『……シンジ、勝負よ。』
「?、勝負?」

それは、アスカの突然の提案から始まった。
『互いに相手のエヴァを自由にする権利を、相手のエントリープラグを抜く事で手に入れる様にしよう』、と言う様な事をアスカは言った。
一瞬、どう言う事なのかサッパリ解らなかったけど、要は『実力で自分を排除してみなさいよ!』と言う事らしい。
僕は迷った。多分、アスカは弐号機で十分戦えると踏んだからそう言ってきたのだろう。でも、僕が見る限り、
弐号機は戦闘どころか立っている事自体奇跡と思える状態にしか見えない。どう転んでもアスカに勝ち目は無いように思えた。
つまりは、僕はアスカにまたも敗戦の屈辱を味合わせる事になってしまう、と言う事を示していた。
僕は、エヴァと共に消える事で、アスカに立ち直って貰おうとした。アスカを傷付けた僕とアスカを縛りつけている様に思えてきたエヴァ、
これらが無くなれば、アスカは今までの嫌な思い出を忘れて、明るくて、自信に満ちあふれていて、何事にも前向きだった、
あの眩しかった頃のアスカに戻ってくれると信じていた。
でも、これから起こる事の結果は、唯いたずらにアスカを傷付ける事しかもたらさない。
僕にはそうとしか思えない。どうしてアスカは僕の邪魔をするんだろう?

  僕が唯消えれば済む事なのに……。

僕は何とかしてアスカを思いとどまらせたかった。思い描いてしまった最悪の事態は何としても避けたかったから。
でも、どうしようかと思案する前にアスカが仕掛けてきたから、答えは愚か、考える事余裕すら持てなかった。
『こうなったら仕方がない、何とかアスカを止めて、それから考える事にしよう。』そう思って、僕は弐号機の背後を取る為に飛び掛かった。

僕の目的は唯一つ、弐号機を取り押さえる事。勝負の決着をつける事じゃない。
プラグの強制排除なんて乱暴な事はしたくないんだ。アスカには悪いけど、最後のその行為さえ行わなければ勝負はついた事にはならない。
だから、アスカも敗北の屈辱を感じる事は無いと思う。
そして、アスカに大人しく僕の話を聞いて貰おう。そうすれば、僕の目的が自分勝手な思いでやってるんじゃないんだって解って貰える筈だ。

唯、弐号機を捕まえる事が出来たら良い。その筈だったけど、その捕まえると言う行為が中々達成出来なくて、僕は焦っていた。
動きは殆ど無傷の初号機の方が上の筈だったんだけど、もう少しで手が届くというところでヒラリと躱されて一撃、
体勢が崩れた瞬間に何発も殴られて、最後に遠くに投げ飛ばされてしまう。こんな事を何度か繰り返した。
やっぱりアスカは凄いと思った。動きに機体のハンデが全く感じられないから。
でも、本質は違うところにあると思う。僕はあくまでも弐号機を捕まえる事に全力を注いでいる。捕まえる事が出来れば、
取り押さえるのはそう難しくはない筈だ。でも、アスカの方からすればそれは容易い事ではないだろう。仮に押さえ込んだとしても、
馬力で跳ね除けられてしまうかも知れないから。そこで、徹底的に僕を痛めつける。
そして、僕がダウンしたところで勝負を決めるつもりなのだろう。
つまり、僕がアマチュアレスリングでアスカがプロレスリング、機体のハンデが無かったら数分で勝負はついていただろう。

しかも、アスカの攻撃はそれだけでは留まらなかった。同時に別の攻撃が加えられてきた。それは言葉による攻撃だった。
その言葉に、僕は大いに戸惑った。さっきまでみたいに口汚く罵られるのなら、精神面への攻撃だと解らなくはない。
でも、今僕の耳に届いているのはアスカの自己主張、僕を糾弾する声ではなかった。自分にはエヴァしか無いと言う事、
エヴァを失うと言う事は殺されるのと同然だから負ける訳には行かないと言う事を、彼女は声高に叫んでいた。
殴られながらだから、よく意味を噛み締める事も出来ない状態だったけど。そのアスカの叫びに、僕は、何となくある印象を感じるのだった。

 ……僕と、同じなの?……

言っている事自体は、最初にアスカが僕を罵った時に言っていた事と全く同じだった。
あの時は、僕が知らずに犯してしまった罪の大きさに驚いてしまって、それ以上深く考える事は出来なかったんだ。

 ……そうか……アスカも僕と同じ事を考えていたんだね……

けど、今こうして考えてみると解る様な気がした。アスカも僕と同じ事を思っていたんだと、そう思えた。
だから、アスカは今、全身全霊を傾けて今の勝負に挑んでるのだと。負ける事=死ぬ事だと思って戦っているんだと。

 ……でも……そんな事、ないよ……

でも、アスカには僕には無い取り柄が沢山有るじゃないか。そりゃあ、アスカにとっては取るに足らないものかも知れないけど、
僕はアスカのそう言うところが羨ましくて、何よりも眩しく思っていたんだ。
今だって、僕とは正反対の物、”生きる”為にこうして戦っているんじゃないか?
僕に勝つ事で、エヴァにまつわる嫌な事を克服しようと思ってるんじゃないか?
アスカはエヴァが無くったって大丈夫。僕と出会った頃の、あのアスカに戻れば大丈夫だよ。僕が消えて無くなれば、きっと戻れるよ……。
”鈍感”と言われ続けた僕でさえも解っている事なんだ。生きてさえすればきっと……。

 だから、一刻も早くアスカを止めないと!

そう僕は思い直して、弐号機に突進し続けた。

突進してはタコ殴りにされた上に投げ飛ばされる、そんな徒労を重ね続けてどの位経っただろう。
身体のあちこち(と言うより全身)の感覚が無くなってきていた。多分、殴られ続けた所為だろう。
いくらか顔も腫れてきたらしく、目を開けているのが難しくなってきた様な気がした。
『何とかしなくちゃ。でも……やっぱり、僕が負けた方が良いのか?』
そう思って突進したその時、弐号機の動きが鈍っていたのか、躱そうとしたその腕を何とか掴む事に成功した。
僕は瞬時に体勢を入れ替え、弐号機を羽交い締めにして取り押さえる事に成功した。
『よしっ、これで良い。』僕はそう思った。弐号機を止める事には成功した。でも、エントリープラグの強制排除に至るまでには
まだまだやらなければならない事が沢山有る。プラグは誰かが外から操作しないと排除出来ない。つまり僕が初号機を止めて
外に出ないと何も出来ないのだ。今のままの体勢では、僕が外に出ようとした隙に腕を振り払われて、
あっという間に逆転負けとなってしまうだろう。
アスカならそんな事ぐらい解ってる筈だ。このままで説得すれば大丈夫。僕は、自分の目論見が全て上手くいったと思った。

『くそっ!このっ!離せっ!離しなさいよっ!!』
「そうは行かないよっ!さあアスカ、約束通りプラグを抜かせてもらうよ!」
『イヤッ!離してっ!離して……離してよぉ……。
「?、アスカ?」
……イヤだよぉ、こんな終わり方なんてぇ……イヤよぉ、独りはイヤぁ、イヤよぉ……グスッ……。
「!?、アスカっ!?」
独りにしないでよぉ……殺さないでよぉ……死ぬのはイヤなのよぉ……。
「……そんな……。」
もうイヤ……こんなのイヤだよぉ……助けてよぉ……帰りたいよぉ……ママぁ……加持さぁん……ヒカリぃ…………シンジぃ……。

『でも、その前に聞いて欲しいんだ。』そう言葉を繋ごうとした僕の耳に飛び込んできたのはアスカの独白……アスカは、泣いていた。
僕は衝撃を受けた。泣かせてしまう程にアスカを傷付けていた事に。アスカはもう自分が負けたと思ってしまっていたのだ。
アスカは勝負の決着点をもっと手前に、初号機に捕まった時点で負けだと思っていた様だ。
『馬力が出ない弐号機では一旦捕まってしまえばそれを振り払う事は出来ない。捕まったらその時点で負け』、
そうアスカが考えてもおかしくない。いや、そう考えるほうが自然だった。
振り切る事を考えないなんてアスカらしくない、とは思うけど、実際はそうだったんだ……どうしてその事に気が付かなかったのだろう。勝負を決めなければ良いなんて言う僕の考えは、余りにも甘かったんだ……。
僕がいる限り、アスカは傷つく。だから、二度と傷つかない様に……そう思って僕は必死にやってきた。
でもそれがまたしてもアスカを傷付ける事になってしまうなんて……。
これじゃあ、このまま僕が消えても戻ってくれないんじゃないのか!?それじゃあ、何の意味もないじゃないか!僕は一体何の為にこんな事を……何の為にこんな辛い思いをしながら……。

『……そんな……どうすれば良いんだよ、どうすれば……誰か、誰か教えてくれよ……ミサトさん……加持さん…………父さん……。

やっぱり、僕は何もするべきじゃなかったのか?それとも、他にするべき事が有ったのか?……誰か、だれか教えてよ……。

もう、僕には勝負の続きは愚か、何もする事が出来なくなってしまっていた。羽交い締めにしていた筈の弐号機が崩れ落ちる様に倒れていっても、
深く悩む僕には注意をも払う対象ではなくなっていた。
そして、自分の置かれている状況がそんな事をしている場合じゃないと言う事さえも、僕は頭の片隅からも消し去ってしまっていた。

そして、僕はまた、取り返しのつかない過ちを犯してしまっていた。もっとも、それを認識したのはずっと後の事だったけど……。
唯、状況が急変していると言う事だけは、突然仰向けに倒れだした初号機と、お腹に感じた強烈な熱感で判った。


Tomi's EVA vol.28
Series『Zweigbahn』

その5


「あ、あれ……?」

我ながら拍子抜けする声だなぁ、と漠然と思った。
機体の腹部に衝撃を受けた初号機は、ゆっくりと仰向きに倒れていった。でも、地面に接地する事無く、
何かつっかえ棒に支えられた様な格好で止まってしまった様だった。
アスカの呼ぶ声がした。それで茫然自失から脱した僕は、目の前の状況に驚いた。初号機に何かが突き刺さっていたのだ。
おそらくはこれが衝撃の原因だろうと思った。その刺さっている物体が何かと言う事は深く考えるまでもなかった。
僕は慌ててそれを引き抜こうとした。これが飛んでくると言う事はこれを投げる事の出来る存在‥‥”エヴァ・シリーズ”‥‥
がまだ生きていると言う事に他ならないからだ。
このままだとやられる!そう思って必死にロンギヌスの槍を引き抜こうとした。しかし、力を入れたその瞬間に、
お腹の熱感が激痛へとその姿を変えて僕に襲い掛かってきた。堪らず叫び声を上げてしまう僕。
しかし、ここで止める訳には行かない。とにかく僕が動けないと弐号機が、アスカが!……

『……こ・ろ・し・て・や・る……殺して、やる……。』
、アスカっ!?」
『……殺してやる……殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる殺し……』

ゆっくりと起き上がる弐号機。さっきまでとは全然違うその異様な雰囲気に、僕は唯ぼう然とそれを見守る事しか出来なかった。

『邪魔するなあああっっっ!!!』
「ぐわっ!!」

弐号機は、突然初号機を踏みつけて槍を引き抜くと、いつの間にかその一角が崩れていた”エヴァ・シリーズ”の”山”に突進していった。

「あ、アスカっ!」

僕はヨロヨロと立ち上がりながら声を上げた。

「アスカぁっ!行っちゃ駄目だぁっ!!」
『どおおりゃぁぁぁっ!!』

弐号機は咆哮を上げ、槍を掲げながら突進していく。
僕も後を追おうとして、急に動きが鈍ってしまった初号機を何とか立ち上がらせた。
しかし、立った瞬間に全身の力が吸い取られるような感覚に襲われた。同時に視界が赤く濁ってきたのを見た僕は、
自分の身体を見て、いよいよ自分が待ち望んでいた瞬間が近づいている事を知った。

「そう来たか……。」

カッターシャツを染め上げながら少しずつ吹き出す血を確認すると、僕は初号機を走らせた。とにかくアスカを止めないと!

「くっ!……もう少し持ってくれよ……僕の身体。」

僕は、そこだけが燃えている様な激痛に耐えながら、出しうる限りの速力で必死に弐号機の後を追いかけた。
何とか追いついて、弐号機を捕まえようとしたその矢先、何かの壁にぶつかった様に初号機は跳ね返されてしまった。
目から火花が飛び散った様な衝撃を何とかしのいだ僕の目の前には八角形の壁‥‥ATフィールドが展開されていて、
その向こうにはニヤリと笑う”エヴァ・シリーズ”が見えた。そして、それに突進していく弐号機の姿も……。
全身が凍りつく様な、それでいて血液が逆流する様な、そんな強烈な不安が僕に襲い掛かってきた。奴は初号機だけを足止めた。
と言う事は、奴はこれから起こる事を知っている……!?
僕は思わず叫んでいた。

「アスカぁっ!!」
『でやぁぁぁっ!!』
「止めろおおおっ!!!」

弐号機は、僕の叫びを無視するかの様に”山”の手前でジャンプすると、もぞもぞとうごめく一機の”エヴァ・シリーズ”の背中に槍を突き立てた。
”エヴァ・シリーズ”は、傷口から体液を勢い良く噴きだすと動かなくなった。ニヤリとしたままで。
その直後、弐号機の周りが紫色の霧に包まれ、弐号機は槍を握り締めたまま、ゆっくりと崩れ落ちた。
弐号機を包んだ霧の正体が弐号機の体液、言わば”血しぶき”であると言う事に気が付いた僕にとって、
さっきの”エヴァ・シリーズ”の『笑い』が意味していた事を悟る事は、そう難しい事ではなかった。
そして、それらの事から導き出されてきた事‥‥中のアスカがどうなってしまったのか?‥‥と言う事も……。

……到頭、僕は、絶対に辿り着いてはならない結果に辿り着いてしまったのだ……僕は、アスカを……見殺しに……僕は……僕は……

「うわあああああああっっっっっ!!!!!」


<後書き>

Guten Abend ! Wie geht's ? (こんばんは!御機嫌如何ですか?)

約2ヶ月ぶりですか。本当に長かったですねぇ……。
仕事がハチャメチャに忙しくてですねぇ……リストラのアホンダラ!!と儂は言いたい……。
こんなところで愚痴っても何なので、先行きます……。

結構神経に触る様な終わり方ですけども、エヴァじゃ常套的な切り方ですよね。だから問題ないと思いたいですぅ……。
話が絶望的な方向に行っちゃってますけど、辛抱強くお付き合い頂きたいと思いマスです。(その為のあの御方です……)
……って言っても、どれだけの人が見てくれているのやら……とも思いますねぇ……。

ああ、やっぱり愚痴るしかないんやろか……。

では、また御会い出来ます様に……。


跡見さん、本当にありがとうございました!!

跡見さんへの感想メールを!
tomi-yoshina@mba.nifty.ne.jp
までお願いします。


「ステンショ跡見」へ戻ります。