……気が付いたら、と言うべきなのか、ふと我に還ると、と言うべきなのかは判らない。
只、僕は初号機のエントリープラグ内に座っていた。
頭がぼーっとしている。でも、睡眠薬が切れて目が覚めたと言う様な感じではなかった。
電源を入れっぱなしのテレビにアンテナを手早く繋いだという感じ、今迄の記憶が無いのに、
いきなり五感がハッキリと伝わってきたからだった。端的に言えば、戸惑ってしまっている、と言う事だ。
何をしていいのか判らなかったから、キョロキョロと辺りを見回す事しか出来ないでいた。
取りあえず状況を把握しようと、漸く思い付いた僕は、モニターで損傷状況を調べてみた。
長期活動による生体部品の劣化、人間で言うところの疲労状態である事以外には大した損傷は見つからなかった。
電源状況を示すモニターは数字の”8”が並ぶという奇妙な表示をしていた。これが『S2機関』とか言う物の力なのだろう。
でも、これのお蔭で、あの時の僕はアスカを助けることが出来なかったんだ。
出られたら身代わりになる事ぐらい出来ただろうに……。
これらから得られた結論は、初号機は起動したまま、つまり、動かせると言う事だった。
僕は、何故かへたり込んでいた初号機を立ち上がらせると、周りの状況を手早く観察した。
「……終わったのか?……何時の間に……。」
僕達を最初に襲ってきた戦略自衛隊は何処にも見当たらなかった。
遠くに戦車や軍用車らしきものが転がっているのは見えたけど、その周りに居る筈の兵士達の姿は見当たらなかった。
兵器を放置して撤退したのだろうか?……それとも?……まさか、一体誰にそう言う事が出来るって言うんだよ。考え過ぎだな。
戦車達よりも幾分近くには、白いエヴァ達が倒れていた。
僕が初めて目にした時からだったけど、五体満足と言える状態の機体は一つもなかった。
それにしても酷い有り様だ、『死屍累々』とはこの事だろうな。
幾ら創られた存在のエヴァとは言え、骨やら内蔵らしきものやらを露出させて倒れている様は、普通なら正視出来るものじゃないだろう。
でも僕は、それに対して何の感情も持つ事は無かった。これが極限状態と言う物がもたらす物なのかは判らない。
僕には自身がそれほど追い詰められたとは思えなかったから。
「随分と派手にやったものだよな……アスカらしいや……アスカ?」
その時、僕は、白いエヴァ=”エヴァ・シリーズ”達をこの様な姿に変えた張本人であるアスカの事を思い出した。
アスカは一体何処に?……
僕は、アスカが乗っている筈の弐号機の姿を探した。
しかし、どう言う訳か、弐号機の赤い機体は何処にも見出す事が出来なかった。
内蔵電源は尽きてしまっている筈だから、自力で動ける筈は無い。もう回収されてしまったのだろうか?……
「それにしては……静か過ぎるよな……!」
不意に、一機のエヴァが足下で横たわっているのが、僕の視界に入って来た。
「……まさか、そんな……。」
Tomi's EVA vol.25
Series『Zweigbahn』
その2
初号機の直ぐ側で仰向けに横たわる一機のエヴァ。
表面を覆っていた筈の装甲板の殆どが、引き剥がされてしまったか破壊されてしまったかして、原形を留めていなかった。
その所為で、機体の色の識別が難しくなっていた。他のエヴァと違う点は、目が四つ付いていたと言う事、只それだけだった。
でもそれは、その機体がエヴァ弐号機であると言う事を僕に認識させるには充分だった。
「……まさか、そんな……。」
変わり果てた弐号機の姿に、僕は只驚くしかなかった。
装甲を引き剥がされ、場所によっては装甲ごと、噛み付かれた様な傷跡がほぼ全身に広がっていた。
完全に食いちぎられてしまっている場所も何ヶ所か有った。
傷口から流れ出た体液は弐号機の機体はおろか、周囲の地面に至るまで、青く染め上げていた。
僕の目から見ても”大破”状態である事は明白だった。
「……アスカ……ねぇアスカ……返事してよ、アスカ……。」
アスカの事が段々と心配になってきた僕は、回線を開いてアスカに呼びかけた。
エヴァがダメージを受けた時にパイロットが受ける影響は、シンクロ率によって左右される。
シンクロ率が高ければ高い程、伝わるダメージも大きくなる。
詳しい理屈は全く知らないけど、あまりにシンクロ率が高いと、何故か自分の身体自身が傷付いてしまう。
第拾参使徒戦の時の綾波の負傷原因がそれだったらしい。
でも、それはエヴァが起動している時だけの事で、電源が尽きてしまえば神経接続も自動的に解除されてしまい、その様な事は起こらない。
僕が上がってきた時には、既に弐号機は動かなくなっていた。
だから、アスカは無事で居る、最悪でも気を失う程度の痛覚しか受けていないと僕は思っていた。
しかも、アスカの場合、姿を消す直前のシンクロ率は惨憺たるものだったらしいと聞いていた事も、その考えを補強するのには十分な材料だった。
「アスカ……アスカ?……どうかしたのアスカ!?……アスカ……。」
だけど、幾ら呼び続けてもアスカから返事が返ってくる事は無かった。
回線は繋がっているのも関わらずにだ。軽く機体を揺すってみたけど、それでも反応は無かった。
どうやら、こんな事ぐらいで目覚める様な状態ではないらしい。予想よりも酷そうだと感じた。
「……ゴメン、アスカ……最後の最後まで、迷惑掛けっぱなしみたいだね……本当に、ゴメン……
……少し待っててくれないかな?……僕にはやる事が残ってるんだ……約束を果たさないと……。」
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僕は、再び初号機を立ち上がらせると、白いエヴァの残骸を一ヶ所に集め始めた。
一体一体担ぎ上げては山の様に積み上げていく、そんな作業を繰り返した。
胴体の次は千切れた手足、その次は装甲板、果ては辺りに散らばる人工物の破片なら何でも拾っては積み上げ続けた。
そして、作業がほぼ終わった頃、僕は、ポケットから十字型のペンダント‥‥多分、ミサトさんの形見の品‥‥を取りだした。
「ミサトさん……やっぱり僕には果たせそうにありません……でも、これで良いですよね……ミサトさん……。」
僕が果たすべき約束、それは『”エヴァ・シリーズ”の殲滅』、ミサトさんから受けた最後の命令だった。
ミサトさんは言った、『エヴァに乗っていた自分にケリを着けてきなさい。』と。
それは、エヴァンゲリオン=母さんとの別れ、再び独りになってしまう事を意味していた。
多分、ミサトさんは期待していたんだと思う、僕が独り立ちする事を。でも、僕にはそんな事は出来る筈が無いんだ。
独りで生きて行くなんて出来っこないんだ。でも、僕は独りぼっちになってしまった。もう僕にはエヴァ‥‥母さんしか残っていなかった。
もう戦いは終わった。だとすれば、一度でもエヴァを降りてしまうと、もう二度と母さんに会えなくなる。
完全に独りになってしまう。そうなると僕はもう……。
だから、僕は決心した、ミサトさんの最後の命令を忠実に実行する事を。”エヴァ・シリーズ”を完全に地上から消し去る為のたった一つの方法を実行する事にした。
もう、帰る事は出来ないけど……これで良いですよね?ミサトさん……。
「誰か……誰か居ますか?」
『し、シンジ君!?』
「マヤさんですね。他に誰か居ますか?」
『ええ、発令所のみんなは無事よ……只、今は赤木博士と葛城さん……それと碇司令が居ないけど……。』
「……そうですか……じゃあ、聞いて下さい。誰がやったのかは判りません、が”エヴァ・シリーズ”は全部倒しました。」
『ええ、みんなで状況は見ていたわ。倒したのは初号機よ、シンジ君。』
「……そうですか……では、後、アスカを救助してから、”エヴァ。シリーズ”の機体を処分します。
ここは危険ですから、急いで離脱する用意をして下さい。」
『え?……処分って一体……!、あなたまさか!!』
「……皆さん……今迄有り難う御座いました……。」
『し、シンジ君!早まるな!!今からそこに向かうから、それまで待つんだ!!』
「……後を……アスカをよろしくお願いします……。」
……そうだ、アスカの事を忘れていたな……。
発令所と最後の交信を交わしてから、僕はふと、そんな事を思った。
僕は、弐号機の下に歩み寄ると、機体を引き起こすべく、両肩に手を掛けた。
その時、不意にアスカの笑顔が眼前の弐号機と重なった。そして、次々と昔の、アスカと出会ったばかりの頃の思い出が蘇ってきた。
今から思えば、アスカや周りのみんなに困らされていたあの頃が、人生最良の時だったんだな……。
そんな感慨に浸っていると、突然、何故か急に息苦しくなって、視界がぼやけてきた。
慌てて目を擦ってみたら、LCLとは明らかに異質な液体がほとばしっていた……泣いてるのか?僕は……。
何時しか、僕は男泣きに泣いていた。やっぱり僕は……でも、もう僕には居場所が無いんだ、自分ですべて壊してしまったから。
だから、僕はこの世から消える事にするよ、母さんと一緒に……。
アスカ、今迄迷惑ばっかり掛けてゴメン……僕はもう駄目だけど、アスカには生き延びて欲しいと思うんだ。聡明で美人なアスカならきっと立ち直って行けると思うよ。
アスカならきっと、いや、絶対大丈夫だよ。
今度こそお別れだよ……でも、最後にアスカの笑顔、見ておきたかったな……。
「ねぇアスカ、弐号機貰っていくよ。アスカには悪いけど、一機たりともエヴァを残す訳には行かないんだ。ゴメンよ、アスカ……さようなら。」
僕は、弐号機のエントリープラグを強制排除しようとして、上半身を引き起こした。
その時、身の毛もよだつ様な、それでいて懐かしい声が聞こえた。
「……気持ち悪い……。」
<後書き>
よし、大体所定の領域だな(笑)
こん**は、跡見です。
人間、思考が一旦マイナスに傾くと、際限なく落下してしまう嫌いがある様です。
これを上向きにするのは中々難しいのであります。一体どうすんねん、儂。
それにしても、ダメダメシンジって何て書き易いんでしょう(^^;)。ここまで素のままで書けるって言うのは怖いぐらいですなぁ……。
さて、次回は、アスカ様の鬱憤晴らし(大喧嘩とも言ふ)になるかと思います。
次回か、またその次の回で切ると立派なバッドエンドが出来るかも(^^;)。
尚、最後のセリフに他意はありません、只言わせたかっただけです。さて、言わせた理由を考えないと……(笑)
では、また御会い出来ます様に……
跡見さん、本当にありがとうございました!!
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