「……最低だ……俺って……。」
303病室、電子音が規則的に鳴り響くだけの部屋。
ベッドにはアスカ。でも、ここで横たわっているのはアスカだった物、と言うべきかも知れない。
アスカは人間で居る事を止めて、人形になってしまった。でなければ、こんな姿を曝す訳は無いし、
呼びかけに応えてくれる筈だし……何よりも、こんな事を見過ごす筈が無い。
でも、彼女は何も反応しない。もう、僕の知っているアスカは居なくなってしまったんだ……。
「……さようなら……アスカ……。」
Tomi's EVA vol.22-1
Series『Zweigbahn』
その1〜SINJI〜
……友人と呼べる人達は、消えた町と共に何処かへ行ってしまった。逢いたいと思っても、もうそれは叶わない。
思えば、僕には本当の友達って居たのだろうかって思う。友達って、家族に次いで解り合える関係じゃないのかなって、僕は思う。
でも、トウジともケンスケともとことん話し合った覚えが無い、解り合おうとした覚えが無い。
トウジの妹は僕の最初の戦闘で大怪我をして、未だに入院しているそうだ、そう、聞いた。
でも、お見舞いに行こうとか思った事は無い。多分、お見舞いに行く事で、自分が犯してしまった過ちを認めたくないんだ……
いや、その事によって、トウジにまた憎まれる様になるのが怖いんだ。『見ろ!お前の所為で妹はこんな風になってしもたんや!』って……。
ケンスケは、エヴァのパイロットである僕に憧れていたらしい。でも、碇シンジとしての僕に対してはそうは思っていなかった。
当たり前なんだろうけど、マイナスイメージの方が強かったんじゃないかって思えるんだ。
僕がエヴァに”消えた”日の電話で、それがはっきりと解った……『見損なったよ』って……。
二人とも、僕を裏切る様な事はしなかった。そりゃあ、悪巧みに乗せられて酷い目に遭った事は有ったけど。
でも、僕は二人を完全に裏切ってしまっていたんだ。再び会うような事が有ったとしても、もう友人としては会えないだろう。
……綾波は僕の知っている綾波じゃなくなった。
姿形はそのままでも、初めて出会ってからの思い出だけがスッポリと抜け落ちてしまっていた。
そして、そうなった理由‥‥彼女が『人間』ではない事‥‥も知らされた。
もう、彼女と顔を合わせる事が出来ない。彼女が自分とは異質の存在であると言う観念を植え付けられた僕には、
どんな顔をすれば良いのか判らないから。もう、僕の知ってる綾波レイは、もう、この世には居ないから。
……ミサトさんとは逢いたくない。家族と言っても所詮は他人同士だった、僕だけを見ている訳では無い。
それに、僕にはミサトさんという人間、いや、女性と呼ばれる人達、大人と言う人達のすべてが判らない……怖いんだ。
今でも優しくされたら嬉しいと思う筈。今でも笑顔を見せてくれたら、笑顔で応えられる筈。でも、もう、溝を埋める事は出来ない。
……カヲル君、僕の事を好きだと言ってくれて嬉しかった。でも、僕は君には何も伝える事がなかった。
『僕もだよ。』って、言えたら良かったのかな?
でも、それは無いと思う。だって、君は僕の事が良く解っていた様だけど、僕には君の事が全然解らなかったから……
一方的に理解されても、嬉しくはなかったんだと思う。
最後に言ったよね『君に逢えて嬉しかった。』って。喜んで貰えて良かったよ。
でも、僕にとって、この出会いは全くの逆だったよ。君に逢ったお蔭で、僕は失う辛さと言う物を強烈に感じさせられたんだ。
”二人目”の綾波の時以上に……。
……優しいって残酷なんだね……。
……アスカ……どうして君があんな姿になってしまったのかは知らない。
でも、日向さんから聞いたんだ。僕がカヲル君と出会う前に、既にこうなっていたんだって。
思い出してみれば簡単に判る事だよね。カヲル君と出会う一週間以上前から姿を見なかったもの。
まさかアスカがこうなるとは思わなかったよ、そんな事は微塵にも思わなかった。
段々アスカが荒れてきているのは感付いてはいたけど、どうして良いのか解らないのに、下手に触れてこじらせてしまう事が怖かった。
それに、アスカなら一人でもやっていける、解決出来ると信じていた。でも、それは単なる甘えだったらしい。
最後に見たアスカの表情……蒼白だった……そう、加持さんの事を喧嘩の勢いで言ってしまった時のものだ。
あんまり加持さんの事をこれ見よがしに言ってくるものだから……それ以降、アスカは消えた……
そうか、荒れた理由はともあれ、止めを刺したのは……この僕か……。
……アスカ、狡いよ、先に壊れるなんて……壊れるべきなのは僕の方じゃないか……狡いよ……。
僕は他人が怖い癖に、誰かに見ていて欲しくて……だからエヴァに乗っていたんだ。
エヴァで使徒を倒せば誰かが褒めてくれた。その度に僕はうれしく思ったよ。
でも、その度に誰かが傷付いていったんだ。漸く、それに気が付いたよ。
幾ら勝ったところで、それを見てくれる人が居なければ何にもならない。
それに気付いたのはカヲル君を握り潰した後の事、もう何もかも遅すぎたんだ。
僕が行動を起こす度に誰かが傷付く……でも、自殺すら出来ない憶病者に、それを回避する術など見つかる筈もない。
ならば、僕はもう何もしない。そうすればみんな傷付く事は無いんだ。苦しむのは僕一人で充分だ。
だって、僕は僕が嫌いだから。
……もう、疲れた……何もかも……。
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ある日、警報が鳴り響き、遠くで爆発音が轟き始めた。
モニターから流れる混乱の中で、NERVが攻撃を受けている、それも相手は戦自=人間だと言う事を知った。
段々爆発音が近づいてくる。銃声も聞こえ始めた。もうNERVもお終い、と言う事らしい。
もう死んだ方が良いと思っていた僕にはチャンスに思えた……殺して貰おう……。
初号機に乗るように言われたけど、僕にはエヴァに乗る資格なんか無いんだ。命令を無視して、隠れている振りをして見つかるのを待った。
すぐ側で銃弾の音がした。複数の足音、そして突きつけられる銃の感触。
「悪く思うな、坊主。」
……やっと死ねる……そう思ったのもつかの間だった。再び銃弾の音、男の呻き声、そして……。
「悪く思わないでよ。」
……ミサトさん……どうして来たんですか!……
ミサトさんは僕を初号機のところまで連れて行こうとする。
もう僕はエヴァに乗りたくないんだ、戦闘ならアスカに任せておけば良いじゃないですか、弐号機が出たんでしょう?
……僕は……もう、死にたいんです……。
「何甘ったれた事言ってんのよ!あなた生きてるんでしょ!?だったらしっかり生きて、それから死になさい!!」
ミサトさんにそう怒鳴られた。渋々付いて行くしかなかった、と言っても引き摺られているだけだったけど。
本当に死にたかったら、その手を振り切れば良かったのに、どうしても出来なかった。
僕は自分が情けないよ、”生ける屍”にすらなれないなんて……情けない、嫌いだ……。
車の中で、弐号機が起動した事と、アスカが無事だと言う事を知った。
良かった、もうこれで僕が出る必要は完全に無くなったんだ。でも、起動しないままアスカを出したって事ですか?
そのままだったら、どうするつもりだったんですか?……
ミサトさんは途中で運転を誤って車をぶつけてしまった。派手に車は壊れたけど、二人とも無傷だった。またも死にそこねた。
その場でアスカて連絡をとったミサトさんは、僕と同じ事を命令した、すぐに僕も参加させると付け加えて。勝手に決めないでくれよ。
もうすぐエレベータと言うところで銃撃を受けた。が、そのままその場を走り抜ける。ただその時、一瞬ミサトさんがのけ反った様な気がした。
エレベータの側で、ミサトさんはここからは一人で行きなさいと言った。
でも、僕にはもうエヴァに乗る資格なんか無いんだと、思いの丈をやっとの思いでぶちまける。
ミサトさんは、自分の生きてきた道を振り返る様な事を言って、エヴァに乗っていた自分にケリを着けてきなさいと言った。
その口調は、さっきまでの険が嘘に思える程優しかった、まるで母さんの様にも思えた。そして……。
「帰ったら、続きをしましょうね……。」
ミサトさんはそう囁いて、呆然とする僕をエレベータへと突き飛ばした。
温和な表情を浮かべたミサトさんをその場に残して、エレベータ動き出した。
その時、僕はミサトさんの手が血まみれになっていた事に気が付いた。まさか!……もう手遅れ……。
数瞬の後、爆発音が轟いた。その時、僕は悟った、当の昔に失っていたと思っていたものを、たった今失ったのだと言う事を。
どうして気付けなかったんだ!……いや、どうして気付く前に死ねなかったんだ……。
僕は、溢れる涙を抑える事が出来なかった。
気が付くと、ケージに辿り着いていた。モニターからはアスカの絶叫が響いていた。
「バカシンジなんか当てにならないのに!!」
「ママが見ているのに!!」
……はは、当てにしないなら、話題に挙げて欲しくないもんだね……そうか、弐号機にはアスカの母さんが……。
……母さん……僕はどうしたら……。
ベークライトで固められている初号機を見上げながら、僕は出口の無い思索の世界を漂っていた。
突然、ケージに雪崩れ込む複数の足音が響いた。
「誰だ!!」
「!」
「居たぞ!サードだ!!」
ケージに飛び込んできた兵士が一斉に銃を向けた。その時、僕は思った、『死にたくない!まだやる事が残ってるんだ!!』と。
瞬間、轟音が轟き、兵士達が立っていた筈の所に、初号機の手が突き刺さっていた。
「……母さん!……。」
僕に乗れって言うの!?母さん!……僕はもう乗れないんだよ!?……『まだやる事』?……そうなの?母さん……。
『弐号機、活動限界まで後一分!!』
「!」
まさか!ケーブル無しで戦っていると言うのか!?……アスカ……そうか!
……母さん……まだ間に合うよね……。
「……母さん……僕の最後のお願い、聞いてくれる?……」
起動プロセスももどかしい。地上までの経路が無い為に、ATフィールドですべてを吹き飛ばして飛び出した。
土煙の収まりを待たずして、弐号機を、アスカを探す。まだ奮戦している姿を想像して。
しかし、僕の目に映ったのは、頭部にロンギヌスの槍を突き立てられて倒れ込んだ弐号機と、
それを取り囲む手負いのエヴァシリーズだった。
アスカが、負けた……また……また……間に合わなかった……。
その瞬間、僕の中で何かが壊れた。
「うわああああああああっ!!!」
……その後の事は、良く覚えてはいない……。
<後書き>
は、『その1〜ASUKA〜』の方にあります。m(__)m