、加持さんはのらりくらりと躱されてる内に、ミサトのところに戻っちゃったし、シンジは全然その気になってくれないし……はぁ〜っ……。
そう思い込んで避け続けているだけだと思う。このままじゃ、交友関係さえまともに作れないのは解ってる。女の子だけを相手にしようとしても、必ず男がセットになってくる筈だから。でも、他の男達は気が許せない。実際、一度男に気を許したばかりに酷い目に遭わされた。その男とは、あのバカの事だけどね。ま、お蔭で、ドップリ嵌まるか、ビシッと撥ね付けるかしか付き合い方を知らないって事、言い換えれば男に対する免疫が全然無いって事が判った訳だし、感謝すべき、なのよね……。
でもねぇ……はぁ、加持さんやミサトみたいに軽く付き合う術を身に付けなきゃ、この先やっていけないわね。

病院で、『結果は異常なしです、学校はもう一日休んだ方が良いですね。』と言われた。
これを聞いて心底安心した。やっぱ腰って人間の重心そのものだから、ここがいかれるとまともな生活が出来なくなっちゃうもんね。それに、産めなくなったら大変……あれ?どうしてこんな事思っちゃうの?子供なんて要らない筈……あれ?
病院からの帰り、本当は自力で歩けたけど、ちょっと勇気を出してシンジに『疲れたよぉっ!』って甘えてみた。でも、負ぶって貰ったんじゃなくて、ちょっとだけシンジに支えて貰ったの。どうやってかって言うと、周りからみたら恋人にしか見えないようなやり方でね……えへへっ。

家に帰ってくると、早速シンジを呼びつける。今回は着替えを手伝って貰う訳じゃ無いわ。本当に大した怪我じゃ無かったのか、湿布が効いたのか、かなり動けるようになっていたから、着替えは自分で済ませられた。だから、昨日やりそびれた事をね、判るでしょ?
昨日のシンジはかなり緊張していた様だけど、アタシだって、それこそ一世一代の大勝負だった。素早く動く事の出来ない身体で、完全にじゃないけど、柔肌を間近で見せる事になる訳だから。過去の事を意識するなと言う方が無理、もう脂汗だらだらだったと思うわ。
でも、シンジの心配そうな顔は見たくない。不安の解消に一番効くのは情報公開、『今のアタシはこうなのよ』って見せてやるのが一番だと思う。だから今は、これが最高にして最善の選択肢よね。
昨日は巧く逃げられてしまったけど、今日こそは最後までやってもらうからね。悪寒が走るのを我慢しながら、頭の中でイザと言う時の手順を組み立て、それが失敗した時の覚悟を決め直して(だって、当の昔に決めてるもん)、ベッドの側に立つシンジが行動を起こすのを待った。

****************************************

処刑台に上がる囚人の気持ちってこんな物なのだろうか……吐きそう……。
今、僕がいるのはアスカの部屋。目の前のベッドにはうつ伏せになっているアスカ。何時もの部屋着を着てはいるけど、ジョギパンが太ももの所にまで下げられていて、それが在るべき所にはパンツだけ。そう、これからアスカの腰(と言っても、殆どお尻の上半分)に湿布を貼るという役目を実行するのだ。
何とかして逃げたい。でも、昨日みたいにミサトさんは帰ってこない。きっと、今ごろはNERVで缶詰めになってる事だろう。喫茶店に居るのを見掛けたのを思い出すとそう思える。今日は逃げる事は出来ないのだ。

「……。」
「……何してるの?」
「……。」
「さっさとしなさいよ!腰の冷えは女の大敵なのよ!!」
「う、うん……あ、あのさ……目、瞑ってても良いかな?」
「ダメ!探る振りして触りまくるつもりなんでしょっ!?」
ちち、違うよ!!誓ってそんな事しない!!只、目のやり場がさ……。」
「何を今更……見るのは初めてじゃないでしょ?さ、さっさとやりなさい。」
「で、でも……。」
「あんまり時間掛けると蹴飛ばすわよ。」
「う、うん……あ、あの、さ……お、怒んないでよ、触っても。」
「……まあ、手突っ込まなきゃ、許す。」
「……わ、分かったよ。や、約束だからね……じ、じゃあ、さ、先に、剥がすよ。」
「ん。」

どうか、無事に終わります様に……。
恐る恐る一枚目に手を伸ばす。なるべく肌に触れる事の無い様に、慎重に指先だけで湿布を持ち上げる。まるで蝶を素手で捕まえようとする様な感じだ。

ぺりぺり……

「いたたたたっ!!このバカッ!!ちんたら捲るなっ!!ビッといきなさいよ!ビッと!!」
「う、うん……せーのっ!

べりっ!

ぎゃんっ!!……くぅ〜っ!!……そ、その調子よ……くぅ〜っ!……。」
「そう?……それっ!

べりっ!

ぎゃんっ!!

べりっ!

ぎゃんっ!!……ちょ、ちょっと休憩させて……。」
「どうして?後もう一枚の辛抱じゃないか……それっ!

べりっ!

ぎゃんっ!!……もうっ!シンジのサドっ!冷血っ!鬼っ!悪魔っ!バカっ!……くぅ〜っ……。」
「あははは、ゴメンゴメン。でも、僕はアスカ言った通りにやったんだからね。苦情を言われる筋合いは無い筈なんだけど。」
「う〜っ!……」
「でも、『ぎゃんっ!!』て言うのは傑作だよなぁ。」
「う、うるさいうるさ〜いっ!!
「ほらほら、大人しくしないともう止めちゃうよ。」
「うう〜っ!!」
「今思ったんだけどさ、ここって、自分で貼れるじゃないか。鏡貸してあげようか?」
うう〜っ!!

涙目で抗議するアスカをからかっている内に緊張が解れていた様だ。後の作業は自然に、何も意識する事無く済ませる事が出来た。アスカって結構雰囲気作り上手いかも。

「はい終わり。」
「ううっ……屈辱だわ……何時か必ず十倍、いや百倍にして……。」
「勝手だなぁ。言う通りにやって恨みかわれるなんて、そんなの不公平だよ。」
「う〜っ……十倍……。」
「じゃあ、今度からミサトさんに頼んでよ。」
……五倍。
「僕男だろ?それよりは女同士の方が気が楽じゃないか。」
……二倍。
「それに……前科者相手にこんな事して……緊張するだろ?余計な神経使うよりはさ……。」
ううっ……ふ、不問にするわぁ……。」
「……アスカ、どうしてそんなにミサトさんじゃ嫌なんだよ?」
「……だって、昨日ミサトの奴、指差して笑ったのよ、腹抱えて笑ったのよ!そこでゴロゴロ転がって笑ったのよ!『赤ちゃんだ!』って笑ったのよ!!
どうしてかなんて解んないけど、とにかくこのアタシを赤ん坊扱いしたのよ!!許せないっ!!
「そうか、それでね……あれ?……あ、そうか、もう三世にもなったら出ないのかな?」
「出るって、何がよ!!」
「多分、ミサトさんは”蒙古斑”になぞらえたんだと思うよ。」
「それ、何?」
「うん、日本人はね、生まれたての頃に、お尻とか背中とかに青痣が出るんだ。大きくなると勝手に消えるんだけどそれを”蒙古斑”って言うんだ。」
「ふぅ〜ん……それで赤ん坊扱いか……ますます許せないわね!この借りは必ず十倍!いや百倍にして返してやるわっ!!

興奮の余り、ベッドの上で立ち上がって力説するアスカ。こう言う時って、どう対応したら良いんだろうね……。

「あの、さ……力説するのは構わないけどさ……どうやって返すの?……。」
「え?……う〜っ……。」

自室でさっきの光景を思い起こしながら考える。もう日付が変わったと言うのに、興奮が収まらなくて、悶々としていたのだった。
しっかり焼き付いちゃったな……何の飾りもない白だった、うん。アスカはもう慣れた筈だと言ってたけど、あれは何度見たって慣れないもんだと思うし、もしそうなったら困るのはアスカじゃないのかな。切り札とか言って、結構使ってるもんな、お色気ネタを。
でも、ミサトさんに笑われただけで、嫌だって言うのはちょっとこじつけだと思う。どうあっても僕にあの役目をさせたいらしいな。
このままだと多分、袋の中が空っぽになるまで、僕は眠れそうにないな。アスカの青痣が消える頃には、僕の目にクマが出来てるかも……。
……やっぱり、ミサトさんの言う通りだろうな。体当たりで自己表現をしていると思う。そんな事しなくたって、今の僕にはアスカしか居ないのに。もし、今アスカが居なくなったら、僕はもう……はは……。
……でも、僕はともかく、アスカはそれじゃいけないと思う。アスカなら僕なんかよりもっと良い将来を目指す事が出来る筈。僕を頼ってくれるのは嬉しいけど、それが為にアスカの足枷になるのは嫌だ。僕の所為でアスカの輝きが鈍るのは願い下げにしたい。アスカが笑えなくなるのは、僕が死ぬ事より辛いから……でも、一体どうしたら良いんだろう……。
…………なんだ、結局僕もアスカが居なければ何も出来ないんじゃないか……馬鹿だな、はは……。

****************************************

「良いね、大人しくしてるんだよ。」
「むーっ……。」
「行ってきます。」
「ふんっ!(ぷいっ)」

苦笑しながらシンジは一人で学校に行く為に出ていった。
今日もアタシは病欠、国連の条件さえ無かったら、無理矢理にでもシンジを引き留めるところなのに。分かっていても諦めきれなかったから、膨れっ面でシンジに抗議を続けていた。そんなアタシの気持ちを知った上での、シンジの苦笑いだった。
全く手を着けていなかった朝食を一人で食べる。寂しいな……でも、こんな事で挫けちゃ惣流・アスカ・ラングレーの名が廃る!只じゃ転ばないわよぉ、ふっふっふっ……。
部屋に戻ったアタシは、早速パソコンを立ち上げた。シンジには内緒で、制服にマイクを仕掛けておいたのよねー。製作は勿論、マッドな赤木リツコ!情報収集能力を高めて、諜報部の人手不足を補うんだって。で、アタシはそれのテストに協力してやってるてぇ訳よ。
ソフトを起動して、聞き耳をじっと立てる。

『おう!久し振り!って一日来なかっただけだったな。』
『お早う、あれ?惣流は?』
『碇ぃ、お前”下僕”の癖してそんな事も知らんのか!?』
『当事者だって知らないものは知らないの!惣流さんは今日もお休みだって話よ。』
『有り難う、杉津さん。そうか……意外に重傷だったのかな?……』
『おいおい……しっかりしろよ、”下僕”君。』

重岡のバカ、まだ相手にされなかった事根に持ってんのかしら!やたらと”下僕”って強調してるのよね。『お前が本気で相手して貰える訳ないんだぞ』と言ってる様にも受け取れるわね。
もう一人は杉津(すいづ)ミナ、副代表やってる子だって。重岡とは幼なじみらしくて、奴をコントロールできる唯一の存在って話。だから、二人セットで学級代表にさせられたらしいわ。
で、杉津さんは真面目で実直、重岡はミーちゃんハーちゃんでちゃらんぽらんな奴、と言う訳でこの二人、結構夫婦漫才しているのよね。

『何だ?心配なのか?やっぱり』
『うん、まあ、ね。あれだけ側でぎゃーぎゃー言われてるんだ。いきなり居なくなるとね、やっぱり調子狂っちゃうよ。』
『すっかり染みついたな。可哀想に。』
『ははは……あれだけ引っ掻き回されたら、染まって当然だと思う。でも、悪い気はしないよ。』
『そうだと思うわ。惣流さんって本当に美人よね。女の私でもあのスタイルには見とれちゃうんだから、男の碇君がそうなるのは当たり前よ。』
『い、いや!そ、そんなんじゃなくって!』
『おおっ!図星図星!!』

むぅ……やっぱりシンジはシンジよね。まあ、良いのか悪いのかはこの際置いときましょ。
授業中は暇だから、テレビやらマンガやら手当たり次第に目を通して時間を潰した。本来なら、このマイクは双方向で会話が出来る筈なんだけど、まだ試作段階だから聞く事しか出来ない。余りにもつまらなかった。
授業が終わった。シンジは何処かに移動を始めたみたいで、足音や周りの喧騒が聞こえる。暫くして、シンジが喋りだした。

『悪いけど、これから用を足すから、マイク切ってくれないかな?……分かった?アスカ。』

げっ!……ばれてる!
アタシはモニタの前で凍りついてしまった。何で??どうして!?そんな疑問が頭の中を駆け巡っていた。

昼休み、またしても重岡の声がした。
『ほれ、今迄のプリント。これがお前で、これが惣流の分。』
『あ、有り難う……何か、今日はやけに親切だけど、惣流目当てなら、僕に近づいても何も出ないよ。』
『何言ってやがる、これは仕事だっつーの!』
『そっか、ゴメン。』
『じゃあな。』
『……ふぅ、さて、お昼にしようか。』

あからさまな独り言、アタシも食べろって言ってるのね。何か無いかとキッチンに行ったら、テーブルにお弁当が置いてあった。何時もなら『手抜きだっ!!』って怒るのに、今日は何故か嬉しく思った。お弁当をもって部屋に戻ると、スピーカーから流れる教室の喧騒を聞きながら食べた。なんだか、シンジの隣で食べてる様な気になってしまった。

アタシがお弁当をを終えた頃、男子軍団の声がした。

『……何?みんなして……何か用?』
『あのな、お前、一昨日惣流と早退したじゃないか。あの後、みんなそれで持ち切りになったんだぜ。』
『二人揃って早退したのは、惣流の意思なのか、碇の意思なのかってさぁ。』
『それで、俺が代表質問をするって訳だ。その時の事ちょーっと聞かせて欲しいなーってよ。これは、クラスの総意だぜ。』
『ほ、ホントかよ……。』
『ホントホント!』
『お前、惣流の家に行ったんだろ?そのまま帰ってくるとも思えないしな。なあ、頼むよ。』
『……う〜ん。』

シンジにはぐらかす事が出来る様な状況じゃないみたい。これは困った。その辺の話は全然用意していなかったわ。同居してるなんて言わないと思うけど、下手な嘘は墓穴を掘ってしまうわ。参ったわね、こっちから話す事が出来ないのが悔しいわ。
シンジ、悪いけど、アンタに全部任せるしか無いわ。お願い、巧く切り抜けて……。

『……確かに惣流の家には行ったよ。でも、表札が別に人の名前でね、ちょっと吃驚した……惣流は、葛城さんって言う女の人と同居してるんだ。彼女、この前の大災害で両親を亡くして、親戚を頼ってドイツから来たんだって。でも、その親戚も同じ様に亡くなってて、その人の知り合いだったのが葛城さんだったんだ。それで、代わりに保護者になってくれたんだって。そう言ってた。』
『ほう……。』
『日本に親戚が居るって?』
『うん。えーと、クウォーターとか言ってたっけ。』
『って事は、両親のどっちかがハーフって事だから、日系三世か。』
『暫くして葛城さんが帰ってきたんだけど、僕を見て、腰を抜かさんばかりに驚いたんだ。話を聞いてみたら、惣流は育ちが違うのか、性格が災いしてるのか解らないけど、前の学校じゃ友達が殆ど出来なかったんだって。しかも徹底的な男嫌いで、何時も男子の愚痴を聞かされていたらしいよ。だから、初めて家に招き入れた友達が男の僕だったのが、凄い驚きなんだって。そう言ってた。』
『何だかお前って、凄いラッキーな奴だな。』
『……僕もそう思う。』
『で、それからどうした?』
『別にどうもしないよ。只夕食を一緒に食べてから帰っただけだよ。』

シンジの奴、ちゃんと考えてたんじゃない。心配して損したかな?しっかし、アタシを男嫌いって言うとは……解ってるじゃない。
よし、この線で行ってみよう、これから同居に持っていくって言うのも良いわね……それじゃ、携帯をピッポッパッっと。

プルルル……

『あ、はい碇ですけど。』
「あ、シンジ?アタシだけど。」
へっ!?アスッ!そ、惣流!?
「そうそう、その調子で上手く誤魔化してよ。ぶっきらぼうで良いからさ。」
『一体何なんだよぉ……。』
「今の話、結構いけてるじゃない。だからその線で推すわ。」
『そ、それで?』
「詳しくは帰ってから。今日も呼びつけられたって設定で行くわよ。これからアンタはこの二言を言いなさい。”ええっ!?今日もぉ!!”と”分かったよぉ、行けば良いんだろ、行けば!”良いわね?」
ええっ!?今日もぉ!!』
「そうそう、その調子!」
『分かったよぉ、行けば良いんだろ、行けば!』
「じゃ、待ってるわよぉ。」

ピッ!

『誰から?』
『……惣流から。』
『”噂をすれば……”か。』
『で、何だって?碇。』
『……”今日も来い”だって。』
『何故に??』
『実は……昨日夕食作ったの僕なんだ。夕食は毎日コンビニ調達するって言うもんだから、つい……そしたら、惣流も葛城さんも目をキラキラ輝かせて喜んでさぁ、”何年ぶりかしら!手料理って!!”って……。』
『はあっ!?……女二人揃って何してるんだ!?』
『葛城さんは相当ガサツだって、そう惣流が憤慨してたよ。で、惣流は惣流で、『面倒臭いから、自分の弁当しか作らない』とか言ってた。』
『そりゃあ、男が作ったとしても手料理は嬉しいだろうな。』
『多分、今晩も作る事になると思う。』
『……嵌められたな。』
『そう、かも……。』

あははは……ま、こんなもんでしょ。
さてと、リハビリでも兼ねて散歩でもしようかな?行き先は……勿論、学校ね!

****************************************

「なあ碇、これからゲーセンにでも行かないか?」
「……うん、そうだね。久し振りに行ってみるか。何処に在るのか教えてよ。」
「あれ?知らないのか?」
「うん。転校初日からあれだったし。」
「そうか……やっぱりお前、アンラッキーな奴かもな。」
「うん……僕もそう思う。」

放課後、クラスメイトの男子とゲーセンに行く事になった。遅くなるとアスカが怒るだろうけど、マイクで筒抜けだから、要らぬ心配は掛けないと思う。
リツコさんが超小型の通信システムを開発中という話を、少し前にミサトさんから聞いていた。それにアスカが興味を持っていると言う事も。だから、今朝アスカが拗ねながらもあっさりと僕を見送ってくれたと言う事に疑問を持った時に、『もしかして、もう手に入れたのか!?』と思うに至った。それで、ちょっとカマをかけてみたら、案の定だったと言う訳。

校門に差し掛かった時に、一人があっと声を上げた。その声に一同が彼が指差す方に振り向く。その先には人垣が出来ていて、その中心にアスカが私服で立っていた。何人かの男子が声を掛けていて、それらを追い払うのに没頭していた様だった。

「碇、お迎えだぜ。」
「そう、みたい、だね。」
「見つからん様に行くか。」
「うん……。」

誰かは知らないけどそう言った。僕は、余り見つかりたくなかった。けど、ハイテンションで周りを威嚇するアスカを見ていると、早く見つけて欲しいと言う思いも同時に沸き起こっていた。
僕を含めた一団が移動を開始した時に、アスカが取り囲む人垣を押しのけて、こちらへずんずんと歩いてきた。どうやら僕を見つけたらしい。表情はエヴァで発進する時と同じの、精悍なものだった。その物言わぬ迫力に僕以外のみんなが一歩引いた。僕は動かなかったものの、放っといて行こうとしているのが見つかって、怒っているのかと冷や冷やしていた。
そうこうしている内に、僕の前までやって来たアスカは破顔一笑して声を掛けてきた。

ヘロウ、バカシンジ!
アスッ!そ、惣流……な、何か用?」
「何よ、折角人が迎えに来てやったのに。」
「どうして?」
「はぁ?……やっぱり忘れてる……昼休みに通告した筈よ。さ、行くわよ。」
「あ!ちょ、ちょっと!!ぼ、僕はこれから……。」
「じゃっ、じゃあまたなっ!碇。」
「また今度な!」
「あ!ちょ、ちょっと!!」

アスカが僕の手を引いて連れて行こうとした。僕は周りの男子達に助けを求める視線を送った。が、その途端、みんなはそそくさと僕を置いて行ってしまった。僕も急いで追いかけようとしたものの、アスカにガッチリと手を握られていて、その場を動く事は出来なかった。
久し振りに遊びたかったな……でも、それよりアスカの方が大切だから、これで良いんだ。

「あらあら、薄情ねぇ……さ、行くわよっ!」

アスカは事もなげに僕を引っぱって学校を後にした。その一部始終を見ていた周りの生徒達からは、羨望、諦観、怨嗟の声が聞こえてきた。
暫くそのまま歩いて、周りに人が居なくなってから、アスカが口を開いた。

「シンジ、演技御苦労さん。」
「う、うん。」
「気の無い返事。アンタ、まさかあのままアタシを放っといて行くつもりだったんじゃないでしょうね!!」
「うん、まあちょっとだけ……もしアスカが僕を見つけられなかったら、そうなっていたと思う。」
「はんっ!アタシがアンタを見過ごすとでも思ってんの!?アンタなんか目瞑ってても判るわよっ!!……でもまあ、気持ち良い位一気に引いてっちゃったわね、アイツ等。少し位粘ってやったって良いものを。」
「まあ、相手がアスカじゃあねぇ。でも、あれで良いの?」
「イメージ通りで良いんじゃないの?」
「まあ、アスカがそう言うなら……あ、晩ご飯の買い物したいんだけど、良い?」
「うん、付いてくわ。」
「……ねぇアスカ、どうして学校なんかに?」
「ん?……何だか、家にいるのが退屈でさぁ、リハビリも兼ねて出張って来たって訳。」
「ふ〜ん……。」
「でもぉ、こんなに疲れる登校は初めてだったわぁ。」
「何で?」
「もうあちこちから声掛けられまくり。あしらうのにもう苦労したの何のって……学校に着いたら着いたであれだったしぃ。見てたでしょ?」
「うん、確かに大変そうだった。」
「着いてからそんなに時間経ってなかった筈だけど、凄く疲れたの。だからぁ……支えて、くれる?」
「え?……う、うん、分かった。」

返事を聞くや否や、アスカはするりと腕を絡めるとぴったりと寄り添ってきた。本当に自然にしてきたから、驚く間も無かった。
しかし、状況を理解した途端に鼓動が跳ね上がるのが判った。この柔らかさと暖かさは何とも……でも、浮き足立たない程度に慣れなきゃいけないよな。
……でも、本当に良いのかな?どう考えても、傍から見れば、今の僕達は”恋人同士”にしか見えないんじゃないのかな?誤解されると思うんだけど、アスカは解っているんだろうか……。
少し頬を赤らめながらも満面の笑みで歩くアスカをみていて、ふとそんな不安に捕らわれた。

「ねぇシンジ。」
「何?」
「さっき、アタシをファミリーネームで呼んだでしょ?その時、凄く言い辛そうに聞こえたんだけど。」
「うん、どうしても『アスカ』って言い掛けちゃうんだ。」
「それで、毎回『アスッ!』って頭に付いてたのね……何だったら、『アスカ』って呼んでも良いのよ。理由付けだったら何とでも出来るしさ。」
「うん……その方が良いかもね。」
「じゃ、決まりね。今晩その辺を擦りあわせておきましょ。出来ればミサトも交えてね。」
「そうだね、ミサトさんも巻き込んじゃった訳だしね。」
「でもシンジ、どうやって説明するつもり?」
「その必要は無いんじゃないのかな?」
「どうしてよ?」
「アスカ、何処にマイク付けたの?」
「え?……あ、ああ、あれね。ほら、ここ、襟の裏……そうそう、何でシンジがこれ知ってんのよ?アタシもう吃驚したんだからね!」
「うん、ミサトさんから聞いたんだ。」
「ふうん……て事は、これを聞いてる可能性大って事か。確かに説明の必要は無いわね……あ!じゃあまた今晩肴にされんのぉ!?……。」
「されても良いんじゃないかな?だからさ、無条件に協力して貰おうよ、この話。」
「そうね!そうでなきゃ割に合わないわ!!分かったわね!?ミサト!!

僕の首筋に向かって怒鳴るアスカ。勿論、それを聞いているであろうミサトさんに対してだけど、傍から見ればとても滑稽に映っただろうね。

家に戻ると、早速アスカに、昨日と同じ様に湿布貼りを命じられた。昨日の経験があったから、何とかなるだろうと思っていた。ところが、そうは問屋が下ろさなかった。アスカにしっかりと逆襲を喰らってしまい、僕は泡を吹いて気絶してしまった。

「……アスカぁ、酷いよぉ……不問にするって言った癖にぃ……。」
「あははは。やっぱり腹の虫が収まらなくってねぇ、ちょっとやり過ぎたかも知れないかなって思ってるわ。でもっ、スッキリしたわぁ……。」
「……それに……もうちょっと歳を考えてよ……反則だよ……。」
「別に良いじゃん。だって、アタシ大人だもん。」
「しれっと言わないでよぉ……。」
「それじゃあ、今度学校でやってあげようか?」
「お願いだから、周りを巻き込むのは止めてよ……。」
「そうね、切り札最後まで取っておくべきよねぇ……ところでさ、早くしてよね、つ・づ・き(はあと)。」
「だからさ……その声……。」

****************************************

「お早う!」
「お早う、惣流さん。もう良いの?」
「うんっ、この通りよ。騒がせちゃってゴメンネ。」
「良いのよ。どうせ騒いでたのは男子連中だけなんだし。」
「そう?それじゃ!……お早う!一昨日は騒がせちゃってご免なさい……。

学校に登校したアタシは早速、杉津さんを始めとする女子生徒一人一人に挨拶回りをした。男子共は勿論無視。昨日のシンジの嘘八百のお蔭でそれは自然に受け取られたみたい。
そして、最後に向かった先は当然……。

「お早う!バカシンジ!」
「お早う……なあ惣流、その『バカ』って言うの止めてくんないかな……結構グッサリとくるんだよ、それって。」
「ふんっ!バカに『バカ』って言って何が悪いのよっ!このバカッ!!大体、昨日アタシ何って言った!?『これからは”アスカ様”って言いなさい』って言った筈よっ!!」
「嫌だね!大体、何で”様”なんて付けなきゃいけないんだよ!」
「ぬわんですってぇ!!言う事聞かないと!!……」
「好きなだけ叩けば良いだろ!でも、もう惣流の言う事なんか、金輪際聞かないからね!!」
「良いぞ碇!」
「もっと言ってやれ!!」

「……ご、ご免なさい……ねぇシンジ、”様”の強制しないから……お願いだから、”惣流”なんて、他人行儀な言い方は止めて……。」
「え!?……あ!ご、ゴメン!!わ、分かったから、そんな泣きそうな顔しないでよ、ね?そ……ア、ア、アス、カ……。」
「……うん、それでこそ、アタシの忠実なる下僕よ。まあ、呼び捨てで許してあげるわっ!」
「う、うん。」
「お、おい!あの惣流が譲歩したぞ!」
「馬鹿!そんな事より、何で碇だけあんなに親しく出来るんだ!?」
「そうだよ!あの惣流を泣かしかけたんだぞ!」
「俺は、あれは芝居だと思うぞ……。」
「しかし、碇の奴、弱いな。」
「いや、俺でもあの立場ならOKするよ。」

うふふふ……驚いてる驚いてる。よし、第一段階成功ねっ!
昨日、ミサトも交えて相談した結果がこの芝居。
昨日、再びアタシの家に呼ばれたシンジは、すっかりミサトに気に入られてしまった。それに不快感を抱いたアタシは、シンジにファーストネームで呼ばせて更なる接近を図った。只、照れとプライドから”様”付けを強要した為に、シンジの反発を買っていた、と言った具合。
更に、こう言う設定にしたお蔭で……。

「あ、そうそう、昨日ミサトの言ってた事なんだけど……どうかしら?」
「そ、そんな重要な事、すぐに返事できる訳無いじゃないか……。」
「そう……分かったわ、早く返事頂戴よ。それから、決まるまで絶対に他言無用よ。あらぬ噂になったら、アンタも困るでしょ?
うん、解ってる。
「それじゃ。」

アタシ達の同居も公にしてしまおうと言う訳。
セカンド・サードインパクトの両方を体験したこの世代は、一人暮らしの子供達が多いのが当たり前だった。アタシ達のような”寄り合い所帯”も結構多かったみたい。シンジは一人暮らしという設定だから、ミサトの好意でこうなってしまうと言うのは極く自然な事なのよ。
只、このアタシが相手な訳だし、ミサトもどっちかと言えば美人の部類に入るし。他の男子共がこれを知ったら羨ましがるのは当然の事よね。
でも、アタシはシンジの側に居たい。その為にアタシの評判が下がっても構わない。もう世間の風評なんて、アタシにはさほどの価値も無いから。だから、どんな事をしてでも、アタシとシンジの間の隙間を埋めてやるわ。どんな事をしてでも、アタシとシンジの間には誰も立ち入らせないわ。
……多分、これがミサトの言ってた心配なのかも知れないわね。今、シンジが居なくなる様な事が有ったら、確実にアタシは……。
何とかしなくちゃ、そう思いはするけど、一体どうしたら……。

ぞくっ!……

……またこの視線だわ……。
転校初日に感じた、突き刺さる様な視線。最初は只の、転校生に対する負の感情から来るものだと思っていた。だけど、あれからも時々感じる事があった。
確実にアタシに憎悪を抱いている、そしてそれは確実に増大してきている。何度か感じる内にそう分析出来た。これは由々しき事態になるかも知れないわ。どうしよう、シンジにはまだ何も言ってないわ……!、そうだ、この視線の源を突き止めてみよう。そしてこの問題を解決して見せるわ。それもアタシ一人で。
思えば、エヴァに乗らなくなってから、何かとシンジに頼っていた。プライドを無くしてから、自信もやる気も殆ど無くしちゃったのよね。
だから、もしこれを一人で成しえる事が出来たら、それで得られた自信があれば、アタシとシンジの間の問題も解決出来るかも知れない……そうよ!これ位何とか出来なくちゃいけないわっ!
早速アタシは、その人物を燻り出す為の作戦を練り始めた。


<後書き>

う〜む、今回もダラダラ流してしまった……したがって、何も解説する事が無いっす。
次回はちょいと手に汗が握れる、かな?只の苛めかも知んないなぁ……。

えっと、この前書きました『Virtual PCが云々』と言う問題は、Windows95の再インストールで解決してしまいました。と、言う訳で、今ではべらべら喋ってくれてます。でも、”マシンごとフリーズ”が多くなったのは何とも……。

では、また御会い出来ます様に……。


跡見さん、本当にありがとうございました!!

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<吁>